
90年代の「渋谷系」音楽シーンを牽引し、今も最前線で活躍するカジヒデキさん。
「10代のころは、なにもない地元があまり好きになれなかったんです」と語るカジさんですが、大人になって世界を旅するようになってから、富津への愛が深まったそう。
2015年から、地元・富津市観光大使も務めているカジさんに、地元の良さを伺いました。
チーバ君の下腹部あたり「富津」。自然がいっぱい
―― 「富津(ふっつ)」って、東京の人間からすると、あまり馴染みがないエリアかもしれません。
カジヒデキ(以下、カジ):たしかに、「富津」って、あまり知らない人が多いかもしれませんね。僕はよく「木更津の少し南です」と答えます。千葉県も広いので、県北の人も富津のことを知らないかも(笑)。南北で、カルチャーも大分違いますしね。マイナーだけど、とてもいい街ですよ。海も山も楽しめます。
―― リモートワークの普及で、富津への移住も増えているのだとか。
カジ:僕も、新聞で知りました。東京まで行くのも、車ならアクアラインがあるので意外と早いんですよね。1時間〜1時間半くらいで行けますし。都心へのアクセスと、雄大な自然のバランスが良いんです。
―― カジさんが生まれ育ったのは、どんな街でしたか?
カジ:僕は、18歳まで富津岬もある青堀駅の近くで育ちました。すごくとがった形をした美しい岬で、対岸は横須賀。市内で一番メジャーなのは、マザー牧場かな。とにかく自然が豊かなエリアで、最南にある「鋸山(のこぎりやま)」も有名です。
―― すごい名前の山ですね。
カジ:江戸時代から採石をしていた山で、そのせいで山肌がのこぎりの歯みたいな絶壁になっているんです。登山ルートには鋸山ロープウェーもあって、景色を眺めるのにおすすめですね。金谷港の近くにあり、横須賀とフェリーで繋がっているので、おでかけに良いですよ。
―― 今は新型コロナウイルスの影響もあってなかなかおでかけしづらい状況ではありますが、行ってみたくなります。富津エリアの、カルチャースポットは?
カジ:高校の頃は、お隣の君津駅の近くに『エコー』という中古レコード屋さんがあって、当時でも珍しく日本のパンクとか、インディーズのレコードを取り扱っていて、よく通いました。木更津の『ミントンハウス』も、有名でしたね。
店員さんのセンスが良かったので、メジャーだけじゃなく、突っ込んだ洋楽やシティーポップやパンクな邦楽が欲しい人はみんな足を運んでいました。氣志團の綾小路 翔くんとか、ユアソンのモーリスくん(ヨシザワ”MAURICE”マサトモさん)とか、みんな通ってたんじゃないかな。
カジヒデキさんの中にも、ヤンキースピリットが!?

ご実家は富津にある「加地時計店」。ファンの方が多く訪れるのだとか
―― 上京したきっかけは?
カジ:浪人時代、都内の予備校に行くために地元を出たんです。でも、「東京で暮らせるんだ!」と興奮してしまって、全然受験勉強できませんでした(笑)。
―― カジ少年、東京生活に大興奮だったんですね。
カジ:木更津より南のエリアって、東京の学校に通えるか通えないかギリギリ絶妙なラインだったんです。近いけど、絶妙に遠いんですよ。高校時代は学校帰りに東京まで、よくライブや映画を観に行っていましたが、終電を気にするのが嫌でした。僕が好むものは東京にあったので、憧れや執着はとても強かったです。
―― 木更津記事でインタビューさせていただいた、氣志團の綾小路 翔さんも「東京が近くて遠いからこそ憧れた」とお話していました。
カジ:まさにそうなんです。千葉県の中でも、市川や船橋は、ほぼ東京の感覚でしょう? 木更津や富津だと、環境も、ライブとかカルチャーも、全然違うんです。木更津は、まさに翔くんみたいなヤンキー文化だったかも。僕がいたころの富津は、更にすごかった。
―― そうなんですか。
カジ:夏になると暴走族の方々が、富津岬に集合する時があって、我が家の前の国道16号線を大軍が走り抜けて(笑)。海も近いし、みんなでバイクで走ると、心地いいんでしょうね。かなり昔の話ですけどね。
―― カジさんは、ヤンキーとは対極のイメージですが、富津時代はどんな若者でしたか。
カジ:僕は少し異端だったかもしれないですね。中高時代は、ニューウェーブやパンク、特にゴスが好きでしたし、アートやマニアックな映画が好きだったので趣味の合う友人はいませんでした。
80年代のパンクスは攻撃的で、東京にライブを観に行くと喧嘩とかもよくあって、僕はしませんでしたけど、「やられたら、やり返す!」みたいな気持ちは、いつも持っていました(笑)。僕の中にも、翔くんみたいなスピリットがあったのかもしれませんね。房総魂なのかも。
―― カジヒデキさんの中にヤンキースピリットが! 予想外です。
カジ:ヤンキーというより、パンクですね(笑)。元々、小中学校のころは大滝詠一さんや竹内まりやさんのようなポップスやロックが大好きでしたが、高校に入って直ぐにパンクの影響をもろに受けてからは、今とは全然違うファッションをしていました。「人とは違うことを思いっきりしよう!」と考えて、派手というか奇抜な格好をしていました。ロンドンのカルチャーやファッションが好きだったんです。

今のカジさんからは想像がつきません
カジ:富津の若者というか……僕は本物志向だったので、千葉に行くより、東京まで足を運びました。千葉市には千葉のカルチャーがあるし、面白いんですけど「とにかく東京に行かないと!」「カルチャーの本場を見ないと!」って考えでした。
―― プレッシャーがそんなにも……。でも、そのころのガッツが今のカジさんの音楽に生きてるんでしょうね。
カジ:そうですね。「富津からわざわざ東京まで来た感」を出したくなかったので、一生懸命ファッションに気合いを入れていたのかもしれませんね。今考えると、かなりダサかったと思います……(笑)。
観光大使になったきっかけは、同級生からの突然の連絡
―― 2015年からは富津市観光大使を務められていますね。就任のきっかけは?
カジ:富津市役所で働いてる幼馴染がいるんです。僕が音楽活動をしていることを、昔から知ってくれていたみたいで、ある日突然連絡があって。地元の友達、みんな「見てるよ〜」とか全然言ってくれないし、地元に帰っても声をかけられることが滅多にないので、驚きましたね。ありがたいです。
―― 本当に、地元のご縁だったんですね。カジさんは、今年新設された富津市立大佐和中学校の校歌も制作されましたね。
カジ:富津の風景が浮かぶような歌詞にしました。大佐和中の窓からは海が見えて、その東京湾の向こうには、お天気が良いと富士山が見えるんです。夏になると大きな入道雲が出来て、眺めると気持ちが良くって。富津の自然の豊かさを、生徒さんたちにも特別なものと感じて欲しいと思って書きました。
―― カジさんは、ロンドンや北欧など海外を飛び回った時期もありますが、他の街をたくさん見たからこそ、富津の良さを再確認できた部分はありますか。
カジ:もともとは東京への憧れがあったし、「富津は田舎だなあ」と思って、10代のころは良さがあまりわからなかったんです。でも、スウェーデンに行ってから、地元に対する気持ちが変わりましたね。大自然と共存している感じがあるんです。
―― スウェーデンでは、どんな発見が?
カジ:レコーディングなどで数え切れない程訪れている、スウェーデンの「マルメ」という、3番目に大きな街がきっかけです。富津と同じで、海が近くて緑も多い。マルメの海岸を歩いていると、東京湾の風景と重なる部分がとても多かったんですよ。対岸にはデンマークの国際都市・コペンハーゲンがあって、最初に訪れたころはフェリーで行き来をしていました。
―― 金谷から横須賀への移動に似ているんですね。
カジ:2000年にはオーレスン橋ができて、スウェーデンとデンマークが繋がって。車と電車が行き来できるようになったんです。「これ、アクアラインと同じだ!」って思って。地元・富津と、大好きな北欧の風景が繋がった感覚があったんですよ。
―― 北欧を通して、富津への愛着がわいたんですね。
カジ:そうですね。自然と共存する生活って、すごくいいなと。僕も、千葉・富津をもっと楽しもうと思えるようになりました。

スウェーデンを通して、地元の風景がさらに好きになったそう
富津グルメ「はかりめ丼」「黄金アジ」は外せない
―― カジさんが、地元でお気に入りのお店は?
カジ:最近では、竹岡エリアの丘の上にある「海猫珈琲店」ですね。「素敵なカフェが出来たよ、行ってみたら?」と、姉が教えてくれたんです。早速足を運んで見たら、すごくお洒落なお店で、窓からの眺めも良くて! 美味しいコーヒーや紅茶、ケーキなどの軽食が楽しめます。
そうそう、富津に来たら「はかりめ丼」も、ぜひ食べて欲しいですね。
―― 「はかりめ丼」?
カジ:富津は、穴子が有名なんです。地元では、穴子を「はかりめ」と呼ぶんですよ。はかりめ丼は、穴子の煮物のどんぶり。僕は、穴子天丼も大好き。どんぶりを遥かに飛び出すくらい長い穴子の天ぷらがのっているのが特徴。よく行く有名店は「いそね」と「かん七」、あと富津漁港の「さざなみ」。東京湾の目の前です。
―― 初耳でした。他に、富津グルメはありますか?
カジ:「黄金アジ」という、肉厚で大きなアジフライも有名です。一番有名なお店は「さすけ食堂」。金谷のフェリー場にある商業施設「the Fish」に行くのもいいですね。海産物のお土産屋さんなんですけど、レストランも美味しいんです。あと「マルゴ」も美味しかったな。
―― お土産も一緒にチェックできるなら、観光で行くのにぴったりですね!
カジ:富津は海苔も美味しいので、お土産にぜひ買って帰っていただきたいです。
富津の若者への想い
―― カジさん、地元のおすすめがすらすら出て来ますね!
カジ:マザー牧場は最高ですし、絶景の鋸山や富津岬もいい。海水浴だったら新舞子海岸とか、素晴らしいスポットがたくさんありますし、黄金アジが本当に美味しい! マザー牧場のソフトクリームやジンギスカンも絶対に食べて欲しいです。
―― 年齢を重ねて、富津が大好きになったんですね。
もっともっと富津を宣伝したいですね。海猫珈琲店さんのように、東京から移住しておしゃれなお店を開く方々が増えるといいなと思います。僕は東京に出て来てしまったけれど、情報を集めて、富津をガイドしたり、MAPをつくったりしたいと考えています。

「10代のころから、富津を好きになれていたら……」と後悔もあるそう
地元におしゃれな中高生もたくさんいるはずなので、若い世代の富津ZINEが読みたいです。新型コロナウイルスの流行さえなければ、新しい世代と交流したいんです。校歌もつくったし、中学校に遊びに行こうと思っていて。
―― 地元の若い世代に、メッセージはありますか。
カジ:僕は10代のころ、地元の良さに気がつけなかったから、もったいなかったなと思っているんです。今、もし富津に好きなポイントがあったら、どんどん発信して欲しいなと。東京や海外に出て、いろんな経験をして、さらに地元を愛せるようになっても素敵。今は音楽イベントもなかなかできないけれど、センスがいい子がいたら、僕に知らせてくれたらなんでも協力しますよ!

お話を伺った人:カジヒデキ

ミュージシャン、音楽プロデューサー。1967年、千葉県富津市出身。DJイベントの主催、ラジオパーソナリティなど、音楽の紹介者としても幅広く活躍している。2020年9月15日には曽我部恵一さんと一緒に配信ライブ「OUR ORDINARY MUSIC」を開催予定。
聞き手:小沢あや

コンテンツプランナー / 編集者。音楽レーベルでの営業・PR、IT企業を経て独立。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。SUUMOタウンに寄稿したエッセイ「独身OLだった私にも優しく住みやすい街 池袋」をきっかけに、豊島区長公認の池袋愛好家としても活動している。 Twitter note
