ハウスメーカーの広告などでよく目にする注文住宅の「坪単価」という言葉。家づくりのためにハウスメーカーを探すときや住宅商品を選ぶときに、いくらくらいで建てられるかという建築費用の比較に使っている人も多いかもしれない。でも実は、坪単価だけでその家の「高い」「安い」を判断することはできない。では、坪単価とは何なのか、どうやって決まるのかなど注文住宅の価格についてを、一級建築士の佐川旭さんに聞いた。
坪単価は建物の床面積1坪(約3.3m2)当たりに建築費がいくらかかっているのかを算出したものだ。計算方法は
家の本体価格 ÷ 延床面積(建物の床面積の合計)= 坪単価
例えば、本体価格2000万円で延床面積が40坪の家なら、
2000万円 ÷ 40坪 =50万円
という計算式になり、坪単価は50万円ということになる。
同じ延床面積の家を建てても、鉄骨造、RC造、木造など、工法によって坪単価も異なる。工法の違いによって、どれくらい金額が異なるのでだろうか?
工法 | 坪単価 |
---|---|
木造 | 約58.7万円 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 約132.9万円 |
鉄筋コンクリート造 | 約94.3万円 |
鉄骨造 | 約81.5万円 |
木造住宅よりもコンクリート住宅のほうが価格が高いなど、工法によって坪単価は異なる。また、家を建てるエリアによっても坪単価には違いが出る。前出の「2022年度建築着工統計調査」(国土交通省)の、2022年度の建築主が個人の居住専用住宅の床面積の合計と工事予定額の合計から地域ごとの坪単価を算出すると、以下の表のようになる。
坪単価 | |
---|---|
全国 | 約68.4万円 |
全国市部 | 約68.7万円 |
全国郡部 | 約65.9万円 |
北海道 | 約68.7万円 |
青森 | 約62.7万円 |
岩手 | 約63.6万円 |
宮城 | 約64.9万円 |
秋田 | 約60.4万円 |
山形 | 約61.8万円 |
福島 | 約66.2万円 |
茨城 | 約64.9万円 |
栃木 | 約66.5万円 |
群馬 | 約65.3万円 |
埼玉 | 約68.7万円 |
千葉 | 約68.1万円 |
東京 | 約80.8万円 |
神奈川 | 約74.2万円 |
新潟 | 約61.8万円 |
富山 | 約56.2万円 |
石川 | 約68.5万円 |
福井 | 約66.4万円 |
山梨 | 約67.1万円 |
長野 | 約66.2万円 |
岐阜 | 約68.0万円 |
静岡 | 約69.8万円 |
愛知 | 約70.9万円 |
三重 | 約69.8万円 |
滋賀 | 約65.8万円 |
京都 | 約76.0万円 |
大阪 | 約67.1万円 |
兵庫 | 約65.8万円 |
奈良 | 約65.7万円 |
和歌山 | 約63.5万円 |
鳥取 | 約62.5万円 |
島根 | 約63.8万円 |
岡山 | 約69.4万円 |
広島 | 約69.6万円 |
山口 | 約67.9万円 |
徳島 | 約66.5万円 |
香川 | 約66.8万円 |
愛媛 | 約63.4万円 |
高知 | 約65.7万円 |
福岡 | 約65.7万円 |
佐賀 | 約59.9万円 |
長崎 | 約63.8万円 |
熊本 | 約66.0万円 |
大分 | 約66.1万円 |
宮崎 | 約63.8万円 |
鹿児島 | 約63.5万円 |
沖縄 | 約81.2万円 |
建築主が個人の居住専用住宅、つまり注文住宅などを建てる場合の坪単価の全国平均は約68.4万円、市部は約68.7万円、郡部は約65.9万円となっており、平均値をみると、市部か郡部かによってそれほど大きな違いはない。
しかし、各都道府県の坪単価を見てみると、例えば東京都の平均値は約80.8万円と全国平均を大幅に上回る坪単価となっており、最低値である富山県の約56.2万円とは約24.6万円の差がある。これを、例えば床面積30坪の注文住宅の場合で比較すると、東京都は約2424万円、富山県は約1686万円ということになる。
工法やエリア性に加え、坪単価はハウスメーカーや工務店など、どの建築会社で建てるかによっても異なる。
各ハウスメーカーの広告やチラシに出ているモデルプラン(標準プラン)や施工例の金額を床面積で割れば、どのハウスメーカーが安く建てられそうか分かりそうな気がするが、実はそうとは言いきれない。ここで注意したいのが、ハウスメーカーによって、坪単価の出し方が違うということ。
「坪単価を出すための家の本体価格に照明器具やエアコン、電気やガスの屋外配管の費用を含めているハウスメーカーもあれば、含めていないハウスメーカーもあります。まれに外構費用が含まれていることもあるなど、本体価格に含まれる範囲が違うため、同じ仕様、同じ規模、同じ間取りの家だとしても、ハウスメーカーによって坪単価は違ってくるのです」(佐川さん、以下同)
そのほか、ハウスメーカーによっては「家の本体価格」を「延床面積(建物の床面積の合計)」ではなく「施工面積」で割るケースもある。各階の床面積を合計した面積が延床面積なのに対し、施工面積は玄関ポーチや吹抜け部分など延床面積に含まれない部分も加算されたもの。玄関ポーチなどの分、延床面積よりも大きな数字で割ることになるため、同じプランでも坪単価は安くなる。
このように坪単価の出し方には共通のルールがない。ハウスメーカーによって算出の方法が違うわけだから、複数のハウスメーカーの建築費の高い安いを比較する材料にはできない。同じ坪単価でも、A社には照明器具やエアコンが含まれているが、B社には含まれていないといったケースが出てくるのだ。
坪単価を確認することで、各ハウスメーカーや工務店の建物の本体価格を比較しやすくなるというメリットがある。さらに、同じような仕様の建築会社2社で迷った際には、坪単価を目安にするとコストパフォーマンスも把握しやすくなる。ただし、前述の通り、坪単価の出し方は建築会社によって異なる点に注意が必要だ。
建築会社によって坪単価の算出方法は異なると前述したが、ハウスメーカーか工務店かという点が坪単価に影響するのかも気になるのではないだろうか。
そもそも、ハウスメーカーか工務店かということについては明確な定義はなく、一般的には規模によって区別をすることが多い。例えば、上場しているような大手企業の場合はハウスメーカー、地元密着型の小規模な企業などの場合は工務店と称されることが多い。
坪単価については、同じような規模の家を建てる場合、ハウスメーカーのほうが工務店よりも価格は高くなる傾向はあるものの、工務店でこだわりの注文住宅などを建てる場合などは、ハウスメーカーの場合よりも、高額になることもある。
また、ハウスメーカーの中には、価格を抑えたローコスト住宅などを用意しているメーカーもあるため、必ずしも工務店のほうがハウスメーカーよりも建築費の相場が低いというわけではない。
例えば、東京で家を建てる場合、SUUMO掲載のハウスメーカーの坪単価参考価格は32万円~200万円、工務店の坪単価参考価格は29万円~150万円だ。坪単価40万~50万円台というハウスメーカーもあれば、坪単価100万円以上~という工務店もある。単純に、ハウスメーカーだから坪単価が高く、工務店だから坪単価が低いと考えるのは禁物だ。
ハウスメーカー・坪単価の参考価格 | 32万円~200万円 |
---|---|
工務店・坪単価の参考価格 | 29万円~150万円 |
坪単価は何によって上がったり下がったりするのだろう。まず、同じ延床面積なら家の本体価格が高いほど坪単価は高く、本体価格や安いほど坪単価は下がる。本体価格に影響するのは主に家のデザインや設備の価格だ。
「坪単価に影響するのは内装よりも外観の形。同じ面積の家でも外観デザインに凹凸が多いと施工する面積が広がるため外壁の量や足場のコストもアップします。また、キッチンやトイレなどの水まわり設備のグレードを上げれば上げるほど家の本体価格はアップします。トイレはタンクレスや、タンク付きでも自動で開閉や洗浄ができるタイプ、キッチンはIHクッキングヒーターや引き出し式の収納などの場合、価格が高くなります」
つまり、1階と2階の床面積が同じ総2階建ての家など、できるだけシンプルな形が坪単価を抑えやすい。また、基礎や躯体(土台や壁、柱など建物の構造部分)はお金をかけても、壁紙などあとで変更しやすい部分は安価なものにすることでコストダウンを図ることもできる。
住宅は規模が大きいほど材料を多く使うため本体価格が上がり、コンパクトな家ほど本体価格は下がる。ところが、坪単価の場合、延床面積が小さくなると坪単価は上がる傾向がある。例えば、坪単価50万円で40坪2000万円のプランがあり、予算オーバーだからと10坪狭くしても、坪単価50万円×10坪分の500万円がコストダウンできるというわけにはいかず、坪単価は割高になるケースもあるのだ。
延床面積が減れば、材料費や施工費が減って家の本体価格は下がるが、坪単価は変わらないのでは?と思うかもしれない。家の規模は違っても設備費用や諸経費が変わらないため、1坪当たりの金額が多くなるのだ。
一般的に、本体価格のうち2~3割はキッチンやバス、トイレなどの住宅設備費が占めている。床面積が減ったからといって、住宅設備の数が変わるわけではない。設置費用も延床面積とはあまり関係がない。また、建築資材の運搬費や人件費なども延床面積と正比例して減るわけではない。このため、キッチンやバス、トイレなどのグレードを下げない限り、延床面積が小さいほど、坪単価は高くなることもある。
価格の安いキッチンやシステムバス、壁紙、床材、外壁材などを使えば家の本体価格を抑えられ、結果的に坪単価は低くなる。ところが、設備や内装・外装材のグレードは低くないのに他のハウスメーカーよりも坪単価が低い家、というのもある。これは、標準仕様としてプランニングの際に提案する設備や内・外装材、ドアなどの種類をしぼりこみ、大量に仕入れておくことでコストを下げるなどの工夫によるものだ。ハウスメーカーを選ぶときには、坪単価で比較するのではなく、標準仕様にはどんな設備が含まれているのか、床や壁紙、ドアなどの内装材、外壁材のグレードはどうかなどもしっかり確認しておこう。
前述の通り、坪単価の出し方は建築会社によって異なるが、坪単価を出すときに各社が用いる家の価格は、外構費やガス・電気の工事代などが含まれない本体価格のみを指している場合がある。さらに、住宅を購入するときには住宅ローンの借入費用や税金、地鎮祭や上棟式にかかる諸費用も必要になってくる。これらの費用がかかることで、最終的には坪単価で考えていた建築費用よりも、実際に支払う金額の方が高くなる点に注意が必要だ。
注文住宅の場合、坪単価を上げるのも下げるのも結局は施主の考え方。
「例えば、今は水まわり設備を充実させたいという人が多く、キッチンや浴室、洗面室にお金をかける傾向があります。すると坪単価は高くなります。決まった予算のなかで、設備にお金をかけるのか、外壁や内装にお金をかけるのか、そのバランスの取り方が坪単価を左右するのです」
坪単価は他のハウスメーカーと比較して、その家が安いのか高いのかという判断には使えない。しかし、同じハウスメーカーの商品の比較の目安にはなるだろう。坪単価は建てたい家の本体価格を出すためではなく、目安として上手に活用したい。
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