賃貸サイトの「構造欄」や不動産会社の張り紙でよく見かける「鉄筋コンクリート造(RC造)」「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)」「鉄骨造(S造)」「木造」などの用語。RC造とはどのような構造なのか、SRC造、S造、木造とはどんな建物構造で住み心地はどのように違うものなのでしょうか。そこで今回は、個人住宅から共同住宅、駅や学校まで数々の建築案件を手がけてきた佐川旭建築研究所の佐川旭さんにインタビューを実施。物件選びで参考になる建物構造について、さまざまな切り口からご紹介します。
まずは、それぞれの用語の意味から説明していきます。賃貸サイトの「構造」欄に記載されているRC造/SRC造/S造/木造とは、建築物の素材をもとに構造を表したものです。
・RC造(Reinforced Concrete)
日本語では「鉄筋コンクリート」という意味。鉄筋とコンクリートが互いの弱点を補完しあうのが特徴。
・SRC造(Steel Reinforced Concrete)
日本語では「鉄骨鉄筋コンクリート」という意味。鉄骨の粘り強さと、RC造の耐久性を兼ね備えている。
・S造(Steel)
日本語では「鉄骨」という意味。粘り強さがあり、RC造やSRC造よりも軽量でしなやか。
・木造
一軒家やアパートなど、日本における建物構造のスタンダード。
「RC」や「SRC」などのアルファベットは、上記にあるように建物を構造する材料・材質を表しています。それぞれの材料・材質によって、どのような建築物に適しているのかが変わってきます。
RC造は、柱や梁(はり)など強度が必要な部分に、鉄筋でできた枠型にコンクリートを流し込んだ素材を用いるものです。鉄筋は引張(引っ張る力)に、コンクリートは圧縮に強いという双方の特徴を組み合わせて、より強い構造を実現しています。異なる素材のいい面を活かし強度を高めている組み合わせですが、素材自体が重いため高層ではなく中低層の建築物で多く採用されています。木造やS造と比べると、コンクリートを流し込む工数が増えるためコストが高くなります。
SRC造は、基本的にRC造と似た構造ですが、鉄骨を支柱としているところが大きく異なります。これにより、RC造の耐久性に加え鉄骨(S)自体がもつ粘り強いしなやかさを兼ね備えた構造。SRC造はその性能の高さから高層の建築物に向いています。ただ、すべての階層にコンクリートを流し込むと建物全体の重量がかなり重くなってしまうため、5階よりも上の上層階にはコンクリートを流し込まないことがあります。
S造は、鉄骨自体の粘り強いしなやかさが特徴的です。さらに、RC造やSRC造のようにコンクリートを使わないため全体の軽量化が図れ、超高層や体育館などの広大な建築物などに適しています。ただし、しなやかな半面、RC造やSRC造と比べて揺れが大きくなるというデメリットもあります。なお、鋼材の厚みが6mm以上のものは「重量鉄骨構造」、6mm未満のものは「軽量鉄骨構造」に分類されます。
木造は、建築物の柱や梁などに木材を使用した構造のことで、主に一戸建てや3階程度までの低層の建築物の構造で木造軸組工法(在来工法)や2×4(ツーバイフォー)・2×6(ツーバイシックス)工法などがあります。木造軸組工法(在来工法)は、住宅だけではなく、神社仏閣など歴史的な建築物でも用いられています。それらを見ても分かるとおり、木材が豊富な日本では、古くからこの木造が建物構造のスタンダードとなっていました。木造は、RC造/SRC造/S造と比べて建築にかかるコストが低いほか、加工性が非常に高いことからリフォームがしやすく、材料が軽量のため奥まった土地や狭小地、変形した敷地でも施工しやすいといった特徴があります。
また、RC造/SRC造/S造/木造のような素材による構造分類のほかに、組み方を基準とした構造分類もあります。例えば、「ラーメン構造(Rahmen)」は柱と梁で強度を出すので空間設計の自由度が高く、リフォーム時の間取り変更も容易です。一方、「壁式構造」は柱と梁ではなく壁自体に強度を持たせているのが特徴で、室内に柱などが目立たないスッキリとしたレイアウトが可能になります。ラーメン構造は低層から高層まで幅広い建築物に、壁式構造は比較的低階層の建築物に多く使われています。
「RC造」、「SRC造」、「S造」、「木造」といった各構造は、実際に住む上でどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか? そこで防音/耐火/耐震/コストという4つの観点から比較してみました。
防音 | 耐火 | 耐震 | コスト | 物件数 | |
---|---|---|---|---|---|
RC造 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ |
SRC造 | ○ | ◎ | ○ | △ | △ |
S造 | △ | ○ | ○ | ○ | △ |
木造 | △ | △ | △ | ◎ | ○ |
※ここでのコストは「建築コスト」を指します。建築コストがかかるとそれだけ家賃も高くなる傾向があるが、一概には言えません。
防音については、コンクリートを用いているRC造とSRC造(コンクリートが流し込んである低層階)に大きなアドバンテージがあります。音は周波数によって人の感じ方が異なり、高い音はすぐに消えるのに対して、低い音は残響感があり不愉快に感じる傾向が強くなりますが、コンクリートはこの高い音と低い音の両方に対して有効です。
ただ、音が伝わる主な仕組みには、空気の振動で伝わる「空気伝播音」以外に壁や床スラブの振動で伝わる「固体伝播音」もあるため、いくらコンクリートといえども完全にシャットアウトすることはできません。ドアの開閉音や足音などが伝わりやすいのも、この固体伝播音が影響しています。
耐火に関しても、RC造とSRC造の低層階が非常に優秀な性能を発揮します。これは不燃材料のコンクリートを用いているためです。SRCの高層階やS造に使われる鉄骨も火に強そうなイメージですが、例えば1000℃以上に達するような火災時の場合などは融けてしまうのです。これを補うため、鉄骨は耐火被覆で覆うのが一般的です。そして当然ながら、木造はこの中でもっとも耐火性能が低くなります。
耐震についても、やはり強いのはRC造とSRC造の低層階です。一方でSRC造の高層階やS造は、材料自体が軽いために地震や風の影響で揺れやすいという特性があります。そこで最近では、地震の揺れを吸収する免震構造を採用した高層建築物も増えています。
コストに関しては一概に言えないものの、「建築コストが高い=家賃が高い」というのがひとつの目安です。こうした観点で見ると、最も建築コストがかかるのがSRC造、次いでRC造、S造、木造の順になります。
物件数については、SUUMO賃貸「関東エリアの構造別物件数」の調査によると、RC造・SRC造(鉄筋系)が全体の68.8%、S造(鉄骨系)が15.7%、木造が15.2%を占めており、ブロック・その他の構造が0.3%という結果に。ほとんどがRC造やSRC造の鉄筋系となります。
掲載している物件数 | % | |
---|---|---|
RC造・SRC造(鉄筋系) | 800,171件 | 68.8% |
S造(鉄骨系) | 181,931件 | 15.7% |
木造 | 176,423件 | 15.2% |
ブロック・その他 | 3,836件 | 0.3% |
ただし、ここで挙げた各項目の評価は、あくまでも目安のひとつです。最近では、SRC造の上層階やS造の物件でも高性能な石膏ボードを用いたり、二重張りによって防音性を高めていたりするケースもあります。また、耐火性や遮音性に優れたサイディングボードを用いた木造物件などもあるので、問い合わせや内見でしっかりとチェックすると良いでしょう。
「住み心地という面で、より多くの方が気にされるのはやはり防音性でしょう。そうした点では、RC造やSRC造の低層階がおすすめです。また、耐震性能という観点では、一番揺れを感じやすいのがS造です。木造は揺れやすいように思えますが、実は建物自体が軽いため揺れにくい傾向があります。木造は低層なので万が一の際に外へ逃げ出しやすい、といった部分もメリットのひとつと言えそうです」(佐川さん、以下同)
できるだけ耐火性・耐震性・遮音性を重視したい方や、子どもがいるファミリーなどにはRC造がおすすめです。SRC造については、RC造と同様に耐火性・耐震性・遮音性を重視したい、高層階ならではの眺望を楽しみたい、といった方に適しています。S造は、ある程度の耐震性は欲しいけれど、なるべく賃貸料は抑えたいという方におすすめ。木造に関しては、できるだけ低予算で住みたい、通気性の高い物件を探している、といった方に最適です。
「建物構造によって、冷暖房の効率も変わってきます。RC造やSRC造に用いられているコンクリートは温まりにくくて冷めにくい、S造や木造は温まりやすく冷めやすい、といった傾向があります。例えば、家族が家にいる時間が長く、冷暖房を使い続ける場合はRC造やSRC造。家を空けている時間が多く、仕事から帰宅して数時間で寝てしまうような場合はS造や木造がいい。このように、ライフスタイルに応じて選ぶのも良いでしょう」
賃貸料や住み心地は建物構造によって大きく異なります。こだわり条件を活用して、ぜひ自分のライフスタイルにベストマッチする物件を探してみてください。