その土地の用途のことを「地目」(ちもく)といいます。地目が「山林」の区域は居住用に整備された土地ではありませんが、条件によっては家を建てることは可能です。しかし、山林の土地に家を建てるにはさまざまな法律の規制があります。後悔しない家づくりをするために土地家屋調査士の荒木崇行さんにお話を伺い、地目が山林の土地に家を建てるメリット・デメリットや、山林の土地にかかる固定資産税、建築時の注意点などを紹介します。
地目が山林の土地について解説する前に、地目の意味や種類について知っておきましょう。
「地目とは登記記録(登記事項証明書)に記載されるその土地の用途を意味する言葉です。地目は田や畑、宅地、学校用地など23種類に区分され、山林もそのうちの一つです。
地目が宅地以外の土地であっても建築基準法にのっとり家を建てることは可能ですが、家を建ててから1カ月以内に地目を宅地に変更することが不動産登記法によって義務付けられています。これを地目変更といいます」(荒木さん、以下同)
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不動産登記事務取扱手続準則第68条によると、「耕作の方法によらないで竹木の生育する土地」の地目が山林にあたります。
地目が山林であっても、農地として利用されている場合や保安林にあたる場合、市街化調整区域に該当する場合などがあります。その際は注意が必要です。一つずつ解説していきます。
地目が山林であっても、現況が果樹園などの農地として利用されているケースは珍しくありません。登記された地目が山林であっても実際は農地として利用されていると、その土地は農地法によって守られている可能性が高く、家を建てる際には農地転用届や農地転用許可の申請が必要になります。
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地目が山林の土地が保安林だったというケースもあります。保安林とは、農林水産大臣が森林法によって指定した土地のことです。保安林は土砂の崩壊や風害を防ぐために機能している森林であるため、原則として勝手に木を伐採して家を建てることは許されていません。知らずに森林を伐採してしまうと、原状回復を命じられる可能性もあります。
地目が山林にあたる土地は市街化調整区域に指定されている可能性があり、その場合は原則として家を建てることはできません。しかし、例外として農林漁業を営む者の居住用建築物であれば建てることが許可されています。
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「地目が山林の土地に家を建てる場合、法律の制限により自由に家を建てられない可能性があります。建築基準法や都市計画法をはじめ、農地法や森林法、宅地造成等規制法など複数の法律が関連してくるため、家を建てるまでの手続きが複雑になり長引く可能性も。
まずは理想の家を建てられるかどうかを確認するために、その土地にどんな制限があるのか把握しましょう。先述したように、土地の現在の用途や、保安林や市街化調整区域に該当するかどうかも事前にチェックすることが大切です。これらの情報は自力で調べることも可能ですが、土地を売買している不動産会社や家づくりを依頼する建築会社の担当者に相談したほうがスムーズです」
「山林に家を建てる前に、市区町村との協議を行う必要があります。協議内容は、建築基準法上の接道義務を果たしているかや宅地造成工事の可否、森林伐採の可否などです。また、農地として利用されている場合は自治体の農業委員会に現況照会を依頼した上で転用を申請する必要があります。こういった手続きも、建築会社や土地家屋調査士に依頼することをおすすめします」
「山の斜面など水平ではない土地に家を建てる場合は、建築前に盛土や切土などをして宅地造成工事を行う必要があります。また、泥炭地など地盤が弱い土地であれば地盤改良をすることで自然災害による被害を緩和させることができます。ただし、法律によって工事が禁止されている山林もあるため、自治体の窓口などでよく確認しましょう」
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分筆登記とは、一つの土地を複数に分けて登記すること。山林の土地が広大であり、そのすべてを宅地にしないのであれば、「宅地」「山林」「原野」「畑」など、土地を分けたほうがメリットがあります。
「住宅ローンを組む場合は家を建てる土地(宅地)に抵当権がかかり、返済が困難になった場合はその土地を手放さなければいけません。土地を分筆しておくことで、抵当権が行使された場合であっても土地の一部を残しておくことができます」
「山林の土地に家を建てる際は、土地の用途変更に伴い地目を山林から宅地に変える必要があります。法律上、家を建ててから1カ月以内に地目変更をすることが義務付けられています。その土地を管轄する法務局に地目変更の登記申請書を提出しましょう」
「山林は市街地と比べると土地代や固定資産税が安くなる傾向にあります。場所によっては、市街地の相場の10分の1以下、もしくは無料で売買されるケースもあります」
「高台の景観のよさや自然豊かな環境など、魅力的なロケーションは山林のメリットといえます」
都会にはないロケーションを求め、山林に家を建てたいと希望する人もいるようです。
大雨や台風のときの土砂災害には注意が必要です。山林には地盤が強固な土地もあるので、一概に震災に弱いとはいえませんが、水辺が近くにある土地は地盤が弱く、震災時には地盤沈下や建物の倒壊リスクが高い傾向にあります。土地を購入する前にハザードマップを確認したほうがよいでしょう。
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「市街地から遠いため、火事や急病など有事の際に緊急車両の到着が遅くなる可能性があります。また、病院や商業地から離れていることに不便さを感じる人もいます」
「通常の住宅地と比較し、宅地造成工事や地盤改良工事の費用がかかるため建築費用が高くなる傾向にあります。また、建材の運搬が難しい土地の場合は、その分の搬入コストがプラスになることが予想されます」
「すでに解説しているように、地目が山林にあたる土地は必ずしも家を建てられるとは限りません。法律上の制限がかかり、理想の家が建てられない可能性もあります。また、土地の現況照会や自治体との協議で建築までに時間がかかる傾向にあります」
「通常の住宅地と比較すると山林の土地の需要はそれほど多くありません。そのため、手放すときに買い手が見つからなくて困ってしまうケースも。例えば、『家を建てるために山林の土地を購入したけれど、理想の家を建てられないことが分かったからやっぱり手放そう』となったとき、簡単に手放すことができません。そうならないように、よく下調べをした上で土地を購入したほうがよいでしょう」
「地目が山林にあたる土地に家を建てる場合、市区町村や農業委員会とのやりとりにかなり時間がかかります。スムーズに進めば1週間ほどで現況証明や申請が完了しますが、長い場合は数カ月かかることもあります。家を完成させたい時期が予め決まっている場合は特に、時間に余裕を持って進めたほうがよいでしょう」
「上下水道や電気が開通していない場合は工事が必要になり、さらに費用がかかります。居住用の家を建てるのであれば、ある程度インフラが整っている山間部の中で土地を探すこともおすすめです。すでに家が立っている地域であれば、上下水道や電気などのインフラは整っています」
「一口に山林といっても地質はさまざまです。昔は川が流れていた土地もあれば、強固な岩盤の土地もあります。家を建てる上で土地の地盤は気になるポイントかと思います。地盤地図などで地盤について把握したり、事前に不動産会社や建築会社のほうに確認するとよいでしょう」
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「太陽光発電パネルはどこでも設置できるわけではありません。崖崩れの恐れがあるエリアなどでは自治体によって設置が禁止されている可能性もあります。太陽光発電をしたいと考えている方は、こちらも事前に確認しておきましょう」
最後に、地目が山林の土地に家を建てるときに押さえておきたいポイントを荒木さんに伺いました。
「山林はもともと居住用の土地ではないため、市街地に比べて建築に関する制限が多いです。ロケーションのよい山林に家を建てたいと考える方は、ぜひ事前調査を丁寧に行ってください。実際に家を建てられる場所なのかをはじめ、インフラは整っているか、どんな手続きが必要か、市街地からどれくらい距離があるかなど把握し、土地の特性に納得した上で購入するとよいでしょう」
事前調査や各種申請に不安がある場合は、建築会社や土地家屋調査士に相談しましょう。プロに任せることで確認漏れや手続きのミスを防ぎ、安心して家づくりに進むことができるはずです。
「耕作の方法によらないで竹木の生育する土地」の地目が山林と定められている
地目が山林の土地に家を建てる場合、法律上の制限がかかる可能性が高い
制限や土地の特性について事前によく調べてから家を建てることが大切