土地の購入や相続の際に「地目」という言葉を耳にする人も多いと思います。実は「田」や「畑」など、地目によっては勝手に家を建てることができません。あるいは地目変更の登記を怠ると、過料が科せられる!? そもそも地目とは? 地目変更の必要書類はどこで手に入れる? 費用は? 地目に詳しい東京土地家屋調査士会の石野さんと小木曽さんに教えていただきました。
地目(ちもく)とは、「土地の用途」のこと。不動産登記法により、土地の登記記録(登記事項証明書)に記載される情報の1つで、現在は全部で23種類(下記)あり、この中からその土地の地目として記載します。
田 | 農耕地で用水を利用して耕作する土地 |
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畑 | 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地 |
宅地 | 建物の敷地、および建物の維持もしくは効用を果すために必要な土地 |
学校用地 | 校舎、附属施設の敷地及び運動場 |
鉄道用地 | 鉄道の駅舎、附属施設及び路線の敷地 |
塩田 | 海水を引き入れて塩を採取する土地 |
鉱泉地 | 鉱泉(温泉を含む)の湧出口およびその維持に必要な土地 |
池沼(ちしょう) | かんがい用水でない水の貯留池 |
山林 | 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地 |
牧場 | 家畜を放牧する土地 |
原野 | 耕作の方法によらないで雑草、かん木類の生育する土地 |
墓地 | 人の遺体又は遺骨を埋葬する土地 |
境内地 | 境内に属する土地であって、宗教法人法の第3条第2号および第3号に掲げる土地(宗教法人の所有に属しないものを含む) |
運河用地 | 運河法の第12条第1項第1号又は第2号に掲げる土地 |
水道用地 | 専ら給水の目的で敷設する水道の水源地、貯水池、ろ水場又は水道線路に要する土地 |
用悪水路 | かんがい用又は悪水はいせつ用の水路 |
ため池 | 耕地かんがい用の用水貯留池 |
堤 | 防水のために築造した堤防 |
井溝(せいこう) | 田畝又は村落の間にある通水路 |
保安林 | 森林法に基づき農林水産大臣が保安林として指定した土地 |
公衆用道路 | 一般交通の用に供する道路(道路法による道路であるかどうかを問わない) |
公園 | 公衆の遊楽のために供する土地 |
雑種地 | 以上のいずれにも該当しない土地 |
注意したいのが、土地の登記記録に記載されている地目は登記された時点での現状から登記されたもので、現在の状況とは異なる場合があるということです。
また、登記関係の手続きをしているとよく耳にする用途地域とは、「建物の用途」で区分した地域のことを指します。地目とは異なるので注意しましょう。
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用途地域とは? 用途地域の一覧で土地や家を探すときやライフスタイルにあった地域の選び方を知ろう
家を建てられるかどうかでいえば、地目によって建築の可否が判断されることはありません。先述の通り、地目は「その土地が登記された時点」の現状を表したものであって、例えば牧場や原野を購入して建築基準法に則り家を建てることはできます。「宅地」以外の地目の土地に家を建てた後は、必ずその土地の地目を「宅地」に変更することが不動産登記法で定められています。
「田」や「畑」と登記されている土地を、造成して「宅地」に地目を変更する場合は注意が必要です。農地保護の観点から、「田」や「畑」といった農地は農地法で守られているからです。
例えば親から相続した田んぼに家を建てようと思っても、勝手に農地以外に変更することができないのです。
そのため、農地以外の別の目的(宅地など)で使う(農地転用)には、農業委員会に証明書を発行してもらう必要があります。
農業委員会の証明書発行はケースバイケースです。すぐにもらえることもあれば、なかなか許可されないこともあります。農業委員会とのやりとりは素人には難しいので、行政書士などに依頼することをおすすめします。
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土地の地目は、登記記録を見ればわかります。登記記録は近くの法務局で申請するか、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」(下記)から登記記録のPDFを入手することができます。ただしその土地に家を建てるために住宅ローンを組む場合、登記事項証明書が必要になりますが、ほとんどの金融機関ではPDFの書類は認められていませんので注意してください。
一般社団法人 民事法務協会 登記情報提供サービス
登記・供託オンライン申請システム
登記簿謄本の詳しい入手方法や費用についてはこちら
不動産登記って何? 基礎知識から不動産登記の目的・費用まですべて紹介!
また土地の固定資産税の納税通知書には、固定資産ひとつひとつの評価額や固定資産税などが記載されている「課税明細書」や「評価明細書」などが同封されていますが、そこにも地目が記載されています。この課税明細書等を見ても地目がわかります。
地目が宅地以外で登記されている土地に家を建てたときなど、地目が変更になった場合に申請することを「地目変更登記」と言います。不動産登記法により地目に変更が生じた日(家を建てる際は、造成工事が完了して現況地目が「宅地」に変わった時点)から1カ月以内に申請を行うことが定められていて、申請を怠った場合は10万円以下の過料に処されることがありますので注意が必要です。
先述のように地目は「現状の土地の用途」を示すものですから、「これから宅地にするから、家を建てる前に地目を宅地に変更しておこう」ということはできません。あくまでも宅地として造成した後に宅地へと地目を変更できます。
(1)「宅地」以外の地目の土地を、宅地に造成
(2)造成が完了して現況が「宅地」に
(3)地目変更を行う
(4)地目変更と同時に家を建てる
地目変更はその土地を管轄する法務局に地目変更申請書を届け出ます。土地の所有者本人が行う場合は法務局で申請書をもらい、必要事項を記入してまず申請します。その後、法務局の人が書類の確認と、現地調査を行い、申請内容を確認し、問題がなければ登記完了証を法務局で受け取るか、郵送してもらいます。
実は、不動産登記は所有者本人が行うのが原則です。地目変更は土地を測量する必要はありませんし、ある程度のことなら法務局でも教えてもらえます。時間に余裕があるなら、そんなに難しい作業ではありませんから、挑戦してみてもいいかもしれません。登録免許税も不要ですから交通費など実費のみです。
ただし相続に伴う土地の所有権移転や、土地の中に私道があって分筆(※)しなければならない場合などは、地目変更以外にも登記が必要となります。こうなると素人には難しいので司法書士や土地家屋調査士に「委任」したほうがよいでしょう。土地の売買などで地目変更を急いでいる場合も同様です。
※分筆/土地の単位は一筆(いっぴつ)二筆(にひつ)……と表記される。一筆の土地を分ける場合に分筆(ぶんぴつ)という
分筆について詳しくはこちら
「地積測量図」って何?法務局で取得できる? 土地面積がわからないときの方法は?
地目変更登記の申請書は「土地地目変更登記申請書」です。法務局のホームページからダウンロードすることができます。
次に地目変更をした日(登記原因日)やその日付を特定する書類が必要となる場合があります。
建物を建て地目を宅地とするためには建物の新築年月日が登記原因日となります。また、一筆全部を駐車場として利用し雑種地として地目変更する場合は駐車場として造成した日が登記原因日となります。
建物を新築した場合、その建物の表題登記(まだ登記されていない土地や建物について、新規で行う登記)も必要ですので、建物表題登記と地目変更登記をあわせて土地家屋調査士にお願いしたほうがいいでしょう。
なお、土地の所有者が亡くなっている場合は、土地の所有者が亡くなったことのわかる戸籍謄本や除籍謄本などが必要になります。
また土地の所有者の登記の住所が現在の住所と異なる場合は、土地の所有者の住民票または戸籍の附票が必要です。
手数料は、単純に地目変更だけなら、その土地の状況や土地家屋調査士によりますが、4万~6万円程度が目安です。ただし、調査に手間が掛かる場合や業務の難易度が高ければさらに費用がかかります。
自分で地目変更を行う場合はこうした手数料を省くことができますが、土地家屋調査士に委任して地目変更を申請すれば、法務局の現地調査が省かれるなど時間的なメリットがあります。
特に地目の認定や登記原因日の判断が難しい場合は、土地家屋調査士に依頼することをおすすめします。
住宅ローンを組む場合、金融機関は土地に抵当権を設定しますが、地目が宅地以外の場合は抵当権を設定しない、つまり住宅ローンが組めないことがあります。特に地目が「田」「畑」はたいてい組めません。それ以外の地目でも金融機関によっては地目変更を求められることがあります。
宅地以外の地目の土地で家を建てる場合、地目変更をした後に住宅ローンを組んだほうがよいでしょう。
では宅地以外の地目で、住宅ローンを組むために地目変更を行う場合、どんな流れになるのでしょうか。
(1)造成工事を行う。がけ崩れなどが生じる地域は都道府県知事の開発許可が必要
(2)自治体の窓口で家の建築許可を得る
(3)家の建築開始とほぼ同時に地目変更を申請する
(4)地目変更された後に住宅ローンを借りられる
造成工事等が完了し現況地目が変わり、建築許可等がおりた時点で地目変更の申請ができます。住宅ローンは地目変更の申請が通った後に抵当権が設定されます。つまり(1)の造成工事の費用を住宅ローンには組み込めませんので、その分のつなぎ融資が必要になります。
なお先述の通り、農地以外なら住宅ローンを組める可能性もあるので、まずは金融機関に相談してみましょう。
地目は登記時点での土地の用途であって、必ずしも現状の土地の用途を示しているとは限りません。そのため土地の価値は、ある意味地目と関係なく決められています。実際、固定資産税は地目ではなく現状から評価して課税しています。例えば地目が宅地以外であったとしても、家が建っていて生活していると判断されれば、宅地として課税の評価を行っています。
同様に土地の売買でも、地目が宅地以外でも宅地として既に使われている土地であれば、宅地並みに評価されることがほとんどです。
ただし本来は田んぼなのに、農業委員会に黙って家を建てていた場合などは、農地に戻すように求められる可能性があるため、やはり地目が『田』『畑』の場合は評価が下がるでしょう。
また、「田」「畑」以外の地目で、まだ宅地としての造成が行われていない土地の場合、家を建てようと思う人がその土地を購入するなら造成工事の費用が必要になるなど手間がかかるため、やはり評価が低くなりがちです。とはいえ造成工事をしないと地目変更できませんから、売主側が費用を出して宅地に地目変更した場合と、そのままの状態で売った際とのトータルでの費用の差をよく検討した上で、売却を考えたほうがよいでしょう。
地目とは土地を登記する際に申請した「土地の用途(種類)」であり、必ずしも現状と一致しないことがある
地目が「宅地」以外の場合、地目を変更しないと住宅ローンは組めない場合がある
固定資産税の評価や、売買時の場合は地目より現状に重きが置かれる
「田」「畑」の地目変更は農地法が関連するので注意が必要