中古マンションや中古住宅を買ってリノベーションをすれば、新築でマンション、一戸建てを購入するよりも費用を抑えられるメリットが期待できます。古くなった自宅や実家をリノベーションすれば、暮らしの快適性はアップします。では、リノベーションの費用はどれくらいかかるのでしょうか? リノベーション費用の目安や注意ポイントを一級建築士のYuuさん(本名・尾間紫さん)に聞きました。
記事の目次
リノベーションとは?リフォームとの違いをおさらい
リノベーションとリフォームの違いは実はあいまい
マンションや一戸建てのリノベーションにかかる費用について解説する前に、そもそもリノベーションとは何なのか? リフォームとは何が違うのか? という疑問を解決しておきましょう。
「一般的には、リフォームは水回り設備の交換、和室を洋室に変更、部屋の壁紙を張り替えるなど、小規模、または住まいの一部分だけを変更する工事というイメージでしょう。リノベーションは、間仕切り壁を撤去して大幅な間取りを変更、屋根や外壁の塗り替えや張り替えのほか、断熱工事や耐震工事を行うケースもあるなど大規模で住宅性能の向上も得られる工事のことというイメージが浸透しています。
しかし、実際はリノベーション、リフォームに明確な定義はなく、『スケルトンリフォーム』『性能向上リフォーム』『フルリフォーム』『プチリノベ』『小規模リノベ』など、さまざまな言葉で表現されています」(Yuuさん、以下同)
例えばスケルトンリフォームは、間仕切りを撤去して間取りをゼロからつくりなおし設備なども一新する大規模なリフォームで、リノベーションと言い換えても違和感はありません。また、大規模な工事をイメージするリノベーションに小規模という言葉がついて使われていたりもします。
「リフォームとリノベーションの境目はあいまいですから、大切なのはその施工会社で使われる「リフォーム」「リノベーション」という工事の中身です。どのような工事が含まれているかを確認することが必要です。
なお、この記事では大規模なフルリフォームをリノベーションと呼び、かかる費用の目安について解説していきます。
マンション、一戸建てのリノベーションにかかる費用には何がある?
リノベーションの工事費用はいつわかる?
マンションや建売一戸建てを購入するのとは違い、リノベーションには価格はついていません。どんな物件にどんなリノベーションをするかによって費用が決まってきます。では、その費用はどの段階で決まるのでしょうか。
希望のリノベーションがいくらでできるのかを知るには、依頼する会社から見積もりを取ります。住んでいるマンションや一戸建てをリノベーションするなら自宅に、中古物件を購入してリノベーションするなら購入する物件に来てもらい現地調査を行います。この段階でラフプランと合わせて提出されるのは工事費の目安がわかる概算見積書。その後、間取りや採用する設備機器などプランを決めることで詳細な本見積書が提示されることになります。概算見積書や本見積書の内訳がどこまで詳細かは、工事の規模やリフォーム会社によって異なります。
本見積書に記載されるリノベーションの費用は?
リノベーションの本見積書に記載されるのは、主に「材料・設備費」「施工費」「共通仮設工事費」「諸経費」です。
材料費、設備費はそのリノベーションで使用する建築資材や内装材、建具などの費用、キッチンやシステムバス、トイレ、給湯器などの住宅設備代。一戸建てなら外壁材や屋根材、塗料などが必要なリノベーションもあります。
施工費は木工事や電気工事、ガス工事、水道工事など各工事に携わる職人さんたちの人件費。間仕切り壁や内装材、設備などを撤去する場合の解体費、廃材の処分費なども必要になります。
共通仮設工事は一戸建てで外装の工事を行うなど高所工事に必要な足場や、ほかの部分を傷つけたり汚したりしないようにするための養生費、マンションなら共用部分の養生費、階段など資材の搬入に手間がかかる場合の小運搬費などがあります。
諸経費は現場監理やリフォーム会社の運営に必要な経費のこと。見積もり金額の10〜15%が相場でリノベーションの総費用の中でも意外に大きな割合を占めますから、資金計画を立てるときは諸経費分を考えておくといいでしょう。
基本プランの内容と価格が決まっている定額制リフォームもある
リフォーム会社によっては「フルリフォームで○m2当たり○○○万円」「内装一新○○○万円」「水回り3点セット○○○万円」といった、定額制のリフォームを用意しているところもあります。基本プランにオプションを追加したり、設備機器のグレードアップをしたりすることで実際の金額は上がっていきますが、どんな工事がいくらくらいで可能なのか、おおよその相場感を知ることはできます。
リノベーションには仮住まいやトランクルームの費用も用意
リノベーションには、工事の見積書に含まれないさまざまな出費があります。
仮住まいにかかる費用がその一つ。リノベーションのような大がかりな工事はホコリや騒音が大きなストレスになりますから住みながらの工事は現実的ではありません。工事が完了するまで一時的に仮住まいで暮らすのが無難です。通常、賃貸物件は2年契約で貸し出されますが、1カ月単位で契約できるマンスリーマンションや、礼金不要の物件なら仮住まい費用を抑えることができます。
そのほか、仮住まいが現在の住まいよりも狭くて荷物が入らない場合などには、トランクルームを借りる費用も発生します。
引越し費用は2回分かかる
現在住んでいる家をリノベーションするなら、仮住まいへの引越しと、引き渡し後の引越しの2回の引越しが必要です。引越し費用は荷物の量、移動距離や時期、曜日、時間帯によって異なります。
家具や家電の購入費用
リノベーションをしてキレイになった住まいには、新しい家具や家電を置きたくなるもの。家具・家電の購入費用も総予算の中に入れておきましょう。
ローンを利用する場合の諸費用や契約書の印紙税
リノベーションの費用を住宅ローンなどの借り入れでまかなう場合、諸費用がかかります。
融資手数料:金融機関に支払う。3万円程度の定額型と「融資額の●%」といった定率型がある。
ローン保証料:保証会社に支払う。【フラット35】や多くのネット銀行では不要。
抵当権設定費用:有担保型のローンの場合、抵当権の設定費用がかかる。
印紙税:ローン契約書に印紙を貼って納める印紙税。契約書の記載金額に応じて税額が異なる。なお、リノベーションの工事請負契約書にも印紙代が必要。
なお、無担保型のリフォームローンを借りる場合は、抵当権設定費用は不要です。印紙代は必要。融資手数料は不要、保証料は金利に含まれるケースが多いですが、金融機関によって条件は異なります。
【体験談ー失敗編ー】諸経費が想像以上に高くて驚きました
Sさんのケース(築24年のマンションをリノベーション)
「希望のリノベーション内容を依頼先に伝えて見積もりを取ったら、近年の住宅設備価格の高騰もあって予算をオーバー。特に、工事費の11%を占める諸経費が予想以上の高さでした。結局、浴室のリフォームをあきらめました」
中古マンションのリノベーション費用の目安は?いくらくらいからできる?
マンションのリノベーションにかかる費用は施工面積や内装材や住宅設備機器のグレード、住まいの状態などによって異なります。つまりプランによってケースバイケース。それでも、おおよそどれくらいかかるものなのか、いくらくらいからできるのかを知りたいもの。そこで3LDK、専有面積70m2の中古マンションの場合のケースをYuuさんに聞きました。
3LDK、70m2の中古マンション。スケルトンにしてリノベーションはいくらくらいから?
「住戸内の間仕切り壁や住宅設備を撤去・処分し、コンクリートの躯体(くたい)を剥き出しにするスケルトンの状態からプランニングする場合、専有面積70m2、3LDKのマンションなら1000万円くらいからが目安になるかと思います」
そのほか、キッチンの向きや位置を変更したり、バリアフリー工事を行ったり、内窓の設置や断熱材の追加などの工事を行うと、費用はさらに上がることになります。
なお、床面積が小さくなれば内装材などの材料費が減る分、総額は安くなりますが、水回り設備や人件費などは変わらないためm2当たりの金額は割高になります。
間取り変更はせずに、内装と水回り設備の交換だけなら安くなる?
住戸内全体のリノベーションでも、内装の張り替えと水回り設備の交換だけなら工事費は安くなるのでしょうか。
「間取り変更などを行う場合に比べると工事費は下がります。以前は、内装の張り替えも、既存の内装材を解体・処分する費用がかかることが多かったのですが、最近は今ある仕上げ材の上からリフォームするカバー工法がよく使われています。解体・処分費用が節約できますし、工期が短縮できるメリットもあります。工事の音や振動も少ないので、マンションではご近所に気兼ねをせずにすみます」
定額制リフォームやパッケージ商品のチェックポイントは?
最近は、リフォーム会社によって内装一新と水回り設備の交換が『70m2で500万円〜』といったパッケージ商品も見られます。
「会社によって、使われている設備のグレードや仕様、オプションの内容が違いますから複数の会社を比べてみるといいでしょう。例えば、水回りの移動や、商品の変更、キッチンを対面式にしたり、コンセントの数を増やしたりすると追加料金がかかります。また、標準工事に給湯器やエアコン、照明器具などが含まれていないこともあります。標準工事に含まれているもの、いないもの、工事を追加するといくらかかるかなどをチェックすることが大切です」
マンションのリノベーションの予算がオーバーする要因は?
リノベーションをすると、当初の予定より費用がかかってしまったということがよくあります。床材や壁紙をグレードの高いものにしたり、照明器具なら壁にブラケットライトを増やしたりするなど、希望を形にしていく一つひとつの項目がコストを上げていきます。
「コストはさまざまな要因でアップしていきますが、その中でも大きいのが水回り設備のグレードアップです。定額制のプランを選んでも、オーダーメイドでプランニングしていくリノベーションでも、キッチンやシステムバスなどの設備機器を確認するためショールームを訪ねて展示されている商品を見ると、やはりグレードの高い良いものが欲しくなってくるのです」
だからといって設備機器の確認をしないのはNG。実物を見なければ、色や大きさなどがイメージ通りなのか、使い勝手に問題はないかがわかりません。
「ポイントは、プランニングの早い段階でショールームへ行くことです。リノベーションのプランが決まって見積もりが出てからショールームへ行く方が多いのですが、そうするとグレードアップをしたくなり、総予算に影響します。できるだけ早い時期にショールームへいっておくと、自分がほしい設備、不要な設備が見えてきますから、優先順位を決めることで予算の調整がしやすくなります」
築40年など古いマンションの方が費用はかかる?
「最近のマンションと違い、古いマンションは細かく部屋が区切られているなど今のライフスタイルとは間取りが合っていないケースがあります。今の暮らしに合うよう間取りや設備を変更すると費用はかさみます。また、断熱がされていない物件も多いので、外壁に面した壁の内側に断熱材を入れたり、内窓を取り付けたりといった性能向上のリフォームをすることが快適な暮らしのためのポイントになります。給湯器の交換でも、配管の交換や位置の移動が必要になるなど、古いマンションほどさまざまな工事が必要になるため、コストがかかる傾向があります」
築年数が古いマンションは、新築や築浅物件に比べると安く買えるメリットがありますが、リノベーションの費用を合わせると予想外の金額になることがあるため注意しましょう。
築50年の家のリフォームのメリット・デメリット。費用や失敗しないための注意点、実例も紹介!
【体験談―成功編―】リフォーム後に売却しても持ち出しがない範囲でリノベーション費用の予算を立てました
Sさんのケース(築24年のマンションをリノベーション)
「中古で購入して暮らしていたマンションをリノベーション。予算を決める際には、まず不動産仲介会社に売却する場合の査定額を出してもらいました。査定額が購入時よりもアップしていたので、その金額から『購入時の価格、購入時のリフォーム費用、今回のリノベーションの仮住まい費用、購入する家具・家電代』をマイナス。残りの金額をリノベーションの予算としました。つまり、リフォーム後に売っても、マンションにかけたお金が売却額でまかなえ、持ち出しがないように設定したのです。結局、リノベーション費用は予算をオーバーしましたが、マンションを買い替えるよりは安くすみ満足しています」
中古住宅のリノベーション費用の目安は?耐震リフォームもする場合は?
木造2階建、総床面積120m2の中古戸建。間取り変更を伴うリノベーションはいくらから?
一戸建てのリノベーションも、マンションと同様に施工面積や内装材や住宅設備機器のグレード、住まいの状態などによって異なります。また、間取り変更といっても手間のかかり方はさまざま。一戸建ての場合は増築や減築を行うケースもあるでしょう。ですから、費用は見積もりを取ることが重要です。
ここでは、木造2階建、総床面積120m2の一戸建てをリノベーションする場合のおおよその費用について紹介します。
「一戸建ては外壁や屋根の補修や塗り替え、構造部の修繕などにも費用がかかる分、マンションのリノベーションよりも総額が高くなる傾向があります。外装、内装の一新と水回り設備の交換、大がかりな間取り変更や構造部分の見直しを含む場合は最低1500万円くらいからが目安になると考えられます」
内装と水回り設備の交換だけなら安くなる?
「内装と水回り設備の交換の場合は500万円くらいから。屋根や外壁などの外装も含めると追加で200万円〜がかかります」
耐震や断熱リフォームをするといくらくらい?
築年数の古い一戸建ての場合、耐震性能や断熱性能の面で不安があります。安心して長く暮らすなら、性能向上も含めたリノベーションを行いたいものです。
「1981年よりも前に建てられた旧耐震基準の家を耐震等級1に引き上げるには200万円程度かかります。耐震等級1は建築基準法で定められた耐震性能の最低ランク。最近の新築では更に高い性能の等級3を満たす会社も増えています。古い一戸建てを等級2、等級3まで引き上げるためには更に費用が必要になりますし、建物によっても費用に差があります。
また、無断熱の家を断熱等級4(建築物省エネ法の改正によって2025年4月以降は、全ての新築住宅・非住宅に対して適合が定められた省エネ基準)にするためには、おおよそ350万円くらいがかかります。この性能も今後の新築では最低限の性能となり、それより高い性能の等級5以上を満たすには、更に費用が必要になります」
つまり、外装、内装の一新と水回り設備の交換、大がかりな間取り変更を行うリノベーションに、最低限の耐震リフォーム、断熱リフォームを追加した場合の費用は2000万円くらいからが目安ということになります。
耐震(耐震補強)リフォームの費用相場は? 古い家の事例や補強工事の内容、耐震基準、減税・補助金制度などを解説
築50年の実家。リノベーションをする場合の注意点は?
「築50年などの古い一戸建ての場合、安全性や快適性にかかわる性能が低いということを、まず知っておいていただきたいです。重視したいのは耐震性能。大きな地震があったときに、暮らす人の命を守るために必要な性能です。そして、断熱性能と気密性。この3つは安全と健康をまもるために欠かせないことです」
そのほか、階段の勾配が急で上り下りが危険、床に段差がある、間取りが今の暮らしに合わずに使いにくいなど、さまざまな問題点が古い家にはありがちです。
「古い家を今の暮らしに合うようにリノベーションするなら、防犯性能、バリアフリー性能、維持管理がしやすいようにメンテナンス性能の3点についても性能向上を考えることが大切。どれも実現するには小さくない費用がかかりますから、必ず見積もりを取ることが必要です」
断熱リフォームの方法と費用相場。床・壁・天井など部位ごとに解説!
リノベーションの費用を予算内でおさめるためのポイントは?
リフォームを経験した人はどんなことで困ったの?
国土交通省の「住宅市場動向調査」を見ると、「リフォーム時に困った経験」は「特にない」と答えた人が67%で最も多い結果となっています。では、困った経験があった人は、どのような点で困っていたのでしょうか。
10人に1人前後の人が困ったと答えたのは「見積もりが適切かどうかわからなかった」「費用が当初の見積もりよりもオーバーした」の2項目。どちらも費用に関することです。そのほか、6.1%の人が挙げた「工期が当初予定よりもオーバーした」は仮住まいをしていれば費用の総予算に影響することです。
予算をリフォーム会社に明確に伝える
リノベーションの費用を予算内で抑えるためには、見積もりを上手に取ることがポイントの一つです。
見積もりを依頼する際には、リノベーションの予算や希望の工事内容を明確に伝えます。前述の通り、リノベーションには工事費用だけでなく依頼先の会社に支払う諸経費、住宅ローンを利用する場合の諸費用、仮住まい費用、引越し代などが必要です。伝える予算が「工事費以外の費用も含めた総予算の金額」なのか、「施工会社に支払う金額なのか」を明確に伝えましょう。なお、仮住まい費用は工期によって増減しますし、引越し代は時期などによって異なりますから、余裕を持って考えておくと安心です。
希望のプランを明確にして当初の見積もりからのオーバーを抑える
使いたい住宅設備機器、床材や壁紙のグレード、間取りをどう変更したいかなどの工事内容への希望は人それぞれ。「キッチンと浴室を新しくしたい」「床はフローリングにしたい」といった伝え方でもラフプランや概算の見積もり金額は出してもらえます。しかし、プランの詳細を決めていく過程で水回り設備のショールームを訪ねたり、床材や壁紙のサンプルを見たりすると、もっとグレードの高い設備に魅力を感じたり、キッチンは対面型ではなくアイランド型にしたいなどイメージがふくらみがち。当初伝えた希望を変更していくと、費用はどんどん増えていきます。
予算オーバーを防ぐには、見積もりを依頼する前の早い段階で希望のプランを明確にしておくこと。見積もりを依頼する際に「キッチンは○○社の○○というシリーズか、同等のもの」「リビングの床は無垢(むく)のフローリング、水回りは防水性の高い複合フローリング」「キッチンは吊り戸棚のないオープンな対面型」など、できるだけ具体的に伝えるのがおすすめです。そのためにも、ショールームを見学したり、リフォーム会社の完成見学会に参加したりして、自分たちがどのようなリノベーションをしたいのか、実現したいことをイメージできるようにしておきましょう。
工事内容の優先順位を伝える
希望の工事内容を全て予算内で実現できるとは限りません。工事への希望を伝える際には優先順位をつけておくことで、リノベーション会社も予算配分を考えながらプランを提案しやすくなります。ただし、施主側が希望する優先順位と、リノベーション会社がアドバイスする優先順位が異なることがあります。例えば、施主は内装と外装を新しくすることを最優先と考えていても、リノベーション会社からは安全性を確保するために耐震リフォームを優先させましょうと提案されることも。リノベーションのプロである依頼先の意見を聞き、コミュニケーションを取りながら優先順位を決めていくことも大切です。
工事をまとめてコストダウン
水回りならキッチン、システムバス、トイレの3点がセットになっているプランを利用したり、足場代がかかる外壁と屋根の塗り替えを同時にしたりなど、まとめて工事をすることでコストダウンを図ることが可能です。
複数の会社に見積もりを依頼して比較検討
リノベーションの見積もりは、複数の会社に依頼するのが鉄則。同じようなプランでも金額が異なったり、金額は同じでもプランが違ったりするからです。大切なのは金額の安い高いだけで比較しないこと。提案されている設備機器の詳細や内装材のグレード、選べる色や仕様の範囲、工期、工事完了後の保証内容や保証期間などを比較検討し、自分にあった会社を選んでいきましょう。
【体験談―失敗編―】イメージしていた予算からオーバー。ドアを省略するなどでコストダウンしました
Tさんのケース(築35年のマンションを購入してリノベーション)
「リフォーム済みのマンションを購入しましたが、どうしても自分の気に入ったデザインにしたくてリノベーションをすることに。当時の貯蓄やリフォームローンを借りた場合の無理のない返済額も考えて、500万円もかければ希望通りになるかと思っていたのですが完全に見通しが甘かったです。見積もりをとった時点で100万円オーバーの600万円に。さらにプランを詰めていく過程で、コストダウンのために部屋にドアをつけるのをやめたり、手間のかかるデザインをあきらめたりしましたが775万円までアップしてしまいました。さらに、入居してから断熱性が低いことに気がつき、内窓の追加で約70万円の出費。断熱のことなど、住まいの性能についてもう少し考えたうえで見積もりを取ればよかったです」
リノベーションで使える助成金・補助金は?
2024年度の主な補助金制度は?
断熱性能の向上など、省エネを目的としたリフォーム、リノベーションを中心に複数の補助金制度が用意されています。補助金は着工前の申請が必要なケースが一般的ですから、どんな制度があるか早めにチェックしておきましょう。
知っておきたい主な補助金制度は以下のとおりです。
子育てエコホーム支援事業
子育て世帯や若者夫婦世帯等の省エネリフォームなどを補助する制度。子育て世帯や若者夫婦世帯に該当しない世帯でも、この補助金を活用可能です。「開口部の断熱改修」「外壁・屋根・天井または床の断熱改修」「エコ住宅設備の設置」のいずれかが必須です。補助額は原則1戸当たり子育て世帯・若者夫婦世帯は上限30万円(既存住宅購入を伴う場合は上限60万円)、そのほかの世帯は上限20万円。長期優良住宅リフォームを行う場合は子育て世帯・若者夫婦世帯は最大45万円、そのほかの世帯は上限30万円。交付申請期間は2024年3月中旬~予算上限に達するまで(遅くとも2024年12月31日まで)。
先進的窓リノベ事業
断熱性の高い窓に交換するリフォームに対する補助制度。ガラス交換、内窓設置、外窓交換、窓の改修と同時に行うドア交換が対象で、1戸当たり200万円が上限です。交付申請期間は2024年3月中旬~予算上限に達するまで(遅くとも2024年12月31日まで)。
給湯省エネ事業
省エネ性能の高い高効率給湯器の設置に対する補助制度。家庭用燃料電池(エネファーム)18万円/台、電気ヒートポンプ・ガス瞬間式併用型給湯機(ハイブリッド給湯機)10万円/台、ヒートポンプ給湯機(エコキュート)8万円/台が補助額です。基本補助額(一戸建てはいずれか2台まで、マンションはいずれか1台までが補助上限)。要件によって加算額あり。交付申請期間は2024年3月中旬~予算上限に達するまで(遅くとも2024年12月31日まで)。
介護保険による補助制度
自宅に手すりをつけたり、段差を解消したりなど、要介護者などがバリアフリーリフォームをする際に、介護保険を活用して補助金を受け取れる制度です。補助額の上限は18万円(支給限度基準額20万円の9割)。支給限度基準額は生涯で20万円までですが、要介護状態区分が3段階上がったとき、または転居した場合は再度20万円を上限とした支給限度基準額が設定されることがあります。
自治体による補助金、助成金
独自の補助金制度を設けている自治体があります。耐震診断の費用や耐震リフォーム費用の補助、太陽光システム設置の補助、バリアフリーリフォーム費用の補助など、内容や補助率、限度額は自治体によって異なります。住まいのある都道府県や市区町村に補助金制度、助成金制度がないか、調べてみましょう。
【体験談―成功編―】断熱改修やLED照明への交換で補助金をもらいました
Sさんのケース(築22年の一戸建てをフルリフォーム)
「居室の窓を全て二重窓にし、3階の天井に断熱材を入れる断熱改修をしたことで、『グリーン住宅ポイント制度※』で30万円分の追加工事や商品に交換できるポイントをもらいました。そのほか、LED照明に交換したことで、省エネ家電などへの買い替えでポイントがもらえる東京都の制度『東京ゼロエミポイント※』も利用できました」
※グリーン住宅ポイント制度は、現在は終了しています。東京ゼロエミポイントは2024年3月31日または、所定予算が消化され次第終了。
リノベーションの費用はどうやって調達する?どう支払う?
住宅ローンでリノベーションの費用だけを借りてもいいの?住宅ローン控除は受けられる?
マンションなら1000万円以上、一戸建てなら1500万円以上は必要なリノベーションの費用。手持ちの預貯金から出す、または親の資金援助を受けるなど、現金でまかなえない分は借りるという選択があります。多くの金融機関が扱っているリフォームローンのほか、住宅を建てたり買ったりするときに利用する住宅ローンもリフォームやリノベーションの費用として借りられるのが一般的です。
また、返済期間10年以上などの要件を満たしていれば、年末ローン残高に応じて10年間、所得税、住民税が軽減される住宅ローン控除の対象にもなります。
リフォームローンと住宅ローンの違いは?
リフォームローンや住宅ローンの特徴や融資条件は、銀行などの金融機関によって異なりますが一般的には下の表のような特徴があります。
リフォームローン(無担保ローンの場合) | 住宅ローン(有担保ローンの場合) | |
---|---|---|
融資限度額 | 1000万〜1500万円 | 8000万円〜1億円 |
最長返済期間 | 10年〜15年 | 35年 |
金利 | 住宅ローンより高い | リフォームローンより低い |
担保 | 不要 | 必要 |
抵当権設定 | 不要 | 必要 |
高額の借り入れを長期にわたって返済するのであれば、金利が低い住宅ローンを借りた方が総返済額を少なくできる可能性が高くなります。ただし、自宅などを担保にする住宅ローンは抵当権設定費用がかかるほか、融資審査に必要な書類が多いなど手間もかかります。リフォームローンの場合は、担保の設定が不要で審査も比較的ゆるやかなため、少額を借りて短期間で返済したい場合などに便利です。
なお、金融機関によっては「有担保型リフォームローン」として、限度額が多く、低金利で長期返済が可能なローンを用意しているところもあります。
高額になるリノベーション費用。数回に分けて支払う場合もある
また、スケルトンリフォーム、フルリノベーションと呼ばれる大規模な工事の場合、リフォーム会社によっては「契約時と工事完了時に50%ずつ」「契約時30%、工事中間時30%、工事完了時40%」など、数回に分けて支払うケースがあります。リフォームローンも住宅ローンも、融資が実行されるのは工事が完了し引き渡されてから。引き渡し前に発生する費用は現金で支払うか、金利は高めですが「つなぎ融資」を利用する方法があります。
住宅ローン返済中でもリノベーション資金を借りられる?
現在住んでいる住宅のローン返済が残っている場合は、返済に無理のない範囲で無担保のリフォームローンを利用するか、返済中の住宅ローンの残りとリフォーム資金を合わせた金額を借り換えるという方法があります。返済額が増えるため、申し込む人の返済能力や年齢、健康状態によっては希望の金額が借りられないことがあるので注意。まずは、ローンを返済中の金融機関に相談しましょう。
省エネリフォーム専用のグリーンリフォームローン
住宅金融支援機構では、断熱性能を向上させるリフォームや高効率給湯器などを導入するリフォームなど、省エネリフォーム専用の「グリーンリフォームローン」の取り扱いを開始しています。融資額は最大500万円。融資手数料無料で、無担保、無保証で借りられ、省エネリフォームと同等額までのそのほかのリフォームについても融資が受けられます。満60歳以上の場合は毎月の支払いを利息のみにする高齢者返済特例(ノンリコース型)を利用することもできます。
【体験談―成功編―】ローンの上限額は無理のない年収負担率から決めました
Sさんのケース(築22年の一戸建てをフルリフォーム)
「今の家を購入したときの住宅ローン控除の期間が終わるタイミングだったこともあり、リノベーションの費用はローンを利用しようと決めていました。借入額は無理のない年収負担率から試算。年間の返済額が年収の20%におさまるようにして予算を決めました。リノベーション後、10年間は所得税や住民税が軽減されるので助かります」
リノベーション費用を借りたら返済額はいくら?
借入額別に返済額をシミュレーション
リノベーションの費用を住宅ローン、またはリフォームローンで借りたら、毎月返済額はいくらになるのでしょうか。同じ金額を借りても金利や返済期間などで毎月返済額は変わりますが、ここでは、住宅ローンは金利0.4%で35年返済、リフォームローンは金利2.26%で15年返済でシミュレーションします。下の表から、自分が借りた場合の資金計画をイメージしてみましょう。
借入額 | 住宅ローン(有担保) 金利 0.4%(変動型) 返済期間 35年 |
リフォームローン(無担保) 金利 2.26%(変動型) 返済期間 15年 |
---|---|---|
500万円 | 毎月返済額 1万2759円 総返済額 535万8780円 借入時の諸費用 23万3055円 |
毎月返済額 3万2777円 総返済額 589万9860円 借入時の諸費用 2000円 |
1000万円 | 毎月返済額 2万5518円 総返済額 1071万7560円 借入時の諸費用 36万4110円 |
毎月返済額 6万5554円 総返済額 1179万9720円 借入時の諸費用 1万円 |
1500万円 | 毎月返済額 3万8278円 総返済額 1607万6760円 借入時の諸費用 50万2165円 |
―――― |
2000万円 | 毎月返済額 5万1037円 総返済額 2143万5540円 借入時の諸費用 62万5220円 |
―――― |
2500万円 | 毎月返済額 6万3797円 総返済額 2679万4740円 借入時の諸費用 74万8275円 |
―――― |
3000万円 | 毎月返済額 7万6556円 総返済額 3215万3520円 借入時の諸費用 87万1330円 |
―――― |
大規模なフルリフォームのリノベーションは、いくらかかるのか、予算内におさまるのかなど費用のことが気になります。大切なのは、希望するプランの内容を早めに、具体的に依頼先の会社に伝えること。依頼先ははじめから1社に決めてしまわず、複数の会社に相見積もりをとること。そして、金額の安い、高いだけで判断せずに提案された工事内容や保証内容を必ず比較検討するようにしましょう。
構成・取材・文/田方みき イラスト/藤井昌子