竣工から約40年。植栽管理と修繕に力を注ぐ駅近メガマンション

パークシティ溝の口の外観

物件名:
パークシティ溝の口
所在地:
神奈川県川崎市
竣工年:
1982年〜1984年
総戸数:
1103戸

パークシティシリーズの第1号として40年前に誕生

JR南武線、東急田園都市線、東急大井町線の3路線が乗り入れる溝の口。駅周辺にはノクティプラザやマルイファミリー溝口をはじめ商業施設が集まり、交通・買い物ともに利便性の高い街として人気を呼んでいる。

溝の口駅前

溝の口駅前には大型商業施設がずらり。駅からペデストリアンデッキでつながっており行き来がしやすい。南武線の武蔵溝ノ口駅と東急大井町線の溝の口駅の乗り換えもスムーズだ

「パークシティ溝の口」はそんな溝の口駅近くの大規模マンションだ。「パークシティ」は三井不動産レジデンシャル(当時は三井不動産)が手がけるマンションシリーズの一つだが、このマンションは記念すべき第1号。竣工してからおよそ40年の歳月を数えている。5万6761㎡の広い敷地には低層棟7棟、高層棟5棟の全12棟が建ち、総戸数は1103戸。敷地内にスーパーなども入る複合開発は竣工当時としては画期的であり、20倍の抽選倍率をつけた住戸もあったそうだ。
現在も中古市場での引き合いは多く、新築分譲時より高値がつく住戸がほとんど。その人気の理由を探ろうと、「パークシティ溝の口」を訪ねて居住者の方々にお話を伺った。

パークシティ溝の口の北側エントランス

マンションの北側エントランス。敷地内には「イトーヨーカドー溝ノ口店」があり、英会話教室なども入居

まずお目にかかったのは管理組合の前・理事長で、現在は住棟委員会の副委員長を務める中村孝蔵さんだ。住棟委員会とは各住棟から選出された委員32名(幹事2名を含む)で構成される管理組合下の組織。その住棟委員会から選出された理事8名に、商業施設の持ち主である三井不動産を加えて理事会を編成する体制になっている。住棟の修繕などを話し合うのは住棟委員会、商業施設を含めた敷地全体について審議をするのは理事会と役割分担をしているそうだ。

中村さんが入居したのは3年前。新築マンションも多い溝の口で、なぜこのマンションを選んだのか、その理由から伺ってみた。
「以前は東京の多摩市に住んでいて都心に通勤していたのですが、もう少し勤務先に近い場所に住みたくて、会社の同僚が住んでいた元住吉辺りを探していたんです。そのとき不動産屋さんにあった地図が目に入り、溝の口駅の近くにこんな大きいマンションがあるんだと知ったのがきっかけです。早速、見学に行ったら環境も素晴らしかった。これだけの規模があって管理もよさそうで、予算にもあっていたので購入を決めました」
入居後1年過ぎに輪番で役員がまわってきて理事長になった中村さんだが、活動に携わって居住者の意識の高さに驚いたという。
「みなさん、非常に熱心で知見も豊か。それが植栽、修繕、防災など管理に表れていると実感し、40年間続いたこの環境を、この先もしっかりと維持していかないといけないなと感じました」

場所ごとの植栽の特性を考慮して剪定基準を制定

多岐にわたる管理組合の活動のなかで、最初に特筆すべきは植栽だろう。マンション内をぐるりと巡るだけで、そのスゴさが伝わってきた。
広い敷地のあらゆるところに樹木が茂り、秋に訪れたため紅葉の真っ盛り。あまりの美しさにしばし足を止めて見とれてしまったほどだ。
住居棟の間にケヤキ通り、ハナミズキ通り、トチノ木通りなどの名前がつけられているのも緑の豊かさゆえのことだろう。高木だけで約30種、約1400本が植えられているそうで、それ以外の中低木や草花も加えたら一体、どれくらいの数になるのか。
敷地の中央にある芝生広場にも見上げるほどの高さの樹木が茂り、鳥のさえずりが響くその雰囲気はまるで森林のよう。にぎやかな駅前から5分程度歩くだけで、これほど豊かな自然がある環境は貴重といえるだろう。

ケヤキ通り

マンションのメインストリートになるケヤキ通り。秋には美しい紅葉が楽しめる。植栽の手入れは造園業者に委託

ハナミズキ通り

ハナミズキ通りは落ち着いた小径。春から初夏にかけてハナミズキの花が咲き、艶やかに通りを彩る

芝生広場

芝生広場は滑り台も。かつて生えていた芝生は建物や樹木の陰になり生育状態が悪く、現在は土の広場になっているが、芝生再生の試みもされている

こうした植栽の維持・保全にあたっているのが環境分科会と植栽研究会だ。環境分科会は6つある分科会の1つ。今年度は理事と住棟委員の計3名で、植栽のほかに、駐輪場、ごみ置き場、ペットなど住環境全般を担当している。
そして、環境分科会と一緒に活動し、理事会の諮問機関にもあたるのが植栽研究会で、運営細則もつくり新たに発足したのが2017年。メンバーは現在21名で、こちらは全員が住人有志だという。その立ち上げに携わった会長の岡村正雄さんは発足の経緯をこう説明する。
「植栽に関しては『木が茂って部屋に陽が入らない』など住人からさまざまな要望が入るのですが、従来はそうした要望を言える場がなかったんですね。また、環境分科会は毎年の役員が担当するので基本的に1年交替。継続的に植栽の状況を見ていくことが必要だと感じていたため、植栽研究会として立ち上げることにしたのです」

その活動の一環として作成されたのが「植栽と環境のしおり」だ。住人に植栽や環境を理解してもらえるようにと、30ページにわたる立派な冊子がつくられていることにまず驚いた。中身も濃く、活動履歴、高木の位置と樹種を示した植栽図、年間植栽管理計画などがわかりやすく示されている。
なかでも、思わず目が止まったのは、敷地内の樹木のイメージ図と剪定基準を記したページだ。場所ごとの植栽の役割や樹木の形状、それに応じてどのように剪定するかも事細かに書かれている。例えば、ケヤキ通りは「夏の涼しい緑の環境をつくる」のが役割で「低層棟の高さ目処のアーチ状の樹形」を指定。低層棟の間は陽当たり重視の剪定が基本で、毎年剪定するか隔年かも各々決められている。
「管理規約の植栽ガイドラインにも木の高さの調整などは書いてあるのですが、場所や植生によって違うのでそれぞれを調べた上でこの剪定基準をつくっています。もちろん、植栽は生き物なので状況は日々変わるため、普段から敷地内を歩いて、『あの枝はベランダや建物にかかっているから剪定したほうがいいかな』とチェックするようにしています。今ではどこにどんな木があるか、植栽図を見なくてもわかるようになりました」(岡村さん)

パークシティ溝の口の植栽と環境のしおり

2020年に作成された「植栽と環境のしおり」は新規入居者にも配布。今年2023年に改訂が予定されている(画像提供/パークシティ溝の口管理組合)

パークシティ溝の口の植栽と環境のしおり

「植栽と環境のしおり」に掲載されている植栽のイメージ図と剪定の基準(撮影/SUUMO編集部)

聞けば、住人の要望が食い違った場合の意見の調整も植栽研究会が先導しているそうで、そこが一番苦労するところのようだ。
「植栽に対する考えは人それぞれ違い、ある人にとっては邪魔で切りたい木でも、別の人には愛着があって切りたくないという食い違いはよく起こります。我々が心がけているのは多数決では決めないこと。その場にいる全員が納得できる形に決着しないとしこりが残ってしまいますから。そういうときに役立つのが樹木の目的や剪定基準です。『そもそもこの木はなんのために植えているんだっけ?』と原点に立ち返りながら、話し合うことができるんですね」(岡村さん)

さらに、広場の土が周囲に流れ出さないよう土留め工事を計画したり、スズメバチやカラスの巣の撤去依頼をしたり、さらには蚊の駆除までしているというから、活動はまさしく八面六臂だ。
「蚊の駆除は業者に依頼したこともあったのですが、効果があまりない上、費用も高いので、最近は自分たちで行っています。ボウフラがわきやすいのは雨水枡など雨がたまるところ。全部で約140カ所に薬剤を入れるほか、駐輪場の雨水枡にはネットをかけて蚊の動きを抑えることもしています。ほかにも、砂場の砂が固くなったらシャベルで掘り起こすこともあります。『みんなのために環境をよくすることは自分のためにもなる』という気持ちが活動のモチベーションですね」(岡村さん)

植栽関連では毎月第2・第3水曜日に住人が自由に参加できるボランティア活動日も設けている。ボランティア活動では定期剪定の間に伸びた枝を整えるほか、管理が難しく枯れてしまっていた低層棟の間の芝生エリアを復活させる試みもしている。今回は育てやすい芝を植え、活動日に参加者で水やりをしているそうだ。参加者は多いときで18人。植栽研究会と兼ねている人も少なくないとか。

このほか、個人管理の草花が植えられているのも珍しいだろう。マンション内は共有地のため植物を植えたりプランターを置いたりするのは禁止だが、報告書の提出があれば園芸を楽しめるという。その個人管理の草花は現在15カ所にあるそうだ。
さらに、プランターの花壇については自治会の「園芸の会」が花を植えたり水やりしたりとこまめに手入れをしている。マンション内でさまざまな植物を目にできれば日常の癒やしにもなるだろう。

パークシティ溝の口の芝生

低層棟の間で育成中の芝生。レンガの小径に点在する緑が和みの空間を生み出す

パークシティ溝の口の花壇

E棟南側に大きな花壇があり、季節の草花が行き交う人々の目を楽しませる

パークシティ溝の口の花と噴水の広場

南側にある「花と噴水の広場」。心地よい水音は癒やし効果抜群だ

パークシティ溝の口のプレイロット

マンションの敷地内には小学生以下を対象としたプレイロットが点在。放課後や休日は遊びに来た親子でにぎわう

2度目の大規模修繕を前に住民主導の修繕にスイッチ

修繕についても住人主導で精力的に取り組んでいる。その中心になるのは修繕分科会の下に置かれた修繕委員会だ。この委員会が発足したのは、2回目の大規模修繕を前にした2005年。マンションに合った独自の修繕計画を立てるべきではないかという声があがり、住人有志による委員会が立ち上げられたという。
2021年から2022年にかけては3回目の大規模修繕が実施されたばかり。入札によって1、2回目とは別の業者に委託することになったが、工事中の対応もよく住人には好評だったそうだ。
「このマンションは高層棟と低層棟が混在し、修繕が必要な箇所は棟ごとに異なります。そこで工事の前には現況を細かく調査し、修繕の要不要を絞り込んだ結果、費用は当初の予算の8割程度に抑えることができました。また、修繕委員会では住民の意見を定期的に聞き取り、必要に応じて説明会や意見交換会を開くなどして大きなトラブルもなく終えることができました」(中村さん)

パークシティ溝の口の修繕した住棟

大規模修繕を終えてリフレッシュした住棟は築40年とは思えないほど

パークシティ溝の口のD棟エントランス

D棟の1階エントランス。レトロ感のある洗練されたデザインは美術館のようだ

もちろん、大規模修繕以外の修繕計画も緻密かつ丁寧だ。例えば、2010年に着手した給水・給湯管・第2次排水管更新工事では、専有部分の給水・給湯管・追い焚き管の工事まで実施。専有部分まで手を広げれば、建物全体の設備能力を一気に引き上げられるためだ。しかも、個人の自己負担は一切なし。一括発注で全体的にコストダウンができ、専有部の工事を含めても総工費を修繕積立金額内に収めることができたのである。
中村さんによれば、現在、進行しているのはアルミサッシと玄関ドアの交換だ。
「アルミサッシの交換は複層ガラスの導入などとともに先行して検討が進められていまして、一方で玄関ドアについては積立金の状況を踏まえて交換の実施時期を決める方向だったのですが、一緒に玄関ドアを交換すると玄関ドアのほうにも国の補助金が出ることがわかって急きょ、同時に行うことになりました。目下、検討しているのは玄関ドアの色・デザインとドアの脇にあるインターホン付きのパネルまで交換するかどうか。特にパネルについては、アンケートを取ると低層棟では交換してほしいとの回答が過半数を占め、高層棟では交換は不要という回答が多かった。もともとの玄関ドアの色や玄関の配置による光の差し込み方が異なることもあって意見が分かれたのでしょう。
パネルを交換するかどうかによって予算も大きく変わるので慎重に判断しなければなりません。そこで住戸と同じ玄関ドアがつく共用部に試験的に新しいドアを設置し、見学会を開いた後、もう一度、アンケートを行うことになっています」
一方、防災については管理組合と自治会で協働して強化を行ってきた。自主防災組織「自衛消防・地震防災隊」が設置されているほか、避難支援の希望などを収集した災害対策名簿も作成されている。さらに、コロナ禍前には年1回の防災訓練に加え、年3回、コーヒーやお茶を飲みながら災害時の備えの情報交換をする減災カフェを開催。2016年には近隣の2つのマンションと共同で「炊き出しフェス」を実施するなど、地域ぐるみの活動も加えて住人の防災意識を高めている。

パークシティ溝の口の炊き出しフェスの様子

2016年開催の炊き出しフェスの様子。子ども向けのワークショップでは、段ボールを利用してジオラマ地図を製作。地図上で災害時の避難シミュレーションも行われた(撮影/SUUMO編集部)

パークシティ溝の口の炊き出しフェスの様子

炊き出しフェスでは竹を使った流しそうめんも登場(撮影/SUUMO編集部)

パークシティ溝の口の炊き出しフェスの様子

こちらも炊き出しフェスの一コマ。近隣マンションの住人を交えて、防災につながる模擬店がずらりと並んだ(撮影/SUUMO編集部)

サークルは17団体、延べ160人が楽しく活動

1103世帯が暮らすこのマンションではコミュニティも醸成されている。そのきっかけの場になっていたのが自治会主催の秋まつりだ。コロナ禍前に実施されていたこのイベントには地元飲食店も多く出店。近隣の人たちもウェルカムの地域に開かれたおまつりとして親しまれていた。
ちなみに、コロナ禍の自粛で窮地に立たされた地元飲食店を応援するため、自治会ではテイクアウト情報を載せた号外を全世帯に配布。地域のつながりの深さを示すエピソードといえるだろう。

パークシティ溝の口の秋まつりの様子

2019年に開催された秋まつりの様子。ステージに立つのは、フラダンスとハワイアンのサークルのみなさん。このサークルには近隣住民も参加しているそう(画像提供/パークシティ溝の口管理組合)

パークシティ溝の口の秋まつりの様子

こちらも2019年開催の秋まつりのワンショット。住人による模擬店がずらりと並び、多くの人たちでにぎわった(画像提供/パークシティ溝の口管理組合)

A棟やE棟には集会室などの共用施設があり、チアダンス、ジャズダンス、太極拳、囲碁などの公認サークル17団体が活動。延べ160名の住人がなんらかのサークルに所属しているそうだ。

パークシティ溝の口の集会室

E棟の1階にある集会室は広くて開放的。ジャズダンスなどのサークル活動に利用されている

「パークシティ陶芸くらぶ」が活動拠点にするのはE棟にあるカルチャーセンターだ。ここにはろくろ4台や土練り台、電気窯などが完備され、水曜、土曜、日曜の10時〜16時に都合のつく部員が集まって作陶に励んでいる。毎月1回、講師による指導があるほか、ベテラン会員がレクチャーしてくれるため、初心者でも参加しやすいとか。
「陶芸は服が汚れる作業も多いのですが、マンション内なら汚れても気にせずに帰れるので気軽に参加できます」
というのはこの日、参加していた部員のみなさん。
作品は秋まつりで展示・販売するため、それもまた励みになっているそうだ。

パークシティ溝の口の陶芸くらぶ

陶芸くらぶの活動場所になるカルチャーセンター。陶土や釉薬など材料も揃うので手ぶらで参加できる。活動などを紹介したホームページ も作成

パークシティ溝の口の陶芸くらぶ

陶芸くらぶのメンバーは現在20名。この日は4人がろくろを回して作陶に精を出していた。マンション内にあるので、普段着のまま都合のいい時間に参加できる

パークシティ溝の口の陶芸くらぶ

この日は素焼きの日。電気窯にはメンバーの多彩な作品がずらりと並べられていた

未来を見据えて管理をさらに強化

ここまでご紹介してきた通り、住人主導で管理を遂行しているのもこのマンションの大きな魅力といえるだろう。2017年には管理会社を現在のレーベンコミュニティに変更し、連携も一層、取りやすくなったそうだ。

パークシティ溝の口の管理防災センター

管理防災センターには管理会社の担当者が複数名常駐。共用施設の予約もここで受け付けている

「竣工から40年を迎えた現在、我々が目指しているのは管理のさらなる向上です。2022年4月から国土交通省による『管理計画認定制度』と一般社団法人マンション管理業協会による『マンション管理適正評価制度』が始まりましたが、その認定を受けるべく取り組んでいこうと考えています。認定申請するかどうかは総会での意思決定が必要であり現在は準備段階ですが、そうした取り組みを通して管理状態の底上げにつながることは間違いありません。
また、目の前の課題解決とともに、10年、20年という長期的な視野でのマンションのあり方も再検討しています。役員は1年交替なので翌年にどのようにつなげていくかという課題はありますが、現行の役員でできるだけのことをやってみようと取り組んでいます」

パークシティ溝の口が目指すのは永く快適に住み続けられるマンション。住人の顔ぶれに入れ替わりはあっても、そのスピリットはこれからも受け継がれていくことだろう。

構成・取材・文/上島寿子 撮影/上條泰山

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