進学、就職、結婚、憧れ、変化の追求、夢の実現――。上京する理由は人それぞれで、きっとその一つ一つにドラマがあるはず。東京に住まいを移した人たちにスポットライトを当てたインタビュー企画「上京物語」をお届けします。
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今回「上京物語」に登場いただくのは、お笑いコンビ・ニューヨークの嶋佐和也さん(写真左)、屋敷裕政さん(写真右)のお二人です。
2010年にNSC(吉本総合芸能学院)東京校でコンビを結成。デビュー後すぐにヨシモト∞ホール、ルミネtheよしもとなどの劇場で活躍し、若手のころから「ネクストブレイク」の呼び声が高かったお二人。しかし、抜擢されたレギュラー番組は半年で終了、賞レースではなかなか結果がでない……。真のブレイクにはほど遠い不遇の時代がありました。
「一番お金がなかった」という2018年を経て、ついに翌年の「M-1グランプリ2019」で決勝に進出。「キングオブコント2020」では準優勝を果たします。さらに、「M-1グランプリ2020」では2年連続のファイナリストとして大きな注目を集めました。
現在はYouTubeチャンネルの登録者数が20万人を突破し、テレビ・劇場・各メディアと多方面で活躍中です。ブレイクをかなえたニューヨークのお二人に、東京に憧れ続けた学生時代から、若手のころの暮らしぶり、これまでに過ごした街の思い出についてうかがいました。
「俺の人生は、そこから始まるんだ!」東京に憧れた学生時代
―― まずはお二人の地元のお話から聞かせてください。屋敷さんの地元、三重県熊野市はどんなところですか?
屋敷裕政さん(以下、屋敷):ほんっとに田舎です。僕のなかで田舎の定義って、「東京まで行くのにどれくらいかかるか」なんですよ。例えば、千葉とかにも田舎って言われるところがあると思うんですけど、東京まで1時間で行ける。でも僕の地元から東京にたどり着くまでには、車で10時間かかるんすよ。
だからYouTubeで地元を紹介したときに「俺の地元のほうが山奥! もっと田舎だ」ってコメントがきたんすけど、そういうことじゃないんよなって。熊野は東京が遠いんよ、とにかく!
嶋佐和也さん(以下、嶋佐):一番田舎だよな。屋敷の実家って目の前が海で、すぐ後ろは山。人はいないし、潮風で建物はさびてて。ウォーキング・デッドの世界っすよ(笑)。
屋敷:本当の田舎って、のどかとかじゃなくてちょっと寂しい気持ちになるんよな。けど高い建物がなくて空が近くて、いいところです。
―― 嶋佐さんの地元の山梨県富士吉田市は?
嶋佐:今思えばすごく良いところでしたね。富士山の麓だし、富士急ハイランドもあるし、夏は涼しいし。
屋敷:俺からしたらちょうどええとこっすよ。自然豊かなのに東京に近いし。山梨が実家って一番ええなって思います。
嶋佐:芸能人が山梨に別荘を建てる気持ちもわかるよなー。
―― お二人とも学生時代から東京への憧れがあったんですか?
屋敷:ありましたね。絶対大学は都会に行って、俺はそこから始まるんだ! って思ってた。
嶋佐:僕もめちゃくちゃありました。東京まで日帰りで行けちゃうんで、高校生のころは何度か遊びに行きました。今でこそ地元もちょっと発展してますけど、当時はまだまだ商業施設も少なくて、田舎って感じだったんで。僕も東京に出ることしか考えてなかったですね。
屋敷:俺らの地元では、1回も地元から出ないって人はあんまりおらんすね。みんな一度は地元を離れてると思う。
嶋佐:思春期は特に都会への憧れって強いよな。ぜっったいに出ようと思ってた。
芸人生活スタート、芸歴=10年間で上げた家賃は
―― NSC東京に入った当時(2009年)はどのような心境でしたか?
屋敷:僕はテレビ制作会社に就職して、ADとして1年働いた後にNSCに入ったんで。「俺だけ社会人じゃなくなったんや」って怖かったです。正社員やったのに、また大学生と一緒にアルバイトすることになって、大丈夫なんか? って不安が大きくありました。
嶋佐:僕は就活をほとんどせずに、大学卒業と同時に入学しました。楽しみでしたね。でも、一緒に入るはずだったバイト先の先輩が入学寸前で役者やるって言い出して(笑)。結局1人でNSCに入ることになったんで、不安もありました。
―― 当時はどこにお住まいだったんですか?
嶋佐:僕はそのころからずっと高円寺に住んでます。高円寺ってサブカルチャーで有名な街で、芸人がたくさん住んでるって聞いていたので、都内なら高円寺に住みたいって思ってたんです。
屋敷:僕は板橋に住んでました。AD時代、田端に住んでたんですけど、交通の便が良くなくて。NSCのある神保町と、新宿、渋谷に電車1本で行けるところを探したんです。
嶋佐:くそだったなー、おまえの部屋。なに見て探したんだよ!(笑)スーモには絶対載ってないぞ?!
屋敷:いやあるわ!(笑)けど部屋はマジやばかったっすね。線路の真横で、死ぬほど寒くて……。
嶋佐:風呂もやばかったよなあ。真四角で、カチカチカチってレバー回して沸かすタイプのやつ! 昭和の家やん!
―― (笑)。嶋佐さんはどんな家だったんですか?
嶋佐:まあ、僕の家もボロボロでした(笑)。本当に「最低限」って感じの部屋で。廊下がなくて、勝手口みたいな玄関のドアを開けたら部屋が全部丸見え。せっまいワンルームだったなー。
屋敷:思い出みたいに言うてるけど、おまえの家は今もそんな変わってへんからな!(笑)家賃いくらやったっけ?
嶋佐:当時5万2千円だったんすけど、今は5万6千円っすね。しかも弟が住んでた部屋に引越したんすよ。
屋敷:全然売れてへんやん!! 4千円しか変わってない!
―― お互いの家に行くことも多かったんですか?
屋敷:いや、最初のころは何回かありましたけど、家同士が近くなかったので、喫茶店や本社で会うことが多かったです。嶋佐がバイトしてた新宿とか、よう行ってたな。
嶋佐:サイゼとかバーガーキングとかな。
屋敷:懐かしいっすね。だいたい俺が17時までバイトで、嶋佐のバイト終わりがちょっと遅くて。俺がバイト終わって新宿に向かって、18時くらいからネタづくり。で、また次の日は朝8時からバイトして……。今思うと健康的ですね、普通の会社員みたいなリズムで生活してたな。
ゲロ吐くほど忙しかったのに、ずっと金はなかった
―― デビュー後の下積み期間で、一番大変だったのはいつごろですか?
屋敷:2年目から4年目くらいちゃうかな。朝からがっつりバイト入って、夕方にはライブがあって、夜中から朝までネタつくったり稽古したりして。
嶋佐:そのころに比べたら、今はめちゃくちゃ寝てますね(笑)。
屋敷:忙しすぎて、酒飲んでもないのに、ゲロ吐きましたもん。ヘルプで行った新宿のネットカフェで。あれは自分でも怖かったっすね。
―― 毎日その生活は辛いですね……。3年目で初めての単独ライブ、4年目にはルミネでの単独ライブをされていますが、そのころからはバイトも辞めて、芸人としての給料だけで暮らしていけるようになったのでしょうか?
屋敷:いや全然です。実際その時期にバイトは辞めてるんすけど、辞めたというよりシフトに入れなくなって、追い出された感じで……。
嶋佐:実質クビですよ。
屋敷:でも芸人だけじゃ月12万〜13万くらいしか給料がもらえなかったから、バイト時代のほうがむしろ金あったやん! みたいな。
嶋佐:そうそう。そこからはなんとかやりくりしながら、ちょっと借金しては返して、って生活でした。
屋敷:そっからずーっと金ないっすね。ここ最近です、ちょっと金あるの。
嶋佐:2018年がいっちばん金なかったよなー。
屋敷:たしかに! 俺のおかん、500円玉貯金してて。誕生日にそれを送ってくれるんすよ。ずっとそれだけは手をつけないようにしてたんすけど、2018年は銀行に持ってったもんな。「これお札に替えてください」って(笑)。
―― そうした大変な時期も芸人を続けられたのはどうしてでしょう?
屋敷:まあ、自分らで選んで勝手にやってることなんで。そんな追い込まれてはなかったっすね。家族がいたり、子どももいたりして、俺らよりもっとキツい状況の人もいっぱいいましたから。
嶋佐:そうっすね、金はなかったけど楽しかったすね。毎日同じメンツで会って、劇場立って。もっとなんにも仕事がない人もいますし、大ブレイクしてから転落した人もみてるから。自分たちだけが特別つらかった! って記憶はないですね。
タワマンなんて落ち着かない! 10年住み続ける高円寺の魅力
―― 嶋佐さんはYouTubeで『高円寺チャンネル』にも出演されていて、高円寺好きのイメージが強いです。嶋佐さんの思う、高円寺の魅力を教えてください。
嶋佐:高円寺ってちょっと田舎みたいな雰囲気があるんですよ。ずっと昔から住んでる地元の人も多くて、落ち着く街だと思います。
あと、絶妙な雰囲気の店が多いんすよね。おじちゃんとおばちゃんが二人でやってる、バーでもない、カウンターだけの飲み屋とか。
屋敷:あー、良い店よな。
嶋佐:仲良くしてる大衆酒場のマスターもいます。横のスナックのママが、絶対営業終わりに飲みに来るんで、しょっちゅう一緒に飲んでました。
嶋佐:新高円寺とか、東高円寺って地下鉄がめっちゃ便利で、交通の便もいいんすよ。駅近くでも静かだし、遅延もほとんどしないし。
屋敷:地下鉄沿線に住むのって、ちょっと上級者よな。田舎から出てくると、土地勘ないままJR沿線のほうがええんかなって思いがちだけど。
―― はやく売れて、引越したい! と思うことはなかったんですか?
嶋佐:うーん……本当は20代後半でドカンと売れて、恵比寿のタワマンとか住みたかったすよ。でも、もう今はタワーマンション住みたいとか思わないなー。タワマンって絶対落ち着かないよな?
屋敷:ださ! ださすぎんねん(笑)。
嶋佐:結局ね、ベッドで横になりながらテレビ観れる部屋が最強なんすよ。手が届く範囲にすべてあるような。毎晩寝室に移動とかめんどくせーよな。
屋敷:いや病院やん(笑)。まあ住めば都って言うし、どんな部屋でも慣れれば快適かもしれんな。
―― 屋敷さんは街への思い出はありますか?
屋敷:僕、今は渋谷に住んでるんですけど、街の思い出っていえば若手のころ住んでた板橋のほうが強いですね。昼飯でよく行ってた「洋庖丁」って定食屋とか懐かしいなー。また食べたいっす。
あと、ある居酒屋チェーン店の店長とアントニー(お笑いコンビ・マテンロウ。ニューヨークとはNSC時代の同期)が仲良くて、裏メニューとして500円でええ飯食べさせてくれたりしてました。
嶋佐:電車だと板橋もめっちゃ便利だよな。でも板橋って、なんか名前でなめられてる。
屋敷:広いんすよ、板橋。豊島区と北区と板橋区が駅を境に隣接してて。行く方向によって街の雰囲気がガラッと変わる気がします。
「ひとつの街で」「いろんな街が知りたい」正反対な二人の理想の住まい
―― 次に引越しするならどんな家が理想ですか?
屋敷:もうすぐ引越そうと思ってるんで、ちょうど物件探してます。昔は家賃とか交通の便だけで家を探してましたけど、歳とってきて都心の便利な街より、落ち着く街で暮らしたいなと思うようになりましたね。
今年おみくじで大吉引いて、西がラッキー方角だったんで西早稲田とかええなーと思ってます。今の渋谷の家と同じくらいの家賃で、ちょっと広いところに住めたらええなあ。あと、まだまだ電車使ってるんで駅から近いほうがいい。
―― 今も電車使われてるんですか?
屋敷:ばりばり電車っすよ!
嶋佐:僕らくらいは電車も毎日ガンガン使ってますね。
屋敷:今の家は駅からやや歩くんで、ちょっと面倒なんすよね。もっと売れてタクシーばっかり乗るようになったら、家選ぶ条件も変わってくるんやろうなあ。
嶋佐:僕は次も高円寺かな。もう10年住んでるし、今から新しい土地に踏み出す勇気がないっす(笑)。でも阿佐ヶ谷とかもいいかなー。隣駅なんで街の雰囲気がちょっと高円寺と似てて、だけど高円寺よりちょっと大人な感じがいいですよね。
あとは僕も、もうちょっと広い家に住めたらいいとは思いますね。ワンルームしか住んだことないんで。
屋敷:ださ!! ちょいちょいめちゃださいんよ、おまえ(笑)。
嶋佐:いや俺去年の12月から親に5万仕送りしてっから! なめんなよ! 家賃は5万台でも、実質毎月10万以上払ってるから。
屋敷:去年て!(笑) まだ1カ月くらいしか経ってねえ。※取材時
けどたしかに一人暮らしだとワンルームでも十分だよな。でかワンルームとかいいんじゃない?
嶋佐:むちゃくちゃ広いワンルーム、いいね。で、バーカウンターとかつくろうかな。
屋敷:ださ! タワマン落ち着かんとか言うとるやつが!(笑)
嶋佐:実は本当の金持ちって低層の高級マンションに住んでるよな。
屋敷:ワンフロアに2部屋だけで、全部自分の家みたいなな。3階建てくらいの。ニューヨークの(渡辺)直美さんの家とかやばかったなー。
嶋佐:俺も1回はそんな家住んでみたいなあ。
屋敷:おまえは今も低層やん!(笑)
たぶん1回でもええ家に住んだら、欲出てまうやろうな。今のまんまで満足できるんやったら、そのほうがええかも。生活ランクって下げられんっていいますからね。
嶋佐:だから俺、最強なんすよ! この歳まで、ずーっと最低限の部屋に住んでるから。
屋敷:だからだせーんよ!(笑)
―― (笑)。ずっと高円寺に住み続ける嶋佐さんとは反対に、屋敷さんはいろんな街に住んでみたいタイプですか?
屋敷:そうっすね、僕は嶋佐でいうところの「高円寺」みたいな街にまだ出会ってないんでしょうね。せっかくやったら、いろいろ住んでみようかなってモードに入ってます。
もし家買うとかになったら、めちゃくちゃ迷うんやろうな。タトゥー入れるようなもんすよね、家買うって。そのときのためにも、いろんな街を知っときたいなって思います。
あと単純に物件見るのも好きなんすよ。テレビでやってたら絶対観てまう。
嶋佐:俺もめっちゃ好き! そういう番組出たいよなー。
「好きです、東京」地方出身の二人が思う東京とは
―― 地方から出てきて、東京での暮らしも長いお二人ですが、今のお二人にとって「東京」はどんなところですか?
屋敷:上京してよかったなって思います。みんな1回は田舎から出たほうがええと思う。ずーっと田舎におって田舎しか知らん人と、東京に1回でも行って住んだことがある人って、考え方とか経験値が全然違うと思うんで。
嶋佐:俺もそう思いますね。東京での暮らしを経験してるかどうかって、生まれた国が違うレベルで違う。やっぱり東京って本当すごいっすから。
屋敷:ちょっとださいかも(笑)。
嶋佐:刺激的な街っすよ、東京。家賃はずっと5万台だけど、もう東京のことはほぼ全部経験したからなー。
屋敷:絶対そんなことないで!(笑)
嶋佐:M-1出て、ゴールデンの番組も出たし、映画の主演もしたし。西麻布とかも行ったし、信じられないようなフォアグラの飯も食ったしさ。
やっぱ東京いいっすよ。すごいっす。高円寺みたいに住みやすい街もあるし。好きです、東京!
屋敷:なんやねん、その終わり方! つぼ八みたいな(笑)。
お話を伺った人:ニューヨーク・嶋佐和也(しまさかずや)、屋敷裕政(やしきひろまさ)
嶋佐和也(写真左)1986年生まれ、山梨県富士吉田市出身。屋敷裕政(写真右)1986年生まれ、三重県熊野市出身。NSC東京校15期生。2010年にコンビ「ニューヨーク」を結成、デビュー。吉本の若手芸人が総出演する劇場ヨシモト∞ホールでは、長くファーストクラス(人気上位16組)のメンバーとして人気を博した。2019年に開設したYouTubeチャンネルの登録者数は20万人を突破。現在、テレビ、劇場、YouTube、オンラインサロンと多方面で活躍。賞レース「M-1グランプリ2019」「キングオブコント2020」「M-1グランプリ2020」で決勝進出、芸人仲間にもファンの多い実力派コンビ。
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編集:ツドイ