住宅の「耐用年数」という言葉を聞いたことがあるでしょう。「耐用」という言葉から、建物の寿命のことだとイメージされがちですが、実は“耐用年数=寿命”ではありません。ここでは、耐用年数とは何なのか、一級建築士事務所北工房代表取締役の栃木渡さんに聞きました。
「木造の家って、20年くらいが寿命なんでしょ?」なんて言葉を聞いたことがないでしょうか。この「20年」は、おそらく木造住宅の法定耐用年数22年からきているもの。しかし、寿命が20年くらいというのは別の話です。
「木造住宅の耐用年数は22年ですが、これは減価償却の計算に使われるもので、建物の寿命とは関係はありません」(栃木さん、以下同)
耐用年数とは「減価償却資産が利用に耐える年数」のことで、正式には法定耐用年数といわれます。法定耐用年数は住宅などの建物だけでなく、工業用機械、パソコンなどさまざまなものに設定されていて、法定耐用年数が過ぎると税務上の資産価値がゼロになります。減価償却資産は購入した場合の代金を耐用年数の間、毎年、費用として計上することが可能で、例えば、50万円の減価償却資産の法定耐用年数が5年の場合、5年間にわたって毎年10万円ずつを費用として計上できるのです。木造の建物の場合、木造のアパートを建てたとすると、法定耐用年数の22年間に価値は徐々に下がって22年を過ぎると価値が0になりますが、その間はアパートのオーナーは毎年、経費として計上することができます。
建物の耐用年数は構造によって下記のように違います。
木造 | 22年 |
---|---|
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材肉厚3mm以下 | 19年 |
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材肉厚3mm超4mm以下) | 27年 |
重量鉄骨造(骨格材肉厚4mm超) | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
減価償却の計算のために設けられている法定耐用年数ですが、中古住宅の購入に影響することも。
「その物件が法定耐用年数内かどうかを、金融機関が住宅ローンの可否の判断材料にする場合があります。しかし、判断の基準は金融機関によって違います」
つまり、法定耐用年数内であれば融資が受けやすい、と言い切ることはできませんが、住宅ローンを借りて中古住宅の購入を考えているなら、物件が法定耐用年数内かも気にしておいたほうがいいでしょう。
「法定耐用年数が最初に設けられたのは昭和26年。今では使われていない建築材料から割り出されたものでした。その後、建築材料の変遷や建築技術の進化に即して耐用年数は数度の改正があり、現在は木造住宅が22年、鉄筋コンクリート造のマンションが47年となっています」
建物の構造 | 1998年の改正前 | 改正後(現在) |
---|---|---|
木造 | 24年 | 22年 |
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材肉厚3mm以下) | 20年 | 19年 |
軽量鉄骨プレハブ造(骨格材肉厚3mm超4mm以下) | 30年 | 27年 |
重量鉄骨造(骨格材肉厚4mm超) | 40年 | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 60年 | 47年 |
改正によって、建物の法定耐用年数は短くなりました。このため、建物を事業に使用している人の場合は改正前であれば法定耐用年数内で減価償却の対象だったのに、税務上の資産価値が0になる時期が早まってしまった、ということがあります。例えば、1996年に建てた木造アパートの場合、改正前なら2019年まで減価消却で費用に計上できたのですがが、改正後は2017年までと期間が2年短くなりました。
また、築23年を超える木造住宅は、法定耐用年数からはずれるため、1998年以降は金融機関によっては住宅ローンの貸し出しの可否に影響している可能性も。とはいえ、融資では申し込む人の返済能力や、住宅性能、土地の条件などさまざまな項目で検討されます。中古の木造住宅の耐用年数はわずか2年の短縮ですから、売買で法定耐用年数が短くなったことを深刻にとらえる必要はないでしょう。
一口に耐用年数といっても、減価償却計算のために設けられた「法定耐用年数」や劣化に伴って変化する「物理的耐用年数」など、さまざまな種類があります。それぞれの違いをチェックしていきましょう。
法定耐用年数は課税の公平性を保つために定められたもので、平成10年(1998年)以降、木造住宅の法定耐用年数は22年とされています。 “法定耐用年数=寿命”とイメージされることも多いですが、前述のとおり実際は税制度のために定められた数字のため、直接的な住宅の耐用性と必ずしも合致していません。
文字通り、その住宅が物理的に耐用できる年数を示したもの。つまり法定耐用年数よりも住宅の寿命というニュアンスに近くなります。ただし、物理的耐用年数は環境や構成材などによって大きく変化するため、一様に算出することはできません。
法定耐用年数と異なり、その住宅の経済価値が実際になくなるまでの期間を経済的耐用年数といいます。こちらも市場での需要や環境などにより異なるため、一様に算出できるものではありません。例えば、20年で住めなくなって取り壊した木造住宅の経済的耐用年数は20年、一方で50年住んでも市場で需要がある木造住宅の経済的耐用年数は50年以上となります。
期待耐用年数は、通常のメンテナンス方法で使用できる目安期間を示した数字です。従来までの減価法による評価にとらわれず、より実用的な耐用年数を導出することで「築後20年で価値が0になる」というイメージの払拭、ならびに中古住宅流通市場の活性化が期待されます。なお、期待耐用年数は、メンテナンスやリフォームの実施歴などによって変化します。
木造住宅はコンクリート造、鉄筋コンクリート造の住宅よりも長持ちしないイメージですが、しっかりメンテナンスをすることで長く住み続けることができます。最後に、木造住宅の寿命を延ばす3つのポイントをご紹介します。
木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、実際には22年を超えても快適に暮らせている家は多くあります。特に近年は、建物の性能が上がってきていることもあり、住宅の寿命はさらに延ばすことができるでしょう。
「どの構造、どの建材を採用した家屋なら何年もつ、ということは一概にはいえません。実際の建物の寿命は環境やメンテナンスによるところが大きいからです。例えば、海のそばに置いてある車は塩害ですぐに錆びてしまいます。家も同様です」
海の近くの家は鉄部が錆びやすかったり、雨の多い地域で屋根や軒の出を少なくしている家は外壁のヒビなどから壁内に雨が浸入しやすかったりします。また、同じ家でも、直射日光の当たる面はサイディングボードや窓まわりをつなぐコーキングの劣化が早かったりもします。そこで重要になるのが、それぞれの住宅に合ったこまめなメンテナンスです。
「車の場合、みなさんオイルを交換したり、洗車やワックスがけをしたりなど、メンテナンスをする人が多いです。ところが、なぜか住宅は完成後、なにもせずにいるケースが多いのです。窓と外壁の境目から壁内に雨水が入らないようコーキングを補修したり、雨どいが風で飛んでくる枯葉などで詰まらないよう定期的に掃除をしたり、ぜひ自分でできるメンテナンスをしてほしいです。実際に、昭和初期の建築でもきちんと手入れをされて今も使われている家が多くあります。建物の寿命に、メンテナンスは重要なポイントです」
ただし、メンテナンスをしていても、建物は少しずつ劣化していくもの。施工会社の定期点検や、必要な修繕、リフォームは適切な時期に行うことで、法定耐用年数とは関係なく、快適に暮らせ、長く住める家になるのです。
建物の構造などで決められた法定耐用年数よりも大切なのは、地盤などの外的要因。
「全国各地で多くの例があるように、軟弱な地盤で家が傾いたり、大地震で住めない状態になったり。家そのものの寿命や耐用年数だけでなく、地盤の状態を知って建てることが重要です。今はハザードマップで災害が発生したときの危険性が予測できますし、地盤も検査をすることができます。危険度の高い土地は選ばない、軟弱であれば杭をしっかり入れるなどの対策を考えておきましょう」
木造住宅の寿命を延ばすためには、劣化の原因になる結露や湿気を避ける必要があります。サッシやガラス、床材、天井などに屋外からの熱気や冷気をシャットダウンする素材を使うなどして断熱性を高めましょう。また、地震大国の日本では耐震性の高さも住宅の寿命を大きく左右します。耐震性能が不十分な場合は、制振ダンパーの導入や基礎・壁の補強などで対策をしましょう。
法定耐用年数は減価償却の計算に使われるもので、実際の建物の寿命ではない
法定耐用年数が、住宅ローンの貸し出しの判断材料になる場合も
実際の建物の寿命は、メンテナンスによって違ってくる
耐震性や断熱性、地盤の強さも住宅寿命を左右する