家のリフォームを検討する際、子どもの成長や家族の高齢化など、ライフステージの変化に応じて室内ドアの交換を考える方が増えています。しかし、室内ドアには多種多様な種類があり、どのドアがどの部屋に最適かを悩むことも少なくありません。
そこで今回は、新築住宅の建設からリフォーム工事まで幅広く家づくりのサポートを行っている甚五郎設計企画の代表であり、一級建築士の柏崎文昭さんに、室内ドアリフォームの費用相場や選び方のポイントについてお話を伺いました。リフォーム計画を進める前に知っておきたい情報が満載です。

記事の目次
室内ドアの種類は大きく分けて3種類
空間を区切るのに欠かせない室内ドアですが、大きく分けると3種類の形があります。まずは室内ドアの種類を知ることで、住宅に合ったタイプを検討していきましょう。
開き戸(片開き戸・両開き戸)
扉が前後に開閉するベーシックなドアタイプです。扉を閉めたときに遮断性や気密性が高く、リビングの入り口、個室、トイレによく使われています。
「密閉性が高く、中から鍵をかけたい部屋に最適。寝室や書斎のようなプライベート空間におすすめです」と柏崎さん。
扉を前後に動かして開閉させる「片開き戸」、2枚の扉を同時に開閉させる「両開き戸」など、開き戸の中にも種類があります。

折れ戸(両折れ戸・中折れ戸)
折れ戸は、ドアと壁、もしくはドア同士がぶつかってしまうような狭小スペースでも設置できる、扉を折り曲げながら開くタイプのドアです。開き戸を設置するほどのスペースがなくても、扉を細く折って収納できるので設置できます。折れる部分に手を挟みやすいことから、子どもの使用には注意が必要です。
クローゼットによく採用されている、左右の折れ戸を真ん中から折って開く「両折れ戸」、1枚の折れ戸で構成されている「中折れ戸」があります。

引き戸(片引き戸・引違い戸・引分け戸・引込み戸)
柏崎さんから「一番ご要望が多い」という声が挙がった引き戸。前後にドアスペースを取る必要がなく、部屋を広く使えるメリットがあります。ドアを開いておくだけで開放感があり、開き戸のように風の勢いで扉が閉まる、ドアが急に開いて人にぶつかるといった危険性もありません。
しかし、引き戸を設置するためには戸を引き込む袖壁のスペースが必須。袖壁になるスペースにはコンセントやスイッチを付けられないので気をつけましょう。
また、引き戸にも種類があり、扉の枚数や動作によって名前が変わります。
1枚の扉をスライドして開閉させる「片引き戸」は、開けたままでも扉が場所を取ることがなく、部屋を広く見せるのに効果的です。
ふすまのように2枚以上の扉で構成されている「引き違い戸」は、左右両方から出入りできるのが特徴。動線を変えたいときにも重宝されています。
空間を広く使える「引き分け戸」は、2枚の扉をスライドさせて、左右それぞれの袖壁に納める引き戸のこと。
壁の中に扉を収納できる「引き込み戸」は、不要なときに扉を片付けられて、壁を有効的に活用できます。
空間を分けたいとき、来客時の目隠しなど、用途に合わせて設置を検討しましょう。

引き戸のレールの種類①レールタイプ
車椅子に乗ったままでも利用しやすい引き戸は、バリアフリーの観点からも住宅に採用される機会が増えています。レールの有無によってメリットが異なる点にも注目です。
床にレールで取り付ける「レールタイプ」の引き戸は、それぞれの部屋の間仕切りに人気。ダイニングとリビング、キッチンと洗面所、洗面所と廊下などに選ばれています。
レールが床と同じ高さの場合、レールの溝にゴミやホコリが堆積しやすくなるため、定期的な掃除が必要です。

引き戸のレールの種類②上吊りタイプ
床をフラットな状態のまま取り付けられる「上吊りタイプ」は、一般住宅でもバリアフリーが取り入れられるようになった近年は好評です。
上部にレールがある上吊りタイプにすると、つまずき防止になり、掃除も簡単。年を重ねても暮らしやすい住宅が実現できそうです。

【場所別】おすすめの室内ドア
部屋の入り口となるドアを変えると、部屋全体の印象や使い勝手が変わります。それぞれの部屋に、どんな室内ドアが適しているのか、リフォーム会社各社が手掛けてきた事例と共にご紹介します。
【玄関・リビング】採光タイプのドア
玄関とリビングの間仕切りに選ばれているのは、光を取り込める採光タイプのドア。柔らかな光が入るので、部屋全体が明るく広々とした印象になります。日当たりがあまり良くない部屋の採光にも役立つでしょう。
玄関ホールにオリジナルデザインの室内ドアを設置したこちらの事例は、アメリカンチェリーの突板(つきいた)にガラスをはめ込んだもの。
子どもやペットのいる家庭では、万が一ガラスが割れてしまったときに備え、透明で耐衝撃性に優れているポリカーボネート板を選択するのが良さそうです。
【トイレ】表示錠や明かり窓付きの引き戸
トイレのドアは、使用状況を知らせる表示錠や、明かりが見える窓を付けて使用中であることを一目で伝える役目を担っています。ドアに明かり窓があれば電気の消し忘れ防止にも効果的です。
意外と見落としがちな点がドアの種類。トイレには開き戸を採用している印象が強いかもしれませんが、引き戸にすると緊急時も安心です。開き戸の場合、トイレ内で倒れたときに内開きでは体が邪魔をしてドアが開けにくくなるかもしれませんし、外開き戸の場合は扉が廊下にいる人にぶつかってしまう可能性があります。
もしものときに備えることも、ドア選びでは大切です。

【和室・洋室】和洋両方に調和する「戸ぶすま」
和室の開き戸といえばふすまを連想しますが、昔ながらの「和ぶすま」だけでなく、和室と洋室を区切るのにちょうどいい「戸ぶすま」という選択肢があります。
壁紙や木材が使われている戸ふすまは、表裏のデザインを変えることができます。和室に面する方は和風に、反対側を洋風にするなど、部屋の雰囲気に合わせてドアの素材を選びましょう。

【バリアフリー化したい場所】引き戸や折れ戸
家族に介護が必要な方や車いすの方がいる場合、または、自身の将来を見据えて住まいをバリアフリー化したいときには、リビングや洗面所のように毎日出入りする扉を引き戸や折れ戸にするのがおすすめです。手前や奥に開かなければいけない開き戸では、車いすがドアにつっかえたり、ドアを邪魔に感じたりと、不便に感じる場面が多いもの。
室内ドアの種類でご紹介した上吊りタイプの引き戸であれば、つまずく心配がなく、高齢者の転倒事故防止にもつながります。

【ペットドア】開き戸で子犬や猫も自由に行き来可能
犬や猫を飼っていると、ペットが外に出ようとするたびにドアの開け閉めが必要になります。ペットが自由に家中を行き来できるようにするためにも、ペットドアを取り入れてみてはいかがでしょうか。
ペットドアは、縦横20cmほどのペット専用ゲートがついた扉で、犬用の少し大きめサイズもあります。各メーカーがペットドア付きの開き戸を販売しているので、現在のドアをそのまま交換することもできます。
自宅の廊下にペットドアを取り付けたこちらのリフォーム住宅では、主寝室の開き戸にくぐり戸が付いています。昼夜を問わず犬や猫たちが自由に出入りできそうです。
【キッチン】開けたままにできる室内引き戸
扉を開けることで部屋と部屋の一体感を出せる引き戸。扉の開閉でスペースを取ることがなく、開けたまま開放的に、閉じて部屋を仕切るなど、柔軟な使い方ができます。風通しや音の通りが良く、人の出入りが多い場所にぴったりです。
こちらの事例は、洋室とキッチンがひと続きになる設計に引き戸を採用したもの。室内ドアを開けておくことでLDKとしても使える工夫を凝らしています。上吊りタイプの引き戸なので段差がなく快適です。
室内ドアのリフォームに関するよくある疑問
室内ドアは希望に合わせて幅広い種類から選べることが分かりました。
ここからは、どのタイミングで室内ドアリフォームを依頼するべきか、DIYでも実現できるのかといった室内ドアリフォームに関する素朴な疑問を柏崎さんに伺いました。
室内ドアはどんなタイミングでリフォームすべき?
家も築15〜20年を超えてくると、キッチンや浴室、水回り設備や、床・壁といった内装の傷みが気になるもの。複数箇所をまとめてリフォームすることで、最終的な費用や手間を抑えることができるため、家全体のリフォームを行う際に、室内ドアも一緒に検討する方が多いようです。
柏崎さんは、「リフォームで自分好みの空間を楽しむべき」と付け加えます。
「暮らし方を新しくできるリフォームは、人生でそう何度も経験することではありません。開き戸より引き戸のほうが使いやすいのではないかなど、家族の暮らしに合った室内ドアについて検討してみてください。
各メーカーさんが取り扱っている既製のものに変えるだけでなく、建具屋さんに相談をして、フレームの中にオリジナルのステンドグラスを入れることだってできますよ。自由な発想でリフォームをお楽しみください」

室内ドアのリフォームはDIYできる?
ドア本体の木材やドアノブ、接着剤といった材料はホームセンターで手軽に購入でき、DIYも可能です。しかし、毎日開閉するドアは耐久性も重要。人の動線、開く方向、立て付けなど、専門家の知識が必要になるため、DIYはあまりおすすめできません。
これまでに多くのリフォームに携わってこられた柏崎さんも、「一般の方が自分で室内ドアを付けるのは難度が高く、建築の知識と経験が必要です。特に水平のラインを出すのが難しく、気軽に交換できるものではありません。後悔することがないよう、プロの力を借りるのが良いでしょう」と注意を促します。

室内ドアのリフォーム費用と工事日数の目安
光を取り入れられたり、使い勝手が良くなったりと、たくさんのメリットがある室内ドアのリフォーム。気になるリフォーム費用、工事日数の目安についてもチェックしていきましょう。
ドアの種類はそのまま、古いドアを新しいドアに交換する
「古くなったドアを新しいものに交換するためには、同じメーカーの同じシリーズから、既存のドアと同じサイズのドアを発注する必要があります。ドア枠はそのままで、ドアのみ交換する場合は、おおむね1日で作業を完了できます。費用相場はドア1枚当たり10万円前後と想定できますが、リフォームとなると質の向上を図る傾向があるので、予算は多めに見積もっておけると安心です」と柏崎さん。
フルリフォームの場合は建具のないところにドアを新設することもあるため、費用相場や工事日数の目安を出すことは難しくなります。リフォーム会社の見積書で確認しましょう。
ドア枠の形状によっては壁紙の張り直しや、枠自体を壁の中に巻き込む施工が必要になります。費用相場や工事日数(時間)はあくまでも参考として確認しましょう。
もともとのドアの枠をそのまま利用できる場合はドア本体の交換のみとなりますが、枠がゆがんでいたり、破損していたりする場合は、枠も合わせて交換する必要があるため、費用は10万~30万円ほどとなります。

開き戸から引き戸に交換する
開き戸から引き戸といったように、開閉方法の変更を伴うリフォーム工事は少し大掛りになります。
「準備として引きしろを作って引き戸用枠セットを用意すれば、施工自体は1日で完了できます。リフォーム費用はおよそ20万円から。ドアの素材や大きさによっても変わるので、事前の打ち合わせでしっかりと確認しておきましょう。通常のドア交換の費用に、枠を引き戸用に変更する工賃が上乗せされます」(柏崎さん)
新しい室内ドアを設置する
「子ども部屋を2つに分けたい」「間仕切り壁にドアを付けたい」といったご要望から、間仕切り扉を新設するケースがあります。新しい室内ドアを設置する費用の相場は20万円から。周辺環境やドアの種類によって前後します。
「新しくドアを設置するのは難しい工事。まずは壁に手を加えてもいいものか、構造のチェックを入念に行います。設置が難しい場所にどうしても付けたいという場合は、壁の筋交いを変える、耐力壁の移動といった作業も必要になるもの。壁に建具枠が収まるよう開口を開ける作業に1日、外枠の固定や建具の取り付けに1日掛かります。最後に新しいドアを取り付けて、全体の工期は3日ほど掛かるでしょう」(柏崎さん)

リフォームに掛かる日数の目安は、1〜2日間
室内ドアリフォームの所要日数は1~2日間が目安。ドア交換だけであれば数時間で完了できますが、ドア枠も交換するとなると内壁を壊すなど大掛かりな作業となり、工事は追加で数日必要となります。
リフォーム計画を立てる際の目安として参考にしてみてください。

室内ドアの交換・リフォーム時のポイント3つ
好みのデザインや、高機能なタイプに変えられる室内ドアですが、リフォーム時に心得ておきたいポイントがあります。要点を押さえながら自宅に合ったドアを考えてみましょう。
用途や目的を明確にする
悩みに悩んで選んだ室内ドアでも、「いざ生活をしてみたらイメージと違った」「もっと機能性にもこだわれば良かった」など、後悔してしまう場合があります。室内ドアのリフォームで失敗しないためにも、「なぜドアの交換・リフォームが必要なのか」「どんな暮らしを実現したいのか」、用途と目的を明確にしてから選択していきましょう。
部屋の雰囲気に合わせた色やデザインを選ぶ
室内ドアの色やデザインを家具や内装の雰囲気とそろえると、部屋全体に統一感が出ておしゃれ度がアップします。ドアや窓、ふすまなどの建具は、壁紙を選ぶ前に床材と合わせて検討する流れが一般的なので、打ち合わせのときに相談してみてください。
きめ細やかなオーダーに対応できる造作ドアも魅力的ですが、全ての部屋のドアに取り入れては費用がかさんでしまいます。リビングダイニングや趣味の部屋など、一部の部屋に取り入れてみてはいかがでしょう。
内装リフォームが行われたこちらの住宅では、木と白を基調とした温かみのある空間にグレイッシュブルーの室内ドアをセレクト。玄関を開けるとすぐに視界に入り、おもてなし空間のアクセントになっています。
他のドアとのバランスを考慮する
室内ドアをリフォームするとき、他の部屋に使用しているドアとのバランスが取れているかどうかにも注目してみましょう。全てのドアを開き戸にしてしまうと、隣り合う部屋のドア同士がぶつかってしまい、開閉に支障をきたすことも考えられます。開き戸と引き戸をバランスよく取り入れることで、見た目はもちろん、ドアも人も動きやすい環境になります。
デザイン性を重視してリフォームされたこちらの事例では、白を基調とした洗面所とは対照となる木目の室内ドアが印象的です。洗面所の入り口は引き戸に、廊下につながる室内ドアは開き戸にすることで家族が移動しやすい動線を確保しています。
まとめ
今回は、室内ドアの種類やリフォームの費用相場、交換やリフォームをする際のポイントをご紹介しました。室内ドアは、家族が毎日行き来する重要な場所です。リフォームする際にはライフスタイルの変化に合わせながら、ドアの用途を明確にしたうえで家の雰囲気に合ったデザインのドアを選んでみてはいかがでしょうか。
取材協力/甚五郎設計企画 代表 柏崎文昭さん
構成/宮下知子(ドコドア)
取材・文/松永春香





