育児にもクリエイターの暮らしにもバランスが良い街「神戸市東灘区」

著: サタケシュンスケ 

「神戸に引越そうかな〜」

当時大阪で暮らし、もともと神戸の土地に所縁がなかったぼくがそう考えたきっかけは、付き合っていた彼女(現在の妻)が神戸に住んでいたからだ。ただ近くに行きたかった、という単純なものである。

お互いの家まで歩いて行き来できる距離感の場所に部屋を借りた。その後もしもフラれでもしていたらどうする気だったのか、そんなことまで全然考えていなかったのは若かったから、ということにしておこう。今ではこうして結婚し、子どもたちも生まれ、一緒に家族として暮らせているので、正しい選択だったのだ。そう思っている証拠に、この神戸の地で家も買った。

ちょうどいい落ち着きがある東灘区

そんな経緯で住み始めることになったのは、神戸市の東端、東灘区の「JR甲南山手駅」が最寄りとなるエリアだ。まわりはほぼ住宅地で埋め尽くされている。

「神戸」と聞いて思い浮かべるような観光地的な何かが特にある場所ではないが、それゆえに静かでのんびり穏やかな雰囲気で包まれており、個人的にはそこがとても気に入っている。子育て中の身としてはなおさらそう思う。

北には六甲山、南には海が広がり、その間には住吉川や芦屋川があり、身近に自然を感じられる環境が魅力……となるのだが、それは東灘区に限らず神戸市の南側ほぼ全域がそうなのでこの街の特徴としては弱いか。そもそも超インドア人間のぼくが自然について語れることはない……。

ちなみにぼく自身は自然について特別興味はないのだが、子どもたちを連れて行くとなると話は別だ。春には近くの芦屋川で花見をし、夏には住吉川や芦屋浜で水遊びもする。冬は寒いのが苦手なので外遊びは勘弁願いたいが、有り余る子どもたちの体力を受け止めてくれる場所がたくさんある。

甲南山手から西に少し歩けば岡本エリア。ここにはおしゃれなお店が数多くあり、友人とランチやカフェタイムを楽しんだり、素敵な雑貨との出会いを楽しめる。東に行けば芦屋エリア、最近リニューアルされた百貨店「神戸阪急」や大型書店もあり、ちょっと特別なお買い物をするのにも困らないので、そうした点で不便に感じることもなかったりする。そう思うとなかなか恵まれた場所に思えてきた。

3つの鉄道が走る便利な街

東灘エリアに3つの鉄道(JR、阪急、阪神)が東西方向に走っており、それぞれの駅同士の距離も近い。とにかく神戸や大阪の中心部にアクセスがしやすい。これはこの街に住んでいて感じる大きな魅力の一つだ。

3つの鉄道を利用できるということは、トラブル等で電車が遅れたり運行中止になってしまった場合でも、すぐに代替できる手段が確保されているという安心感がある。地方で暮らすには車が必須になるエリアも多いが、電車のアクセスが良い東灘区の場合、マイカーは不要だろう。ぼくも自家用車を持っていない。

また、電車が大好きな我が息子にとっても嬉しい環境に違いない。実際こうして線路をまたいだ歩道橋の上から通り過ぎる電車をよく眺めている。彼にとってこの街の一番のお気に入りポイントだ。後ろでは知らないイヌまで一緒に眺めている。動物にも嬉しいのだ。やはり紛れもなく不可欠。

さて。交通アクセスが良いことを推してみたものの、自宅と仕事部屋とは徒歩2分の距離にある。もともと自宅で快適に仕事をしていたのだが、贅沢を承知で自分のスペースをつくった。仕事もプライベートも自分の住む街からほとんど出なくてもいいというのは、出無精のぼくにはかなりありがたい環境だ。

さらに、東灘区は1LDKの家賃相場が10万円前後なので、クリエイターが事務所やアトリエとして部屋を借りるのもハードルが低い。ちなみに私の借りている部屋は相場よりもグッと安い。築年数は古くともきれいな部屋も探せば結構あるので要チェックだ。

そういえば事務所づくりや作品制作に必要な材料や道具はだいたい近くにあるホームセンター、「コーナン」で調達している。仕事部屋の壁につけた棚や、植物だってそうだ。そのすぐとなりには大型スーパー「ライフ」もあるので食料品や日用品の調達には困らない。

お腹が空いたら「讃岐うどん 番のや」に行く。セルフ式の注文方法で安くて早いし、何よりぼくはここのうどんが好きだ。あとそうだ、体を休めたいときには「湯あそびひろば森温泉」もあった。ランニングで汗を流したあとに行く銭湯は最高なんだよな……。何もない街といっても、生活に必要なものはほぼそろう。なんだ、やっぱりいい街だなここは。

魅力的なスポットがありすぎて迷う岡本エリア

ぼくの自宅の最寄駅はJR甲南山手駅だが、阪急電鉄の駅だと岡本駅が最寄りになる。神戸の中でも住みたい街ランキングの上位であるこの岡本について、触れないわけにはいかないだろう。

駅周辺は雑貨店や洋服店、花屋、パン屋、菓子店などなど、オシャレで魅力的なお店が数多く集まるエリア。一帯の道は石畳でキレイに舗装されていたりして、歩いているだけで気分が上がる。そう、ここは甲南山手エリアと比べるといろいろありすぎて迷ってしまうほどなのだ。

写真はお仕事でクライアントと打ち合わせをするときによく利用する「珈琲春秋」。店内は落ち着いた雰囲気で、ゆっくりお話をするのに最適。かなりの頻度で訪れている。ここ以外にも、老舗カフェや味のある個人店がいくつかあって、コーヒー好きな方は楽しめるはずだ。

個人的にオススメしたいのは岡本駅出口のすぐ前にある「カフェ・ド・ユニーク」。渋さあふれるレンガ造りの外観、アンティークな雰囲気の店内でゆっくりと味わえる珈琲は心を落ち着かせ、仕事のアイデアを練る時間にちょうどよい。

また、JR線沿いにある「カフェドフェロー」も同じく歴史を感じる佇まいをもつお気に入りの店だ。ここでは時間と手間をかけて丁寧につくられた「水出し珈琲」をぜひ味わってもらいたい。初めて飲んだときはその味と香りの良さに驚いたほどだ。

そんなカフェが多く集まる岡本エリアには日本茶を専門に扱う「一日(ひとひ)」というお店がある。

今日はここで、このなんとも可愛らしい雪うさぎのお菓子と一緒に、お茶の時間をゆっくりと楽しむことに。はあ〜、心が落ち着く。

実はこの日本茶カフェ一日は、ぼくが駆け出しイラストレーターのころに何度か展覧会を開催させてもらった、思い入れのある場所でもある。

店主の遠城さんに初めて絵を見てもらったのはかれこれもう15年以上も前になる。当時の自分を知ってくれている人がこうして近くにいて、成長を見守ってくれたり、昔の思い出話ができるということは、なんとも幸せなことだなと思った。なんというか、初心に戻れて、ここからまた頑張れる気持ちになる。

神戸は近隣の大阪や京都に比べて、我々イラストレーターが展覧会を開けるようなギャラリーの数が少ない。その代わり、というのが理由というわけでもないだろうが、こうした飲食店や雑貨屋、本屋などの壁面を借りて作品を展示し、お客さんに見てもらうことが多いように思う。

普段アートに触れることのない方とも、こうした空間で出会い、つながることができるのは、神戸らしいところかもしれないと思う。

パンには困ることのない街

神戸はパン屋が多いことでも知られているが、このエリアにもご多分に漏れずたくさんのお店が集まっているので、日替わりで各お店の味を楽しむことができたりする。

「フロイン堂」、「ローゲンマイヤー」、全国展開するチェーン「DONQ」や「リトルマーメイド」などなど、駅周辺にあるパン屋だけでもたくさんある。その中から一つを選ぶというのはまた難しい話なのだが、今回は岡本駅から南に少し下った場所にある「ケルン」を、ぼくのイチ推しということで紹介させてもらいたい。

特にオススメはこのミルティーというパン。溢れんばかりのクリームのちょうどいい甘さ加減と、パン生地の相性……!! 一口ごとにうまい、うまい、とつぶやいてしまう。食したあとの幸福感は抜群だ。明日も買いに行こう。

調子に乗ってもう一つだけパン屋を紹介させていただこう。再び甲南山手エリアに戻るのだが、駅の南にある「 un peu de (アンプードゥ)」は、自宅から近いこともあって最もよく行くお店の一つ。住宅地の中にあって特に目立つ立地にあるわけではないにもかかわらず、休日にはお店の外に行列ができることもある、知る人ぞ知る人気店だ。

ここでのオススメは若鶏とアボカドのフォカッチャサンド、あ、あと大納言小豆のあんパンも美味しいし、メロンパンも食パンも……おっと…、好きなパンを挙げ出したら切りがないのでこのへんにしておこう。

子をもつ親としても困ることがない街

話題を変えて、最後は子育て中の親目線で話をしよう。まずこの付近には小さな子たちが遊べる公園がたくさんあるので、外遊び先に困ることはない。どの公園も明るく開放的でキレイに整備もされており、年の近い子どもたちが常にたくさんいるのでそこで仲良くなるなど、出会いがあったりもする。

保育園や幼稚園もたくさんある。東灘区は激戦区に比べると入所ハードルもいくらか低く、どこに通おうか迷ってしまうほどだ。それぞれのもつさまざまな教育方針の中から、自分の子どもにあった場所を選ぶことができるのは、とても良い環境なのではと思う。

また、このエリアは歴史の古い学校があったり、塾も多くあり、比較的学業に熱心な家庭が多く集まっているという点でも注目されていたりする。調べてみると、東灘区は他市や他区から若い子育て世代の人口流入が比較的多いとのことで納得だ。

そうした新しく外から転入してきた人たちと、ずっと昔から先祖代々この街に暮らす人たちがともに暮らしているのもこの街の特徴だ(ぼくは前者になる)。かといってそこに分断があるわけではない。伝統や風習が守られながらも、新しい変化も受け入れてバランスが取れており、どちらの良さも感じることができる。

クリエイターとしての街とのかかわり方

ちなみに私はこの東灘区に暮らすイラストレーターとして、仕事を通じて地元にかかわることがある。例えばこの区役所のこども家庭支援室が作成している「パパの子育てガイドブック」。区内の公園についての情報や親子ふれあい体操など役立つ情報が掲載されており、まさにこの地にいるからこそできること、ひとりの絵描きとして、また親として使命感もってかかわった仕事だ。

街や行政とのかかわりは子育てだけではなく、住宅や防災、医療に関する分野にもイラストを提供している。子が通う小学校や幼稚園からもらって返ってくる広報物に自分の絵が使われていることもあり、その時には「これパパが描いた絵やねんで」と、我が子ら相手に自慢したりもする。

最近は「東灘区在住のイラストレーターだから」ということで指名がくるお仕事も増えた。六甲アイランドにある商業施設の大規模な装飾もそんな仕事の一つだ。子どもから大人まで幅広い世代の方たちに、皆で一緒に上を見上げてもらい笑顔になってほしい、そんな思いを込めて描いた絵である。

目に見える形で地元社会にかかわれていることは大変嬉しいし、こうしたお仕事は今後もさらに増やし続けて地元に貢献していけたらと思う。

こうして振り返ると、改めて良いところがたくさんある街じゃないかと思えてきた。普段何気なく過ごしている場所や時間、当たり前過ぎて気にしていなかったところにこそ、愛着があることに気づけた。

これをまた、自分の子どもたちにも伝えていこう。自分の住む街についてじっくり考えるとても良い機会をいただけたと思う。どうもありがとうございました。

著者:サタケシュンスケ

イラストレーター、キャラクターデザイナー。株式会社ひととえ代表。京都芸術大学講師。兵庫県神戸市在住。著書に「サタケシュンスケ作品集 PRESENT」(玄光社)や「iPadアプリ Adobe Fresco イラストテクニック」(玄光社)などがある。

編集:小沢あや(ピース)