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近年、大型化する台風による被害が増えています。特にマンションでは、強風による飛来物や停電、浸水などのリスクがあり、事前の備えが重要です。
本記事では、さくら事務所の田村啓さんと鈴木賢さんの意見をもとに、被害を最小限に抑えるための5つのチェックポイントを紹介します。バルコニーや窓の対策、停電時の備え、駐車場の注意点など、実践しやすい防災対策を解説します。台風シーズンに向けて、しっかり準備を整えましょう!
台風のときに、マンションの住人がまず気をつけなくてはいけないのがバルコニーやベランダに置いてある物が強風で飛ばされることです。特に、鉢植えや家具などの重い物がある場合は、十分に注意する必要があります。
「物が飛ばされる『被害』だけでなく、『加害』もあることをぜひ知っていただきたいです。自分の持ち物がベランダから飛ばされて人に当たれば、最悪の場合、死亡事故になるおそれも。ほかの人の家屋や車に傷をつけてしまう可能性もあります。加害者にならないために、対策をすることが重要です」(鈴木さん)

外から飛んできた物が窓ガラスにぶつかり、ガラス面が割れてしまう可能性もあります。
「最近は風圧を考慮したガラス窓が多いため、台風などの暴風でガラスが割れる可能性は低いです。ただし、飛来物がぶつかることによる、ガラスのひび割れや破損のリスクはゼロではありません。また、低層階の場合は上から飛来物が来る可能性がありますが、ガラスが割れた際の正しい対策の仕方があるので後述します」(田村さん)
「台風による停電や断水のリスクもあります。特に、1階や地下に電気室(受変電設備や配電盤など)があるマンションは、浸水被害を受けると停電や漏電が発生する可能性があるため注意が必要です。
過去には大型台風の影響で都市部のタワーマンション全体が停電し、エレベーターや水道が使えなくなってしまったということもありました。浸水による停電・漏電は復旧までに1週間以上かかる場合があり、生活にも大きな支障が出ます」(田村さん)

「地下駐車場が浸水する被害も考えられます。水位によっては車の故障や廃車になってしまうおそれもあります。台風が来る前に安全な場所に車を移動させようとしても、敷地内に余分なスペースがなく、駐車場の利用者たちが立ち往生してしまうといった事態も想定できます。こういったトラブルを避けるために、マンション全体で浸水時の対策を考えておくことが必要でしょう」(田村さん)

ここからは、場所別にチェックポイントをお伝えします。まずは最も台風のダメージを受けやすいバルコニーの対策です。
「物干しざおや鉢植え、洗濯物、家具などバルコニーに置いてある物は、台風が来る前に室内へしまいましょう。複数のバルコニーがあり、そのうちの普段使っていない、物置代わりにしているバルコニーがある場合、盲点になりやすいので気をつけてください」(田村さん)
「台風が来たときに在宅していれば、ベランダの物をすぐに室内へしまえますが、もしも旅行などで長期不在だったら対策が難しくなるはずです。日頃からバルコニーには物を置かないことも大切かもしれませんね」(鈴木さん)

台風が去った後だけでなく、来る前にも排水溝を掃除しておきましょう。排水溝が落ち葉や泥で詰まっていると、排水できず室内に浸水してしまうかもしれません。普段からこまめに清掃しておくと安心です。

隣室との間にあるベランダの仕切り板はマンションの共用部にあたるため、住人が勝手に加工してはいけません。台風の風で割れないようにと補強することはやめましょう。

ベランダに設置してある給湯設備に大量の雨水が入り、故障や動かなくなってしまったという事例もあります。給湯器は大量の雨水を感知したり、雨水が内部に浸入すると、不完全燃焼や漏電を防ぐために、安全装置が作動することがあります。多くの場合はリモコンの電源を入れ直したり、電源プラグを差し直すことで問題は解消されますが、直らない場合には修理が必要になるかもしれません。
「給湯設備は屋外に置くことを想定して作られているため、通常の雨がかかったくらいでは故障しません。しかし、想像以上の雨や風でダメージを受ける可能性もあります。故障対策として、大雨や暴風の際には、給湯器の運転を止めておくことをおすすめします」(田村さん)
また、雨水の浸入で動かなくなった場合、水が抜けて乾燥すると動くことも。異常を見つけたら電力会社などに確認してください。

屋外と室内をつなぐ開口部。もしも外から飛来物がぶつかってガラスが割れてしまったら、けがをしてしまうかもしれません。対策を紹介します
「築年数の経過とともに、窓に不具合が生じることがあります。ガタつきや壊れがないかなど、定期点検をしておくことは大切です」(田村さん)
「飛散防止フィルムは割れたガラスが飛び散ることを防いでくれます。ただし、ガラスの強度を高めるものではありません。また、熱を吸収しやすいフィルムを貼るとガラスが熱割れを起こしやすくなります。熱割れを起こしにくいフィルムも売られているため、比較検討したほうがよいと思います」(田村さん)
「テープを貼って窓ガラスを補強できるというのは、よくある誤解の一つです。実際、窓に養生テープやガムテープを貼っても強度は変わりません。ガラスの割れを予防したいのであれば、まずはバルコニーに物を置かないことが得策かと思います」(鈴木さん)

「ガラスの飛び散りに有効なのは厚手のカーテンです。新しいマンションであれば風の力だけでガラスが割れて飛び散るようなことは考えにくいです。しかし、万が一、飛来物によってガラスが割れることに備えた予防策は大切です。厚手のカーテンを閉めておくことで、被害を抑えることができます」(田村さん)
マンションの電気設備がダメージを受けると、建物の一部や全体で停電が起こり、ライフラインがストップします。電気や水が使えなくなることを想定し対策を整えましょう。
停電すると、照明や冷蔵庫、エアコンなどが使えなくなります。懐中電灯やモバイルバッテリーがあると役立ちます。また、台風シーズンに限らず、夏場は保冷バッグと保冷剤、冬場はカイロやアルミ毛布などを用意しておくと安心です。暑さ・寒さに弱い赤ちゃんやペットがいる家庭は特に気をつけましょう。
「インナーサッシをつけておくと断熱性が高まり、エアコンが止まっても室内の温度が変わりにくくなります。特に夏場は熱中症のリスクもあるので、停電で冷房が使えない場合の対策も考えておきたいですね」(田村さん)

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電力でポンプを動かして各階に水を給水しているマンションは、停電すると水道が止まってしまいます。水道水が使えないほか、トイレも流れなくなります。そのため、飲料水や非常用トイレを備蓄しておくことがポイントです。
「浸水被害などで排水経路に異常があると、上階でトイレに水を流すと下階で溢れてしまう可能性があります。こういったトラブルを防ぐため、『水害時には水を流さない』など、マンションの管理組合で非常時のルールを決めておくとよいと思います」(田村さん)

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駐車場や駐輪場に浸水の可能性がある場合、独断で行動するよりも、マンションのルールにのっとって行動することが大切です。
「駐車場や駐輪場が浸水してしまう可能性がある場合、車や自転車を移動する必要があります。また、止水板や砂袋が用意されているマンションもあるでしょう。しかし、非常時に『いつ・誰が・どうやって・どこへ置くか』など明確にルールが定められていないと混乱が生じやすくなるのです。駐車場が浸水しそうなときに車をどこへ移動させるのか、止水板は誰が用意するのかなど、管理組合で細かくルールを定め、住人全員が共通認識をもって行動する必要があります」(田村さん)

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非常時に向けた情報収集は、余裕のあるときに行っておいたほうがよいでしょう。その内容を家族と共有しておくと、被災した場合も冷静な行動がしやすくなります。
地域の緊急避難場所や、保育園や学校で子どもが被災したときの対応について調べておきましょう。
「避難所の利用に関しては注意点があります。避難所の利用人数には限りがあるため、停電や断水が起こっても備蓄品等を使い、自宅での生活が可能な場合は在宅避難を検討するとよいでしょう。もちろん、浸水や土砂災害など命にかかわる危険がある場合は、早めに避難しなければいけません」(田村さん)

「一戸建てよりもリスクが低いという思いから、マンションの住人に見過ごされがちなのがハザードマップです。マンション全体でどのような備えをするかを決めるためにも、ハザードマップは必ず確認してください。敷地の一部だけ浸水したり、斜面の一部が崩れるといった可能性も。マンションのリスクを正しく知ることで、適切な対策が可能になります」(鈴木さん)

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台風が去った後にも、やっておいたほうがよい行動があります。
被害に遭った場合、保険金や自治体からの見舞金を受け取ることができるかもしれません。被害の状況を明確に記録しておく必要があります。
「割れた窓ガラスや破損した家具、飛来物などの写真を撮影しておきましょう。また、専有部だけでなくマンションの共用部が被害を受けることもあります。駐車場や植栽、地下にある電気室、外壁の破損、敷地内にある斜面なども隈なく確認しましょう。その際、誰がどこを点検するのかも管理組合で事前に決めておくとよいと思います」(田村さん)

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台風が去った後は、バルコニーに飛来物がたまっている可能性も。排水溝にゴミが詰まっていたら掃除をしておきましょう。また、ガラスの破片など危険物が飛来している可能性もあるため、作業の際はけがに注意してください。

最後に、マンションで台風対策をするときに大切にしたい考え方について、お二人に伺いました。
「台風に限らず、地震や洪水など自然災害は正しく恐れることが大切かと思います。どんな建物であってもリスクはあります。自分が住むマンションのリスクをしっかりと把握し、住人みんなで情報共有をしておきましょう。また、管理組合に任せることと個人で行うことの線引きを明確にしたほうが有事の際の混乱が減ります。必要に応じてマンション管理の専門家などの意見なども取り入れ、優先順位をつけながら対策をしていけるとよいですね」(田村さん)
「台風が去った後はホッとするかもしれませんが、台風はまたやってきます。近年は私たちの予想を上回る大型台風の被害も増えています。台風が来る前に必要なことを調べ、自分が住むマンションの強み・弱みをどちらも把握しておくとよいと思います」(鈴木さん)
ハザードマップや地域の防災情報をもとに、マンションの被害リスクを正しく知る
ベランダやバルコニーの物は室内にしまい、被害・加害とも予防する
管理組合を通し、マンション住人全員で共通認識をもって対策を行う