断熱材にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴や性能が異なります。この記事では熱伝導率や主な工法、価格帯などを比較。断熱材の経年劣化の影響や、断熱だけでなく音の問題についての効果、リフォームやリノベーションの注意点などを、さくら事務所のプロホームインスペクターで一級建築士の坂 瑞貴さんにお話を聞きました。
記事の目次
断熱材の効果は何?断熱材の経年劣化や無断熱をリフォームで解消
断熱材とは?どんな効果があるの?
建物の床や天井、屋根、外側に面している壁などに施工したり、建物の構造材の外側をくるんだりすることで、外の寒さや暑さを建物内に伝えにくくするのが断熱材です。住まいは、高い断熱性や気密性、計画的な換気のバランスが良いことで、夏涼しく冬暖かい家にすることができます。断熱材は、快適な室内環境をつくるための重要なポイントの一つなのです。
断熱性能が低いとどうなるの?
断熱性能が低い家は、夏の暑さや冬の寒さが家の中に影響します。暑さや寒さで快適とはいえないだけでなく、体にも悪影響。例えば、冬の寒い日、リビングはエアコンやストーブで暖められていても、玄関やトイレ、浴室、脱衣室などは寒いまま。リビングから寒い玄関やトイレに行ったり、寒い脱衣室で服を脱いで急に熱いお風呂につかったりなど、急激な温度変化にさらされる行動は、血圧の急上昇・急低下につながり、ヒートショックの原因にもなります。
「断熱性能の低い家は、冷暖房を多く使用することになるため光熱費が高くなりがちです。家を建てたり購入したりした後に、ランニングコストが高くなることは大きなデメリットです」(坂さん、以下同)
古い一戸建てやマンション、断熱材の劣化はある?
建てられてから数十年たつ一戸建てやマンションに住んでいたり、築年数のたった中古物件の購入を検討したりする際、注意したいのは断熱材の状態です。
「これまで多くの物件を見てきた経験では、築30年を超える一戸建てやマンションでは、断熱材が入っていないケースが多く見られます。また、築年数が古くない家でも、インスペクションで屋根裏や床下にもぐって確認すると、断熱材が湿気を吸ってしまったり、雨漏りでぬれてしまったりしているケースが多くあります。断熱材は湿気にさらされると性能が著しく落ちてしまいます」
そのほか、施工時の不具合で断熱材のない部分があったり、長い年月の間に、上部の断熱材が下の方に落ちてしまっていたりというケースも。現在の住まいが古くなっている場合や、中古の一戸建て、マンションの購入を検討する場合には、断熱材の状態を確認して、必要があれば断熱リフォームを行うことが快適な暮らしを手に入れるためには重要です。
断熱材の種類や工法は?
主な断熱材の素材は
断熱材は内部に固定された空気によって外部の熱が伝わりにくくなっています。その固定の方法が断熱材の素材によって異なります。素材は大きく分けると「繊維系断熱材」と「発泡プラスチック系断熱材」。繊維系断熱材はさらに、ガラス繊維のような無機繊維素材と、天然の木質繊維を使う木質繊維素材に分かれます。繊維系断熱材の素材は、細かな繊維の間に空気を閉じ込め、発泡プラスチック系断熱材は素材の中に独立した気泡があり、その中に空気を閉じ込める仕組みです。
繊維系と発泡プラスチック系に分かれる断熱材ですが、原料によってもさまざまな種類に分かれています。住宅で使用される主な断熱材は下の表のようになっています。
繊維系 | 無機繊維素材 | グラスウール |
---|---|---|
ロックウール | ||
木質繊維素材 | セルロースファイバー | |
インシュレーションボード | ||
発泡プラスチック系 | 押出法ポリスチレンフォーム | |
ビーズ法ポリスチレンフォーム | ||
硬質ポリウレタンフォーム | ||
フェノールフォーム |
羊毛や炭化コルクを使った天然系断熱材もある
ガラスのような繊維を原料とした無機繊維系、天然の木質繊維などを使った木質繊維系、樹脂(プラスチック)が原料の発泡プラスチック系のほか、断熱材には羊毛(ウールブレス)や炭化コルクといった天然系の素材を使ったものもあります。羊毛断熱材は、原料となる羊毛に防虫処理などをしたうえで施工するもの。炭化コルクはワインの栓などに使うコルクの残りなどを利用して炭化させたもの。どちらも比較的新しく登場した断熱材です。
断熱工法の種類は充填断熱工法と外張り断熱工法
断熱材を施工するための工法は大きく分けて2種類。断熱材にはさまざまな種類がありますから、素材によって可能な工法が異なります。
「充填断熱工法」は断熱材を壁や天井、床下の中に詰める工法です。 新たな断熱空間を設けるための資材が不要なため、断熱材の厚さや種類にもよりますがトータルでのコストを抑えるメリットがあります。
「外張り断熱工法」は構造材の外側を断熱材でくるむ工法です。断熱性・気密性の高さが特徴ですが、コストが高めです。
断熱材を比較するときのポイントは?
断熱リフォームを行う際、どの断熱材で施工するかはどうやって決まるのでしょうか。
「お施主様から使用する断熱材の種類などを指定されることは私の経験上ではほとんどありません。その代わり、こちらからは『こういう断熱材が一般的に使われていますよ』とか、『こちらの方が断熱性能は高いですが、金額も上がります』といったお話をさせていただくことはあります」
壁紙や床材を選ぶときのように施主が好みのものを自由に選ぶというケースは、断熱材に関してはあまりないようです。それでも、リフォーム前の断熱性にどれくらい不満を感じているのか、どれくらい断熱性能が高い住まいにしたいのかといった希望はあるはず。数多くある断熱材それぞれが、どんな特徴をもっているのかは知っておきたいものです。ここではまず、断熱材を比較する際によく耳にする項目について解説します。
熱抵抗値とは?
熱抵抗値とは、熱の伝わりにくさを示す値のことです。R値とも呼ばれています。値が大きいほど熱は伝わりにくいため、熱抵抗値が大きいほど断熱性能が高いということになります。熱抵抗値は断熱材の熱伝導率と厚さによって値が決まります。単位はm2・K/Wです。
熱伝導率とは?
熱伝導率とは、物質内での熱の伝わりやすさを示す値のことです。この値が大きいほど熱は伝わりやすく、値が小さいほど熱は伝わりにくいことを示します。熱伝導率は、断熱材の種類によって異なります。厚さが同じ場合、熱伝導率の値が小さい方が断熱性能は良いといえます。単位はW/(m・K)です。
断熱材の厚さとは?
断熱材に必要とされる厚さは、要求される断熱性能(=熱抵抗値)によって決まります。また、施工する地域によって必要な断熱性能が異なってくるため、厚さも違ってきます。必要な断熱性能が得られる厚さについては、地域での施工実績が豊富なリフォーム会社に確認するといいでしょう。
断熱の工法は?
断熱工法には、前述のように充填断熱工法と外張り断熱工法があります。
断熱材の形状は?
断熱材の種類によって、形状をもたない綿のような状態の「ばら状」、「フェルト状」にまとめられたもの、工場で成形された「ボード状」、現場で吹き付け施工される「現場発泡」、施工場所に合わせて自由に形をつくることができる「金型による成形」があります。どの形状を使用するかは、断熱材の特徴や施工箇所、施工のしやすさなどによって異なります。
断熱材の種類別の特徴は?
さまざまな断熱材の中から、この記事では10種類の断熱材をピックアップ。それぞれの特徴や、工法などをまとめました。
なお、リフォームやリノベーションで施工することによって住まいの断熱性だけでなく、吸音性や防火性なども向上する断熱材が多くあります。文章内で触れていない性能について、他の断熱材より大きく劣るというわけではありません。
断熱材は種類によって熱伝導率のJIS規格値が異なります。ここでは主に建築用断熱材JIS A 9521:2022による規格値を掲載。規格値は細分化された断熱材の種類によって異なるため幅があります。※印の数値については断熱材の販売会社HPから引用した数値。断熱性能は熱伝導率の低さだけでなく、断熱材の厚みも重要です。そのため、熱伝導率だけでは断熱性能の比較はできません。また、価格帯は製品によっても異なるため、あくまでも目安としてください。
グラスウール
細い繊維状にしたガラスが原料の断熱材。断熱材というとグラスウールを思い浮かべる人が多いほど、よく使用されている断熱材です。床や壁、天井など住宅のどの箇所にも使いやすく、コストも抑えやすいのが特徴です。厚くなるほど、密度が高くなるほど断熱性がアップします。近年は施工技術や性能の進化によって、壁内でずり下がるリスクも低下しています。不燃系材料で、吸音性能や耐久性にも優れています。
ロックウール
産業用副産物である高炉スラグや天然岩石である玄武岩などを主原料とした断熱材。グラスウール同様、床や壁、天井など住宅のどの箇所にも使いやすく、コストも抑えやすいのが特徴です。不燃系材料として認められている断熱材の中では最も高い耐熱性を有しており、撥水性や吸音性にも優れています。リサイクル可能な素材としても注目されています。
「断熱だけでなく吸音性の高さから、水音が発生する浴室に面した壁やトイレの排水管などに施工されているマンションもあります」
セルロースファイバー
新聞古紙からリサイクルされる断熱材。繊維の中にある気泡に含まれる空気が高い断熱性、吸音性を生み出します。木質繊維がもつ湿気を吸収・放出する特性によって、内部結露のリスクを低減します。セルローズファイバーと表記されているケースもあります。
インシュレーションボード
木材を繊維化してボード状に加工した断熱材。断熱性のほか、吸放湿性、吸音性に優れています。軽量なこと、加工や施工がしやすい点も特徴です。木材の多くにリサイクル材などを使用し環境に配慮した断熱材です。
押出法ポリスチレンフォーム
ポリスチレンや発泡剤などを押出機を用いてボード状に成形した断熱材。薄くても断熱効果が高く、外張り断熱工法に適しています。耐水性の高さや吸湿率の小ささにも優れているため、基礎・土間の断熱や充填断熱工法でも使用されています。
ビーズ法ポリスチレンフォーム
原料ビーズを予備発泡させた後に、金型に充填し加熱することでさらに発泡。金型によってさまざまな形状の断熱材をつくることができます。水や湿気に強いほか、200年後でもJIS A 9521の各規格値を満足している長期安定性が特徴です。
硬質ポリウレタンフォーム
硬質ポリウレタンフォーム(硬質ウレタンフォーム)は小さな泡の集合体。一つひとつ独立した気泡の中に熱を伝えにくいガスが入っており、長期にわたる優れた断熱性が維持されます。外張り断熱工法ではボード状が使用され、現場で吹き付ける施工法は充填断熱工法で使用されます。
フェノールフォーム
フェノール樹脂に発泡剤や硬化剤を加えて成形した、独立型の気泡構造をもつ断熱材。素材の安定性が高いことから、長期にわたって高い断熱性能を保つ特徴があります。防火性にも優れ、炎が当たっても煙や有害ガスをほとんど発生させません。金属板や石膏ボードなどとの複合パネルもあります。
羊毛
天然のウールからつくられるのが羊毛断熱材。繊維が複雑にからみあうことで、羊を冷たい空気から守る羊毛は、断熱材としても高い性能を発揮します。断熱性のほか、調湿効果や吸音性、耐水性、耐久性、難燃性にも優れ、ホルムアルデヒドとも無縁です。羊毛断熱材の販売を取り扱う会社はまだ少ないため、断熱リフォームで使用したい場合は早めにリフォーム会社に相談するのがおすすめです。
炭化コルク
もともと断熱性のあるコルクを炭化させることでさらに強化。炭化コルクの断熱材の熱伝導率はグラスウールと同じくらい。高い断熱性で住宅だけでなく、冷凍冷蔵庫や低温倉庫などの断熱材としても使用されています。天然素材ならではの吸放湿性で壁内での結露の発生も抑えます。
【比較表】断熱材の種類別の特徴を見てみよう
断熱材によって異なる熱伝導率や工法、形状、価格帯
主な断熱材について、熱伝導率の数値や、使用される主な工法、形状、価格帯について表にまとめました。
なお、熱伝導率の数値は断熱材の形状によっても異なりますが、下の表では、JIS規格(建築用断熱材JIS A 9521:2022)による規格値を掲載。細分化された断熱材の種類によって異なるため幅があります。※は販売会社などが公表している数値です。断熱性能は熱伝導率の低さだけでなく、断熱材の厚みも重要です。そのため、熱伝導率だけでは断熱性能の比較はできません。また、価格帯は製品によっても異なるため、あくまでも目安としてください。
熱伝導率W/(m・K)* | 主な工法 | 形状 | 価格帯 | |
---|---|---|---|---|
グラスウール | 0.031-0.050 | 充填断熱工法 | フェルト状、ボード状、バラ状 | 安い |
ロックウール | 0.034-0.045 | 充填断熱工法 | フェルト状、ボード状、バラ状 | 安い |
セルロースファイバー | 0.040以下 | 充填断熱工法 | バラ状 | 高い |
インシュレーションボード | 0.058以下※ | 充填断熱工法 | ボード状 | 高い |
押出法ポリスチレンフォーム | 0.020-0.040 | 外張り断熱工法 充填断熱工法 |
ボード状 | 中くらい |
ビーズ法ポリスチレンフォーム | 0.034-0.041 | 充填断熱工法 外張り断熱工法 |
金型による成形、ボード状 | 中くらい |
硬質ポリウレタンフォーム | 0.017-0.029 | 外張り断熱工法 充填断熱工法 |
ボード状、現場発泡 | 高い |
フェノールフォーム | 0.016-0.036 | 充填断熱工法 外張り断熱工法 |
ボード状 | 高い |
羊毛 | 0.040※ | 充填断熱工法 | フェルト状 | 高い |
炭化コルク | 0.041※ | 充填断熱工法 外張り断熱工法 |
ボード状 | 高い |
断熱材は種類によって熱伝導率の規格値が異なります。上記の表では※印以外の熱伝導率は、JIS規格(建築用断熱材JIS A 9521:2022)による規格値を掲載。数値は細分化された断熱材の種類によって異なるため幅があります。※印の数値については断熱材の販売会社HPからデータを引用。あくまでも参考値としてください。また、価格帯は製品によっても異なるため目安としてください。(図表作成/SUUMO編集部)
断熱材は比較よりも特徴を生かした選択と施工が大切
さまざまな種類がある断熱材。種類によって断熱性能や耐熱性、耐水性、形状、施工方法などが異なります。どの断熱材にも優れた点、苦手な点があり、施工箇所によって適した種類や形状があります。そのため、どの断熱材が優れているのか、といった単純な比較はできません。大切なのは、特徴を生かした適切な施工を行うことです。
古い一戸建てやマンション。断熱リフォームが必要か自分で確認できる?
点検口がない場合は壁のクロスを確認してみる
新築後、数十年が経過した居住中の住まいや、購入を検討している中古一戸建て、中古マンションの断熱材の状態を自分で確認することはできるのでしょうか。
「断熱について知識のない方がご自分で確認するのは少し難しいかなと思います。ただ、天井や床の点検口を開けて、懐中電灯で照らしてみると、断熱材がずり落ちていたり、カビなどで黒ずんでいたりするのが見えることがありますから、中古一戸建ての購入を検討されていて、購入前の確認が可能なら点検口から見ておくのがいいと思います。点検口がない場合は、外に面している壁の室内のクロスにカビの黒ずみなど結露の跡があると、壁内に断熱材が入っていなかったり、断熱材の施工に不具合があったりという可能性があると判断できます。
壁内の断熱材の状態や施工不良の有無は壁を壊さない限り、目視で確認することはできませんが、当社でホームインスペクションを行う場合、サーモグラフィーカメラで内部の温度を見ることで施工状況を判断することができます。また、これは経験上での判断なのですが、壁を手でたたいてみて音や感触でも状態を推測することが可能です。例えば、マンションのコンクリートの壁に張られた石膏ボードに、断熱材が張られたり吹き付けられたりしている場合は、無断熱の場合とたたいた時の音が違います。現場で音を聞き分けながら確認しています」
中古物件は断熱リフォームでより快適に
築年数の古いマンションの場合は、断熱材が施工されずに建てられている無断熱の物件が多くあります。
「一戸建ての場合も、新築時にはきちんと断熱材を入れていても、年月によって隙間ができて、そこから熱の出入りが起こり、住まいの断熱性能が落ちているケースがよく見られます。築30年以上の家が特に注意が必要ですが、築20年、15年でも同様のケースは多くあります」
マンションも一戸建ても、断熱材の不具合、無断熱は住まいの快適性の低下に直結します。壁のクロスがカビる、北側の部屋に結露が発生する、夏暑く冬寒い、などの事態を解決するためには、断熱リフォームを検討することが必要です。
一戸建ての断熱リフォーム、リノベーション、どんな工法や施工箇所が効果的?
一戸建てでは、どの断熱工法が主流?
一戸建ての断熱リフォームは、充填断熱工法と外張り断熱工法のどちらも施工可能です。
「主流は充填断熱工法です。コスト面でのメリットが大きいこともありますが、外張り断熱工法は既存の外壁の上に断熱材を施工し、さらに外壁を張ることになり、外壁が外側に向けて厚くなっていきます。そのため、窓が外壁よりも内側に入ってしまい、家の外観デザインに影響します。窓と外壁の境目に対して、雨水が浸入しないよう対策もしなければなりません」
一戸建ての断熱リフォームで使われるのはどの断熱材?
一戸建ての断熱材で一番よく使われるのはグラスウール。ほかにも、さまざまな断熱材が使用できますが、同じ建物でも、床下や壁内、天井裏などの場所によって、施工しやすい断熱材、施工しにくい断熱材があります。
「例えば、床下の断熱リフォームなら、硬質ウレタンフォームを吹き付けたり、ボード状のフェノールフォームを張ったり、硬めのロックウールを充填していくケースが多いです。施工しにくいのはバラ状の断熱材を吹き付けていくセルロースファイバー。天井には施工できますが、床下への施工は工事がしにくく事例はあまりありません」
壁、床、天井。一戸建ての断熱リフォームの優先順位は?
断熱リフォームをするなら家全体を断熱材でくるむのが効果的。しかし、予算の関係で壁、床、天井の全てに施工することが難しいこともあるでしょう。その場合、どこを優先して断熱すればいいのでしょうか。
「壁、床、天井で優先順位をつけるなら、個人的な考えですが、最優先は床、次に天井、そして壁と思っています。床は住む人の体が常に接している部分ですから寒さを感じないためには床の断熱性が重要だと考えられます。天井は夏の暑さを遮る点で効果が大きいといえます。床、天井は解体せずに施工できるケースが多い点でも、優先順位を高くするメリットがあります」
断熱リフォームの方法と費用相場。床・壁・天井など部位ごとに解説!
一戸建てで部屋単位の断熱なら、どの部屋を施工するのが快適?
規模の大きな家の場合、全体を断熱リフォームすると数百万円のコストがかかることも珍しくはありません。床だけ、床と天井だけ、という施工箇所の選択もありますが、家の一部を選び、床・天井・壁を断熱リフォームする選択肢もあります。
「快適性のアップや光熱費を抑える効果を考えると、家族が集まり一番長く時間を過ごす部屋、例えばリビング・ダイニング・キッチンの断熱リフォームが効果的です」
マンションの断熱リフォーム・リノベーション、どんな施工箇所が効果的?
マンションでは、どの断熱工法が主流?
マンションの場合、コンクリートでできた躯体(くたい)部分はマンションの区分所有者全員の共有です。そのため、住戸の所有者がリフォームなどで手を入れることができるのは壁の内側部分。住戸の断熱リフォームをするなら、躯体の内側に断熱材を入れる内断熱一択となります。
マンションは、どの部分に断熱材を入れればいい?
マンションでは床や天井、外壁側の壁に断熱リフォームを行うのが一般的。古いマンションの場合、壁内や床下、天井に断熱材を入れることで冬の寒さや夏の暑さがやわらぎます。また、マンションでは断熱材の吸音効果を期待するリフォームも多いのだそう。
「トイレやお風呂の周囲の壁や排水管に吸音性の高いロックウールを施工するリフォームは多いです。天井や床に断熱材を入れる場合、天井のボードや床材を剥がすなど、おおがかりな工事になります。マンションの場合は仮住まいをして、躯体だけを残して解体し、間取りも設備も一新するスケルトンリフォームで断熱リフォームも行うのが負担が少ないと思います」
どの断熱材が使えない?使える?
「マンションの断熱リフォームでは、硬質ウレタンフォームやフェノールフォームなど薄いボード状のタイプがある断熱材が扱いやすいため、よく使われます。一戸建てでは主流のグラスウールは厚さが必要なので、マンションでは私はあまり使ったことはありません。二重床の場合は給排水管を通す空間をつくるため、グラスウールやボード状の断熱材で設置することが可能です」
大切なのは施工品質。でも、いつ、どうやって確認できる?
断熱材がきちんと施工されているか、確認できる?
リフォーム会社と打ち合わせをした通りに断熱材が施工されているのか、施主は確認ができるものなのでしょうか。
「施工中の現場で確認ができれば一番いいのですが、それができないこともあるでしょう。断熱材を入れた後に壁材や天井材が張られ、点検口もない場所では中の状態は見ることはできません。その場合は、施工中の写真を見せてもらえるよう事前に頼んでおくといいですね。断熱材の品番や量が書かれた納品書を見せてもらう方法もあります。断熱材はそれぞれに見た目や形に特徴があるのでWebで画像検索をして照らし合わせれば、使用されている断熱材が確認できると思います」
もう一つ重要なのが施工の品質。柱と断熱材の間に隙間があったり、床下に貼り付けるタイプの断熱材が剥がれていたりなどの不具合があると、どんなに断熱性能の高い断熱材を選んでもその性能が十分に発揮されません。断熱は家を隙間なくくるむことがポイント。隙間があると断熱欠損となり、その部分からの熱の出入りが大きくなることで断熱性能が落ちるのです。
「断熱材がしっかり施工されているかを、リフォーム工事が完了してからお施主様ご自身で確認するのは難しいかと思います。工事中に第三者によるホームインスペクションを依頼するのも一つの方法です」
断熱リフォームをするなら知っておきたいポイントは?
断熱材+窓断熱で快適な断熱性能になる
予算内でリフォームをおさめるために、家全体の断熱リフォームが難しい場合は「床、天井、壁の順で優先するのがいい」と、坂さんがアドバイスをしてくれましたが、実はそのほかにも重要な箇所があります。
「床、天井、壁に加えて窓も選択肢に入れるとすると、一番優先すべきは窓の断熱リフォームだと考えています」
熱の出入りが大きいのは実は窓。夏に外の熱が家の中に入ってきたり、冬に家の中の熱が外へ逃げたりするのを防ぐには、床、天井、壁の断熱だけでなく、窓の断熱性能も重要です。複層ガラスの入った熱伝導率の低いサッシ窓への変更や、既存の窓に内窓を増やすリフォームで、より大きな断熱効果が得られます。
断熱リフォームは補助金の対象
外壁や屋根、窓の断熱リフォームをする場合、要件を満たすことで2024年は「子育てエコホーム支援事業」で国から補助金をもらうことができます。外壁、屋根・天井または床(基礎)の断熱リフォームは一定の性能をクリアする断熱材を使用すること、窓の場合はガラス交換や内窓設置、サッシ交換などの工事を行うことが条件です。
【2024年版】リフォームで使える補助金と減税制度。対象のリフォーム・リノベーション、補助金額や申請方法・期限は?
快適な家は断熱、気密、換気のバランス
「断熱材を入れ直して断熱リフォームをしたのに冬になると寒い」というケースがあります。
性能の高い断熱材を使い、熱欠損がない適正な断熱リフォームをした場合でも、既存の家の気密性が低い、つまり隙間が多いと、外の空気が家の中に入ってくることで寒くなったり暑くなったりします。また、断熱性も気密性も高いけれど、換気が不十分な家や、24時間換気システムをオフにしてしまっている家では、家の中に湿気がこもりカビの発生原因になることもあります。断熱、気密、換気のバランスがとれたリフォームや暮らし方が大切です。
快適な住まいへのリフォームを考えるなら、断熱材にこだわるだけでなく、断熱材の施工がきちんとされているかのチェックが重要。断熱と気密、換気のバランスについてもリフォーム会社と相談しながらリフォームやリノベーションのプランニングを進めるのがいいでしょう。
構成・取材・文/田方みき イラスト/土田菜摘