マンションを購入しようと考えているとき。居住後には「自分たちで管理を担うことになる」という知識を持つ人は多くないかもしれない。だが、管理に関わるのはマンションを買うなら区分所有者の義務。居住後には、修繕積立金の値上げや大規模修繕、管理費の滞納督促、管理会社との関係づくりなど多くの任務が待っている。自分の財産でもある住まいの価値を維持していくためにも、管理の重要性を意識したい。知っておきたい管理の知識を重松マンション管理士事務所の所長で、マンション管理士の重松秀士さんのアドバイスを交えて解説していこう。
マンションには、自分の部屋(専有部分)と共用部分(廊下やエントランス、エレベーター、ゲストルーム、専用庭、バルコニー、ドアの外側など)がある。共用部分も自分が払った費用のなかで一部を占める。
マンションには、エントランスや、エレベーター、部屋の前の廊下など、室内以外の多くの場所がある。これらの場所はいったい誰のもの? 分譲した会社?それとも管理会社? いえいえ、マンションを買った人たち「みんなの財産」だ。
これら、廊下やエントランス、エレベーター、駐車場など、特定の個人のものではない場所を「共用部分」と呼ぶ。自分が払った物件価格のなかには、共用部分の費用も含まれている。一方で、自分の室内は「専有部分」と呼ぶ。
共用部分と専有部分の境界は、壁や天井、床のコンクリートの内側(内法=うちのり)、玄関ドアの内側、窓に囲まれた空間、壁紙などになる。玄関ドアは、錠と内側の塗装が「専有部分」、それ以外は「共用部分」だ(標準管理規約*の場合)。共用部分をどれだけ所有しているかという持ち分は、専有部分の床面積の割合による。他の住戸より広い専有部分(広い部屋)を所有している人は、共用部分の持ち分も多くなる。
*国土交通省が作成しているマンション管理規約のひな形のこと(単棟型)
重松マンション管理士事務所(千葉市)の所長、重松秀士さんは「共用部分と専有部分の境界はマンションごとに、異なることがあります。たとえば、網戸は共用部分とするマンションがある一方で、専有部分に含むところもあります」と話す。
注意したいのが、ベランダ(バルコニー)。ここは、「共用部分」であり、みんなの財産だ。室内を所有する人が「専用に使用する権利」(専用使用権)があるだけだ。火災の際には、避難通路になる。大きな荷物を置いたり、避難ハッチをふさいだりしないようにしよう。
専有部分は自分の費用でメンテナンスする。だが、共用部分には、自分の判断で手を入れることはできない。たとえば、「玄関ドアの外側を好みの色に塗り替えたい」などの勝手な行為はできないのだ。
自分のマンションの共用部分と専有部分については、入居時に受け取った「管理規約」に定められている。
マンションは、一つの建物を複数の人で所有している形態だ。このような建物を「区分所有建物」という。そして、区分所有建物を購入すると、買った人は、自動的に「専有部分を所有する人」=「区分所有者」になる。
区分所有建物には、「区分所有法」という法律が適用される。正式名称を「建物の区分所有等に関する法律」という。
区分所有法では、区分所有者全員で管理組合をつくることを定めている。「区分所有者=管理組合員」となる。管理組合は、法律上の組織だ。自治会や町内会のような自主組織ではない。このため、マンションを買って「自分は管理組合に入りたくない」ということはできない。管理組合として、共用部分の管理に取り組んでいくことになる。
実際は、管理組合員(区分所有者全員)から順番や立候補などで数人を選出して、執行機関である「理事会」をつくる。理事会は、定期的に集まって、その年の議案を作成し、今、問題となっていることを解決する方策を練る。そして、最低年1回、行われる総会で区分所有者の総意を問う。
理事会は、理事長と、他に副理事長や会計担当理事、設備担当理事など、数人の理事で構成される。理事会メンバーは1年から数年で交代するので、何年かすると、ほぼ全員が「理事」に就任することなる。たとえば、30世帯で理事が毎年5人、順番で選出されるとなれば、6年で全員が理事を経験する。一方、毎年、理事全員が交代すると、その年に検討している議案が次の年に引き継がれない可能性があることから、任期2年で、毎年理事の半数を交代する方式をとる管理組合もある。
マンションに、「管理規約」があることは前述した。これは区分所有法に基づいて定めたマンション独自のルールといえる。重松さんは「これは、そのマンションの『憲法』ともいうべきもので、管理を行ううえでもっとも重要な位置づけのものです。お隣のマンションとは、『国』が違うように、マンションごとに憲法、つまりルールも異なります」と説明する。
重松さんは、マンション管理に関して、さまざまな相談を受けている。
ここで、「それはお宅のマンションの管理規約にはどう書いてありますか」と尋ねても、一般の区分所有者からは、「何それ?」という答えが返ってくることが少なくないそうだ。このため、「管理規約とは~」の説明から始めることが多いとのこと。
重松さんは、「マンションの管理運営や区分所有者の権利は、区分所有法(後述)や管理規約で細かく定められていることを理解してほしいものです」と強調している。続けて、「マンションでは、総会で多数決を主体として決めたことを進めていきます。そのため、個人の希望が受け入れられない場合もあること、規約や総会で決まったことには拘束されることを認識しておきましょう」とアドバイスしている。
たとえば、管理費や修繕積立金の値上げが総会で決定したら、自分は反対意見であっても総会決議には従わなければならない。
「管理規約」には、大切な財産である住まいについての決まり事や手順がさまざまに定めてある。マンションごとに内容が異なることは明記したが、内容は建物に関することばかりではない。
「たとえば、理事になるための対象者もマンションごとに違います。『理事はマンションに居住している区分所有者のみが就任できる』というマンションがある一方で、『区分所有者の配偶者も就任できる』『賃貸している不在(外部)オーナーも就任できる』と管理規約で明記する場合もあります」
前述したように、共用部分は、区分所有者の集まりである管理組合員全員の財産だ。メンテナンスの義務は、管理組合が負う。あなたが買ったのなら、あなたもその義務がある一人だ。
たとえば、1階に住んでいてもエレベーターの共有持分があり、車を持っていなくても駐車場の共有持分があるので、それらのメンテナンスにかかる費用は負担する義務がある。
理事に選ばれたら、自分の財産でもある共用部分の管理に取り組もう。
ここで、管理会社に管理を委託していると、「管理会社が共用部分の管理を行う義務があるのでは」と思うかもしれない。もちろん、日常清掃やゴミ出しなどは管理会社が契約に基づいて行っている。しかし、管理会社は、管理組合からの委託を受けて仕事として行っているだけ。業務を指示したり、方向性を決定したりするのは管理組合の役目。何しろ、管理の主役は管理会社ではなく、財産の持ち主である管理組合なのだから。
理事でなくても、その年に理事会で検討されている状況を知ることはできる。管理組合によっては、理事でなくても理事会に出席したり、意見を伝えたりできるようにする仕組みを整えているところがある。オンラインで理事会を開催し、誰でも入室可としている管理組合もある。理事会のあとは、各戸にそのときの検討内容を配布しているところも少なくない。今、何が話し合われているのか、にアンテナを張っておきたい。「知らない間に決まった」と思うことがないように、配布された議事録には目を通しておきたい。
管理組合の仕事の代表というべきものに、10数年に一度の大規模修繕がある。実際に工事をするのは工事会社だが、今の修繕積立金で費用は足りるのか、どこを工事するのか、どの工事会社に頼むのか、といったことは管理組合で決める。
小規模なマンションでは、理事会が直接、管理会社や工事会社とともに、あるいは間にコンサルタントを入れて、建物診断や修繕項目の設定、修繕期間、費用、業者選定などを行っていく例が多い。マンションにもよるものの、普段から顔が見えるつきあいをしている例が少なくないため、理事会への住民参加や、チラシの配布などで情報共有を図りやすい。
世帯数が大きかったり、懸案事項が多かったりするマンションでは、理事会のほかに、住民の有志から成る「修繕委員会」を結成し、委員会で決めたことを理事会に提案する。理事会は総会に諮って多数決で決める。修繕委員会には決定権限はなく、あくまでも理事会の下部組織で、諮問委員会だ。なかには、大規模修繕が終わったあとも、修繕委員会を常設して、次の修繕に向かって、修繕計画の見直しや、修繕積立金は不足しないかを、改めて検討していく事例もある。
重松さんにも、大規模修繕に関する相談が多く寄せられる。「大規模修繕工事の実施時期が到来していることはわかっているが、今後の進め方が分からない」といった内容をはじめ、「多額の金額を使うのに、管理会社からの提案をそのまま受けてよいのか不安」、「談合や不正が横行していると聞いており、管理組合の利益を守ってくれるコンサルタントを探している」など、多様だ。
「私たちも大規模修繕工事に関する理解をしてもらえるよう、スライドを使用した勉強会を開催しています」と重松さん。
「工事資金が足りるのか」といった問題は、どこの管理組合でも抱える問題だ。大規模修繕の数年前から資金面の検討をはじめ、不足するようであれば、値上げや工事内容を再考する。そのためにも、長期修繕計画をみてみよう。1回目の工事は足りるかもしれないが、その後は工事費が不足する可能性がある。値上げするなら、早いほうがいい。早く値上げすればするほど、修繕積立金はたまっていくので、値上げ幅は少なくすむ。
管理組合の仕事には、「督促業務」もある。これは、毎月支払う義務がある管理費や修繕積立金を払わない人に対して、「払ってほしい」と督促する仕事だ。
滞納の督促は、「管理会社が行うもの」と思っているかもしれないが、管理会社は、管理組合との間で、業務内容と範囲に関して「契約書」を締結している。管理会社は、この契約内容に従って日常の業務を行っている。そして、毎月払っている管理費の一部が、「管理委託費」として、管理会社に支払われている。「管理費=管理会社の利益」ではないのだ。
そして、管理会社が滞納について督促する期間も契約で定められている。通常は3カ月から6カ月程度の契約が多い。この期間を過ぎると、徴収の有無にかかわらず、督促業務は、管理組合に移行する。管理組合がこれを放っておくと、滞納世帯やその金額はどんどん増えていく。将来、管理費や修繕積立金が不足して、修繕工事が行えなくなる可能性もゼロではない。
「滞納した管理費や修繕積立金には、支払い期日から5年を過ぎると時効になってしまいます」
督促を怠っていたために、5年を過ぎた分を払ってもらえなかったという管理組合はある。管理会社に任せっぱなしにしないこと。
「滞納の場合は、早期の対応が必要。長期化すると金額が大きくなり、回収しづらいだけでなく、滞納者の支払義務感も薄れてきます。管理会社と協力して、滞納3カ月に電話や訪問などの強い督促をして、6カ月になったら訴訟警告などを行い、毅然とした対応をすることです」と重松さんはアドバイスしている。
滞納はそのマンションの住む人々の意識を表している。「築30年、40年たっても滞納が1件もないマンションはあります。『払わないと恥ずかしい』という意識が浸透しているのです」(重松さん)
マンションは、これまで自分が購入したなかで、いちばん高い買い物ではないだろうか。その資産は守りたいもの。そして守るには労力がいる。管理組合活動に参加して資産を守っていけば、売却の際にも周辺の同条件のマンションよりも高く売れたり早く売れたりする可能性がある。
「管理に無関心な人が多いと、高額な工事費を提示されても疑問をもたず、そのまま修繕をしてしまい、管理費等を無駄遣いすることになるかもしれません。逆に、わからないながらも手さぐりでやっている場合は効率の悪い管理になっていることもあります」
ところで、理事長や理事に就任することで毎月、報酬を得られるような管理規約になっていることがある。しかし、熱心に取り組む方だけではなく、まれに理事に就任しても仕事をしない人も出てくる。管理規約は、区分所有者が集まる総会で4分の3以上の賛成を得られれば、変更できる。現状の管理規約や運営方法でよいかどうか、常に話し合って、内容をまとめ、定期的に総会に諮るようにしたい。
各自治体などでは、マンション管理のセミナーを実施している。出かけて情報を得よう。最近では、理事長同士が集まって会をつくる例も目に付く。隣のマンションなどに聞いてみるのもよいだろう。
無関心な人が多い場合は、まず、顔見知りになることから始めよう。子ども向けの季節のイベントや、防災訓練などを通じて、人間関係をつくりたい。知り合いがいれば、助け合いもできる。そして、普段から管理のことを話す機会をつくりたい。
2022年4月から、マンション管理を認定する2つの制度ができた。優れた管理を行うマンションを評価して、公にする制度だ。マンションを買いたい人が「このマンションの管理はちゃんとしている」という判断ができる。買う側にとって、一部のローンの利用が金利引き下げを受けられるなどのメリットを受けられ、認定を受けていないマンションとの間で、差別化が図れる。
一つは、各自治体が認定する「マンション管理計画認定制度」。管理のさまざまな条件をクリアしたマンションにお墨付きを与えるもので、認定を受けたマンションは、特設サイトで公表される。(独)住宅金融支援機構の【フラット35】、「マンション共用部分リフォーム融資」での金利の引下げが受けられるなどのメリットがある。5年に一度の更新となっている。
以下は、東京都の制度の概要を示したサイトだが、居住する自治体で取り組みがないか自治体のホームページで確認を。
もう一つは、マンション管理会社の団体である「一般社団法人 マンション管理業協会」が行う「マンション管理適正評価制度」。マンションの管理状態や管理組合運営の状態を6段階で評価し、インターネットを通じて情報を公開する仕組みだ。中古マンションを販売する一部の不動産会社は、評価を得たマンションの情報を公表している。
管理に関して、マンションの差別化が進みそうだ。
ここまで読んだら「マンションって面倒…」と思った人がいるかもしれない。確かに、戸建てや賃貸住宅から分譲マンションに越してきたら、義務は増えるし、ルールには縛られる。近所付き合いも必要になるかもしれない。けれども、マンションにはやはりメリットは多い。
重松さんが話す。
「性格や考え方にもよりますが、私個人でいえば、植栽管理や庭の手入れなどをしなくてもいいマンションは快適です。理事就任の義務はありますが、会社で会議をして方向性を考えていくのと同じで特別なことはありません。これまでの経験を踏まえて話し合いを進めていくため、それほど負担感はありません」
続けて「地震や火災などの防災面をみるとやはりマンションには強みがあります。最近は、被災時の在宅避難が一般的になりつつあり、準備さえしておけば自宅で過ごせる可能性が高まります。避難所では見知らぬ人と過ごさねばならず、精神的なストレスは大きいのではないでしょうか」
阪神淡路大震災や、東日本大震災で被害を受けたマンションのなかには、被災直後から住民同士が食料や避難グッズを持ち寄って、ともに時間を過ごし、励ましあったところが少なくない。高齢者の自宅に、子どもたちが給水車から水を運ぶ事例も多くみられた。浴室が大丈夫だった人の家に、自宅が大きく被害を受けた人が訪れ、お風呂を利用させてもらった。こういった「助け合い」はあちこちで見られ、マンション内での距離が縮まった。大規模に損壊したマンションでは、再建への道のりは決して楽なものではなかったが、こういったコミュニティが大きな力になったのは、想像に難くない。
さらに、マンションは、集まって住む楽しさを実感できる場でもある。子ども同士のつながりや、マンション内のイベントを通じて、人と人がつながれる良さがある。管理を通じて、法律や建築などさまざまな知識を学べる場でもある。同じ屋根の下に住む人同士のよい関係が、建物という財産を守るよい関係につながっていく。
マンション管理の基本を知って、マンション生活を楽しんでいこう。
マンションを購入すると管理組合員になる
マンションの世帯数が大規模か小規模かによって大規模修繕工事の進め方が異なることも
管理費はすべてを管理会社に払うわけではなく、一部が「管理委託費」として払われる
●取材協力
マンション管理士 重松秀士さん
重松マンション管理士事務所(千葉市)所長。建築関連会社を経て2003年2月にマンション管理士として独立。2005年2月から2006年10月まで、財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。