マンションの資産価値を大きく左右するとも言われる「マンション管理」。一戸建てと違い、共同住宅である分譲マンションは居住者同士で協力し、自分たちのマンションを維持管理していく必要がある。
マンションを管理する管理組合とは何か?また、その理事長や理事(役員)は何をするのか?理事長や理事(役員)の選び方や実際の事例と共に紹介しよう。
一戸建てではなく、マンションを購入したいと思う人のなかには、「マンションのほうが維持管理がラクだから」という理由を挙げる人も少なくないが、マンションの管理は「管理費を払っているのだから、すべて管理会社にお任せ」というわけにはいかないもの。
分譲マンションを購入すると、そのマンションの所有者(区分所有者)は「管理組合」を結成し、自分たちのマンションを管理する当事者になる。管理組合には、代表としてマンションの維持管理を進める「理事会」があり、マンションの管理は理事会で話し合いながら進めていくことになるのだ。
ただ、一口に「マンションの管理」といっても、内容は多岐にわたり、日常的に行う共用部の清掃や設備の保守点検、管理員の窓口業務などのほかにも、運営上の会計処理や大規模修繕の計画など、専門的な知識が必要なものも多い。
そこで、一般的には、管理組合がマンションの維持管理を専門に行う業者である「管理会社」に管理業務を委託して、管理業務を行っているというわけだ。なかには管理組合が管理員を直接雇用するなどして、自主管理を行うケースもあり、必ずしも管理会社に管理業務を委託しなければならないというものでもない。
マンション管理組合の理事の選び方は3つあります。
事前に住戸の順番を決めて、毎年持ち回りで理事を決めていきます。一般的には毎年行われるマンション総会で理事を選任、決議します。
住民が立候補し、理事になるケースがあります。こちらも同様に、総会で決議が必要です。
住民の中から、推薦を受けるケースです。こちらも同様に、総会で決議が必要です。
「理事会役員って、なんだか面倒くさそう……」と思う人もいるかもしれないが、理事会役員(理事)は立候補や推薦のほか、輪番制などで選出されるのが一般的。つまり、好む好まざるに関わらず、長く住めば、一定周期で役員をする機会が巡ってくる。
理事会役員になると月1回程度開催される理事会に参加し、管理会社からの報告を受けたり、マンション内の問題などについて話し合ったりすることになる。理事会の役員には理事長、副理事長、理事、会計担当理事、監事などがあり、理事のなかから理事長をはじめとする各役員を選出。それぞれの役職に沿った内容の活動をすることになるのだ。
主な役員 | 業務内容 |
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理事長 | 管理組合を代表し、業務を統括 |
副理事長 | 理事長の補佐や理事長不在時の代行 |
会計担当理事 | 管理費等の収納、保管、運用、支出などの会計業務 |
監事 | 組合の業務の執行や財産状況を監査し、結果を総会に報告。業務の執行や財産状況について不正があると認められるときは臨時総会を招集できる |
月1回程度とはいえ、休日に理事会に出席し、マンションのために何らかの業務をしなければいけないというのは、負担に感じる人も多いかもしれないが、理事になることのメリットもある。
例えば、自分の住むマンションの管理費などがどのように使われているのか、ルールやマナー、管理会社の仕事ぶりはどうなのかなどを、知ることができ、自分の資産であるマンションを主体的に改善していくことができる。また、理事会のメンバーとは定期的に顔を合わせることになるので、マンション内に知り合いが増えるというのも、長く居住する上で心強いだろう。
では、理事会の役員以外の区分所有者が、マンション管理について蚊帳の外かと言われると、そんなことはない。管理組合では、毎年1回必ず招集される「定期総会」のほかに、必要に応じて随時招集される「臨時総会」がある。
総会は管理組合の最高の意思決定機関であり、多くのマンションでは総会には議決権総数の半数以上を有する組合員が出席(委任状等の書面提出や代理人の出席も含む)しなければ開催できない。理事会役員ではない区分所有者を無視して、理事会が勝手に物事を進めることはできないというわけだ。
理事以外の住民が管理組合に何か要望を上げたいときには、玄関ホールの集合ポストなどに設置される管理組合専用のポストに要望書を投函する、または、理事に直接話して伝えるなどの方法もある。住民説明会などを理事会が開催し、理事以外の区分所有者の意見をキャッチアップするなどの方法をとっているマンションもあるようだ。
また、理事会の下部組織として、大規模修繕や規約の改定、防災、コミュニティについてなど、専門的な特定の課題を調査、検討する必要がある場合は、「専門委員会」を設置することもできるので、理事会役員でなくても、専門委員会のメンバーとして、管理に携わるというケースも考えられる。
いずれにせよ、マンションの維持・管理は、区分所有者一人一人が大なり小なり関わらなければいけないことであることは間違いない。それぞれが責任をもって主体的に取り組むことで、マンションへの愛着も増し、住み心地の向上へもつながるのではないだろうか。
2005年に完成した、JR千葉みなと駅近くにある438世帯の大規模マンション「ブラウシア」。同マンションは、もともと特に運営方針もノウハウもなく、積極的に管理組合を運営していたわけではなかったそうだ。しかし、東日本大震災時に前管理会社の管理員が業務を放棄。この管理会社とのトラブルをきっかけに、ブラウシアでは管理組合の運営に真剣に取り組みだし、住民主体で積極的に改革を進めるマンションに変貌。今では管理組合の運営がスムーズに行われているマンションの代表格として知られている。
まず、ブラウシアでは改革の第一歩として、マンション管理士とコンサルタント契約を結び、1年交代制だった役員については2年任期の半数交代制に改正。管理会社を変えるという大きな改革を成し遂げた。このことをきっかけに、管理の主導権は自分たちが握るべきものだという意識に変わっていったという。
「ブラウシア管理組合は、強固なコミュニティをベースとし、終の棲家として充実したマンションライフを実現する」
これはブラウシアの基本理念だ。管理組合の理事は短期間に入れ替わるものなので、長期的な視点で、管理組合の運営をスムーズにするために策定したそうだ。この運営の基礎となる理念のほかにも、ビジョンや行動指針なども独自に制定。さらに、理事経験者による「オブザーバー制度」や、住民参加で特定分野を検討する「防災委員会」、「修繕委員会」、「ブランディング委員会」など、住民が一丸となって管理を見守っていく体制が整えられている。
ちなみに、同マンションの理事会役員は理事長が1人、副理事長が3人。理事全体では20人の体制。理事には毎年数人の立候補があり、残りは輪番制で選出される。また、2年の任期終了後も数名程度理事に留任。理事会活動をバックアップするオブザーバーやサポーターになる人もいるそうだ。
そして、管理組合の業務については、業務内容が近いメンバーでグループをつくり、少人数で議論しながら責任をもって取り組めるような仕組みづくりがされている。業務を細分化したことで、担当者はそれぞれ面白さややりがいを感じ、積極的に取り組むようになったそうだ。
役職 | 業務内容 |
---|---|
理事長 | 管理組合を統括 |
副理事長 1.理事会運営担当 2.設備担当 3.生活担当 |
理事長の補佐や理事長不在時の代行 各運営グループの取りまとめ |
防災担当 | マンション内防災の企画・運営。防災委員会の統括 |
IT担当 | 理事会効率化システム検討、マンションインターネット・CATV・電話設備運営管理 |
書記担当 | 理事会及び総会議事録の作成 |
生活担当 | マンション内マナー啓蒙、住民クレーム対応 |
会計担当 | 管理費等の収納、保管、運用、支出などの会計業務 |
広報担当 | マンション内新聞「ブラウシアニュース」の編集及び発行 |
施設担当 | マンション建築物及び設備の維持・管理・メンテナンス。長期修繕計画管理・運営。修繕委員会の統括 |
FC(フレンドリークラブ) | マンション内コミュニティを活性化させるため、イベント等の企画立案運営 |
監事 | 管理組合を監査 |
ブラウシアの基本理念に、「ブラウシア管理組合は、強固なコミュニティをベースとし~」とあるように、マンションの維持・管理をしていく上で重要なのはコミュニティの力だ。「トラブルの対処は管理会社の仕事」というスタンスではなく、住民たちが問題を自分事として捉える姿勢が住み心地の良さにつながっていく。
ここでいくつか、ブラウシアで実際に起きたトラブルの事例を紹介しよう。
ある大雪の朝、駐車場スロープやマンション前に雪が積もり、通行が困難になった。そのときは、管理員のみならず、理事をはじめ住民たちが自然発生的に集まり、雪かきをするということがあったそう。また、給水ポンプが突然作動を停止し、断水してしまうというトラブルが発生したときも、理事や理事OBだけでなく、自発的に住民が集合し対応。早期に復旧できたということもあったそうだ。
住民一人一人の「自分たちの住まいをよりよいものにしていこう」という気持ちが、マンション管理の要。現在もブラウシア管理組合では震災への備えや、マンションのブランディング、一部設備の更新など、よりよいマンションライフをかなえるために、さまざまな取り組みを住民主体で進めている。
●監修
小杉学
明海大学 不動産学部 准教授
(一社)日本マンション学会理事
これからのマンション管理のあり方、マンション再生・建替えについて研究を行っている。共著に「被災マンションの建物取壊しと敷地売却マニュアル」がある。