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ヒッピーがいる街「代田橋・新代田」が面白い

著: 羽佐田 瑶子 

代田橋に住み始めて4年。本当は下北沢に住みたかった。

本と映画と演劇と音楽が好き。人をだまさない人が好き。ヴィレッジヴァンガードで岡崎京子や魚喃キリコ、SAKEROCKやPerfume……胸がときめくカルチャーにたくさん出逢い、本多劇場で観た大人計画の舞台に頭をぶちぬかれ、ライブハウスのSHELTERでギターを抱える彼らに夢を重ねた。ぴあ&ぴあで深夜まで飲み、ピンクのネオンで飾られたクレープ屋でクリームたっぷりの大きなクレープをほおばるのがラーメンの代わりだった。大学が近かったこともあり毎日のように通った。そのどんな人も受け入れる優しさが好きだった。

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だが、ひとりで住む街を決めるわけではなかったこと、大学時代の思い出を引きずってしまいそうなこと、いろんな理由の積み重ねで、少し距離を置こう、と下北沢から自転車で10分程度の代田橋に住むことに決めた。

住むまでは駅に降りたこともなかったが、たまたま仲の良い友達が近くに住んだ。その子は、突然海外で働き始めたり、お世話になっていた先生にはむかったり、少し不思議だけどとても人間らしい人で、だからそんな人から「この街はヒッピーが住んでいるんだよ」と聞いたときは、その話を信じてちょっと興奮した。下北沢でも中野でも高円寺でもない、代田橋という未開拓の地にはそんな素敵な人たちが住んでいるんだ。そうして興味をもち、遊びに連れていってもらったのが、代田橋にある“沖縄タウン”だった。

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沖縄タウンは、代田橋の駅から歩いて約10分の場所にある。駅前の小さな飲み屋さんがひしめき合う通りをぬけ、甲州街道を渡る。沖縄タウンと書かれた赤い鳥居をくぐると比較的静かな商店街が始まり、確かに泡盛を売る酒屋や首里製麺という看板をぶら下げた店はあるが、それほど沖縄感がある場所ではなかった。

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しかし、「めんそ~れ大都市場」と書かれた看板をくぐり、細い道を入っていくと胸が高鳴った。店内から聞こえてくる三線や沖縄民謡の歌声、オリオンビールをかかげた提灯の数々。人々が密集し、語らう、陽気な「小さな沖縄」が確かにあった。自由であたたかくて、ピースフル。ちょっと古びた店先の路上に、段ボールみたいな机と椅子を出して楽しそうに泡盛を飲む人々を見ていると幸せな気持ちになれた。毎晩のように通い始めるようになった。

代田橋の飲食店はどこも愛があり美味しい。鮭を愛しすぎた店「しゃけ小島」のメニューは鮭・上鮭・特上鮭・とろろ鮭・鮭いくら丼などしゃけ尽くし。一度差を確かめようと鮭メニューのほとんどを並べてたいらげたこともあったが全て美味しくて優劣がつけられなかった。

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しゃけ小島にはカウンターがあり、女性ひとりの方も多いので、気兼ねなくふらりと立ち寄れる。たいがい「親子丼」こと鮭いくら丼か、鮭バターライス(白)をオーダーする。定食にすると丸いお盆にお味噌汁と、御新香と、丼の一汁三菜がきれいに盛り付けられて出てくる。バランスの良い実家で食べるような食事に癒やされる。

いただきます、と手を合わせてもぐもぐ食べていても特に店員さんは話しかけてこないし、踏み込んでこないから、目の前にある鮭と真摯に向き合うことができる。ひとりで食べることが嫌いじゃなくなったのは、このお店のおかげかもしれない。しゃけと手をつないで、踊るように食べているような、幸福感に包まれるひととき。

食器好きな私にとって、ひとつひとつの陶器や御猪口、お箸のデザインが洗練されていているところもこのお店の好きなところだ。店内に置かれる、謎の置物たちの由来を友人と適当にあーだこーだ予想し合うのも楽しい。

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「しゃけ小島」の向かいの店がラム酒を愛しすぎたラム酒ソムリエがいる「SABANI」だ。いかにも度が高そうな真っ赤な瓶が特徴的な“CORCOR”。

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このお店に来るときは、毎度必ず一杯目にオーダーする。何にも飾られていない口の中で、ほんのり甘くキュッと口の中を絞める感覚をできる限り楽しみたいから、絶対一杯目だ。CORCORのオフィシャルホームページには「南大東島が育んだサトウキビを、人生を楽しむためのスピリッツ(魂)として誕生させたラム酒です」と書かれている。初めて飲んだとき、陽気な言葉が次々に生まれた、あの楽しかった時間と思い出は、きっとこの子の仕業なのだと思う。

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泡盛も100種以上用意され一杯380円~という破格の料金設定。これも愛あってこそ。呑兵衛にはたまらないし、いくら飲んでも歩いて帰れる安心感からか、周りの人も皆気持ちのよい飲みっぷりで店を楽しんでいる。

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代田橋には好きな友達を連れてくることが多い。おいでよ!と誘っては、お店をふらつく。「てぃんさぐぬ花」の2階は冬になるとコタツが出る。コタツなんて実家になかったのに、なんだか懐かしい気持ちになった。友達と一緒にコタツに入って、オリオンビールや島豆腐を食べ、BGMに流れるBEGINを時々口ずさんだりする。好きだった人の話とか、20代までにやりたいこととか、好きな食べ物ランキングを発表しあったり。今まで聞いたことがなかったお互いの話がとめどなくあふれ、気が付いたら終電で走っていく友達の後ろ姿も何度も見た。

人が、好きな人と楽しく笑って飲んでいる姿が好きだ。歯が浮くようなお世辞を言わなくてもよくて、相手の顔色をうかがわなくてもよくて、伝えたい事を伝えて、時々探り合ったりして、くだらない話もまじめな話もする。そんな最高にハッピーな時間を自然とつくってくれる「沖縄の魔法」のようなものを、皆が楽しみに来ている場所がこの沖縄タウンだ。

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代田橋の沖縄タウンで感じたピースフルな「ヒッピー精神」のようなものは、代田橋から15分程度の新代田にもあると思う。下北沢の伝説的ライブハウス「SHELTER」の店主がオープンしたライブハウス「FEVER」があり、このお店を起点にコーヒーショップやカフェ、飲み屋、レコード屋などが立ち並んでいる。

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ライブ後はいつも23時近くになる。ある日、ライブ後に自転車でうろうろしていたら、道まではみ出すほど人がごった返す立ち飲み屋「えるえふる」を見つけた。お店の中から、爆音ではっぴいえんどの「風をあつめて」が流れていた。自転車を止めて聴いていたら、次は吉田美奈子が流れてきた。なんてセンスのいい選曲だろう。

店名の「えるえふる」を検索すると、このお店がCDショップ・残響shopの元店長が営む、レコード屋併設の立ち飲み屋だと分かった。身震いするほどうれしかった。残響といえば高校生のときに通い詰め、9mm Parabellum Bulletやcinema staffなど邦楽ロックの魅力を知った、聖地のような場所。その聖地が新代田で姿を変えて、またインディーズ精神を胸に今宵も好きな音楽をかけ続けている姿は相変わらずカッコよかった。

ヒッピーという呼び名は、昔「フーテン」とも呼ばれていたそうだ。既成の価値観や制度に縛られることなく、人間らしい生活を営む人々がイメージされる。下北沢のカルチャーが姿・形を変えて新代田・代田橋に流れてきて、また新しい“面白いこと”を世の中に発信し続けている。どんな新しいことも、人も、受け入れるやさしさと自由さと愛がこの街にはある。

この街で飲むと、「愛はおしゃれじゃない」という岡村靖幸さんとBase Ball Bearの小出祐介さんがつくった名曲のフレーズについて話したくなる。

そんな風にさ 愛ってやつは コレクションじゃない
ましてや ファッションじゃないでしょ?
愛ってやつは 切実でさ 伝えたいのは
「あのさ…あのそのつまり…」


恋愛してるときって、情けなかったりみっともなかったりもするけど、それでもさ……と切実にさけぶこの歌を、なんだか体現しているような街なのだ。カッコ悪くてもいいから自分に素直な方が素敵だって、そういう言葉がとても似合うのだ。

果てしない陽気さと愛があり、ヒッピーがいるような街「代田橋・新代田」は、これから絶対面白い。

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著者:羽佐田 瑶子

羽佐田 瑶子

日本文化と食と寅さんを愛する87年生まれのライター。47都道府県制覇。地方の文化や食、職人からアイドル、少女漫画、映画などサブカルチャーから伝統文化まで幅広く執筆。訪日外国人向け媒体、カルチャー誌、フリーペーパーKAMAKURA、The Shonan Mag、SENSORSなど。好きなものは、美しくてロマンチックなもの(短歌や岡崎京子や日本民藝館)

ブログ:Yoko Hasada Twitter:@yoko_hasada