ずっと“途中”の家を愉しむ カスタマイズを通して自分の「好き」を感じるマンション暮らし

こんにちは、沙東すずです。東京都内で会社員として勤務するかたわら、文筆や生きものに関するイベントなどの活動をしています(以前はメレ山メレ子というペンネームでしたが、2023年春に改名しました)。

今回はわたしの趣味である「家のカスタマイズ」について、途中経過をお見せしながらその愉しさを語りたいと思います。

マンション購入までの道のり

2023年1月にマンションを購入し、数カ月のフルリノベーション工事を経て5月に入居しました。

suumo.jp

実はわたしにとってはこれが2回目のマンション購入、そして改装です。

通称「メレヤマンション」にて、アフリカのガーナで作った棺桶と(撮影:宇壽山貴久子)

2016年に最初の中古マンションを購入してフルリノベーション。「古いマンションを好き勝手に改装したい」という夢をかなえました。その後、2017年夏~2020年冬まで中国子会社に赴任。「ぜんぜん住んでないじゃないか!」と思われそうですが、出向中も賃貸には出さず、一時帰国時には飲み会を開くなどして活用していました。

コロナ禍に突入した2020年には日本から中国に戻れない状況が続き、そんな中で持ち家があることには精神的に助けられたものです。外出を自粛するなか、2年ほどは初代マンションをあちこち手入れしながら暮らしていました。

二代目マンションを買おうと思うに至ったきっかけは、初代マンションのローン完済です。初代マンションは当時の基準で住宅ローン控除の対象外だったこともあり、無駄遣いを防ぐために出向手当などをせっせと繰上返済に回したところ、2022年にローンを完済できました。

ほっとする一方で、家や家具への愛が強いマキシマリストのわたしには初代マンションが手狭になってきていました。もっと広い家に住みたいのもあるけれど、何より「家をもっと改装したい」。家がだんだん自分になじんでいく感覚をさらに味わいたい。しかし、今の家にはもういじるところがあまり残っていない……。

飽和しつつあったメレヤマンション

そこで「買い替えという選択肢もあるのでは?」と考え、物件の売却・購入・改装をトータルでサポートしている不動産業者さんに相談に行きました。内見した二軒目の物件を気に入ったのでとんとん拍子で話は進み、二代目マンション購入に至りました。

ちなみに勤務先はリモートワーク推奨ではないため、通勤エリアと予算の関係で、新築マンション・一戸建てなどの選択肢は考慮に入れていません。今後の財政次第ですが、いずれは郊外に趣味の拠点を持てたらな、とは思っています。磯に通ったり、庭にビオトープを作ったりしてみたい。

リノベーション工事

2022年11月に内見した中古物件について購入申込・手付の支払などを行い、2023年1月に契約。新物件については物件代と改装予定資金をあわせて融資を受け、旧物件についてはゆっくり売却する、いわゆる「買い先行」のスケジュールで進めました。

ちなみに旧物件は先日売却に至ったのですが、相場が上がっているので購入当時よりは高く売れたものの、改装にかけたお金や償却分を考えると……トントンより多少得をしたかな? くらいの価格でした。わたしにとって家自体が趣味のようなところがあるので、あまり採算を気にしても仕方がない。

リノベーションについては、不動産業者さんの提供する定額リノベパッケージを選択。数種類のテイストごとに標準仕様と平米単価が決まっていて、具体的には紹介いただいた工務店と相談しながら細部を詰めていきます。設計士とフルオーダーで進めることも可能ですが、工務店がかなり細かく要望を聞いてくれたので、わたしには十分でした。床材や建具についてもいろいろとわがままを言った結果、改装資金の上乗せは必要になりましたが。

初代マンションが45平米ほどだったのに対し、二代目マンションは70平米弱。これならどんな間取りも思いのまま……と思いきや、古いマンションに特有の構造梁(はり)や配管が邪魔をします。数カ月悩み抜きましたが、冷暖房効率やいざというときの売却しやすさも考え、3DK+土間の間取りに。大工さんが腕のいい方で、土間以外に段差が出ないようにがんばって調整してくれたのもラッキーでした。

新居の間取図

寝室・リビング・書斎+ダイニングキッチン(+土間)、という間取りです。洗面所を廊下に出し、浴室に脱衣所兼ランドリースペースを確保しました。帰ってすぐ手洗いとうがいをして、場合によってはシャワーを浴び、部屋着に着替えて……と、感染症対策にも有効な動線かなと思います。

洗面所

洗面所には、前の家の浴室で使っていたのと同じタイルを貼ってもらいました。ミラーキャビネットの三面を壁で埋めることで、すっきりした印象に(こちらはX<旧Twitter>で見た建築士さんのアイデアをまねさせていただきました)。

インナーテラス

ダイニングにはインナーテラスを作りました。植物がじわじわと増え、伸びています。一人がけのソファで本を読んだり酒を飲んだりするのが楽しい。

キッチンはほぼ標準プランの仕様ですが、使いやすく気に入っています。キッチンパネルはホーローのものにして、掃除しやすくマグネット収納も使えるように。収納は不足気味なので、デッドスペースに後日オーダーした棚を置いたりしました。

食洗機については設置を迷いましたが、「水切りかごに食器があふれるのは見苦しい。乾燥機は必要!」という母(家オタクの血は母が源流です)の忠告を受け、国産のビルトイン食洗機の浅型を導入しました。「乾燥のみ」コースが選べるので、食洗機不可の食器が多くても活躍してくれます。

引き渡し後、いよいよはじまるカスタマイズの世界

こうして順調に進んだリノベーションですが、すぐ終わってしまってはつまらない。わたしは家が欲しいだけでなく、家を意のままにするプロセスを楽しみたいのだから……。

そこで、今回の改装ではあえて自分がやる部分を多めに残し、住みながらカスタマイズすることにしました。ここでDIYという言葉を使わないのは、わたしは「自分で決める」ことには拘りますが「自分でやる」ことはそこまで好きではなく、工作能力も低いためです。

できれば決めるところだけやって仕上げは人におまかせしたいですが、よりお金もかかりますしね。下手なりに自分でやる難しさを経験することで、プロへの尊敬も生まれてくるというものです。

カスタマイズその①:壁と天井のセルフ塗装に挑戦

部屋の印象を左右するのは結局、視界のほとんどを占める床と壁。特に壁を自由に塗り替えられるようになりたい!「今週末はキッチンの壁をグリーンに塗るの」などと言っている欧米の映画に憧れていました。

ポーターズペイント」という塗料の会社があります。お値段は張るのですが(※塗料は種類により約1万円〜)、深みのある色と質感に魅せられ、初代マンションでも寝室のみ塗装してもらいました。

入居後、さっそく書斎の天井と壁のペイントに挑戦。この部屋が完成しないと、引っ越しの段ボールの山が開梱できません。まずマスキングテープとマスカーで養生を行い、そのあと下地塗料であるシーラーを塗り、ペンキも二度塗りしていきます。ペンキが乾ききらないうちにマスキングテープをはがして完成です。

脚立を使っての高所作業になることもあって「本当にやれるのか……?」という気持ちでしたが、やれます! 塗料の色がとても美しいので、塗装のむらもしっかり味わいになります。

一日で書斎の塗装を済ませて自信をつけたあと、寝室にエアコンを付ける前に壁を塗っておく必要に気づき、寝室の塗装にもチャレンジ。寝室の壁の一部に貼られていたビニールクロスもはがし、カチオンシーラー(下塗りによく使用される塗料)を下地に塗りました。

寝室は書斎よりもうまく塗装できた! と、大満足したのもつかの間。昼寝をしていたのですが、寝室の引き戸を見つめていると「何かがおかしい」という気がしてきた。引き戸の裏・・・わたし・・・塗ってない気がする・・・いやそんなバカな・・・。

本当に塗っていませんでした! エドガー・アラン・ポーの『黒猫』ラストに勝る衝撃。まあ、自分のやることなので多少の惨事はご愛敬(あいきょう)です。自分でやると、何が起きても責められるのは自分だけというところがとても良いと思います。

引き戸の裏は忙しくてまだ塗れていません。このあとインナーテラス、リビング、ダイニングもそれぞれ違う色で塗装していきます。道のりは長い。

カスタマイズその②:究極の書斎づくり

リノベーション事例集で「これぞ男の書斎」などといわれているのを見るたびに「わたしがそのうち女の書斎を見せてやりますよ……」と思っていたのですが、ついにその日がやってきました。まずは、わたしの考える最強のデスクを作ります。

わたしの考える最強の机のイメージラフ

・脚が昇降すること
・モニタやPC本体・モデム・照明などが天板に付随して昇降し、配線が床に散らばらないこと

を条件にイメージ図を書き、部材を集めました。天板はR不動産 toolboxでオーダー加工したものを注文し、昇降脚は調べた限りいちばん低くできるE7 Proに。世の机と椅子、153cmの女性にあわせて作られたものがほぼないんですよね。

組み立て作業の様子

届いた天板を前に作業開始。配置を確認しながら、昇降脚やケーブルトレーをインパクトドライバーで天板に留めていきます。

意外とスムーズに作業が完了。段ボールをクッションに机をひっくり返してみると、そこには板の反り止め金具が! なんと天板の表裏を間違えて作業していました。あのときはびっくりしたな……なにしろ40カ所くらい天板に穴を開けちゃったから、いまさらやり直すわけにもいかないし……。

そんなわけで、反り止め金具つきの最強デスクで暮らしています。そういうものかと思えばあまり気になりません。

立って作業することはあまりないのですが、作業内容や疲れ具合にあわせてデスク高さを調整できるのはとても助かっています。高くできること以上に、低くできることに価値がある。

そして、最強デスクの横にあるのが最強の壁本棚です。こちらは壁本棚でおなじみの「マルゲリータ」にオーダーしました。

サイトがあまり見やすくないのですが、目を皿のようにして見ると意外といろんなカスタムができることや、都内近郊なら現地調査してくれることもあるとわかります。

現地調査と設置サービスにあわせ、引き出しや「本棚の中の棚」などの豊富なアクセサリーをいろいろ注文して総額30万円くらいになってしまったのですが、本を探しやすく日焼けしづらい環境になって満足です。

ちなみにうちにはペットのアリとカエル、そして餌のコオロギがいるため、夏は書斎に一日中冷房を入れています。四畳ほどの部屋なので、電気代は今のところそんなにかかっていません。家の中に冷暗所があるのは意外と便利なことが多く、温度と湿度管理が必要なもの(本・カメラのレンズ・そして酒など)は自然とこの書斎に集まってくるようになりました。

カスタマイズその③:その他いろいろ

まだ入居してから半年たっていないため、おもに書斎の完成を見たところでひと息ついてしまっています。書斎ができるまで、本や雑貨の段ボールが開梱できずリビングがずっと占拠されていたんですよね…。

左上から時計回りに・キッチン食器棚のタイル天板・脱衣所の折りたたみ棚・洗面所のタオル掛け・キッチンの転び止め

建具の塗装など早くやるべきものもあるのですが、ちょっと時間ができるとより緊急性の低いカスタマイズをやりたくなります。いろんな場所に「R不動産toolbox」や「上手工作所」の棚や金具を取り付け、自己満足する日々。

最近は食器棚の天板が傷んでいたので、お気に入りのタイルを取り寄せて天板をタイル貼りにしました。

熱い鉄瓶も気にせず置けてうれしいのですが、4シートでいいところを4箱誤発注してしまい、いま3箱のタイルが家にあります。かならず致命的なミスを犯す自分が怖い。信頼できない住まい手。助けて……だれか……。

暮らしに反復する愉しみを探して

この趣味のいいところは、愉しさが反復することだと思います。好きな色に塗った壁、お気に入りの金具、便利な棚など、自分の住空間を自分の好みに沿ってカスタマイズすると、その箇所を見たり使ったりするたびに脳がうれしさを覚えます。

家を一からセルフビルドするほどの根性はないけれど、計画を立て、実行し、その結果が自分の暮らしに反復する愉しみを与えてくれる。その過程で「自分はどう暮らしたいのか」が見えてくるのが、家をカスタマイズすることの良さだなと思います。

本当は記事にするにあたり、もうちょっとカスタマイズが進んだ姿をお見せしたかったところもありますが……今後もいろいろとやらかしつつ、楽しみながら家を編集していきます。

まだほぼ手つかずのリビング(通称「棺桶部屋」)

著者:沙東すず

沙東すず

都内在住の会社員。昆虫をテーマにしたクリエーターイベント「昆虫大学」を学長として開催。趣味は磯遊びと家づくり。著書『ときめき昆虫学』(イースト・プレス)『メメントモリ・ジャーニー』『こいわずらわしい』(亜紀書房)など(いずれもメレ山メレ子名義)

X(旧Twitter):@merec0

編集:はてな編集部