リフォームで工事をする際、近所に挨拶をしておきたいところ。しかし、どんなリフォームでも挨拶をしないといけないのでしょうか。外壁や屋根の塗装や張り替えなど、屋外の工事だけで良い? また挨拶するのはどこまで? マンションの場合は上下階の住戸だけ? そもそも挨拶はリフォーム業者任せで十分? 手土産は必要? そんなリフォームの挨拶にまつわるさまざまな疑問について、マナーの先生である現代礼法研究所の岩下宣子さんに教えてもらいました。

記事の目次
リフォーム前に近所への挨拶は必要?

そもそも、なぜリフォームの際に挨拶が必要なのでしょうか。マナーデザイナーとして企業や公共団体など、さまざまな場所で教えている岩下宣子さんによれば、「リフォーム工事をすると、どうしても音が出ますし、リフォーム業者さんという普段見かけない人たちが出入りします。また駐車場に、知らない車(リフォーム業者の車)が止まっていることもあるでしょう」。
「そういった、普段とは違うことがあると、周囲の方々は『あれ? 何かあったのかな、何だろうな』と少し不安になりやすいのです」。確かにそのとおりですよね。
こうした不安感を近隣の方に与えないようにするために行うのが「リフォームをする前に挨拶をすること」なのです。「例えば、隣に引っ越して来た方が『ウチには小さな子どもがいるので、騒がしくてご迷惑をおかけするかも知れませんが』と、その子とともに挨拶にいらっしゃったら、後日子どもの声が聞こえても『あ、あの子だな』くらいで、『なんだろう、うるさいな』とは思いにくいはずです。それと一緒で、先手必勝なのです」。
あらかじめ「うるさい音や、見知らぬ人や車の出入りがある」と伝えておくだけで、後のトラブルを防ぎやすくなる。それがリフォームの挨拶です。以上を踏まえて、どんなリフォーム工事なら挨拶が必要か、挨拶には誰が行くべきかなど、詳しく見ていきましょう。
どんな工事のときに挨拶が必要になる?
先述したように音がする、普段見ない人や車の出入りがあるようなリフォーム工事は、すべて挨拶をしたほうがいいでしょう。面倒でも、後でトラブルにならないように挨拶をしておけば安心できます。
とはいえ、例えば内窓を備えるリフォーム工事など、音もあまりしませんし、半日程度で工事は終わってしまいます。「そういった、近隣に迷惑をかけない程度の音で、車の出入りも一度来て帰る程度ならば、確かに挨拶をするまでもないかも知れませんね。やりすぎもいけませんから」
逆に、丁寧にやりすぎてしまうと、妙な前例をつくってしまうことにもなります。挨拶を受ける立場になって考えてみて「この程度のことでいちいち挨拶に来られても、今度自分たちが挨拶しなければならないのは、ちょっと面倒かも……」と思うようであれば、よしておくとよいでしょう。
ただし、たいした音はしないと思っていた工事なのに、実際には大きな音がした、なんてこともあります。あらかじめ施工会社に工事の際の音や人・車の出入りを確認しておくと安心です。
また、いちいち挨拶に伺うような工事ではない場合も、「近所の方であればゴミ出しのときなど、普段顔を合わせることもあるかと思います。そんなときに『今度窓を直す際に、もしかしたらご迷惑をかけるかもしれないけど……』などと、挨拶にわざわざ行くのではなく、簡単に伝えておけばいいのではないでしょうか」
施主が挨拶をするか、施工会社と一緒に挨拶をしたほうがいいか?
次に、挨拶は必ず施主が行くべきか、考えてみましょう。最近は施主の代わりに挨拶をしてくれる施工会社が多いですが、任せきりでも大丈夫でしょうか。
「基本的には施主が挨拶したほうがよいでしょう。顔と顔を合わせることで、こちらの誠意を伝えやすくなりますから」。
これも挨拶を受ける立場になって考えてみると、施主自ら挨拶に来られたほうが「迷惑かけて申し訳ない」という気持ちが伝わりやすいと思いませんか? 今後も人間関係をうまくやっていきたいのであれば、施主自ら挨拶をするようにしましょう。
もし施工会社が挨拶をしてくれるというなら、一緒に行って挨拶するといいです。施工会社と一緒に挨拶することで、例えば出入りする車の台数や、工事に携わる人の人数など、聞かれた場合にすぐ答えてもらえるので、相手の不安感を払拭しやすくなります。
何度行っても不在の場合はどうすればいい?
挨拶に行っても、相手が不在であることはよくあります。そこで日や時間を改めて再訪するわけですが、それでも会えないことがあります。そんな場合はどうすればいいでしょうか。
「郵便ポストなどに、挨拶文と手土産を入れておけばよいでしょう。引っ越しではないので、挨拶する近所の方とは顔見知りのはずですから、絶対顔を合わせないといけないわけではありません。要は、こちらの誠意が伝えられるかどうかなのです」。
挨拶文の内容は、後述しますが、リフォーム工事の期間や簡単な工事内容等とともに「何度か伺ったのですが、お目にかかれず申し訳ありません。うるさくなると思いますが、何かあればいつでもおっしゃってください」等、こちらの気持ちも伝えるようにしましょう。
リフォームの挨拶で手土産は必要?

挨拶には手土産があったほうがこちらの気持ちを伝えやすくなります。
ただし、後述しますが、手土産を渡すのは「リフォームの後」にするのが自然です。もちろん、リフォームの前に渡すのが失礼というわけではありません。
では、手土産にはどんなものがよいのでしょうか。
「そもそも、リフォームの挨拶で手渡す品は、手土産というよりも“挨拶品”です。“挨拶の際に手渡す品”ですから、手土産とは少し意味合いが異なりなす。それを踏まえると、相手がもらうのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうような大げさなものではないほうがよいでしょう。手ぬぐいをはじめ、相手がためらわずに日常で使えるような品がいいですね」。
また、先述したとおり、何度挨拶へ行っても会えなかった相手には、挨拶文とともに手土産も郵便ポストなどに“投函(とうかん)”することになりますから、郵便ポストに入るような、サイズやカタチの品がおすすめです。
「その点、施工会社がよく用意してくれる手ぬぐいは郵便ポストに入れやすいですから、“挨拶品”としてはぴったりです。あとは小さくて薄いパックに入った少量の洗剤とか。最近は、同じく小さくて薄いパックに入った一合分のお米があるのですが、これもいいかも知れませんね。値段もそんなに高くないですから」。
他にも、自分が使ってみて「これは便利!」と思った台所用スポンジなど、「どんな品なら喜んでもらえるのか、相手の立場になってあれこれ考えてみることも、こちらの誠意につながるのだと思います」。
なお、直接手渡しできれば“挨拶品”と分かりますが、不在先の郵便ポストに挨拶文と、例えば手ぬぐいを入れたとしても、その他の郵便物などと混在してしまうと、受け取った相手は手ぬぐいが“挨拶品”かどうか判断しかねるかも知れません。こちらの誠意であることを示すためにも、「御挨拶」と記したのしをつけておいたほうがよいでしょう。
挨拶はどこまでまわればいい?
挨拶で伺う範囲は、一戸建てとマンションで少し異なります。
「基本、一戸建ての場合は周囲360度、つまり最大8軒です。またマンションなら両隣の住戸と上下の住戸で4軒。それとマンションの場合は管理人さんへの挨拶を忘れずにしておきましょう」。
一戸建ての挨拶先は最大8軒

マンションの挨拶先は上下左右の4軒

「基本は~」と書いたように、リフォームの工事内容次第では挨拶にまわる範囲を変える必要があります。例えば一戸建てで、細い路地の先に自宅があり、工事車両が頻繁に出入りするなら、路地に面した住戸全てに挨拶をしておくとか、マンションで頻繁にエレベーターを使うので、同じ階のエレベーターの前の住戸にも挨拶しておくなど。
リフォーム工事の挨拶は、工事で出る音や、時に振動、また出入りする人や車によって、迷惑をかけてしまうかも知れない相手に対して行います。そのため挨拶先は工事内容を把握しているリフォーム会社にも相談して決めたほうがよいでしょう。
挨拶ではどんなことを伝えればいい?
いざ挨拶に行ったら、何を伝えればいいのでしょうか。
「今度キッチンのリフォーム工事をするので、うるさくてご迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いいたします、という程度の挨拶で良いです。『今度キッチンをリビングに向けてLDKにするんです』とか『断熱工事をするので……』なんて細かな工事内容はあまり必要ありません」。
何しろ「挨拶」です。工事内容を説明するために伺うわけではありません。相手に迷惑にならないように、挨拶は数分で終わるようにしましょう。そのためには要点を簡潔に伝えることが肝心です。
- リフォームの日時
- どこの工事をするのか(ex.キッチンのリフォーム工事など)
- 施主とリフォーム会社の連絡先
の3点が伝わるようにするといいでしょう。
最近は上記の要点を押さえた挨拶文を用意してくれるリフォーム会社もありますから、それを活用して、なるべく完結な挨拶で済ませるといいでしょう。
特に、全面リフォームやリノベーション、水まわり設備の入れ替えなどで仮住まいが必要など、一時的に家を離れなければならないような工事の場合は、しばらく家を離れる旨とその期間、施主の携帯番号など緊急連絡先を必ず伝える(挨拶文にも記しておく)ようにしましょう。
挨拶する時間帯は、いつがいい?
挨拶にまわる時間帯は、相手が比較的忙しくないときがベストです。「平日の朝は通勤や通学がありますし、夕方は夕食の支度をしなければなりません。もちろん夕食後は家族で団らんの時間。また休日はお出かけされる家族も多いでしょう」
そう考えると、比較的こちらの挨拶に対応してもらいやすそうなのが、平日の、夕食の準備前。時間帯でいえば午後の2時〜4時ごろまでの間です。4時以降は夕食のためのお買い物に出掛けるかも知れませんから、なるべく避けたほうがよいでしょう。この時間帯で必ず挨拶できると言い切れませんが、少なくとも「相手が挨拶に来られたら嫌だろうな」と思うであろうタイミングを外して、挨拶に伺うようにしましょう。
もちろん、挨拶先が共働きの場合は平日の2時〜4時はいつ行っても不在でしょう。だからといって、帰宅後に伺うのも、仕事で疲れて帰ってきて、ようやくゆっくり家族と食事をしようと思っているタイミングですから、避けるべきです。この場合は、既に述べたように、郵便ポストに挨拶文を入れておくほうが、向こうも負担が少ないはずです。
「とにかく、相手の立場になって考える、というのが大前提です」
リフォーム前に挨拶をすべき理由も、挨拶はなるべく短時間で要点を伝えるのも、相手を思ってのことですから。
挨拶のタイミングは?リフォーム後の挨拶は必要?
挨拶はリフォーム前にしておけば十分でしょうか?
「いえ、リフォームが終わった後の挨拶が大切です。『うるさくなかったですか、これからもよろしくお願いいたします』という意味で挨拶しましょう」
先述したように、手土産はこのタイミングがおすすめだそう。確かに、この流れで手土産を渡すと「ご迷惑をおかけしました」という気持ちが伝わり、よりこちらの誠意を表せそうです。
リフォーム前と後、2回も挨拶をするなんて面倒だと思うかも知れませんが、こうした細かい気配りが、後のよりより人間関係づくりに生きるはずです。逆に、ちょっと手を抜いてしまって関係がこじれるほうが大変ではないでしょうか。
なお、リフォーム後の挨拶先や不在時の対処法はリフォーム前と同様です。
まとめ
以上みてきたように、リフォーム工事の挨拶は後の人間関係のトラブルを防ぐために行うもの。その要点をまとめると、下記のようになります。
| 挨拶するタイミングと回数 | リフォーム前と後の2回 |
|---|---|
| 挨拶に適した時間帯 | 平日の午後2時〜4時までがおすすめ |
| 挨拶する主体 | リフォーム会社任せにせず、施主が行うようにしたい |
| 挨拶の内容 | リフォーム工事の要点を手短に、完結に伝える |
| 挨拶にまわる先 | 一戸建ては最大8軒、マンションは4軒+管理人。ただしリフォームの工事内容によって変わる場合もあるので、あらかじめリフォーム会社に確認を |
| 何度伺っても相手が不在の場合 | 郵便ポストに挨拶文と手土産を入れる |
| 手土産 | 相手が遠慮せずに日常で使えるもので、郵便ポストに入るようなものがベスト |
| 手土産を渡すタイミング | リフォーム後の挨拶時がおすすめ |
せっかくリフォームで快適な自宅を叶えても、周囲との人間関係が壊れてしまうと楽しいはずのこれからの生活が台無しになってしまいかねません。上記を参考に、もし迷ったら「もし自分が挨拶を受ける立場だったら……」と考えて行動してみてはいかがでしょうか。
●取材協力
現代礼法研究所 代表 岩下宣子さん
全日本作法会の内田宗輝氏、小笠原流小笠原清信氏のもとでマナーを学び、1985年現代礼法研究所を設立。 マナーデザイナーとして、企業、学校、商工会議所、公共団体などでマナーの指導、研修、講演と執筆活動を行う。「表面的なやり方だけではない心のこもった」マナー指導、研修には定評がある。
構成・取材・文/籠島康弘
イラスト/伊藤美樹
雑誌「カーセンサー」編集部を経てフリーライターに。中古車からカーシェアリング、電気自動車までクルマにまつわる諸々の記事執筆を手がける。最近は住宅雑誌の記事も執筆していて、自分が何屋なのかますます分からなくなってきた。