リフォームとリノベーション、違いは何? 注意点やリノベ体験談も紹介!

中古物件の購入を考えたり、住んでいる家が古くなってきたりすると、「リフォーム」「リノベーション」という言葉が浮かんできます。リフォームとリノベーションには違いがあるのでしょうか。リフォーム、リノベーションについて、その定義や注意ポイントなどを一級建築士のYuuさん(本名・尾間紫さん)に聞きました。また、実際にリフォーム、リノベーションをした人の成功談や失敗談も紹介します。

リノベーション、リフォームのイメージ

(画像/PIXTA)

記事の目次

リフォームとリノベーションの違いは何?

リフォーム、リノベーションはそれぞれどんな工事?

マンションや一戸建ての「リフォーム」や「リノベーション」。どちらもよく耳にする言葉ですが、違いはあるのでしょうか。

実は、リフォームとリノベーションには明確な定義はありません。どんな工事をすればリフォームなのか、リノベーションと呼ぶにはどのような工事を行うのか、といった公的なルールはないのです。

ただし、一般的には小規模な工事がリフォーム、大規模なリフォームがリノベーション、というイメージが浸透しています。リフォームは、「水回りの交換だけを行った」「部屋の内装を新しくした」といった比較的小規模だったり、施工面積が小さかったりするもの。住宅機能の維持・改善、補修を目的とするのがリフォームです。それに対して、リノベーションは間取り変更や水回り設備、内装、建具などの一新、一戸建てなら耐震工事や外壁や屋根の塗り替えなどを含む、住まいの広い範囲で工事を行うイメージです。さらに、断熱工事や耐震工事などで性能向上を行うなど、建物に付加価値をつけるものと多くの人に認知されています。

しかし、実際のリフォーム、リノベーションは、「性能向上リフォーム」「スケルトンリフォーム」「プチリノベ」「小規模リノベ」など、さまざまな言葉で表現されています。「性能向上」というリノベーションの特徴を表すといわれる言葉がリフォームに付けられていたり、大規模なリフォームをイメージする「リノベーション」に小規模という言葉がついていたり。リフォームとリノベーションの境目はあいまいで、さまざまな使われ方をしていることがわかります。

明確な定義がないリフォームとリノベーションの違いですが、この記事では大規模なフルリフォームをリノベーションと呼ぶことにします。

リノベーションは以前はコンバージョンを指していた

「住宅のリノベーションという言葉がまだ一般的ではなかったころ、建物のリノベーションというのは、もともとは新築時の計画とは異なるアプローチで改修することを指していました。例えば使わなくなった社宅をホテルにするといった用途転換、いわゆるコンバージョンのことです。その後、リフォームをすることで建物に付加価値を生み出すものがリノベーションと呼ばれるようになり、今では多くの人に認知されています。しかし、付加価値を付けるリノベーションに対して、リフォームが住まいを元の状態に戻すだけの工事なのかというと、実際はそうではありません」(Yuuさん、以下同)

キッチンやトイレなど水回り設備を交換するだけのリフォームでも、最近の住宅設備は便利な機能がついていたり、お手入れもしやすくなっていたりなど、既存の設備に比べると性能面が向上しています。ちょっとしたリフォームでも暮らしの快適性はアップしますから、古くなったマンションや一戸建ての機能を「元に戻す」だけにとどまらない効果があります。また、スケルトンリフォームは間仕切り壁や設備などを解体して間取りプランから始める大がかりなリフォームで一般的なリノベーションに近いイメージです。住まいの一部だけを変更するプチリノベや小規模リノベは、リフォームに言い換えることもできるでしょう。

リフォーム済み、リノベーション済み物件で注意したいポイントは?

リノベ済みの中古マンションや中古一戸建ては工事内容を確認しよう

前述のとおり、リフォームとリノベーションの境目はあいまい。そのため、リフォーム済み、リノベーション済みとして販売されている中古マンションや中古一戸建てを購入する際には注意が必要です。

「リフォームやリノベーションという言葉だけで判断せず、その内容を見ることが大切。内装の張り替えや住宅設備の交換、キッチンを対面式に変更しているなど目に見える部分以外に、どのような工事をしたのかを確認することが必要です」

断熱工事をしているかを確認

「広告にリノベーション済み、リフォーム済みの表示があっても、断熱工事をしている物件もあれば、既存のまま無断熱状態の物件もあります。表面的にはキレイでおしゃれなマンションや一戸建てに生まれ変わっていても、入居してみると夏暑く、冬寒い家で暮らしにくいということも。物件選びは慎重に行いましょう」

マンションであれば外に接している壁や床、天井に、一戸建てであれば外部と接する壁や屋根、床下など必要な箇所に断熱材が施工されているかを確認。点検口などから施工の有無を自分で確認できる箇所もありますが、リノベーション済み、リフォーム済みの場合、全ての工事内容を確認することはできません。工事の詳細を不動産仲介会社に調べてもらいましょう。

なお、最近は内窓の設置や、マンションによっては既存の窓を断熱性の高いものに変更することで、断熱性能をアップさせることが可能です。

断熱リフォームの方法と費用相場。床・壁・天井など部位ごとに解説!

一戸建てなら耐震診断や耐震改修の有無もチェック

自分が今住んでいる家で規模の大きなリフォームやリノベーションする場合に、優先させたいのは耐震改修(耐震リフォーム)。耐震性を高めることで、万が一の際に命を守ることにつながるからです。リノベーション済みの中古一戸建ての場合、耐震診断を受けて耐震性能が確認されているのか、必要な耐震改修がされているのかは、調べてみなければわかりません。購入の申し込みをする前に、不動産仲介会社に確認をとることが重要です。

リノベーション済みの中古マンションを見学する夫婦のイラスト

(イラスト/つぼいひろき)

耐震(耐震補強)リフォームの費用相場は? 古い家の事例や補強工事の内容、耐震基準、減税・補助金制度などを解説

リノベーションは仮住まいが前提と考えよう。そのメリット、デメリットは?

スケルトンにするなど大規模な工事は仮住まいが必要

小規模なリフォームと違い、居住中の住まいで大規模なリフォームやリノベーションをする場合、考えなくてはならないのが仮住まいのこと。

キッチンやシステムバスなど設備交換や、一部の部屋の床や壁紙の張り替えなど小規模な工事なら住みながらのリフォームも可能です。工事中は食事がつくれない、お風呂に入れない、部屋が使えないなどの不便はあります。また、施工会社の人の出入りがあり、昼間は落ち着かない日々が何日か続くことになります。一時的な不便だと割り切って過ごせるなら仮住まいの用意をしなくても問題はないでしょう。

しかし、施工範囲が家全体に及んだり、間取りの大幅な変更を行ったりなど、大規模なリフォームの場合は工事期間中、その家に住み続けるのは避けたほうが無難。工事中はホコリや音がストレスですし、工事箇所を避けて居住スペースを移動しながら暮らすことになります。食事や入浴なども不便です。また、一度に工事ができる範囲が限定されるため施工の効率が悪く、工期も長くかかり費用もかさみます。

下はマンション、一戸建て別のリフォームの工事期間についてまとめたデータです。マンションの場合、8割近くが1週間以内ですが、1カ月超の工期になったケースが約1割。一戸建ての場合は約半数が1週間以内の工期ですが、2週間〜1カ月以内が約3割、1カ月超が2割弱。工期が1カ月を超えることは珍しくはないことがわかります。規模の大きなリフォーム、リノベーションの場合は、仮住まいをすることを前提に計画を立てることが必要です。

マンションのリフォームの工事期間

マンションのリフォームの工事期間のグラフ

引用元:2022年度「住宅市場動向調査」(国土交通省)。調査対象:2021年度に増築、改築、模様替えなどのリフォーム工事を実施した住宅に住んでいる人 調査票回収数:575 調査地域:首都圏、中京圏、近畿圏(グラフ作成/SUUMO編集部)
一戸建てのリフォームの工事期間

一戸建てのリフォームの工事期間のグラフ

引用元:2022年度「住宅市場動向調査」(国土交通省)。調査対象:2021年度に増築、改築、模様替えなどのリフォーム工事を実施した住宅に住んでいる人 調査票回収数:575 調査地域:首都圏、中京圏、近畿圏(グラフ作成/SUUMO編集部)

仮住まいをするメリットは?

工事中の音やホコリ、人の出入りに悩まされず、日常生活を送ることができるのが工事中に仮住まいをするメリットです。

「間仕切りを撤去して、プランをゼロからつくりなおすスケルトンリフォームがしやすいので、住居内のデザインを統一できる、プランの自由度も高くなる、性能向上リフォームがしやすいといったメリットがあります」

仮住まいのメリット
  • 工事の音やホコリなどのストレスから離れられる
  • スケルトン状態にした上での工事がしやすいのでプランの自由度やデザインの統一性が高まる
  • 性能向上リフォームがしやすい
  • 効率的に施工ができるので住みながらの工事よりも工期が短くなりやすい

仮住まいをするデメリットは?

大規模な工事を行う場合は、ストレスや不便を避けるため仮住まいをするのが大前提。とはいえ、仮住まいをすることで生まれるデメリットもあります。

仮住まいの一番のデメリットは出費。仮住まい先の家賃や、仮住まい先に荷物が入りきらなかった場合のトランクルーム代などがかかります。また、2度の引越し費用も必要です。そのほか、どのようなストレスがあるのか事前に知っておくことが、いざ仮住まいがスタートした際のストレスを減らすことにつながりますから、下記を参考にしてください。

仮住まいのデメリット
  • 仮住まいの家賃やトランクルーム代、2度の引越し費用など出費がある
  • 仮住まいの費用がかかることで、工事や住宅設備などの予算を減らさなければならない場合がある
  • 仮住まい探しや引越しの手配、荷造り、荷ほどきなどの手間がかかる
  • 仮住まい先が遠方や違う路線沿線になると、通勤や通学に時間がかかる場合がある
  • 仮住まいのキッチンや浴室に、食洗機や追い焚き機能など普段使っていた機能がないとストレスになる

リノベーション中の仮住まいや引越し費用について検討する夫婦

(イラスト/つぼいひろき)

リフォームとリノベーション、費用の目安はどれくらい?

リフォームにかけたお金の平均額は?

リフォームをした人たちは、どのような工事にいくらくらいの費用をかけているのでしょうか?

下の表は、2021年度に行われたリフォーム工事の内容を多い順にまとめたもの(複数回答)。実施した工事で多かったのは、マンションも一戸建ても、「住宅内の設備の改善・変更」「冷暖房設備等の変更」「内装の模様替えなど」。一戸建ての場合は「住宅外の改善・変更」が最も多くなっています。そして、リフォームの資金として使った金額の平均は約206万円(2022年度「住宅市場動向調査」)。この金額は小規模なリフォームだけでなく大規模なフルリノベーションまでを含めたうえでの平均額です。

マンションのリフォーム内容(複数回答)
住宅内の設備の改善・変更 41.2%
冷暖房設備等の変更 35.3%
内装の模様替えなど 33.6%
住宅外の改善・変更 7.6%
壁の位置を変更するなど間取りの変更 5.9%
高齢者等に配慮し段差をとるなど 5.9%
住宅の構造に関する改善・変更 4.2%
宅配ボックスの設置 2.5%
引用元:2022年度「住宅市場動向調査」(国土交通省)。調査対象:2021年度に増築、改築、模様替えなどのリフォーム工事を実施した住宅に住んでいる人 調査票回収数:575(マンション、一戸建て合計) 調査地域:首都圏、中京圏、近畿圏
一戸建てのリフォーム内容(複数回答)
住宅外の改善・変更 39.5%
住宅内の設備の改善・変更 33.6%
冷暖房設備等の変更 30.5%
内装の模様替えなど 21.7 %
高齢者等に配慮し段差をとるなど 9.0%
壁の位置を変更するなど間取りの変更 6.6%
住宅の構造に関する改善・変更 4.4%
宅配ボックスの設置 2.9%
引用元:2022年度「住宅市場動向調査」(国土交通省)。調査対象:2021年度に増築、改築、模様替えなどのリフォーム工事を実施した住宅に住んでいる人 調査票回収数:575(マンション、一戸建て合計)  調査地域:首都圏、中京圏、近畿圏

リフォーム、リノベーションの費用の目安は?

リフォームやリノベーションにかかる費用は、工事の内容によって大きく異なります。

「例えば、クロスの補修は1部屋当たり5万円〜、キッチン+浴室の交換は150万〜300万円、ガス給湯器交換は15万〜30万円程度。一戸建てで行われる屋根の葺き替えは160万〜250万円、外壁塗装は60万〜150万円程度が目安です※」(※それぞれのリフォーム項目を単体で行う場合)

マンションのリノベーション費用の目安は?

リフォームやリノベーションにかかる費用はプランや施工面積、既存の住宅の状態などさまざまな条件によって異なりますが、おおよその目安となる金額はいくらくらいなのでしょうか。

「マンションの間仕切りや設備を撤去・処分し、躯体をむき出しにした状態から作り直すスケルトンリフォームの場合、専有面積70m2、3LDKのマンションでおおよそ1000万円くらいが目安になるかと思います。床面積が小さくなると総額は安くなるのですが、住宅設備や人件費など床面積にかかわらず必要な項目があるため、m2当たりの金額は割高になります」

さらに、居室内の段差をなくすバリアフリー工事や、キッチンの向きや位置を変更する工事、内窓を取り付けて断熱性能を向上させる工事を行ったり、住宅設備のグレードを高いものにしたりすると、さらに費用がかかることになります。

マンションのリノベーション費用の目安(専有面積70m2、3LDKの場合)
間取り変更、住宅設備や内装の一新で1000万円〜

一戸建てのリノベーション費用の目安は?

「一戸建ては外壁や屋根、構造部の修繕などにかかる費用がある分、マンションよりも総額が高くなる傾向があります。総床面積120m2の2階建ての一戸建てで間取り変更や住宅設備の交換、内装、外装の工事をする場合で考えると1500万円くらいからが目安です。断熱性能の見直しや、耐震への対策なども行うと2000万円くらいにアップすると考えられます。内装の張り替えと水まわり設備交換だけなら500万円くらいから、屋根や外壁などの外装も行うのであればプラス200万円からが目安です」

なお、マンションと同様、床面積が小さい一戸建ての場合はm2当たりの金額は割高になります。

一戸建てのリノベーション費用の目安(総床面積120m2、2階建ての場合)
内装の張り替えと水回りの交換のみ 500万円〜
間取り変更、住宅設備や内装、外装の一新 1500万円〜

断熱性能の見直しや耐震対策 +500万円〜
屋根や外壁など外装のやり替え +200万円〜

リノベーションの費用の疑問に一級建築士が回答。マンション・一戸建てリフォームの体験談も参考にしよう 

築古の中古を買ったらリフォーム、リノベーションは必要?

安く買った中古マンションや一戸建て。リフォームは必要?

新築でマンションや一戸建てを購入するよりも、中古物件から探すほうが購入費用は抑えられるケースが多いでしょう。また、中古のほうが駅に近い物件や広めの物件を見つけやすい傾向にあります。注意したいのは、そのまま住めるかどうか。築5年程度の築浅物件であれば、リフォームをせずにそのまま問題も不満もなく住める状態のものもありますが、築30年、40年といった築古の物件の場合、やはりリフォームやリノベーションは必要になるのでしょうか。

マンションは不具合が出やすい給排水管に注意

古いマンションの場合、内装や水回り設備を新しくして「リノベーション済み物件」「リフォーム済み物件」として販売されるケースが多くあります。売り出される直前のリフォームはしていなくても、もとの所有者が内装やキッチンなどを交換していて、実際の築年数よりも新しいマンションのように見えることもあります。このように表面的にはキレイになっていても、注意したいのは水漏れなどの不具合が出やすい給排水管。キッチンやトイレなどの位置を変えずに設備だけを交換している場合、給排水管はそのままで劣化しているケースも。なかには流れが悪かったり、臭いが上ってきたり、また下の階の住戸に水漏れしてしまう事故を防ぐためにも、リフォームやリノベーションで配管の交換をするのが安心です。

一戸建ては耐震性や断熱性に注意

「一戸建てをリノベーションするなら、最も重視したいのは耐震性」とYuuさん。耐震性は暮らす人の命に関わる性能だからです。建築基準法で耐震性能の基準が大きく変わったのは1981年。それ以前の建物は旧耐震基準、それ以降の建物は新耐震基準と呼ばれています。築30年程度の一戸建てなら、新耐震基準で建てられていることになりますが、木造住宅に関しては2000年にも金物などの規定が追加されているため、見直しが必要です。また構造部に劣化や腐食があれば耐震性能が落ちてしまいますので、建てられてからきちんとメンテナンスがされてこなかった一戸建ては、新耐震基準であっても安心できません。

断熱性能にも注意が必要です。

「築30年を超える家は無断熱のケースも少なくありません。入っている断熱材が薄かったり、窓ガラスの断熱性能が低かったりします。断熱性能の低い家は、外気温の影響を受けやすいため冬寒く、夏は暑い住環境になります。光熱費がかかりますし、何よりも健康に良くありません」

築古の一戸建てを購入して住むことを検討する場合は、耐震診断を受けたり、断熱施工がされているか確認したりすることを忘れずに。

今のライフスタイルに合うかどうかも確認

適切なリノベーションやリフォームがされていたり、所有者がこまめにメンテナンスしていたりで、そのままの状態で住める、と感じられる中古マンションや中古一戸建てもあります。もちろん、そのまま暮らせればコスト的にも大助かり。でも、購入の申し込みをする前に、一度冷静になってその物件が自分たちの暮らしに合っているかを考えてみることも大切。

水回り設備は機能が十分で掃除はしやすいか、間取りは自分たちのライフスタイルに合っているか、収納は十分か、将来を考えてバリアフリーへの配慮はされているかなど、さまざまな視点で見てみるといいでしょう。その結果、リフォームやリノベーションが必要だと判断できれば、入居前の工事ができるため、住みながらのリフォームのわずらわしさや、仮住まいをしてのリノベーションの出費を回避することができます。

【リフォーム体験談―成功編―】
断熱性能を高めることで、使わない部屋がなくなりました

Sさんのケース(築22年の一戸建てをフルリフォーム)
「築10年の3階建ての一戸建てを購入し、築22年のときにリノベーションをしました。リノベーション前の不満の一つは断熱性能。冬場の1階は寒くて、夏場の3階は暑いため、家族はほとんど2階で過ごして使わない部屋やスペースが多くありました。そこで、3階の天井に断熱材を入れ、1階には床暖房を設置、居室の窓は全て二重窓にしました。おかげでエアコンの効きもよく快適性がアップ。夏場は灼熱だった3階でストレスなく眠れるようになりました」

【リフォーム体験談―失敗編―】
リフォーム不要と思って購入したマンション。入居直前でリノベーションをすることに

Tさんのケース(築12年の中古マンションを購入してリノベーション)
「築12年のマンションを購入。以前の持ち主がセカンドハウスとして使用していたため、壁紙に汚れがなく、キッチンや浴室もきれいな状態でした。これならリフォームをしなくてもそのまま住める、と思い売買契約をしました。カーテンや家具のサイズを決めるため、引越し前に何度か足を運んだのですが、その度に、『キッチンは独立型よりも対面型のほうがよかった』『せめてトイレだけでも新しくすればよかった』など、少しずつ不満が出てきてしまって。結局、『引越し前の今なら間に合う!』とリフォームをすることに。そして、当初は水回り設備の交換だけの予定だったのが、内装の張り替えや和室を洋室に変更するなど大がかりなリノベーションになってしまいました。賃貸で住んでいたアパートの退去予定を延ばしてもらったため、2カ月分の家賃も余計にかかりました。出費の点でも失敗でしたが、大急ぎでプランを決めたのでキッチンをあまりじっくり選べなかったことに後悔しています」

リフォーム、リノベーションのタイミングはいつがベスト?

劣化によるメンテナンスが必要になったとき

「住まいをリフォームしたい、リノベーションしたい、と考えるきっかけは大きく分けて4つあります。その一つがメンテナンスのタイミングです」

住宅設備などが劣化して、そろそろ交換が必要というメンテナンスにかかわるリフォーム。住んでいる家がリフォームを必要とする時期です。給湯器の交換といった小規模なリフォームで済むこともあれば、劣化した外壁や屋根の補修などが必要なこともあります。

もっと快適に暮らしたいと感じたとき

「二つ目は、もっと快適に、もっと便利に暮らしたい、と感じたとき。住む人がリフォームを必要としているタイミングです」

住宅は年々進化しています。キッチンは、ガスコンロもレンジフードも掃除がラクになっていますし、トイレやシステムバスも汚れがつきにくい素材に進化しています。内窓をつけることで寒さや暑さが緩和されますし、調湿機能や消臭機能がある壁紙に張り替えることで室内の快適性がアップします。新築で購入した友人の家や、なんとなく入ってみたショールームやモデルハウスなどで住宅設備や建材などの進化に触れたことが、もっと快適に暮らすためにリフォームをしたいと考えるきっかけになったりします。

生活スタイルが変わったとき

「現在の住まいの間取りや機能が、暮らし方や家族構成などの変化に伴って合わなくなってきたときもリフォームやリノベーションのタイミングになります」

子どもが生まれて子ども部屋やスタディーコーナーをつくる必要が出てきたとき。ライフスタイルの変化によって必要な収納スペースの量や配置が変わってきたときも、リフォームやリノベーションで解決することができます。一戸建ての場合、子どもの独立後、子ども部屋があった2階に上がることがほとんどなくなった場合などは、2階建てを1階に減築するという選択肢もあります。

雨漏りなど緊急性の高いトラブルがあったとき

雨漏りの発生や、床下の排水管のトラブルによる水漏れなどは建物の寿命に関わる緊急性の高いトラブルです。できるだけ早くリフォーム会社に相談して修理をすることが必要です。

ほかに必要なリフォームはないかを検討

「メンテナンスが必要、もっと快適に暮らしたい、ライフスタイルが変化した、緊急性の高いトラブルがあるといった、リフォームやリノベーションのきっかけは、複数が同時にやってくることもありますが、それぞれ違う時期にやってきて、緊急の場合以外は、『リフォームしようかな』『もう少し後にしようかな』と悩むことが多いのです。リフォーム後、ほかにも変更したいことが出てきても、費用の問題もあるためなかなか踏み切れないもの。ですから、何かのきっかけでリフォームをしようと決めたら、ほかにも手を入れたいところはないか、今は使いやすくても、将来のためにしておいたほうがいい工事はないかなど考えてみることをおすすめします。そのほうが、我慢をしながら住み続けることもないですし、まとめて工事をした方がコスト的にもお得になることが多いです」

マンションは大規模修繕工事の時期と重ならないよう注意

マンションでは、12年〜15年程度の周期でマンション全体の大規模修繕工事が行われます。

「自宅のリノベーションとマンションの大規模修繕工事の時期が重なると、工事車両の駐車場が足りず資材の搬入や搬出がスムーズに進まないなどトラブルが起こるケースも。大がかりなリフォーム、リノベーションを予定するなら、マンションの大規模修繕工事の時期からはずらしたほうがいいでしょう」

【リフォーム体験談―失敗編―】
リフォームの1年後、大規模修繕工事でこだわりの壁を解体することに

Tさんのケース(築25年の中古マンションを購入してリフォーム)
「築25年の中古マンションを買って、入居前にリフォーム。水回り設備は交換してから数年しかたっていなかったのでそのまま使うことにして、壁紙の張り替えだけをしました。考えていた予算よりもお金がかからなかったので、壁紙はちょっといいものを選択。特に洗面室の壁には調湿効果や脱臭効果があって、水拭きもできるタイルを張りました。とても気に入っていたのですが、1年後にマンションの大規模修繕で共用の排水管交換のために、なんと洗面室の壁を解体することに。大規模修繕工事の後に選べる壁紙は、どの住戸も同じグレードのもの。元のタイル張りにするには追加料金が必要になってしまいました。大規模修繕工事の時期や内容を確認しておけばよかったです」

【リフォーム体験談―成功編―】
家族の暮らし方に合わせたリノベーションで家事動線も快適性も大満足

Sさんのケース(築22年の一戸建てをリノベーション)
「リノベーションのきっかけは給湯器の不調など設備の古さや内装の汚れが気になり始めたこと。子どもの成長に伴って、子ども部屋を分けたかったこと。コロナ禍でリモートワークになったためワークスペースを設けたかったことです。そのほかにも、子どもが成長し、家族それぞれの暮らし方が固まりつつあるなか、わが家のライフスタイルと家が合っていないと感じるようになっていました。そこで、『向こう10年、わが家のライフスタイルに合った家にする』ことを目標にリノベーション。その結果、2階で洗濯をして3階へ干しにいく負担が、1階にランドリールームとファミリークローゼットを設けたことで洗う、干す、しまうが1カ所にまとまった、効率的な動線に。収納を見直したことでデッドスペースがなくなったのも満足。断熱材を入れ替えるなど断熱工事で快適性もアップしました。住む人に合ったリノベーションをすることで、QOLが大きく上がることを実感しています」

中古一戸建てのリビングで、リノベーションの相談をする夫婦

(イラスト/つぼいひろき)

リフォーム、リノベーション、依頼するならどんな会社がいい?

相見積もりを取り、要望を叶えてくれる会社と出合うことが大切

リフォームやリノベーションを請け負う会社は数多くあります。そのなかからどこに依頼をするかは迷うところです。

「予算内で施工してくれるかという視点で依頼先を探すことも大切ですが、重要なのは自分の願いや要望を叶えてくれる会社なのかということです。会社によって得意なこと、不得意なことがあります。そのため、依頼先によっては自分のイメージしたデザインや、望んでいる住宅性能が得られないこともあります。予算内でどこまでやってもらえるのかをよく見極めることも重要です」

また、自分自身のリフォーム、リノベーションに対するイメージがあいまいなままプランニングを進めてしまうと、工事が完了してから不満が生まれ、後悔するケースも。

「自分が何のためにリフォーム、リノベーションをしたいのかをよく考えたうえで、複数の会社に相見積もりをとることが大切です。各社から提案をしてもらいながら、依頼先を検討しましょう」

自分の希望に対して、どんな提案をしてくれるのか。各社とのやりとりを通して、会社ごとの得意分野や不得意なことが見えてきます。

なお、一戸建ての場合、建築会社独自の工法で建てられていることがあります。特殊な工法の一戸建てで間取り変更や増築など、構造にかかわる大規模なリフォームを行う場合は、まずはその家を建てた会社に相談してみるといいでしょう。

保証や瑕疵保険についても確認

リフォームやリノベーションは工事が終わってからの対応も重要です。その会社にどのような保証制度があるのか、リフォーム瑕疵(かし)保険は付けられるのかなどを確認しましょう。

施工会社の保証
引き渡し後、施工ミスや施工不良が原因で不具合が生じた場合、無償で修理を行うのが施工会社による保証です。工事が完了すると保証の範囲や対象、保証期間を明確にした工事保証書が、施工会社から発行されるのが一般的。会社によって保証の範囲や保証期間が異なりますから、工事を依頼する前に内容を必ず確認しましょう。そのほか、会社によって定期点検などのアフターサービスを用意しているケースもあります。

メーカーの保証
リフォーム、リノベーションで使用した住宅設備や、屋根材、外壁材などのメーカーが設けている保証です。設備によって保証期間は異なりますが、保証期間内に発生した不具合には、基本的には無償で対応してもらえます。住宅設備の長期保証を行っている保証会社と別途契約する方法もあります。

リフォーム瑕疵保険
住宅専門の保険会社(住宅瑕疵担保責任保険法人)が保険を引き受けるもので、リフォーム時の検査と保証がセットになっている制度です。この保険が利用できるのは国土交通省指定の住宅瑕疵担保責任保険法人に事業登録している施工会社のみ。リフォーム、リノベーションの依頼先として検討している会社が、登録事業者の場合、安心につながります。リフォーム工事を実施したすべての部分が保険の対象で、保険期間は1〜10年(保険商品によって異なる)です。補修が必要になったときに、施工会社が倒産していた場合は、補修費用などの保険金が発注者である施主に支払われる点でも安心です。なお、保険料の負担については明確な決まりはありません。多くの場合は施主が負担することになります。国からの補助金が交付される「子育てエコホーム支援事業」(対象はエコホーム支援事業者と工事請負契約等を締結し、リフォーム工事をする人。子育て世帯以外も含まれる)では、リフォーム瑕疵保険への加入が補助の対象になっていますから、補助金が利用できるかリフォームの依頼先に確認してみるといいでしょう。

【成功談】同じ条件で相見積もりを依頼したので比較検討がしやすかったです

Sさんのケース(築24年のマンションをリノベーション)
「依頼先探しはリフォームに詳しい友人に相談して、まずは6社を候補にしました。大手のリフォーム会社やデザインに定評がある会社、近所のリフォーム会社などそれぞれに異なる特徴のある会社です。6社に相見積もりをとると比較検討が大変そうですが、例えばキッチンならメーカー名とグレードを指定するなど、希望条件を統一して伝えたため、プランや金額の比較がしやすかったです」

【成功談】デザイン性を最優先で依頼先探し。ワクワクする提案があるかで選びました

Tさんのケース(築35年のマンションを買ってリノベーション)
「購入した中古マンションはリフォーム済みのもの。でも、リモートワーク中心の仕事をしていて家で過ごす時間が長いこともあり、自分の気に入った空間にしたくてリノベーションをすることに。依頼先探しはネットで検索してデザイン性の高い施工例が多い会社から5社を選び、直接訪問したうえで見積もりをお願いしました。重視したのは提案力。こちらが伝えた希望に対して、どれだけ要望を聞いてくれるか、ワクワクする提案が返ってくるかで判断しました。依頼を決めたのは想像以上にすてきなデザインを提案してくれる会社。私が言葉にできなかったことまでくみ取ってくれて、予想外のアイデアが形になっていくのが楽しかったです」

リフォーム会社選びに悩む施主のイラスト

(イラスト/つぼいひろき)

住宅設備の交換や、部分的な間取り変更など小規模な工事がリフォーム、それに対して大規模な工事で住宅性能の向上も得られるのがリノベーションといわれています。しかし実際には、リフォーム、リノベーションの明確な定義はなく、言葉の使われ方もさまざま。プチリノベ、小規模リノベ、スケルトンリフォームなど、リフォームとリノベーションの境目はあいまいです。リフォーム済みやリノベーション済みの物件を購入する場合や、自宅のリフォーム、リノベーションの依頼先を探す際に、大切なのはその施工会社で使われる「リフォーム」「リノベーション」という工事の中身です。リフォーム済みやリノベーション済み物件の場合は、どのような工事が行われたのかを確認。自宅を工事する場合は必ず複数の会社に見積もりを依頼し、工事内容の詳細を説明してもらうようにしましょう。

Yuuさん

●取材協力
Yuuさん(本名:尾間紫)

一級建築士事務所Office Yuu代表 一級建築士、インテリアコーディネーター。長年リフォーム業界の第一線で数多くの相談、設計、工事に携わってきた。その経験を活かし、住宅リフォームコンサルタントとして幸せなリフォームを実現するためのノウハウを自身のwebサイトで発信するほか、セミナー講演や執筆、人材育成研修などで活躍中

構成・取材・文/田方みき イラスト/つぼいひろき