これからもずっと安城で。街を盛り上げるべく、結成されたご当地アイドルの夢/愛知県安城市・安城商店街「看板娘。」かのんさん、あいさん【商店街の住人たち】

インタビューと文章: 小野洋平(やじろべえ) 写真:小野 奈那子 

長年、そこに住む人々の暮らしを支えてきた商店街。そんな商店街に店を構える人たちにもまた、それぞれの暮らしや人生がある。
街の移り変わりを眺めてきた商店街の長老。さびれてしまった商店街に活気を呼び戻すべく奮闘する若手。違う土地からやってきて、商店街に新しい風を吹かせる夫婦。
商店街で生きる一人ひとりに、それぞれのドラマがあるはず。本連載では、“商店街の住人”の暮らしや人生に密着するとともに、街への想いを紐解いていく。

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■今回の商店街:安城商店街(愛知県安城市)
「日の出町商店街」や「つながる商店街」、「朝日町商店街」など、安城(あんじょう)市の中心市街地にある6つの商店街の総称が「安城商店街」。近年はそれぞれの商店街同士が協力し合い、地域のお祭りやコラボイベントを開催している。

「商店街」×「アイドル」で街を元気に

愛知県のほぼ中央に位置する安城市。明治用水の豊かな水に育まれ「日本のデンマーク」と呼ばれるほど、農業先進都市として栄えてきた。今も小麦やイチジク、梨などの生産が盛んだ。また、昨今は機械工業の発展も著しいほか、三河安城駅や安城駅、新安城駅などの駅周辺エリアでは商業施設の開発が進み、農・工・商いずれも盛んなエリアだ。

そんな安城市の商店街を、よりいっそう盛り上げているご当地アイドルがいる。その名も『看板娘。』。「商店街から安城を元気に!」をコンセプトに、2012年9月に結成。現在はかのんさん、あいさんの2名が在籍しており、運営・プロデュースは商店街有志が手掛けている。

これまで定期公演や街のイベントなど、地域密着で活動を続けてきた『看板娘。』。地元出身の二人だが、もともとは商店街に特別な思い入れがあったわけではないという。活動を続けるうち、どう気持ちが変化していったのか? また、今の商店街や安城の街に対し、どんな思いを抱いているのだろうか?

―― お二人は生まれも育ちも安城ということですが、子どものころから商店街によく来ていたんですか?

かのんさん(以下、かのん):今は「看板娘。」として商店街を盛り上げていますが、子どものころは正直あまり来ていなかったんですよね(笑)。習い事の行き帰りのバスで通るくらいで。

2期生のかのんさん。メンバーカラーは紫

あいさん(以下、あい):私も同じです。家族でたまに訪れていましたが、なにか特別な思い入れがあるわけでもなく……。商店街は「安城七夕まつり」の会場でもあるので、お祭りの場所というイメージが強かったですね。

5期生のあいさん。メンバーカラーは緑

あい:安城市内でいえば「堀内公園」が思い出の場所です。園内は自然が豊かですし、1回100円で乗れる観覧車や電動汽車、メリーゴーランドもあるんですよ。家からも近かったので毎週末、遊びにいっていたと思います。あとは、桜井町にある喫茶店「ミネルヴァ」もよく行きました。うちでは運動会や授業参観の後に家族みんなで行くのが習慣で。落ち着く雰囲気で今も通っています。

―― そのころ、夢はありましたか?

かのん:絶対にかなえたい夢があったわけではないですね。ただ、姉が学校の先生を目指していたので、私も一緒になろうかな〜と漠然と考えていました。結果、先生は目指さず、今は「看板娘。」として活動しながら一般職として働いています。

あい:私は四人兄妹の長姉で昔から妹たちの世話をするのが好きだったこともあって、将来は保育の仕事がしたいと思っていました。その夢がかなって、今は保育士として働きながら「看板娘。」の活動をしています。

もともとは市内で開催される「きーぼー市」というイベントを盛り上げるために結成されたご当地アイドル「看板娘。」。現在は、商店街の有志の手で運営・プロデュースを手掛けている

―― お二人とも仕事をしながらご当地アイドルとしても活動されているんですね。では、「看板娘。」になった経緯を教えてください。

かのん:2012年に1期生が決まったとき、街の広報誌で『「看板娘。」が結成!』という記事を見たんです。そのときは「自分もなりたい」という感情はなく、そういうグループができたんだな〜くらいで。それよりも、メンバーの中に同級生のお姉ちゃんや知り合いがいたので純粋に「すごいな!」と思っていましたね。

―― 翌年の10月には2期生の募集が始まりました。当時、かのんさんは高校一年生でしたが、なぜオーディションを受けようと思ったのでしょうか?

かのん:“アイドルになりたい”というよりも、商店街をにぎやかにしたかったんです。当時から商店街のお店は後継者不足に悩まされ、どんどんシャッターが下ろされていました。私は高校生だったので大きな危機感は感じていませんでしたが、純粋にもっとたくさんの人が商店街に来ればいいなって。そこで、自分にも何かできないかなと思い、応募することにしたんです。

2014年の加入時は高校生だったかのんさん。アイドル活動、学校の試験、部活が重なり、今よりもかなり忙しかったそう

―― あいさんは5期生からの加入ですが、動機は?

あい:私は小学生のころからAKB48さんをはじめ、アイドルが大好きでした。「看板娘。」の1期生オーディションが開催されたときも興味をもっていましたが、当時は対象年齢に該当せず、諦めたんです。それからは「看板娘。」のファンとして応援し、自分は保育士になろうと思って。ちなみに、私はかのんちゃんを推していて、「看板娘。」のラジオにもメールを送っていました。そんな、ずっと見ていた人と今は一緒に活動しているのは、とても不思議な感覚ですね。

―― 応援していくうちに、自分もそこへ入りたくなった?

あい:はい。ただ、19歳になったときに“やっぱり自分も可愛い衣装を着たい”という思いが強くなり、応募することにしました。オーディションは「歌唱審査」「自己PR」「質疑応答」の3部構成。後日談ですが、見た目や歌唱力よりも「商店街を元気にしてくれそうな人」を重視して選んだそうです。

2018年の加入時は19歳で、家族からは「本当にやるの?」と心配されたそう。しかし、活動を続けていくうちに理解してもらい、今ではメンバーカラーの緑のT シャツを着て応援してくれているという

―― ちなみに「看板娘。」が結成されたときの、町の人の反応は覚えていますか?

かのん:大々的に宣伝をしたわけでもなく、ひっそりとスタートしたので、あまり認知はされていなかったですね。私が加入したときも「お店のキャンペーンをやるから手伝って」といった、アイドルというより単純にアルバイトとして人手がほしい方からの依頼もありました。そんな状況の中メンバーみんなでお店を地道にまわったり、定期公演を開催したりして、徐々に知ってもらえるようになっていったと思います。

アイドル活動から芽生えた地域への想い

―― コロナ禍以前は、主にどこでライブをしていましたか?

かのん:定期公演は「安城市民交流センター」と「安城まちなかホコ天きーぼー市(※1)」です。あとは、名古屋のライブハウスのほか「安城七夕まつり(※2)」では10ステージやらせてもらったり、「デンパーク(※3)」ではカウントダウンライブをさせてもらいました。それから、2017年に開業した「アンフォーレ(※4)」のホールや広場でも、たくさんライブをさせていただきました。残念ながら今年(2022年)の11月でライブ活動はいったん休止になってしまいましたが、いつかまた、ファンのみなさんのコールを聞ける日が来てほしいですね。

(※1)安城まちなかホコ天きーぼー市……JR安城駅の南側を歩行者天国にし、キッチンカーやハンドメイド雑貨、子どもの遊び場など、親子で楽しめるイベント

(※2)安城七夕まつり……1954年にスタートし、現在では仙台・平塚と並び「日本三大七夕」と称される。期間中の来場者数はのべ100万人以上

(※3)デンパーク……正式名称は「安城産業文化公園」。自然豊かなデンマークの町並みを再現し、四季折々の花と緑に囲まれた総合公園

(※4)アンフォーレ……厚生病院の跡地に建てられた中心市街地拠点施設。図書情報館やホール、公園があるほか、広場ではイベントも開催

今年は3年ぶりに「安城七夕まつり」が開催され、安城市民交流センターで七夕まつり開催記念ライブを行った

―― 精力的ですね。商店街の認知拡大という点でも、手応えがあったのでは?

かのん:個人的には地域の人だけでなく、市外の人にもっと商店街を利用してほしいと思っていました。それまでは市外から安城に来る理由って「安城七夕まつり」や「デンパーク」くらい。なので、まずは商店街の存在を知ってもらうための努力が必要だなって。ライブ活動も、その意識を強くもって取り組んでいましたね。

―― かのんさんは、そもそも商店街を盛り上げたいと加入したわけですもんね。

かのん:そうですね。実際に活動を始めてからは商店街だけでなく「地域の活性化」に興味がわき、大学も街づくり系の学部に進学しました。そして、全国の事例を勉強していくうちにシャッター商店街を再生させるには地域の特性を活かしたまちづくりが重要で、人を呼び込むためには私たちのような若者が奮闘しなければならないと考えるようになったんです。

それからは、ブログで商店街のお店の紹介をするなど、個人的にもPR活動を始めました。市外から来てくれたファンの方に、ぜひ商店街を利用してもらいたいと思って。

あい:私も「看板娘。」になってからは個人的にも商店街に足を運ぶようになりました。お店や商品の写真を撮ってSNSに投稿すると、それを見たファンの方が「行ったよ!」と教えてくれたり、同じ商品を買ってSNSに上げてくれるようになったんです。「あいちゃんが投稿していたから来ました」という声を聞くと、やっぱりうれしいですね。

―― 商店街のお店のみなさんからの反応はどうでしたか?

あい:多くの人に喜んでいただけていると思います。もちろん、お店によっては「常連さんを大切にしたい」というお考えがあり、宣伝がかえって迷惑になってしまうケースもあります。そこは気をつけなくてはいけませんが、少しずつ市外からのファンの方も歓迎していただけるようになっていると感じますね。

かのん:当初は「看板娘。」の存在自体、ご存じでないお店の方もいらっしゃいました。でも、今では顔を覚えてくださって「いつも頑張っているね」とか「次、いつライブあるの?」と声をかけてくれるようになりました。とてもうれしかったですし、この温かさが「商店街」の良さだと思いましたね。

―― コンセプト通り、商店街を元気にしていますね。商店街との触れ合いで、印象に残っていることはありますか?

かのん:JR安城駅南口からすぐの老舗和菓子店「両口屋菓匠」で、コラボ商品の「どら娘。」を販売できたことですね。私は習字が得意だったので、パッケージのデザインを担当させていただいたのですが、実際に商品が店頭で売られているのを見たときは感激しました。

「両口屋菓匠」と「看板娘。」のコラボ商品「どら娘。」

あい:私は、安城市のソウルフードである北京飯をテーマにした「北京飯のうた」が、北京本店というお店の店内BGMに使われることになったときは、驚きましたしうれしかったです。昔からお客としてよく訪れていたお店なので、なおさら感動しました。さらに、テレビでも紹介されて、地上波でこの曲が流れたときは胸が熱くなりましたね。

2021年にリリースされた「看板娘。」のマキシシングル「それでもあなたに恋してる。」。オリジナルソング8曲を収録

多世代が楽しめる街の魅力

―― 商店街の中で、お二人のお気に入りのお店を教えてください。

かのん:一つめは「海風cafe」です。私たちのレッスン場からも近いため、メンバーとランチをするとき、1人でリフレッシュしたいときなど、さまざまなシーンで利用させてもらっています。

手づくりのスイーツや毎日少量ずつ焙煎するコーヒーが人気。かのんさんのオーダーはシソサイダーとパウンドケーキ

かのん:SNSで投稿してからはファンの方も訪れてくださって、お会いしたときはお話をしたり、写真を撮ったりと交流を深めています。私にとって、とても居心地のいい場所ですね。

店内には「看板娘。」のコーナーも。店主さんも、かのんさんのファンだという

あい:私は創業88年のうどん屋「丸長」が昔から好きですね。駅前なのでレッスン終わりにメンバーと行ったり、家族で散歩した帰りに立ち寄っています。

JR安城駅から徒歩1分の「丸長」。うどんは自家製麺で、地元の小麦「きぬあかり」を使用

あいさんのオーダーは「えびおろしうどん」。サクサクの天ぷらをさっぱり食べられてオススメとのこと

―― 駅前には新しい飲食店も増えているようですね。

かのん:そうですね。安城駅前には新しい飲食店が多く、商店街の奥に進むにつれて、昔ながらのお店が増えてくるイメージです。なかでも、近年は流行りのスイーツ店が増えましたね。駅前は、高校生・大学生の通学路だからだと思います。

あい:安城駅から近いアンフォーレに勉強しに来る学生さんも多いんですよ。朝は中学生や高校生、大学生の行列ができています。そういう若い人のおかげで、タピオカ屋さんや揚げワッフル専門店もできたりして、個人的にもうれしいですね。

かのん:駅前だと、オススメは韓国カフェの「ジフンスイーツ」です。最近ブームの韓国スイーツについて情報収集できますし、オシャレな雰囲気ですよ。私もよく利用しています。

韓国で大流行中の糸状かき氷「糸ピンス」のほか、SNS映えするドリンクやスイーツがそろう

あい:駅前だけでなく、商店街の奥にも足を運んでほしいですね。お肉屋さん、八百屋さん、米穀店など、古くからのお店は佇まいからしてカッコイイんですよ。以前、商店街に気になる金物屋さんがあって、特に買う物もなかったんですが、ついつい入ってしまいました(笑)。あと、商店街に来るようになってから「鈴木小鳥店」を知り、インコを飼い始めました。どのお店も親切に教えてくれるので、行くだけで楽しめると思います。

朝日町商店街の会長さんが営む、メンズファッションのお店「FAGRASS」

あい:「FAGRASS」さんは、もともと「看板娘。」がYouTubeで商店街を紹介する際にお伺いしたのですが、今では個人的にも買い物に来ます。会長さんが親しみやすい方で、メンズファッション以外の美容やレディースファッションにも詳しいので勉強になりますよ。父の誕生日プレゼントを見にきたりもしました。

商店街のPR用動画を撮影する様子。かのんさん、あいさんの間にいるのは「看板娘。」のマネージャー。近くでヘアサロン「KUTSUNA」を営んでいる

「看板娘。」が描く、街の未来

街中には安城ゆかりの童話作家・新美南吉のウォールペイントやオブジェ、モニュメントが点在している

―― もともとは商店街に対して特別な思い入れはなかったお二人ですが、「看板娘。」として活動するうちに、思いに変化はありましたか?

かのん:そうですね。私たち自身はお店を営んでいるわけではありませんが、「看板娘。」としてかかわらせていただくうちに、商店街の一員になったような気がしています。イベントを一緒に盛り上げていこう、お客さんをもてなそう。そんなふうに、商店街のために何かをしたい気持ちがどんどん強くなっていますね。

あい:私も同じです。商店街のみなさんは、本当に温かい人ばかり。初代面でも寒い日には「大丈夫?」と声をかけてくれたりして、親切で優しい人たちに囲まれているのを感じます。今では商店街が大好きになりました。

―― もっと多くの人に商店街に来てもらえたらいいですね。

あい:そうですね。そのためにも、これからも「看板娘。」としての活動を頑張っていきたいです。ライブ活動はいったん休止してしまいますが、解散ではありません。今後は、商店街の情報発信とラジオをメインに活動していきます。そして、いつの日かまたステージに立てることを願っています。

―― 最後に、今の夢はありますか?

あい:以前、ファンの人から「ライブがないと安城に行くことが減っちゃいそう」と言われたことがあるんです。その時にメンバーとも話したのですが、いつか「看板娘。」のカフェを商店街につくり、そこでグッズ販売や週末だけでもライブが行えたら楽しそうだなって。

かのん:この先もずっと「看板娘。」の活動を続けていくことが夢です。商店街がなくならない限り、何歳になっても商店街の「看板娘。」であり続けたいと思っています。

日の出町商店街
anjo-hinode.web.app

つながる商店街
anjo-tsunagari.com

朝日町商店街
genki365.net

看板娘。
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著者: 小野洋平(やじろべえ)

 小野洋平(やじろべえ)

1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服がつくれず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。Twitter:@onoberkon 50歳までにしたい100のコト

編集:榎並 紀行(やじろべえ)