土地の購入や相続にあたって、「地目」という言葉を耳にする方も多いと思います。実は「田」や「畑」など、地目によっては勝手に家を建てることができません。仮に地目変更の登記を怠ると、過料が科せられる可能性も。この記事では、地目に詳しい東京土地家屋調査士会の広報事業部に、地目の基本概念や確認方法、変更手続き、地目が土地活用に与える影響などを教えていただきました。
まずは、あまり聞き慣れない「地目」という言葉の意味や重要性など、基本から解説します。
地目(ちもく)とは、土地の登記記録(登記事項証明書)に記載される情報のひとつであり、簡単に言えば「土地の用途」のことです。地目が登記事項であることは不動産登記法第34条に定められており、それぞれの土地の状況や用途によって23種類に区分されます。
地目は、登記簿に記録された「登記地目」と税的な評価の基礎となる「課税地目」、そして現在の土地の用途で判断される「現況地目」の大きく3つに分けられます。登記地目は申告制であるため自ら変更しない限り変わることはありませんが、実際の評価はその時々の状況によってなされるため、登記地目と課税地目・現況地目が異なるケースも存在し得るのです。
では、登記地目の区分によって土地の利用に制限はかかるのでしょうか。
家を建てられるかどうかでいえば、開発行為に制限がある保安林などを除けば登記地目によって建築の可否が判断されることはありません。先述の通り、登記地目は「その土地が登記された時点」の現状を表したものであって、例えば、牧場や原野を購入して建築基準法に則り、家を建てることはできます。なお、「宅地」以外の地目の土地に家を建てた後は、必ずその土地の地目を「宅地」に変更することが不動産登記法で定められています。
ただし、「田」や「畑」と登記されている土地を、造成して「宅地」に地目を変更する場合は注意が必要です。後ほど詳しく解説します。
先述したように、地目は23種類に分類されます。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
田 | 農耕地で用水を利用して耕作する土地 |
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畑 | 農耕地で用水を利用せず耕作する土地 |
宅地 | 建物の敷地および建物の維持もしくは効用を果たすために必要な土地 |
学校用地 | 校舎、附属施設の敷地および運動場 |
鉄道用地 | 鉄道の駅舎、附属施設および路線の敷地 |
塩田 | 海水を引き入れて塩を採取する土地 |
鉱泉地 | 鉱泉(温泉を含む)の湧出口およびその維持に必要な土地 |
池沼(ちしょう) | かんがい用水でない水の貯留池 |
山林 | 耕作の方法をせず竹木の生育する土地 |
牧場 | 家畜を放牧する土地 |
原野 | 耕作の方法をせず雑草、かん木類の生育する土地 |
墓地 | 人の遺体または遺骨を埋葬する土地 |
境内地 | 境内に属する土地であって、宗教法人法の第3条第2号および第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しないものを含む) |
運河用地 | 運河法の第12条第1項第1号または第2号に掲げる土地 |
水道用地 | 専ら給水の目的で敷設する水道の水源地、貯水池、ろ水場または水道線路に要する土地 |
用悪水路 | かんがい用または悪水はいせつ用の水路 |
ため池 | 耕地かんがい用の用水貯留池 |
堤 | 防水のために築造した堤防 |
井溝(せいこう) | 田畝または村落の間にある通水路 |
保安林 | 森林法に基づき農林水産大臣が保安林として指定した土地 |
公衆用道路 | 一般交通の用に供する道路(道路法による道路であるかどうかを問わない) |
公園 | 公衆の遊楽のために供する土地 |
雑種地 | 以上のいずれにも該当しない土地 |
「所有する土地の地目がわからない」という場合、どのように確認すればいいのでしょうか。地目を調べる2つの方法を解説します。
土地の登記地目は、登記記録を見ればわかります。登記記録は近くの法務局で申請するか、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」(下記)から登記記録のPDFを入手することができます。ただし、その土地に家を建てるために住宅ローンを組む場合、登記事項証明書が必要になりますが、ほとんどの金融機関ではPDFの書類は認められていません。その点を注意しましょう。
一般社団法人 民事法務協会 登記情報提供サービス
登記・供託オンライン申請システム
登記簿謄本の詳しい入手方法や費用についてはこちら
不動産登記って何? 基礎知識から不動産登記の目的・費用・必要書類・流れまですべて紹介!
より簡易的な確認方法として、土地の固定資産税の納税通知書を見る方法があります。同通知書には固定資産一つひとつの評価額や固定資産税などが記載されている「課税明細書」や「評価明細書」などが同封されていますが、そこにも地目が記載されています。自治体によって記載方法に若干の違いがありますが、「地目、または用途および構造」や「地目(住宅区分)または家屋構造」などと明記されているのでわかりやすいでしょう。
先ほどお話ししたように、地目には「登記地目」と「現況地目」があります。土地の評価にあたっては現況地目のほうが優先されるため、登記上で「原野」となっていても実際には現況の地目で評価されます。
この考え方は、地目の異なる土地が一体として使われている場合にも同様です。例えば、「隣接するA土地(登記地目:雑種地)、B土地(登記地目:宅地)のいずれもゴルフ場として使っている」ケースでは、その一団の土地ごとに評価されるため、B土地に関しても主たる地目である雑種地として評価されます。
では、地目を変更したい場合はどのような手続きが必要なのでしょうか。具体的な手続きを解説します。
地目が宅地以外で登記されている土地に家を建てたときなど、地目が変更になった場合に申請することを「地目変更登記」と言います。不動産登記法により地目に変更が生じた日(家を建てる際は、造成工事が完了して現況地目が「宅地」に変わった時点)から1カ月以内に申請を行うことが定められており、申請を怠った場合は10万円以下の過料に処されることがあるので、注意が必要です。
先述のように地目は「現状の土地の用途」を示すものなので、「これから宅地にするから、家を建てる前に地目を宅地に変更しておこう」ということはできません。あくまでも宅地として造成した後に宅地へと地目を変更できます。
(1)「宅地」以外の地目の土地を、宅地に造成
(2)造成が完了して現況が「宅地」に
(3)建築確認を取得する
(4)家を建てると同時に地目変更登記を申請する
地目変更はその土地を管轄する法務局に地目変更申請書を届け出ます。土地の所有者本人が行う場合は法務局で申請書を入手し、必要事項を記入して申請します。その後、法務局の人が書類の確認と、現地調査を行い、申請内容を確認し、問題がなければ登記完了証を法務局で受け取るか、郵送してもらいます。
実は、不動産登記は所有者本人が行うのが原則です。地目変更は土地を測量する必要はありませんし、ある程度のことなら法務局でも教えてもらえるでしょう。そんなに難しい作業ではないので、時間的に余裕があるなら挑戦してみてもいいかもしれません。登録免許税は不要で、かかるのは交通費など実費のみとなります。
ただし、相続に伴う土地の所有権移転や、広大な土地の一部を分筆(※)しなければならない場合などは、地目変更以外にも登記が必要です。こうなると素人には難しいので司法書士や土地家屋調査士に「委任」したほうがよいでしょう。土地の売買などで地目変更を急いでいる場合も同様です。
※分筆/土地の単位は一筆(いっぴつ)二筆(にひつ)……と表記される。一筆の土地を分ける場合に分筆(ぶんぴつ)という
分筆について詳しくはこちら
地積測量図とは? 公図との違いは? 法務局のオンライン取得が便利! 地積図がない場合の対処法も
地目変更登記の申請書は「土地地目変更登記申請書」です。法務局のホームページからダウンロードすることができます。
次に、地目変更をした日(登記原因日)やその日付を特定する書類が必要となる場合があります。
建物を建てて地目を宅地とするためには、建物の新築年月日が登記原因日となります。また、一筆全部を駐車場として利用し雑種地として地目変更する場合は、駐車場として造成した日が登記原因日です。
建物を新築した場合、その建物の表題登記(まだ登記されていない土地や建物について、新規で行う登記)も必要なので、建物表題登記と地目変更登記をあわせて土地家屋調査士にお願いしたほうがよいでしょう。
なお、土地の所有者が亡くなっている場合は、土地の所有者が亡くなったことのわかる戸籍謄本や除籍謄本などが必要になります。
また土地の所有者の登記の住所が現在の住所と異なる場合は、土地の所有者の住民票または戸籍の附票が必要です。
手数料は、単純に地目変更だけなら、その土地の状況や土地家屋調査士によりますが、4万~6万円程度が目安です。ただし、調査に手間がかかる場合や業務の難易度が高ければさらに費用がかかります。
自分で地目変更を行う場合、こうした手数料を省くことができますが、土地家屋調査士に委任して地目変更を申請すれば、法務局の現地調査が省かれるなど時間的なメリットがあります。
特に地目の認定や登記原因日の判断が難しい場合は、土地家屋調査士に依頼することをオススメします。
地目についてより包括的に理解するために、ここからは「用途地域」や「建ぺい率・容積率」など、地目に関連する重要事項について解説します。
登記関係の手続きをしているとよく耳にする「用途地域」は、「建物の用途」によってエリアを区分するものです。計画的な市街地形成を目的として、各自治体がエリアを13地域に区分しており、この区分によって建てられる建物などの種類や大きさなどが制限されます。つまり、仮に登記地目が「宅地」となっていても、用途地域の制限によっては希望する建物を建てられない可能性もあるのです。
なお、用途地域の区分についてはおおむね5年に一度見直しされます。直近でいえば、2019年4月に13地域目となる「田園住居地域」が追加されました。
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用途地域とは? 用途地域の調べ方や13種類の特徴、建設制限の詳細を一覧で解説!
敷地面積(建物を建てる土地の面積)に対する建築面積(建物を真上から見たときの面積)の割合を指す「建ぺい率」と、敷地面積に対する3次元空間の割合を指す「容積率」も土地を制限する要素のひとつです。これは、土地活用や家づくりでよく聞かれます。建ぺい率と容積率の上限は、先述した「用途地域」によって設定されているため、土地活用を考える際には用途地域や地目の区分とあわせて確認する必要があるでしょう。
建ぺい率・容積率について詳しくはこちら
「建蔽率(建ぺい率)」「容積率」とは? 知っておきたい建物の規制知識や計算方法を紹介
農地保護の観点から農地法によって守られている「田」や「畑」といった農地に関しては、登記地目の変更に制限がかかります。農地法は、農業生産の増大や食料の安定供給などを目的とした法律で、主に農地の権利移動や転用の制限などの取り決めが定められています。
この法律によって、親から相続した田んぼに家を建てようと思っても、勝手に農地以外の地目に変更できません。どうしても農地以外の別の目的(宅地など)で使いたい場合には、農業委員会に証明書を発行してもらう「農地転用」の手続きが必要になります。
ただし、農業委員会の証明書発行はケースバイケースです。すぐにもらえることもあれば、なかなか許可されないこともあります。農業委員会とのやりとりは素人には難しいので、行政書士などに依頼することをおすすめします。
農地の用途変更や売買について詳しくはこちら
農地転用とは? 農地から宅地に転用するには? 必要な許可や手続きの流れを解説!
地目の区分は固定資産税や相続財産評価を左右する要素ですから、当然土地の価値や不動産価格にも影響します。ここで注意したいのが、地目は登記時点での土地の用途であって、必ずしも現状の土地の用途を示しているとは限らないこと。「地目が『宅地』以外であったとしても、家が立っていて生活していると判断されれば、宅地として課税評価される」といったように、実際には地目ではなく現況から評価して課税されています。土地の売買においても同様で、地目が宅地以外でも、宅地としてすでに使われている土地であれば宅地並みに評価されることがほとんどです。
ただし、本来は田んぼなのに、農業委員会に黙って家を建てた場合などは、農地に戻すように求められる可能性があるため、やはり地目が「田」「畑」の場合は不動産価格や土地の評価は下がるでしょう。また、「田」「畑」以外の地目で、まだ宅地としての造成が行われていない土地の場合、家を建てるにあたって造成工事の費用や手間がかかるため、やはり評価が低くなりがちです。
とはいえ、造成工事をしないと地目変更はできません。売却を考える場合、売主側が造成工事の費用を出して宅地に地目変更した場合と、農地のままで売った際とのトータルでの費用の差をよく検討したほうがよいでしょう。
住宅ローンを組む場合、金融機関は土地に抵当権を設定しますが、地目が宅地以外の場合は抵当権を設定しない、つまり住宅ローンが組めないことがあります。特に地目が「田」「畑」はたいてい組めません。それ以外の地目でも金融機関によっては、地目変更を求められることがあります。
宅地以外の地目の土地で家を建てる場合、地目変更をした後に住宅ローンを組んだほうがよいでしょう。
では宅地以外の地目で、住宅ローンを組むために地目変更を行う場合、どんな流れになるのでしょうか。
造成工事等が完了し現況地目が変わり、建築許可などが下りた時点で地目変更の申請ができます。住宅ローンは地目変更の申請が通った後に抵当権が設定されます。つまり(1)の造成工事の費用を住宅ローンには組み込めませんので、その分のつなぎ融資が必要になります。
なお先述の通り、農地以外なら住宅ローンを組める可能性もあるので、まずは金融機関に相談してみましょう。
地目とは土地を登記する際に申請した「土地の用途(種類)」であり、必ずしも現状と一致しないことがある
地目が「宅地」以外の場合、地目を変更しないと住宅ローンは組めない場合がある
固定資産税の評価や、売買時の場合は地目より現状に重きが置かれる
「田」「畑」の地目変更には農地法が関連するので要注意。農地転用の可否はケースバイケース