キッチンの高さを身長に合わせて選ぶことで、キッチンでの作業はぐんと楽になります。リフォームの前に自宅のキッチンの最適な高さの選び方について、知っておくと安心です。今回はキッチンの高さの選び方について、数多くの集合住宅のリフォームや管理などを手掛けるJS Reform(日本総合住生活)の北田さん、瀧本さんにお話を伺いました。

記事の目次
キッチンの標準的な高さは85cm
キッチンの天板(ワークトップ)の高さは85cmが主流で、JIS規格では80cm、85cm、90cm、95cmとなっています。市販のシステムキッチンはこの80cmから95cmの間の5cm刻みで展開されていることが一般的ですが、メーカーによっては2.5cm刻みの商品があり、造作キッチンであれば好きな高さに設定することもできるので、使いやすい高さのものを選ぶことができます。
キッチンの高さは身長に合わせて選ぶ
キッチンの高さの目安は身長(cm)÷2+5cm
キッチンの高さの主流は85cmと前述しましたが、使いやすいキッチンの高さは、使う人によって異なります。リフォームの場合は、今使っているキッチンの高さが自分に合っているかどうかを踏まえ、高さを決めていくことになります。
「リフォームの場合、キッチンの高さを考えるには既存のキッチン高さが基準になるので、現状のキッチンの高さを把握するところがスタートです。今使っているキッチンの高さが高いのか、低いのか、そこをまずは考えていきます。
ショールームなどでキッチンを選ぶ際には、一般的に言われる“身長(cm)÷2+5cm”という使いやすいキッチンの高さの目安も参考にすることがあります」(JS Reform(日本総合住生活)、以下同)
“身長(cm)÷2+5cm”の式に当てはめると、150cmの身長の人は80cm、160cmの人は85cm、170cmの人は90cmが目安の高さになります。
一昔前はキッチンの高さは女性の身長に合わせて選ぶことが多く、女性の平均身長も今よりも低かったため、古い住宅などの場合は既存のキッチンが低くて使いにくいと感じている人も多いそうです。また、現在の主流の高さである85cmのキッチンでも、身長が160cm以上の人などにとっては使いにくい可能性があります。

複数人でキッチンを使う場合はどうするか
キッチンの高さは、メインでキッチンを使用する人に合わせて選ぶのがおすすめです。しかし、夫や妻、家族それぞれが同じような頻度でキッチンを使うという家庭も少なくないでしょう。
誰か1人がメインでキッチンを使うというライフスタイルではない場合、誰の身長に合わせて選ぶのが正解なのでしょうか。
「例えば、妻は80cmが、夫は90cmの高さが使いやすいという場合は、間をとって85cmの高さにするというケースもありますが、複数人で使用するキッチンの場合は、どちらかというと身長の低い人に合わせて選ぶのがおすすめです。
身長が高い人が低いキッチンを使うことは難しくありませんが、身長の低い人が高いキッチンを使用する場合は台が必要になったり、無理に高い位置で包丁を使ったり鍋を持ち上げたりすると、手元が不安定になり、危険な場合もあります」

キッチンの高さとひじの位置
キッチンでの作業の起点はひじ
キッチンの高さを選ぶ際は身長が一般的な目安になりますが、“身長(cm)÷2+5cm”という目安が全ての人にとって最適な高さというわけではありません。
身長を目安にキッチンの高さを選んでも、使いにくさを感じるという場合は、キッチンでの作業の起点となる、肘(ひじ)の高さを基準に考えてみても良いでしょう。
“肘の高さ-10cmから-15cm”というのも、使いやすいキッチンの高さの目安になるので、ショールームなどでキッチンの高さを確認する際は、フライパンやお鍋を持ってみて、作業しやすい高さかどうか試してみるのもおすすめです。

キッチンの高さを調整するメリット
自分の身長に合う高さのキッチンにすることのメリットとして、キッチンでの作業がしやすくなるという点と、身体への負担を軽減できるという点が挙げられます。
料理がしやすい
料理の際は火や包丁などを使うわけですが、適切な高さのキッチンであれば、鍋やフライパンの中が見やすかったり、包丁で食材を切る時もスムーズに作業をすることができます。
しかし、キッチンの高さが高すぎると、無理な高さで作業をすることになり危険です。高さを調整するために、足元に台をおくという方法もありますが、作業中に移動することも多いので、煩わしさを感じる可能性が高いでしょう。
身長に合う高さのキッチンであれば、作業の際の危険や煩わしさを回避することができます。
身体への負担が少ない
無理のない体勢で快適に作業ができるということは、身体への負担を抑えることにつながります。
「例えば、キッチンが低すぎると、膝を曲げたり、腰をかがめたりする必要があります。特に洗い物などをする際は低いキッチンだと腰を屈めるため、腰が痛くなるという方もいらっしゃいます」
キッチンは毎日使うものなので、無理のない姿勢でストレスなく作業できる高さのものを選びましょう。

キッチンの高さで後悔しないための注意点
キッチンの高さを考える際は、身長や肘の高さをもとに考えると紹介しましたが、一般的な目安だけで選んでしまうと後悔することもあります。後悔を防ぐためのポイントを見ていきましょう。
ショールームで実際の高さを確認
ショールームでは、実物を体感することができるので、キッチンの高さを検討する際は、ショールームで実際の使い心地などを確認しておくと安心です。
体感してみると、想定していた高さが使いにくいと感じることがあるかもしれません。そのような場合も、ショールームにはさまざまな高さの製品があるので、比較してみることができます。

スリッパやまな板の高さも考慮する
数cmの違いでも、作業のしやすさは左右されることがあります。
家の中ではスリッパを履いているという人は、通常の自分の身長にスリッパの厚みも加えてキッチンの高さを考えてみましょう。
また、スリッパのほかにも、例えばまな板の厚みや五徳の高さによって、食材を調理する時の高さは変わります。普段自分が調理をする時に、どのような状態で、どんな調理器具を使っているかということもイメージしながら、キッチンの高さを選ぶのが大切です。
「ショールームではIHコンロの場合とガスコンロの場合の高さの違いを確認してみてください。IHコンロは五徳がない分、ガスコンロよりも調理する高さが3cmほど低くなります。
また、ショールームには靴を履いていくと思うので、キッチンに立って確認をする際は、スリッパに履き替えて体感するのがおすすめです」
ショールームには、スリッパや調理器具などが用意されていることが多いので、持参する必要はありませんが、もし実際に普段使用しているものを使って確認したい場合は、持ち込んで試してみるのも良いでしょう。

キッチン下収納の高さにも注目
キッチンの天板(ワークトップ)の高さが変わると、キッチン下の収納スペースの高さも変わります。
「キッチンの高さが80cmのものと90cmものでは、引き出しの深さなどが変わります。お皿などは引き出しの中に重ねてしまえる量が変わりますし、大きなフライパンなどを立てて収納したい場合は、手持ちのものが入らないということもあるかもしれません」
今使っているキッチンよりも低いキッチンを検討している場合は、今収納しているものが入らなくなる可能性も考慮しながら選ぶようにしましょう。

リフォームでできるキッチンの高さの調整方法
キッチンの高さを変更したい場合、キッチンを新しいものに取り替えるという方法や、既存のキッチンに手を加えるなどして調整を行う方法もあります。どのような選択肢があるのか、ご紹介していきます。
システムキッチンを入れ替える
今使用しているキッチンが交換のタイミングというのであれば、高さの合う新しいシステムキッチンに入れ替えるという方法があります。また、リフォームのタイミングで新しいキッチンにということであれば、流通しているシステムキッチン以外にも、自分の好みの高さに合わせて、キッチンを造作することもできます。
新しいシステムキッチンに入れ替える場合、システムキッチンのレイアウトやグレードなどで費用は大きく変わりますが、一般的なI型壁付けキッチンの入れ替えリフォームの場合、リフォーム費用は50万円〜150万円程度が目安です。
また、造作キッチンの場合もどのようなキッチンを造作するかで費用は変わりますが、既存のもので満足できないという人が造作キッチンを選択することが多く、システムキッチンの場合の相場よりも高くなるケースが多いそうです。
台輪を造作してキッチンを高くする
既存のキッチンが低く使いにくいため高さを上げたいとい場合は、キッチンの下に台輪をつくり、高さを調整するという方法があります。
台輪とは戸棚などの一番底の部分にある台座部分の横木のことですが、システムキッチンの下にも台輪があります。この台輪の高さを上げると、キッチンのワークトップの高さも高くなりますが、この方法で調整する場合は、コンロとレンジフードの距離について注意が必要になると言います。
「コンロとレンジフードは80cm以上100cm以下と離隔距離が定められています。台輪の高さを上げて既存のキッチンを高くすることは可能ですが、その場合、コンロとレンジフードの間に適切な離隔距離を取れなくなってしまう可能性もあるので注意が必要です」
なお、台輪を造作してキッチンの高さを上げるリフォームにかかる費用の目安は30万円〜50万円ほど。既存のキッチンを一度取り外しての作業が必要になりますが、工事自体は1日~2日程度で可能だそうです。

台輪をカットしてキッチンを低くする
既存のキッチンの高さが高いという場合は、台輪をカットして、天板(ワークトップ)の高さを低くするということも可能です。
しかし、そもそも台輪は扉が床を傷つけたり、掃除機の衝撃などがキッチン本体に影響するのを防ぐという役割を担っていますが、台輪をカットしてしまうとそれらの機能が失われてしまいます。また、キッチン下収納が引き出しタイプの場合は、台輪自体が元々取り付けられていないことも多く、台輪をカットして高さを調整するということ自体が難しいというケースもあります。
キッチンを2列型にする
ここまで紹介してきた調整方法とは少しアプローチが異なりますが、使いやすい高さのカウンターをプラスしたり、前後で高さの異なるII型のシステムキッチンに入れ替えるなど、キッチンを2列型にすることで、作業をしやすくするという選択肢もあります。
「調理の際はキッチンの高さが低くても気にならないけれど、洗い物になると腰をかがめなければいけなくてつらいということであれば、コンロや調理台のある列は85cm、シンクの列は90cmなど、2列にして高さを変えることで、作業のしにくさを軽減できます。
また、複数人でキッチンを使うというケースも、前後の列をそれぞれの高さに合わせて選ぶということが可能です」

天板(ワークトップ)の高さ以外の部分にも注目
ここまではキッチンの天板(ワークトップ)の高さにスポットを当ててきましたが、シンクやコンロ、収納棚やレンジフードの高さなども、キッチンを選ぶ際には注目したいポイントです。
シンクの深さ
シンクの深さによって、洗い物のしやすさや水の跳ね方なども変わります。浅すぎるシンクは水はねが気になるものですが、深すぎるシンクは腰に負担がかかるものです。
シンクの一般的な深さは17cm~20cmほどですが、シンクの深さを選ぶ場合は、日頃使う鍋の形状なども考慮して選ぶと良いそうです。
「フライパンを使うことが多いのか、それとも深い鍋などを使うことが多いのか、普段作る料理や調理器具について考えて選ぶのが良いと思います。
なお、シンクの深さを考える場合は、水栓の形状も合わせて考える必要があります。最近はグースネックと呼ばれる曲線の形状の水栓が主流ですが、真っ直ぐな形状のストレートタイプの水栓などもあります。ストレートタイプの水栓でシンクの深さが足りないと、深い鍋がうまく洗えないということもありえます」

コンロの高さ
コンロはIHコンロかガスコンロかで、調理の際の鍋の高さが変わってきます。
ガスコンロからIHコンロに変更する場合は、五徳がなくなる分違和感を感じることもあるので、ショールームなどで使用感を確認するのがおすすめです。

収納棚の高さ
キッチンの上部に吊り戸棚をつける場合もありますが、吊り戸棚もどのような高さのものを取り付けるかで、収納量や使いやすさが変わります。
「キッチン上部の吊り戸棚は70cmのタイプが主流です。背が高くて頭が当たってしまうという場合は少し短いタイプの60cmや50cmものをおすすめすることもありますが、吊り戸棚の場合、上部の方には手が届きにくいので、身長が低かったり、作業のしやすさなどを重視する場合は70cmや90cmのものが良いでしょう」

レンジフードの高さ
レンジフードの高さは消防法でコンロから80cm以上の距離を取ることと、建築基準法でコンロからの距離を100cm以下にすることが定められています。背の高い人の場合は、レンジフードの位置によっては頭をぶつけてしまうことがありますが、規定の位置に取り付ける必要があるため、頭がぶつからない位置に取り付けることが難しいこともあります。
「背の低い方に天板(ワークトップ)の高さを合わせると、背の高い人がレンジフードに頭をぶつけやすくなってしまうことがあります。最近はスリム型と呼ばれる整流板がフラットなタイプが人気ですが、前面に突出しているようなデザインのものは頭をぶつけやすいので、できるだけ頭がぶつかりにくいデザインのレンジフードを選ぶのが安心です」

まとめ
使う人の身長に合う高さのキッチンにすることで、作業が楽になったり、体への負担が軽減するなどのメリットがあります。新しいキッチンに入れ替えるほかにも、既存のキッチンのまま、台輪で高さを調整するといった方法もあるので、リフォームの際はぜひ、キッチンの高さについて再度見直してみてください。
構成・取材・文/島田美那子 イラスト/徳丸ゆう