介護リフォームの工事をすると費用はいくらくらいかかるのでしょう。玄関の改修や、手すりの設置、段差の解消、そのほかトイレをはじめ、どのような住宅改修が必要なのでしょうか。そもそも介護リフォームとバリアフリーリフォームの工事は何が違うのでしょうか? そんな介護リフォームのさまざまな疑問について、一級建築士であり、社会福祉士や福祉住環境コーディネーター2級など福祉に関する資格もお持ちの齋藤進一(やすらぎ介護福祉設計)さんに教えていただきました。

記事の目次
介護リフォームとは?
そもそも介護リフォームとは、どのような目的で何を行うリフォームなのでしょうか。最初に確認しておきましょう。
介護リフォームの目的は、住まいでの「転倒・転落・墜落」を防ぐこと
高齢化が進む日本では、不慮の事故による高齢者の死亡者数が目立つようになってきました。厚生労働省の「人口動態調査」(平成26 年~令和2年)をもとに、消費者庁がまとめた2021年(令和3年)10月発表の資料(「毎日が#転倒予防の日~できることから転倒予防の取り組みを行いましょう~」)によれば、65歳以上の高齢者の「転倒・転落・墜落」による死亡者数は交通事故の約4倍にのぼります。
これは、交通事故の死亡者数が年々減少しているのに対し、転倒・転落・墜落による死亡者数がほぼ横ばいで推移しているためです。
また、転倒などにより死亡には至らなくても、その際の骨折などにより介護が必要になる場合もあります。同じ消費者庁の資料では、介護が必要になる原因は、『認知症』『脳血管疾患(脳卒中)』『高齢による衰弱』に次いで『骨折・転倒』が4番目に高い」としています。
さらに、65歳以上の高齢者の転倒事故は、約半数が住宅内で起こっているとして、注意を促しています。

こうした住宅内での転倒・転落・墜落を未然に防ぐために住宅を改修するのが介護リフォームなのです。
介護リフォームとバリアフリーリフォームの違いは?
介護リフォームとよく混同されるものにバリアフリーリフォームがあります。また、同じような言葉に「ユニバーサルデザイン」もあります。
「日本ではバリアフリーという言葉が広く認知されていますが、世界的に見ればユニバーサルデザインのほうが一般的です。どちらも、子どもからお年寄りまで、また障がいの有無を問わず、誰もが利用しやすい環境である、といったところです」(一級建築士の齋藤進一さん、以下同)。
お年寄りや、障がいの有無を問わず、誰もが利用しやすい環境をつくるという意味でも、介護リフォームはバリアフリーの一種です。ただし、介護リフォームとは、特に介護を目的としたリフォームを指して用います。
「例えば、腕が上がらない症状の場合、それが進行性のある病気かどうかで、手すりを備える位置も変わってきます。そういった改修も介護リフォームになります」
ほかにも、目の症状によっては「白い光が目に刺すようにまぶしく感じる」場合があります。そこで壁のクロスを、光を反射するタイプから薄いブルーなどの色がついたクロスに、白っぽい床材を黒っぽいものに替えます。こうした改修も介護リフォームに含まれます。
つまり、介護が必要な人の症状に合わせて改修することが、介護リフォームというわけです。
介護リフォームを検討するタイミング
介護リフォームは介護が必要になった時に、その症状によって初めてリフォームの工事内容が決まります。そのため、介護リフォームを検討するタイミングは「介護が必要になった時」ということになります。
「たいていのご家庭では、親が病気などで入院し、その後、介護老人保健施設などでリハビリをしている間に、症状に合わせて自宅を介護のために改修する検討をされています」
ですが、できればもっと早めに、高齢者が元気なうちに介護リフォームについて検討しておいたほうがいいと、齋藤さんは注意を促します。

「例えば、将来両親の介護が必要になったら、誰が面倒をみるのか。また面倒をみる場所は、両親の暮らす実家か、あるいは面倒を見る子ども世帯の家か。さらに、将来実家を誰も相続しないのであれば、実家を担保にリバースモーゲージローンを組んで、両親には施設に入ってもらう、という方法も考えられます。相続の話も絡んできますから、両親が元気なうちに、家族みんなでこの先のことを話し合っておいたほうがいいでしょう」
介護の必要がないまま、親とお別れする場合もあるでしょうが、ある日突然介護が必要になれば、自宅を介護リフォームするのか、あるいは高齢者向け施設などに入居するのか、また、それらの資金繰りなどを急いで考えなければなりません。一方で介護される両親としても、希望する余生の送り方があるはずです。
両親の中には「私はまだ元気なのに」と、こうした話を嫌がる人は多いですが、残念ながら、いずれ両親とお別れする日はやってきます。家族みんなの幸せのためです。相続も含めて、早めに話し合っておきましょう。
介護リフォームはその人にあったリフォーム工事が必要
介護が必要になった時のリフォームは、担当のケアマネジャーに加えて、入院時にお世話になった医師のほか、理学療法士や作業療法士からも意見を聞いて、リフォーム内容を決めるようにしましょう。その症状が進行性なのか、どちらの腕が使えるのかなどによって、リフォーム内容は変わるからです。
例えばリハビリでは、車いすからトイレの便座への移乗方法を練習しますが、家に戻った際に、手すりや便器の向きなどがリハビリの時と違うと、座ることが難しくなります。あるいは半身不随で左右どちらが不自由になるかによってだけでも、便器や手すりの位置が変わります。
ですから、医師や理学療法士、作業療法士からの意見が欠かせないのです。
ちなみに、理学療法士とはリハビリで基本動作能力の回復・維持を目的にリハビリテーションを行ってくれる専門職です。また作業療法士は日常生活で必要な「箸を持つ」「服を着る」といった動作が行えるように援助してくれる専門職です。いずれもリハビリの際にお世話になります。
段差や心理的な障壁を取り除くのが介護リフォーム
歳を取ると、若いころには何でもなかった、ちょっとした段差につまずいて転んでしまうことがあります。
その際に足や腰を骨折すると寝たきりの状態になり、そのため筋肉が衰え、さらに足が上がりにくくなり……と負のスパイラルに陥ります。また骨折しなかったとしても、一度転ぶと怖くて出歩くことが減り、その結果やはり筋肉が衰えるという負のスパイラルに。
そんな家の中の物理的な障壁(例えば段差)や、心理的な障壁(つまずくかもしれないという不安)を取り除くことも、介護リフォームになります。
高齢者や要介護者にとっての家の中の「障壁」とは、まず、つまずきやすい床の段差です。そこで床の段差をなくす必要です。

また、ただでさえ高齢によって足腰が弱くなると階段の上り下りや、廊下の歩行がキツくなります。病気などによる症状でさらに歩行が難しくなることもあります。しかし、手すりがあれえば、手で体を支えられるので、こうした動作が楽になります。
「同居しているなど、日頃から親の動作を観察していると、立ち上がる際にどこで手をつくことが多いか、どこに手すりがあると便利かわかると思います。そうした箇所に、元気なうちでも手すりを備えると介護予防になります」
また、最近はもう少なくなりましたが、和式トイレは立ち座りの際、足腰に負担がかかります。立ち座りの負担が少ない洋式トイレなら、この負担を軽減できますし、車いすからの移乗(移り座ること)を考えれば洋式トイレは必須といえるでしょう。
さらに、若い人は簡単に開けられる開き戸も、高齢になるとドアを開いて入る・出るという動作が意外と負担になるのです。病気などで体の自由がうまく利かなくなれば、なおさら大変です。そこで開き戸よりも開閉がもっと楽な引き戸に替えるといいでしょう。

つまり「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に替える」が、最低限、介護リフォームでやるべきことになります。
まとめると、介護リフォームは下記のような工事になります。いずれも、下記で詳しく説明しますが、介護保険の住宅改修費の助成制度で対象となっているリフォーム工事です。
| 工事内容 | 工事する箇所 |
|---|---|
| 手すりの取り付け | 廊下、階段、玄関、トイレ、浴室、脱衣場、居室など |
| 段差の解消 | 居室と居室の間、居室と廊下の間、玄関、浴室と脱衣場の間など |
| すべり防止 | 階段、廊下、居室、浴室、トイレなど |
| 引き戸への交換 | 居室、浴室、トイレ、玄関など |
| 洋式便器への交換 | トイレ |
耐震リフォームや断熱リフォームも介護リフォーム
段差の解消や手すりの設置だけでなく、耐震リフォームや断熱リフォームも、広い意味では介護リフォームです。
せっかく段差の解消などで暮らしやすくなったとしても、地震で倒壊したら意味がありません。同様に、昨今の猛暑を考えれば夏なら熱中症が、冬ならヒートショックの危険があります。そのため断熱リフォームも、特に高齢者にとっては大切なリフォームです。
ちなみに、熱中症の発症場所で最も多いのは屋外ではなく、住宅内です。総務省による令和5年度(2023年)の5月〜9月における熱中症の緊急搬送状況によれば、約4割が住宅で熱中症を発症しています。

またヒートショックは、冬に暖房の効いたリビングから寒い脱衣所に移動して、浴槽に入るときなどに起こりやすく、脳内出血や心筋梗塞などを引き起こします。最悪の場合は死に至りますが、一命を取り留めても後遺症が残って介護が必要になることもあります。
耐震リフォームや断熱リフォームは自治体の補助金制度を活用できるケースがありますから、自治体のホームページなどを確認してみましょう。
介護リフォームは先々を見据えた計画を立てることが大切
実家を相続しない場合の介護リフォームのポイント
介護リフォームで最低限必要になるのは「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に替える」です。
しかし、両親の暮らす実家をリフォームする場合、中には「もう先は長くないから、そんなことにお金をかける必要はない」と言う親もいらっしゃるでしょう。さらに耐震リフォームや断熱リフォームとともに介護リフォームを行うのが理想ですが、そうなると、いくら補助金制度を活用できるとはいえ、ある程度の予算が必要になります。
もし、その実家を子どもが相続するなら、将来のためにも介護リフォームにお金をかける意義はあると思います。けれど、誰も相続しないのであれば? リバースモーゲージを利用してリフォーム資金を捻出する? いや、その資金は将来の親の施設入居に使いたい?
このように、将来どうするのかによって、介護リフォームの内容すら変わってきます。ですから、早めに家族みんなで話し合っておくことが大切なのです。
「もし、誰も相続しないとしても、最低限の介護リフォームをやっておいたほうがいいでしょう。なぜなら、死の遠因が家だった、では残された家族としては後悔が残りますから」
誰もが後悔しないためにどうすればよいか、ぜひ両親が元気なうちに話し合ってみてください。
両親と一緒に暮らす住宅の場合の介護リフォームのポイント
一方で、両親の暮らす実家に子世帯が同居する、あるいは子世帯が暮らしている住宅に両親を呼ぶなど、二世帯住宅を建てる場合、最低限の介護リフォームはどちらの世帯にもメリットがあります。
高齢の両親が暮らしやすくなるのは言うまでもありませんが、子世帯も将来助かるはずです。また、高齢者の転倒や転落を防ぐバリアフリーの住宅は、幼い子どもにとっても安全な住宅になります。
二世帯住宅というと、これまでは足腰の弱い親世帯を考慮して、1階が親世帯、2階が子世帯という間取りがよく採用されていました。しかし、齋藤さんは「今なら2階を親世帯、1階を子世帯」にすることをおすすめだそうです。

従来のように2階を子世帯にすると、生活リズムの違いがあるため、1階の親世帯に子世帯の生活音が響かないよう、床の遮音性を上げたり、できるだけ静かな位置に親世帯の寝室を配置しなければなりません。
「しかし、最近はホームエレベーターがだいぶ手頃な価格になりました。ですから2階を親世帯にすることができるのです。そうすれば、音問題は簡単に解決しやすくなります」
また、両親の暮らしていた実家を二世帯住宅にする場合、たいてい水まわりは1階にあります。エレベーターを備えれば、2階に子世帯のためのキッチンやお風呂(浴室)などを新設する必要がなくなります。
「実家を二世帯住宅する場合でも、間取りによってはホームエレベーターを設けられますし、敷地条件次第では外付けも可能ですから、一度検討してみてください」
廊下の介護リフォーム
ここからは、部位別に介護リフォームの具体的な内容を見ていきましょう。なお、先述したように、これらに加えて症状に合わせたリフォームが必要になる場合もあることに留意してください。
廊下では、まず転倒を防ぐための改修が必要です。また廊下は各居室への動線ですから、歩行しやすい工夫をするとよいでしょう。
廊下の介護リフォームの工事内容
廊下の介護リフォーム(バリアフリー化)で必要になる工事は、主に下記の3つがあります。
1.段差の解消
居室と廊下に段差がある場合、出入りする際につまずいて転倒する危険があります。段差にクサビ型の木など、スロープ状のものを備えると段差によるつまずきを防げます。
2.手すりの設置
廊下を歩く際に、体を支えられる手すりがあると、足腰が弱っていても移動しやすくなります。合わせて滑って転ばないように滑りにくい床材に変更すると安心です。
3.引き戸に変更する
各部屋の扉が開き戸だった場合、力が弱い人でも開けやすい開き戸に変更するとよいでしょう。その際、下のレールがない上吊戸タイプの引き戸を選べば、段差解消のためのスロープを設置せずとも、段差によるつまずきの危険がなくなります。

廊下の介護リフォームの費用相場
段差を解消するため、クサビ型の木などのスロープを取り付ける場合、リフォーム費用の目安は1カ所につき約3万円〜7万円です。
「段差解消のためのスロープであれば、DIYでつくれる人も多いのではないでしょうか。ホームセンターの中にはサイズを指定すれば木材を切ってくれるサービスのあるところもありますから、チャレンジしてみてはいかがでしょうか」
手すりを壁に備える場合、リフォーム費用の目安は、下地の補強が必要かどうかや、手すりの長さにもよりますが、1カ所につき約2万円〜15万円です。
手すりもホームセンターなどで既製品を購入してDIYで設置することもできますが、体重を支えるため、場合によっては壁の下地の補強が必要です。取り付けが甘いとかえって危険ですから、なるべくリフォーム会社に依頼するようにしましょう。
引き戸を取り付ける場合、2枚の戸を使う一般的な引き違いの引き戸や、扉の左右どちらかの壁にスライドさせる片引き戸など、引き戸の種類によって費用が異なります。また、いずれも扉一枚分を引き込めるスペースが必要になります。もしスペースが取れないようであれば、そのための内装工事が必要になります。また構造上既存の開き戸の位置に取り付けるのが難しいようであれば、別の位置に取り付ける工事が必要です。
引き戸が取り付けられるスペースがあると仮定して、引き戸を取り付けるリフォーム費用の目安は約15万円〜です。引き戸へのリフォーム費用は、扉の種類や、仕様の違いなどで価格が大きく変わります。
階段の介護リフォーム
足や腰が弱っている人が階段を上り下りするのは、本来は危険ですから、基本的には1階部分ですべて行えるような間取りがオススメです。
しかし、諸事情でどうしても1階と2階を行き来しなればならなかったり、まだ足腰が丈夫だけど「転ばぬ先の杖」として介護リフォーム(バリアフリー化)を行う場合は、やはり転倒を防ぐ改修をするといいでしょう。
また、既に足腰が弱っている人が階段を利用する場合は、ホームエレベーターや階段昇降機の設置も一度検討してみてください。
「階段昇降機は、遊園地にある遊具のように浮遊感があるため、苦手な人もいます。設置前にできればショールームで一度体験して、怖くないか確認しておくとよいでしょう」
階段の介護リフォームの工事内容
階段の介護リフォーム(バリアフリー化)で必要になる工事は、主に下記の3つがあります。
1.手すりの設置
階段に手すりを備えると、腕でも体を支えられるので足腰への負担を軽減できます。いざという時も腕で体を支えやすくなります。
2.滑りやすい床材に変更
階段で滑って転ぶと下まで落ちてしまい、大きなケガをする危険があります。滑りにくい床材に変更したり、市販の滑り止め用品を備えるといいでしょう。
3.階段の傾斜を緩やかにする
もし間取り上可能であれば、階段の傾斜を緩やかにする、つまり階段の段数を増やして踏み板の高さを低くする方法もあります。こうすれば足があまり上がらない人でも階段を登り降りしやすくなります。

階段の介護リフォームの費用相場
階段に手すりをつけるリフォーム費用の目安は、廊下と同じく長さにもよりますが、1カ所につき約2万円〜15万円といったところです。廊下同様、DIYでも可能ですが、取り付けが甘いと危険ですから、リフォーム会社に依頼するようにしましょう。
なお、2000年の建築基準法の改正により、高さ1mを超える階段への手すり設置が義務化されました。そのため2000年以降に建てられた住宅の階段には手すりが備わっています。
階段の傾斜を緩やかにするのと同時に、滑りにくい床材に変更するリフォーム費用の目安は約35万円です。
ちなみに、階段の床材に取り付ける滑り止めならホームセンターなどで簡単に入手できますから、DIYで行うことも可能です。
一方、階段昇降機を取り付けるリフォーム費用の目安は、「いす型」で直線式の場合は約50万円、曲線式の場合は約150万円です。またホームエレベーターは、間取り上設置が可能であれば約250万円〜400万円です。
玄関の介護リフォーム
日本では伝統的に靴を脱いで住宅にあがるため、玄関には上がり框(かまち)という段差があります。特に古い住宅ほど、この段差が大きくなりがちです。
足腰の弱った人にとって片足を大きく上げる=片足で立つという姿勢は負担になります。そのため、片足で立つというシチュエーションをなるべく解消するための改修が必要です。
玄関の介護リフォームの工事内容
●玄関の内側の介護リフォーム
まず玄関の内側から見ていきましょう。玄関の内側の介護リフォーム(バリアフリー化)で必要になる工事は、主に下記の3つがあります。
1.踏み台やイスの設置
足があまり上がらなくなった人がつまずくと危険です。そのため、段差を緩やかにするように、もう一段増やすような踏み台を備えるといいでしょう。
また足腰が弱るほど、立ったままで靴を着脱するのが難しくなります。しかし、玄関にイスなどがあれば、座ったまま靴を履いたり脱ぐことができます。
2.手すりの設置
踏み台や椅子のそばに、立ち上がるための手すりがあると安心です。
3.滑りにくい床材に変更
床が滑りやすいと危険ですから、滑りにくい床材に替えたほうがいいでしょう。

●玄関の外側の介護リフォーム
玄関の扉も含めて外側の介護リフォーム(バリアフリー化)で必要になる工事は、主に下記の3つがあります。
1.引き戸への変更
玄関が開き戸であれば、開け閉めが簡単な引き戸に取り替えるとよいでしょう。また、扉のそばに体を支えられる手すりがあると安心です。
2.手すりやアプローチの取り付けなど
玄関先から道路まで段差がある場合は、手すりを備えたり、段差を緩やかにするために段数を増やすと、つまずいて転倒する危険を防ぎやすくなります。
3.スロープの設置など
段差解消のためにスロープを備える方法もあります。
車いすを使う人の中には、介助者が付き添えば立って移動できる人もいますから、上記のように段差を緩やかにするだけで対応できる場合もあります。家の中から外まで、ずっと車いすで移動しなければならなくなったら、スロープを備えるといいかもしれません。
一方でスロープがあると、高齢者が杖代わりによく利用しているショッピングキャリーを押したまま、家の中へ入れるというメリットもあります。スロープの設置は、生活スタイルに合わせて判断するようにしましょう。

玄関の介護リフォームの費用相場
まずは玄関の内側のリフォーム費用の目安です。
玄関に手すりを設置するリフォーム費用の目安は、1カ所につき約2万円〜20万円です。手すりの長さによって費用が変わるほか、壁に備えるか、床に備えるかでも費用が異なります。
また、踏み台やイスは市販品を利用できますから、インテリアショップやホームセンターなどで探してみましょう。
玄関の床を、滑りやすいタイルから、滑りにくい屋外用のタイルフロアに変える場合、リフォーム費用の目安は5m2(1.5坪)で約5万円〜10万円です。
続いて、玄関の外側のリフォーム費用の目安です。
まず、玄関のドアを開き戸から引き違いの引き戸にリフォームする費用の目安は、玄関スペースが十分にあると仮定して、内外装の補修工事も含んで約60万円〜150万円です。
居室のドアを引き戸に替えるよりもリフォーム費用の目安が高いのには下記の理由があります。
玄関ドアが開き戸だった場所に、2枚の戸を使う一般的な引き違いの引き戸を備えるには外壁と内装の解体も伴います。1枚の戸を開閉するタイプの引込み戸もありますが、それでも引き込む(引き戸を開ける)ためのレールを備える必要があります。
いずれも既存の開き戸の玄関ドアよりも広いスペースが必要になるため、もしスペースが足りないようなら、玄関部分の増築や玄関位置の変更などほかの工事が必要になります。
また玄関ドアは家の顔のような存在のため、商品ごとの意匠性に差があり、さらに断熱性や気密性、遮音性といった機能によって価格が大きく変わります。一般的に室内の引き戸よりも価格は高くなります。こうしたことから、リフォーム費用の目安が居室などに比べて高くなるのです。
一方、スロープのリフォーム費用の目安は幅1m×長さ5mで約15万円〜40万円です。ただし材質やサイズ、傾斜によって費用は異なります。
トイレの介護リフォーム
トイレは、誰もが安心して利用できるような改修を行います。基本的にはほかの部位同様に「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に替える」工事になります。
なお、車いすを利用する人が使う場合や、用を足す際に介助者が必要な場合、既存のトイレ空間の広さが十分ではなければ拡張する工事も必要です。車いすの人を在宅介護するかどうかも含めて、家族で事前に話し合っておきましょう。
トイレの介護リフォームの工事内容
トイレの介護リフォーム(バリアフリー化)で必要になる工事は、主に下記の3つがあります。
1.引き戸に変更する
各部屋同様、開き戸から引き戸に変更すると、力が弱い人でも開けやすくなります。その際、下のレールがない上吊戸タイプの引き戸にすると、つまずく危険もなくなります。
2.和式から洋式トイレへ変更
高齢者だけでなく、子どもも働き盛りの世代も、洋式トイレに変更することで立ち座りの動作がグンと楽になります。
3. 手すりの設置
トイレに座る際や立ち上がる際に、体を支える手すりがあると足腰への負担が軽減されます。また、開き戸付近にも手すりがあれば、扉を開ける際に体を支えることができます。
4.滑りにくい床材へ変更
床が滑りやすいようであれば、床材を変更しましょう。

そのほか、室内にポータルトイレ(水洗トイレ仕様)を設置すれば、排せつの介助が楽になります。また、夜間にトイレまで行かなくていいので、寝る前に安心して水分を取れますし、家族を起こしてトイレまで介助してもらう必要もないので、気が楽になる人もいるでしょう。
「例えば寝室に押し入れがあるなら、リフォームしてこのようなトイレを備えるのも1つの方法です」

トイレの介護リフォームの費用相場
トイレに手すりを設置するリフォーム費用の目安は、1カ所につき約2万円〜10万円です。
また、開き戸から引き戸に変更するリフォーム費用の目安は、引き戸が取り付けられるスペースがあると仮定して約15万円〜です。引き戸の種類や、仕様の違いなどで価格が大きく変わります。
和式から洋式トイレにリフォームする場合、たいていは既存のトイレ空間の床などを一度解体・処分して、新たに配管をやり直し、床をつくり……という作業が発生します。さらに、洋式トイレもタンクのあるタイプからタンクレス、機能が充実したハイグレードタイプがあり、さらに手洗い器を備えるならその費用もかかります。そのため和式から洋式トイレにリフォームするリフォーム費用の目安は、約25万円〜80万円と価格帯の幅が広くなります。
もし1人で用を足せないようなら、介助者が一緒に入る必要がありますが、その場合は介助者が立つスペースがなくてはなりません。
隣接していた洗面室を縮小できるなど、スペースを拡張できると仮定して、開口を拡幅するリフォーム費用の目安は約20万円〜40万円です。ただし、拡幅するために隣の洗面室などを縮小する工事費用が別途必要になります。
お風呂(浴室)の介護リフォーム
お風呂(浴室)もトイレと同様、誰もが安心して利用できるような改修を行います。基本的にはほかの部位同様に「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に替える」工事になります。
入浴時に介助者が必要な場合の介護リフォームは、症状次第では介助がしやすいようにお風呂(浴室)を拡大したり、専用の設備を導入する必要がある場合もあります。あるいは洗面脱衣場を拡大して、そこに簡易浴槽を置き、介助者2〜3人で体を洗うという方法もあります。要介護者の症状や各家庭の事情によって工事内容が変わりますから、ここでは省きます。
なお、トイレ同様、介助が必要になったタイミングで外部施設を利用するという方法もあります。できれば家族みんなが元気なうちに、在宅介護にするかなど話し合っておいたほうがいいでしょう。
お風呂(浴室)の介護リフォームの工事内容
お風呂(浴室)の介護リフォーム(バリアフリー化)で必要になる工事は、主に下記の5つがあります。
1.またぎやすい浴槽に変更
縁の高い浴槽は、片足を上げるのが苦手な高齢者にとってまたぎにくく、転倒の危険もあります。これを解決する最も簡単な方法は、最新のユニットバスに交換することです。
ユニバーサルデザインという考え方が広まった2000年前後から、縁が低くてまたぎやすく、足を伸ばせる浴槽が主流になっています。
2.出入口の段差を解消
昭和時代では主流だった在来工法(大工と左官工事で浴室を作る方法)の場合、たいていお風呂(浴室)の出入口に備える扉はレールが床にも備わっていました。またお風呂(浴室)の床は、水が脱衣場へ漏れないように脱衣場に対して低く設計されていました。
しかし、これも最新のユニットバスに交換することで、扉部分の段差と、脱衣場とお風呂の床の段差を解消することができます。
在来工法の浴室をそのまま使いたい場合は、床の段差を解消するための段差解消グッズもあります。

3.引き戸へ交換
既存のお風呂(浴室)のドアが開き戸だった場合、誰でも開けやすい引き戸に交換するとよいでしょう。
ユニットバスに交換する場合も、引き戸を選ぶことができます。引き戸には片引き戸や2枚戸がありますが、開けた際の間口がより広く取れる3枚戸の引き戸のほうが安心です。
4.手すりの設置
お風呂(浴室)では、座る/立ち上がる動作の多い場所です。また床が濡れていると足が滑りやすく、転倒することがありますから、体を支えられる手すりがあると安心です。
5.滑りにくい床材に変更
手すりとともに、滑りにくい床材に変更すると転倒の危険を減らせます。床材だけを取り替えるより、ほかの浴槽の変更などと合わせてユニットバスに交換したが費用対効果は高いでしょう。
ほかには、市販品の滑り止めマットを敷くという方法もあります。

お風呂(浴室)の介護リフォームの費用相場
「またぎやすい浴槽に変更」「出入口の段差を解消」「開き戸から引き戸に変更」「滑りにくい床材に変更」にするなら、最新のユニットバスに交換すると一気に解決できます。
また「手すりの設置」は、ユニットバスにはたいていオプションで用意されているので、それを選ぶとよいでしょう。費用は手すり1本につき約1万円〜2万円です。
既存のお風呂(浴室)が在来工法だった場合、床や壁、天井を解体・撤去する必要があるため、その費用がかかります。ユニットバスの商品やグレードにもよりますが、リフォーム費用の目安は1坪タイプ(内法が1600mm×1600mmの「1616」など)で約80万円〜200万円です。
既存のお風呂(浴室)がユニットバスだった場合も、解体・撤去作業が伴いますが、在来工法ほどではかかりませんから、同じ商品・グレードでも少し安く抑えられます。
既存のお風呂(浴室)に手すりを備える場合は、壁に下地があれば1本につき約3万円〜5万円が目安です。壁に下地がない場合はその工事費用も必要です。

車いすの人を介助するなら洗面台も検討を
もし、車いすの人を介助する必要があるなら、洗面台にリフォームも検討することをおすすめします。
「最近は、洗面台を昇降できるタイプも選べるようになりました。これなら洗面台を替えるだけで、車いすの人も含めて、家族みんなで使えて便利です」

ヒートショック対策で介護予防
ヒートショックとは、家の中の急激な温度差によって、血圧が大きく変動し、脳梗塞や心筋梗塞といった心臓や血管の疾患引き起こすこと。血管が弱っている高齢者に多いのですが、高齢者でなくても、糖尿病や高血圧などの持病がある人や、飲酒後に入浴などでも起こりえます。
心臓や血管の疾患によって介護を余儀なくされたり、最悪の場合は死に至ることもあります。そのためヒートショックを防ぐ改修は、介護を予防するために欠かせないリフォームといえるでしょう。
お風呂(浴室)と脱衣場の温度を、リビングなどと同じにする
家の中でヒートショックが起こりやすいのは、冬に暖かいリビングから出て、寒い脱衣場やお風呂(浴室)で裸になり、熱い浴槽に入るというシチュエーションです。
リビングで安定していた血圧が、寒い脱衣場やお風呂(浴室)で血管が縮んでしまうことで血圧が上がり、熱いお湯につかることで一気に血圧が下がるからです。
これを避けるためには、お風呂(浴室)と脱衣場の温度を、リビングなどと同程度にすることです。具体的には、脱衣場に暖房器具を置いたり、浴室に浴室換気暖房乾燥機を備えるとよいでしょう。
お風呂(浴室)をユニットバスに変更するなら、たいていオプションで浴室換気暖房乾燥機が用意されています。種類にもよりますが、オプション費用の目安は約15万円といったところです。また、浴室換気暖房乾燥機によってはお風呂(浴室)と脱衣場の両方を温める機能を備えたタイプもあります。
そのほか、窓のないお風呂(浴室)のほうが温まりやすいので、窓の有無を検討してみてください。窓をつける場合は、高断熱窓を選んだほうが安心です。
高断熱窓は「先進的窓リノベ2024事業」を利用できます。諸条件がありますから、詳しくはリフォーム会社などに相談してみましょう。

介護リフォームで使える介護保険の助成制度
一定の要件を満たすバリアフリーリフォームには、介護保険制度に基づく補助金制度を利用することができます。
要支援・要介護の認定を受けている人が、自宅に手すりを設置したり、床の段差を解消するといった特定の改修を行うときに、改修費を助成してくれる制度です。
介護保険による介護リフォームの助成額
介護保険の住宅改修費の助成制度を活用すると、改修費の9割(最大18万円)まで助成されます。
この制度を利用できる対象者は、要支援1~2または要介護1~5認定を受けている人です。そのため、まだ要介護認定や要支援認定を受けていない場合は、同認定の申請を行う必要があります。認定の申請は地域包括支援センターや市区町村の窓口で行います。
認定を受けた後は、要介護認定ならケアマネジャー(介護支援専門員)に、要支援認定なら地域包括支援センターに相談をして住宅改修費の助成制度の申請を行うことになります。
| 対象工事の費用 | 助成額の上限 |
|---|---|
| 上限:20万円 | 18万円 ※対象者の収入によって16万または14万円 |
「普段は両親と離れて暮らしている子世帯の方で『まだ両親は要支援・要介護の認定を受けていないけれど、最近耳が遠かったり物が見えにくいようで心配だ』というのであれば、まずは地域包括支援センターへ相談に行くことをおすすめします」
地域包括支援センターにはケアマネジャーや社会福祉士、保健士がいて相談に乗ってくれます。
「本人が『大丈夫』といっても、実は要介護認定の症状だった、なんてこともあります。地域包括支援センターならそのまま要支援や要介護の申請が行えます。そのほかにも、例えばタイミングを見計らって両親の様子を見に行ってくれたり、高齢者の集まりに両親を誘ったりしてくれるなど、さまざまなサポートしてくれるはずです」
介護保険による介護リフォームの対象工事
介護保険の住宅改修費の助成制度の対象となる工事は、下記のとおりです。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消(スロープ設置など)
- 滑りの防止および移動の円滑化などのための床又は通路面の材料の変更
- 引き戸などへの扉の取り替え
- 洋式便器などへの便器の取り替え
- その他
「例えば引き戸への交換を2カ所やるだけでも対象工事額の上限である20万円を超えてしまいます。限度額の範囲内であれば、複数回の申請も可能ですが、例えば居室と廊下との段差解消はDIYですませて、引き戸への交換などに補助金を充てるようにするのも一つの方法です」。
また、上記で紹介した介護リフォーム(バリアフリーリフォーム)の工事内容の1つ、お風呂(浴室)の浴槽を変える工事は対象外なので、注意してください。
なお、要介護状態区分が重くなった時(三段階上昇した時)や、転居した場合は再度20万円までのリフォーム工事に対して助成を申請できます。
介護保険の助成制度を利用する流れ
介護保険の助成制度を利用するには、まずは担当のケアマネジャーにリフォーム内容について相談することから始めます。
1.ケアマネジャーに相談する
2.リフォーム会社など、施工事業者を決め、見積もりを依頼する
3. 「工事前」に、市区町村に必要書類を揃えて申請する
- 支給申請書
- 工事費見積書
- 住宅改修が必要な理由書
- 住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの(日付入り写真や住宅の間取図など)
なお、「住宅改修が必要な理由書」はケアマネジャーや地域包括支援センター担当職員、作業療法士などや、それに準じる資格者に限られます。
4.市区町村が内容を確認し、結果を伝えてくれる
5.改修工事の施工、完成
6.施工業者に工事費用を支払う
7.「工事後」に、市区町村に必要書類を揃えて改修費の支給を申請する
- 住宅改修に要した費用に係る領収書
- 工事費内訳書
- 住宅改修の完成後を確認できる書類(トイレや浴室、廊下などの箇所ごとの改修前および改修後それぞれの写真。かつ、原則として撮影日がわかるもの)
- (住宅改修した住宅の所有者が当該利用者でない場合)住宅の所有者の承諾書
8.住宅改修費の支給金が還付される
なお、自治体によっては「受領委任払い」を利用できます。これは、支給金を施工業者に直接支払うため、被保険者は施工業者に工事費用を支払う際に、支給金の額を予め差し引いた金額を支払うことができる方法です。その場合は、上記と一部流れが異なります。
市区町村による補助金制度
介護保険制度とは別に、高齢者や障がい者が暮らす住宅をリフォームする際に補助金制度を設けている自治体もあります。まずは対象の自治体のホームページ等で確認してみましょう。
例えば東京都世田谷区では高齢者が暮らす住宅の改修について、相談を受け付けています。また下記のような助成金制度もあります。
・対象/65歳以上の高齢者の方で、身体の状況から住宅を改修する必要がある方
| 種類 | 工事内容 | 助成基準額 |
|---|---|---|
| 予防改修 |
|
1〜6を合わせて20万円 |
| 設備改修 | 1.浴槽の取り替えと、これに付帯して必要な工事 | 37万9000円 |
| 2.流し・洗面台の取り替えと、これに付帯して必要な工事 | 15万6000円 | |
| 3.洋式便器への便器の取り替えと、これに付帯して必要な工事 | 10万6000円 |
バリアフリーリフォームの優遇税制と条件
助成金・補助金制度のほかに、一定の要件を満たすバリアフリーリフォームを行うと、所得税の控除と固定資産税の減額措置が受けられます。ぜひ積極的に活用しましょう。
バリアフリーリフォームによる所得税の控除
所得税の控除については「バリアフリー改修に係る所得税額の特例控除」があります。これは高齢者や要介護・要支援認定者等の本人の自宅、あるいはそれらの人と同居する人の自宅をバリアフリー化するリフォームを行った時に使える制度です。
この特例措置の適用期限は2025年(令和7年)12月31日までです。
A:一定のバリアフリー改修に係る標準的な工事費用相当額(上限200万円)
B:以下の(1)(2)の合計額(上限は「Aと同額」または「1000万円−Aの控除対象額」のうち、少ないほうの金額)
| (1) | Aの工事に係った標準的な工事費用相当額のうち、200万円を超えた額 |
| (2) | A以外の、一定の増改築等の費用に要した額 |
バリアフリーリフォームによる所得税の優遇制度の主な要件
バリアフリーリフォームの所得税の控除を受けられる対象者や、工事要件などは下記のとおりです。
| 対象者 | 以下のいずれかに該当する者であること
|
|---|---|
| 対象となる住宅 |
|
| バリアフリー改修工事内容 |
|
そのほかにも詳細な要件がありますから、詳しくは減税制度に詳しいリフォーム会社や、お近くの税務署等に相談しましょう。
バリアフリーリフォームによる固定資産税の減額
固定資産税の減額については「バリアフリー改修に係る固定資産税の減額措置」があります。所得税の特例措置同様、高齢者や要介護・要支援認定者などの本人の自宅、あるいはそれらの人と同居する人の自宅をバリアフリー化するリフォームを行った時に使える制度です。
この特例措置の適用期限は2026年(令和8年)3月31日までです。
一定のバリアフリー改修工事を行った場合、翌年度分の固定資産税から3分の1が減額されます。
バリアフリーリフォームによる固定資産税の減額の主な要件
バリアフリーリフォームの固定資産税の減額を受けられる対象者や、工事要件などは下記のとおりです。
| 対象者 | 以下のいずれかに該当する減税申告者
|
|---|---|
| 対象となる住宅 |
|
| バリアフリー改修工事内容 |
|
そのほかにも詳細な要件がありますから、詳しくは減税制度に詳しいリフォーム会社や、お近くの税務署などに相談しましょう。
バリアフリーリフォームは「高齢者向け返済特例」を利用できる
バリアフリーリフォームは、住宅金融支援機構が行っているリフォーム融資「高齢者向け返済特例」を利用できます。
「高齢者向け返済特例」とは
「高齢者向け返済特例」とは、満60歳以上の人が自宅の部分的バリアフリー工事やヒートショック対策工事、または耐震改修工事を含むリフォームを行う場合に利用できる融資です。毎月の支払いは利息のみで、借入金の元金は申込人(連帯債務者※を含む)全員が亡くなったときに、相続人から融資住宅および敷地の売却、自己資金などによって、一括して返済するというものです。
※借入申し込み時に満60歳以上の同居親族
「保証ありコース」と「保証なしコース」があり、融資限度額は、次の1または2のいずれか低い額(10万円以上、1万円単位)です。
「高齢者向け返済特例」の主な要件
申し込める人の条件は、次の1から4まで全て当てはまる人です。
対象となるバリアフリー工事は以下のとおりです(次の1から3までのいずれかに該当する工事)。
なお、バリアフリー以外に耐震リフォームとヒートショック対策工事も「高齢者向け返済特例」の対象になっています。
相続にも関係しますので、まずは家族と相談してみましょう。
介護リフォームの施工事例
家族のために介護リフォーム(バリアフリーリフォーム)した施工事例を見てみましょう。
※表示されている価格帯および本体価格は施工当時のもので、現在の価格とは異なる場合があります。
扉はすべて引き戸に変更、水まわりスペースや廊下の幅も拡大
築46年のマンションに二人で暮らしていた夫婦。体を悪くした夫が生活しやすいように、リフォームすることにしました。
まずリビング隣の和室は洋室に変更。リビングとの間には開けやすい3枚戸の引き戸を備え、全開すれば段差のない、広くてフラットな空間になります。その他の扉もすべて引き戸に変更しましたが、特に使用頻度の高い水まわりは、開口部を広くとることができる2連引き戸の上吊り式としました。さらに洗面室や浴室、トイレのスペースを広げ、段差も解消。廊下の幅も90cmから105cmに拡大しています。
家が快適になったことで、明日も頑張ろう!と気持ちも前向きになったという施主。リフォームで一番変わったのは、家ではなく、施主の気持ちのようです。

母親が身仕度しやすいよう、廊下を広げて玄関に椅子も置いた
身体を悪くして入院した施主の母親。退院したら施主は自分たち家族と同居しようと、リフォーム前提で中古マンションを探しました。
購入したマンションは玄関と廊下、リビングへの入口はかなり狭かったので、車イスで通れる幅へと変更。また、母親の寝室から続く水まわりへの動線は、開け閉めしやすい引き戸に変え、段差も解消しました。
さらに洗面室から入る動線だったトイレは、廊下から入れるように出入口の位置を変え、簡単に開閉できる上吊り式の引き戸を備えるなど、体に負担の少ない住まいを実現しました。

中古住宅を購入して二世帯が高齢になっても安心して暮らせる住まいに
定年が近づいた施主は、息子とともに「家族みんなが、この先も一緒に安心して暮らしていけるように」と、中古住宅を購入してリフォームすることにしました。
見つけたのは都内の庭付き一戸建て。増改築を重ねた建物でしたが構造を補強して耐震性能を確保しました。合わせて、バリアフリーでゆったりとした間取りに変更しました。
浴室や洗面所、トイレは位置を変更することでそれぞれ広いスペースを確保。また外構にはスロープを設置し、各部屋と廊下には開け閉めしやすい上吊戸の引き戸を採用しました。さらに玄関や廊下には夜間の利用も安心できるよう、人感センサーの照明を備えるなど、二世代みんなが安心して暮らせるバリアフリーな住まいを実現しました。

まとめ
ある日突然、親の介護が必要になり、介護リフォームを検討する人はたくさんいると思います。その際、慌てて手すりをつけるのではなく、まずはケアマネジャーなどに相談することからリフォーム内容を検討してください。
ケアマネジャーは今後のケアプランを作成やサービス事業者との調整を行ってくれる専門職です。ですから介護方針に沿ったリフォームを行いやすくなります。合わせて担当医師や、リハビリでお世話になった理学療法士や作業療法士の意見も聞くことをおすすめします。
もしもまだ要介護などに認定されていなければ、地域包括支援センターか市区町村の窓口にまずは申請を行ってください。要介護や要支援認定を受ければ、担当のケアマネジャーなどが決まるので、その後、介護保険の助成金を利用することができます。
また、誰が介護をするのか、実家をどうするのかといった今後について、家族みんなで話し合うことも先決です。それによってどの家を、どこまでリフォームするのかが変わってくるからです。それによって必要になるリフォーム費用も変わります。
誰もが安心して、快適に暮らし、心残りなく生涯を終える。それが介護リフォームです。できればみんなが元気なうちに話し合っておくことが理想です。元気な両親ほど嫌がるかもしれませんが、両親のためだけでなく、家族みんなのためのリフォームなのだと説得して、家族みんなの将来を話し合いましょう。
取材協力・監修/一級建築士 齋藤進一さん(やすらぎ介護福祉設計)
構成・取材・文/籠島康弘
イラスト/徳丸ゆう
雑誌「カーセンサー」編集部を経てフリーライターに。中古車からカーシェアリング、電気自動車までクルマにまつわる諸々の記事執筆を手がける。最近は住宅雑誌の記事も執筆していて、自分が何屋なのかますます分からなくなってきた。