建物耐用年数と寿命の違いとは?構造別年数やメンテナンス費用を学び、中古住宅選びを賢く進めるためのポイント

公開日 2025年09月01日

建物耐用年数と寿命の違いとは?構造別年数やメンテナンス費用を学び、中古住宅選びを賢く進めるためのポイント

中古マンションや物件を購入する際、多くの人が気にするのが「この築年数の物件は、実際に何年住めるのか?」という点でしょう。また、耐用年数に基づいて「損しないか」「どうすれば長く快適に住めるのか」という疑問も浮かんでくるのではないでしょうか。本記事では、さくら事務所ホームインスペクション北海道代表で一級建築士事務所北工房代表取締役の栃木渡さんに取材協力いただき、木造や鉄骨造、マンションなど、建物の種類別に法定耐用年数を解説。それに基づいて実際に住めるリアルな年数や、長く住むためのメンテナンスポイントを具体的にお伝えします。これを読めば、賢い中古物件選びができ、選んだ物件に長く住めるコツを身につけられます。あなたの理想の住まいを手に入れるために、ぜひ参考にしてください。

はじめに 建物耐用年数ってなに?

建物耐用年数は法律で定められている

建物耐用年数とは、木造や鉄骨造など建物の構造別に法律で決められた年数のことで、「法定耐用年数」とも呼びます。法定耐用年数は建物を所有しているときに、年数に応じて建物が劣化した分を経費として計算する際に使われる税制上の年数です。従って実際の建物の寿命とは異なります。

耐用年数は減価償却費の計算で使われる

建物の耐用年数は、賃貸住宅やビルなどを取得して人に貸す、いわゆる「賃貸経営」をする際に使われます。賃貸経営で利益が出ると不動産所得として所得税などが課税されますが、その際に耐用年数に基づいて計算した「減価償却費」を経費として計上できるのです。経費が大きいほど計算上の所得が少なくなり、支払う税金も少なくすることができます。

自宅を売ったときの税金にも影響する

自分が住むためのマイホームを購入する場合、住宅を所有している間は耐用年数を意識することはほとんどないと思いますが、住宅を売るときには影響があります。住宅を売ったときに買ったときの価格よりも高く売れると、その差額である売却益に所得税などがかかるからです。この売却益を計算するときにも、建物の減価償却費を計算して買ったときの価格から差し引く必要があります。なお、賃貸経営による事業用ではなく、自宅など居住用の住宅の場合は耐用年数を1.5倍にして減価償却費相当額を計算します。

住宅ローンの借り入れに影響する場合も

なお、住宅を買うときの住宅ローンに耐用年数が影響する場合もあります。金融機関によって異なるので一概には言えませんが、建物を評価する際に耐用年数があと何年残っているかを考慮するケースがあるからです。建物が古くて耐用年数の残りが少なかったりゼロだったりすると、希望する融資額を借りられなかったり、返済期間が短くなって月々の返済額が増えたりすることもあり得ます。

住宅ローンについてあれこれ悩む夫婦
建物耐用年数は賃貸経営や自宅売却のほか、住宅ローンに影響することも(画像/PIXTA)

住宅の種類別法定耐用年数一覧

耐用年数は建物の種類や構造で決まる

耐用年数は建物の種類や構造に応じて決められており、住宅の場合は下記のとおりです。

■法定耐用年数(住宅用)
木造 22年
鉄筋コンクリート造(RC造) 47年
れんが造・石造・ブロック造 38年
鉄骨造 骨格材肉厚3mm以下 19年
骨格材肉厚3mm超4mm以下 27年
骨格材肉厚4mm超 34年

一戸建てで一般的な木造は22年

日本の一戸建て住宅で最も一般的な「木造」は、耐用年数が22年です。これは税制上の建物の価値が22年でほぼゼロになり、それ以降は減価償却費を経費として計上できくなることを意味します。

木造住宅の中でも最も多いのは、木の柱や梁などで骨組みをつくる「木造軸組工法」の住宅です。この工法は「在来工法」とも呼ばれ、日本では古くからの工法として普及しています。ほかにも木造住宅としては、「2×4(ツーバイフォー)工法」に代表される「木造壁式工法」や、ハウスメーカーが独自に開発した「木質パネル工法」などがあります。

木造住宅の耐用年数についてもっと詳しく
木造住宅の耐用年数とは? 法定耐用年数と実際の寿命はどう違う?

マンションに多いRC造は47年

「鉄筋コンクリート造」は「RC造」とも呼ばれ、文字通り鉄筋とコンクリートで建物の躯体(柱や壁、床など)をつくる工法です。一戸建てでも用いられますが、主にマンションで採用されています。この鉄筋コンクリート造住宅の耐用年数は47年と、木造の2倍以上の長さです。

れんが造・石造・ブロック造は38年

最近の住宅ではほとんど見かけませんが、れんが造や石造、ブロック造の住宅の耐用年数は38年です。

鉄骨造は鉄骨の厚みにより19年~34年

建物の躯体を鉄骨でつくる工法が「鉄骨造」です。鉄骨造は主にオフィスビルや店舗などで採用されますが、ハウスメーカーなどが建てる一戸建てに用いられることもあります。鉄骨造の耐用年数は使われる鉄骨の厚みによって異なり、厚みが厚いほど耐用年数が長くなります。

鉄筋コンクリート造が多いマンションの模型
耐用年数は建物の種類や構造材によって決められている(画像/PIXTA)

では実際の建物寿命とは?

どんな構造でも適切にメンテナンスすれば50年以上住み続けられる

前述のように耐用年数はあくまで税金の計算などに使われるものなので、実際の建物の寿命とは異なります。では実際の建物寿命はどのくらいでしょうか。北工房の栃木さんに伺いました。

「地域性や建物のスペックにもよりますが、住宅を購入してから50年以上は住み続けるケースが多いですから、建物もそれ以上は長く維持する必要があります。例えば車であれば車検などの費用を負担してメンテナンスしなければなりませんが、住宅の場合もまったく同じです。建物の管理責任は住まい手自身にあるのです」

つまり、木造やRC造などの構造の違いにかかわらず、しっかりとメンテナンスをすることで建物を50年以上長持ちさせることは可能だということです。では、建物をメンテナンスするのにどのくらいの費用がかかるのか、構造別の特徴なども見ていきましょう。

建物の基礎部分を点検する担当者
住宅の建物はしっかりとメンテナンスすることで50年以上長持ちさせられる(画像/PIXTA)

木造住宅の建物耐用年数やメンテナンスについて

木造は湿度を適度に保ちやすい

木造住宅は建物の柱や梁、床や壁といった構造部分(躯体)を木材でつくる住宅のことです。木材は加工がしやすく、吸湿性が高いので屋内の湿度を適度に保ちやすいメリットがあります。ただし、耐震性を確保するために柱や筋交いを一定間隔で配置する必要があるため、RC造などに比べて空間設計の自由度が制限される場合があります。また、木材が腐食しないよう湿気対策や防蟻対策への配慮が必要です。

木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、適切にメンテナンスすれば50年以上住み続けることは可能です。ではメンテナンスにはどの程度の費用がかかるのでしょうか。標準的な仕様・広さの2階建住宅を想定すると、目安となる部位別の金額は以下のようになります。

屋根は10~12年ごとに塗装が必要

まず屋根はスレート・コロニアル屋根の場合、塗装メンテナンスが10~12年ごとに80~120万円、葺き替えが25~30年ごとに150~250万円かかります。ガルバリウム鋼板の場合の費用はもう少し低めです。

外壁の塗装は8~10年ごとに必要

外壁は窯業系サイディングの場合、塗装が10~12年ごとに100~150万円、張り替えが25~30年ごとに200~300万円です。モルタル外壁の場合はもう少し費用は低めになります。断熱材は30~40年で交換が必要となり、100~200万円かかります。

給湯器は10~15年ごとに交換

給湯器は10~15年ごとに交換するのに20~40万円、給排水管やガス管の部分交換は15~25年ごとに10~80万円が目安になるでしょう。分電盤など電気設備の更新は25~30年ごとに50~100万円が目安です。

床下防蟻処理は5年ごとに必要

ほかに床下防蟻処理が5年ごとに15~25万円、内装リフォームが15~20年ごとに100~300万円、建具交換が20~30年ごとに50~150万円といったところです。

■木造住宅のメンテナンス費用の目安
部位 材料など 費用の目安
屋根 スレート・コロニアル屋根 塗装メンテナンス:10~12年ごとに80~120万円
葺き替え:25~30年ごとに150~250万円
ガルバリウム鋼板 塗装メンテナンス:15~20年ごとに70~100万円
葺き替え:30~40年ごとに120~200万円
外壁 窯業系サイディング 塗装・シーリング:10~12年ごとに100~150万円
張り替え:25~30年ごとに200~300万円
モルタル外壁 塗装:8~10年ごとに80~120万円
大規模改修:20~25年ごとに150~250万円
給排水・給湯・ガス設備 給湯器 交換:10~15年ごとに20~40万円
給水管・給湯管 部分交換:15~20年ごとに30~80万円
排水管 部分交換:20~25年ごとに20~60万円
ガス管 部分交換:15~20年ごとに10~30万円
電気設備 分電盤・配線 更新:25~30年ごとに50~100万円
床下 防蟻処理 5年ごとに15~25万円
内装・建具 内装リフォーム 15~20年ごとに100~300万円
建具交換 20~30年ごとに50~150万円
※標準的な仕様・広さの2階建住宅を想定し、北工房・栃木渡氏への取材を基に作成。実際にかかる費用は建物のスペックや環境条件などにより異なる

月額3~4万円の維持管理費用が最低必要

「新築時のスペックを維持するためには、最低でも年間30~50万円程度、月額で3~4万円の維持管理費用を見込んでおくことをお勧めします。また、築年数が経過するにつれて費用は増加する傾向にあります」(栃木さん)

維持管理費用を抑えるためには、定期点検によって傷みや不具合を早期に発見・対応することが大切です。

「特に雨漏りや構造部分の劣化は、放置すると修繕費用が大幅に増加するため、3~5年ごとの専門的な点検が望まれます。新築で購入した家であれば、施工会社と良好な関係を維持することで、適切な費用で点検・補修をしてくれるでしょう。中古で購入した場合は、インスペクションを手がける企業や建築士に相談することも有効です」(栃木さん)

キッチンの水栓を点検する作業員
建物を長持ちさせるには適切な点検と補修が欠かせない(画像/PIXTA)

鉄骨住宅(S造)の建物耐用年数や特徴、メンテナンスについて

鉄材の厚みにより分類される

鉄骨住宅とは、柱や梁など骨組みとなる構造部分(躯体)を鉄材でつくる住宅のことです。鉄骨住宅は鉄材の厚みにより、一般的に厚み6mm未満の鉄材でつくられた「軽量鉄骨プレハブ造」と、一般的に厚み6mm以上の鉄材でつくられた「重量鉄骨造」に分けられます。

部材を工場で製作するので工期を短縮しやすい

鉄骨住宅は工場で製作した部材を現場で組み立てるため、品質が安定しており、木造軸組工法などと比べて工期を短縮しやすい点がメリットです。また、特に重量鉄骨造は部材の強度が高いため、柱や壁の少ない広い空間をつくりやすいという特徴があります。

防音対策や防錆処理が需要

半面、鉄材は音が響きやすいため、遮音性を高めるために防音材などを利用する必要があります。また、鉄材が錆びるのを防ぐため、塗料を塗るなどの防錆処理が欠かせません。

維持管理のコストは木造と大差はない

鉄骨住宅の法定耐用年数は19~34年ですが、適切な維持管理をすれば実際には50年以上は住み続けられると言われています。「維持管理に必要なコストは木造住宅と大差はありませんが、木材のように腐ることがないので、一般的に鉄骨住宅のほうがコストは多少低くなるでしょう」(栃木さん)

点検作業をする担当者
定期的な検査が建物を長持ちさせるポイント(画像/PIXTA)

RC造の建物耐用年数や特徴、メンテナンスについて

耐震性や耐久性にすぐれている

RC造とは「鉄筋コンクリート造」のことで、鉄筋を組んで型枠で囲み、コンクリートを流し込んで躯体をつくる工法です。マンションでは一般的に用いられる工法で、5階建て程度までの低層の場合は壁や床を鉄筋コンクリートでつくる「壁式構造」が多く、中高層の場合は鉄筋コンクリートの柱や梁で躯体をつくる「ラーメン構造」が一般的になります。

鉄筋コンクリート造は引っ張る力に強い鉄筋と、圧縮に強いコンクリートを組み合わせてつくるため、強度が高く耐震性や耐久性にすぐれると言われています。半面、躯体自身の重量が重いため、特に高層の建物は低層階の柱や梁を太くする必要があり、室内に柱や梁の出っ張りが出やすくなります。

月額2~3万円の修繕積立金が目安

RC造の法定耐用年数は47年ですが、適切に維持管理することによって実際の寿命をより長くすることは可能です。マンションの外壁や屋上といった構造部分は、居住者(区分所有者)全員で共有する「共用部」となり、管理組合が維持管理に責任を持つことになります。維持管理に必要な費用は修繕積立金として毎月徴収され、30年前後以上にわたる長期修繕計画に基づいて点検や補修が行われる仕組みです。

「修繕積立金の金額は専有面積1m2あたりおおむね200~300円程度が一般的です。1戸あたりでは2万円から3万円程度が目安になるでしょう。築15年以上のマンションでこの金額よりも極端に安い場合は、今後の維持管理が適切にできなくなる可能性があるので注意が必要です」(栃木さん)

建物の構造にかかわらず、適切に維持管理していくためには相応の費用負担が必要になるということでしょう。

電卓と住宅の模型、お札
建物を長持ちさせるには相応の費用がかかる(画像/PIXTA)
まとめ

耐用年数とは、建物を貸したり売ったりするときの税金を計算するために使われる数字で、実際の建物の寿命とは異なる

耐用年数は建物の構造に応じて法律で決められている

建物の構造にかかわらず、適切に維持管理すれば50年以上住み続けることは可能

木造住宅を適切に維持管理するためには、月に3~4万円程度の費用を見込んでおくことが必要

鉄骨住宅の維持管理に必要な費用も木造住宅と大差はない

RC造のマンションの共用部は修繕積立金で維持管理されており、月に2~3万円程度が一般的

SUUMOコンテンツスタッフ
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