
街にゆかりの深い方のお話を通じ、知られざる街の魅力を紐解くインタビューシリーズ「街の案内人」 。第1回のゲストは、東京・神保町で創業から40年以上を数える名純喫茶「カフェ トロワバグ」のオーナー・三輪徳子さんです。
お母様が経営されていたお店を引き継ぎ、早10年。幼いころから神保町の変遷を見てきた三輪さんに、今も昔も変わらない神保町の魅力について、たっぷりと語っていただきました。
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独自性があるから、人に愛される街になる

――三輪さんがオーナーを務められる「トロワバグ」は、創業から40年以上が経っているそうですね。三輪さんがお店に立たれてから、どのくらいになるのでしょうか?
三輪徳子(以下、三輪):もう10年以上になります。もともとこのお店は母が経営していたので、神保町には幼いころから足を運んでいたんです。かれこれ30年以上は、この街の変遷を見てきました。
――幼いころと比べ、神保町の印象は変わりましたか?
三輪:それはもう、うんと変化しました。いまもあか抜けていないけど、以前に比べて都会的になったと思います。昔は高い建物が全然なくて、今とは違い、チェーンの飲食店がとても少なかったと記憶しています。古本屋さんや印刷工場がたくさんある“紙の匂いのする街”で、「文化的な街」でした。
あとは、いまはチェーン店が多くなりましたが、昔は飲食店が少なくなったと記憶しています。そういった意味で、「文化的な街」でしたね。


大型書店や古本屋さんなど、“紙の匂い”が今でも残っている。購入した書籍を片手に、喫茶店で珈琲を飲むのが楽しい神保町
――昔のほうが、好きでしたか?
三輪:いえ、いまも昔も神保町は大好きですよ。チェーン店が増えたのも悪いことではなく、おかげでいろいろな人が集う街になったと思います。
また、文化的だった風景は少なくなってきましたが、いまも古本屋さんやレコード屋さんが残っています。トロワバグのように古い飲食店も奇跡的に残っていますし、少し足を延ばせば、楽器屋さんもある。
時間を重ね、随分と洗練されてきましたが、まだまだ昔の風景、景色などが残っています。「なくなっていくものが、残っている街」とでも言いましょうか。そういった意味で、東京を見渡しても、ほかに似たような街がないと思いますね。
――独自性があるのは、いい街のポイントかもしれないですね。
三輪:そう思います。例えば「渋谷」や「恵比寿」と聞くと、なんとなくイメージが湧くじゃないですか。人はそのイメージに引き寄せられて街にやってくるので、人気の街には想起される文脈があるんです。
いい街でも、似たような景観で、同じような雰囲気のところもありますよね。でも神保町は、喫茶店や古本屋さんなど古い文化と新しさが共存しているように、唯一無二の街なんです。ある種の「マニアックさ」がある。そうした独自性があるから、人に愛される街になるのだと思います。
時代が変わっても、お店の価値は変わらない
――街の変化を、お店の中にいて感じることもありますか?
三輪:もちろんです。母と一緒にお店に立っていたときは、地域柄編集者の方が多くいらっしゃって、仕事の打ち合わせをしている風景をよく見ていました。でもいまは、若い女性の方が増えましたね。

――そうなんですね。では、神保町を訪れる人も変化していますか?
三輪:そうだと思います。うちのお店に来てくれる女性のお客様は、ブームでもあるカフェ巡りの一環で訪れてくれている方が多いです。Instagramをチェックしていても、うちのお店を投稿してくださるお客様が増えています。
一方、昔からのお客様は、「あのころは都電が走っていてね……」なんて、いつも話されています。お店の中にいても、街を訪れる人に多様性が出てきたことが感じられて、とても楽しいです。
――お客様によって異なる会話、とても興味深いです。古き良き文化を大切にされる一方で、新しいお客様にも足を運んでもらえる工夫などもされていますか?
三輪:喫茶だけを目的に足を運んでもらうのは難しいので、週末はワインをテーマにイベントを開催していたり、落語のお話会をやってみたり、SNS文化に対応するためにアカウントをつくるなど、いろいろ工夫をしています。
男性のお客様がずっと多かったので、お店にお花を飾るなど、女性が入りにくい雰囲気にしないことも心がけていることの一つです。

――いろいろな世代のお客様を見てこられたと思いますが、皆さんはどんなことを求めてトロワバグに足を運ばれているのでしょうか?
三輪:特にこれといって、意識的に「何かを求めている」わけではないと思いますが、潜在意識では、こうした古いお店ならではのコミュニケーションを求めているのではないかと感じています。最初はスマートフォンばかり見ていたお客様も、次第にお話をするためにお店に足を運んでくださるようになるので。
もちろんうちのお店だけではなく、純喫茶の名店として知られる「さぼうる」さんや、紅茶のおいしい「ティーハウスタカノ」さんもそう。神保町に訪れる理由の一つに、「あのお店に行きたい」という思いが紐づいている気がしますね。
――なるほど。若い方でも、昔ながらのスタイルに心惹かれることがあるんですね。
三輪:そうですね。いまでは誰もがスマートフォンを持っていて、とても便利な時代になりました。人の様子も、街の様子も、目まぐるしく変化していきます。そうした背景によって、以前と比べれば、人との会話も随分減りました。
でも、そうした時代だからこそ、うちのように古いお店の価値が高くなると思っているんです。一人でゆっくりと過ごす時間や、カウンター越しにたわいもない会話をする時間って、なかなかないので。

三輪:神保町はそうした価値あるお店が残っている数少ない街なので、街独自の文化を残す意味でも、私が元気でいられるうちはずっとお店に立っていたいですね。
あとは、母の時代からお店に通い続けてくれているお客様も見てきているので、お店を残すことが使命だとも思っています。母が亡くなったあとも続くお店とお客様の関係を、これからも絶やさずにいたいんです。
神保町は、名店ぞろい。会話が弾む、素敵な街
――長年にわたって神保町の変遷を見てきた三輪さんだからこそ分かる、神保町の楽しみ方を教えてください。
三輪:私は飲食店の方との交流が多いので、神保町のグルメ事情にはちょっとだけ自信があります。珈琲を飲むなら、若い方には「グリッチ(GLITCH COFFEE&ROASTERS)」さんをおすすめしますね。陽の光が燦々(さんさん)と入る素敵なカフェで、ハンサムなお兄さんたちの笑顔が眩しいので(笑)。

フルーツジュースのようにさっぱりした新感覚の珈琲。三輪さんの紹介通り、ハンサムなお兄さんたちが出迎えてくれた
珈琲を飲んでゆっくりとした朝の時間を過ごして、皇居や靖国神社までお散歩を楽しむと、素敵な休日が過ごせると思います。
ランチはいい意味で癖のあるカレー屋さん「パンチマハル」さんが素敵です。ルーがなくなるとすぐに閉店しちゃう感じが、たまらない。
夜ご飯は、老舗洋食屋さんの「ランチョン」が本当に美味しいです。ハヤシライスとオムライスが人気で、あとはカキフライ、エビフライも絶品。どちらもなくなったら、本当に困ってしまう名店です。

濃いめの味付けで、ビールがすすむ、ハヤシライス

身がぎっしり詰まった特大サイズのエビフライは、ぶりっぶりの食感で食べ応え抜群。ナイフとフォークで切り分け、豪快に食べるのがおすすめ
三輪:お酒を飲むなら、うちのお店からすぐ近くの「いちこう」さん。食べて飲んでも3,000円しないくらいなのに、本当に美味しい。ワインを飲むなら、「関山米穀店」さんかな。お店の話をすると、もういつまででも話せるくらい、神保町は名店ぞろいです。

関山米穀店の人気メニュー「黒トリュフのオムレツ」。トリュフの上品な香りと卵の甘みがよく合う。中はとろっとろで、ワインのおともにぴったり
――神保町は住むのにもってこいな街なんですね。
三輪:私にとっては「住みたい街」の一つですが、スーパーがないことが気になりますね。あとは、パン屋さんが全然なくて。ちょっとした買い物ができないので、もしかしたら年配の方は不便さを感じてしまうかもしれません。
あと学生さんの多い街ですが、少し家賃は高いかも。コストを抑えるなら、お隣の春日駅のほうがいいかもしれないです。
――「住む」ということに限っていえば、どのような方におすすめでしょうか?
三輪:文化的なことに興味ある方には合うのではないでしょうか。事実、お客さんにも知性のある素敵な方がたくさんいらっしゃるので。あとは食に飽き足らない街なので、ぜひ、お食事が好きな方にもおすすめしたいな、と思います。

――最後に、神保町の魅力について、三輪さんからひとことお願いします。
三輪:神保町は、人とお店に特色のある街です。古くから続く文化的なお店が多いので、お客さんやお店の方との会話が弾む、素敵な時間を過ごせる場所。神保町を訪れた際には、ぜひトロワバグにも寄ってくださいね。
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お話を伺った人:三輪徳子

東京港区出身。合同会社トロワバグ代表。カフェトロワバグ(喫茶店)とカーヴトロワバグ(ワインショップ)を経営する。またコーヒーに関する企画プロデュース、美術品の販売などを手掛ける。
聞き手:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身のライター。ビジネス領域を中心に、各種メディアへの記事寄稿・ブックライティングをライスワークにしています。商店街が好きで、休日はだいたい純喫茶にいます。
Twitter:@ObaraMitsufumi
