見晴らしのいい高台の土地に家を建てたいと思う人もいるでしょう。しかしそこが「宅地造成工事規制区域内」だとしたら、どんなことに気をつけたらいいのでしょう? そもそもそういった区域を決めている「宅地造成等規制法」とはどんな法律なのか? 一級建築士の佐川さんに教えてもらいました。
「宅地造成」とは森林や農地などを宅地(建物を建てられる土地)にするために、傾斜のある土地を平らにするなど土地の形状などを変更することです。また地盤改良や工場跡地を住宅地にするといった場合も宅地造成になります。一定規模以上の土地を宅地造成する場合、都市計画法等によって都道府県知事等(※)からの「開発許可」を受けなければなりません。
※都道府県知事等とは、(1)都道府県知事(2)政令市・中核市・特例市においてはそれぞれの長(3)地方自治法に基づいて都道府県知事から許可等の権限を移譲された市町村の長のこと
「宅地造成等規制法」とは、がけ崩れや土砂災害等が特に懸念される区域内での宅地造成工事について、災害防止のために必要な規制を行うことを目的に1961年に制定されました。この法律では、各都道府県知事等ががけ崩れなどの生じやすい区域を規制区域に指定しますが、その区域のことを「宅地造成工事規制区域」と呼びます。区域の指定や見直しも都道府県等で行います。山の多い日本では都市部が区域に指定されていることも珍しくありません。
区域内の宅地造成工事を行う場合、まず地盤改良や擁壁(ようへき)工事の計画が技術基準に適合していることを示して「工事の許可」を受けることが必要です。さらに工事が終了後にも基準に適合しているかの検査を受けなければなりません。基準に適合していれば検査終了後に「検査済証」が交付されます。
宅地造成工事規制区域内の土地では、下記の工事を行う場合に都道府県知事等の許可が必要になります。
また高さ2mを超える擁壁や排水施設の除却(取り壊すこと)を行うときも届け出が必要です。
工事の認可というと、つい区域内で新たに土地を造成する場合ばかりを想像しがちですが、既に造成済みの宅地でも、既存の擁壁や排水設備が不十分で危険だと判断された場合、改善の勧告や命令を受けることがあります。この際の工事も許可が必要になります。
また住んだ後に、例えば増改築をするために新たに切土をするなど宅地造成工事が必要になった場合も、その都度許可を受ける必要があります。
どこが宅地造成工事規制区域に指定されているかは、各都道府県庁で調べることができるほか、許可を移譲されている政令市や中核市等の市役所などで調べられる場合もあります。ホームページで公開していることも多いので、希望する土地が区域内かどうか気になる場合は調べてみるといいでしょう。また区域内の土地や住宅を購入する場合は不動産会社が教えてくれます。
区域内に土地を買い、造成を自らの責任で行う場合、当然切土や盛土の造成が必要のない土地と比べて造成費用が余計にかかります。その分土地の価格は安いでしょうが、トータルでどれくらい必要になるのか、購入前に調べておきたいところです。
とはいえ、造成費用はその土地の状況によって変わるため、一概に切土はいくら、盛土はいくらというふうに言えないのが実情です。
「例えば同じ高さの切土でも、勾配がきつい場合は擁壁の仕方も変えないといけないので、費用が余計にかかります。また現場までの道が狭くて4tトラックが入らない場合は、2tトラックなど小さいトラックで往復回数を増やさなければなりませんから運搬費も余計にかかります」
さらに切土で出た残土の処理費用も必要です。区域内で土地を買って家を建てたい場合は、販売している不動産会社などに念入りに相談したほうがいいでしょう。
またこうした宅地造成工事は当然他の土地と比べて時間がかかります。これも土地の状況次第で工期の長さは異なります。
なお購入後に増改築をするために切土や盛土をする場合も、工事の許可が必要になりますから、最初に家の間取りなどの計画を念入りにしておいたほうがいいでしょう。
宅地造成工事規制区域内の分譲地を購入して家を建てる場合は、既に必要な工事を終えてからの販売になりますから造成費用を自ら払うことはありません。宅地造成費用は土地代に含まれています。また購入時に工事が基準に適合していることを示す「検査済証」はあるかを確認するようにしましょう。
宅地造成工事規制区域内で中古一戸建てを購入する場合、まずは「検査済証」の有無を確認しましょう。石積みなどの古い擁壁など、法律が施行される以前の昔の擁壁の中には確認申請をしていない場合もあるのです。
また、もし既存の擁壁や排水施設が老朽化によって危険性が高いと、改善命令を受ける場合があります。そうなると認可を受けて工事をし直す必要がありますし、費用がかかります。そのため「検査済証」の確認だけでなく必ず現地へ行き、自らの目で見て、擁壁の状態を確認しましょう。その際もし不安を感じるようなら、将来的に工事が必要になる可能性も踏まえ、工事にいくらくらいかかるのか調べたほうがいいでしょう。
そのほか購入後に増改築をするために切土や盛土をする場合も、新築一戸建て同様、工事の許可が必要になります。
宅地造成工事規制区域内の新築・中古マンションを購入する場合は、工事が基準に適合していることを示す「検査済証」の有無を確認しましょう。またレアケースですが、特に古い中古マンションを購入した場合、万一住んだ後で造成工事が必要になったときは管理組合によって工事を行うことになりますが、その際の費用は積立修繕金に含まれているかなどを確認しておくと安心です。
このように、自ら土地を購入して造成しようとなると費用や工期がかかります。目先の価格の安さだけで判断せず、トータルで考えて判断するようにしましょう。また分譲地やマンションを購入する場合は「検査済証」を確認するようにしましょう。