トイレの新設、増設にかかる値段や、何坪くらい必要なのかなど、さまざまな疑問に一級建築士のYuu(尾間紫)さんが答えます。増築などのタイミングで、トイレを広くしたい、数を増やしたい場合に参考にしてください。
記事の目次
トイレの数や広さを増やしたい場合に知っておきたいポイント
2階建ての一戸建てにトイレはいくつあればいい?
1階と2階それぞれ、合計2カ所あるのが理想的。
築年数の古い一戸建ての場合、トイレは1カ所にしかないケースが多くあります。家を建てた当時、夫婦+小さな子どもという家族構成だったなら、トイレが1カ所でも不便を感じることはなかったでしょう。しかし、数年後、子どもが増えたり、成長したとき、出勤前や登校前の時間帯にトイレが渋滞!ということも。また、親世帯や子世帯との同居が決まって、二世帯住宅に増築をする場合も、トイレを増やしたくなるでしょう。
2階建ての一戸建てなら各フロアにトイレ、つまり1階と2階それぞれ、合計2カ所にあるのが理想的です。
各フロアにトイレがあると便利なことのほかに、安全面でのメリットもあります。
「階段を上り下りしてトイレへ行くことには危険が伴います。特に、夜中に寝ぼけながら、または慌てて階段を下りると足元が危険。各フロアにあるといいですね」(Yuuさん、以下同)
3階建てでも各フロアに必要?
寝室やリビングのあるフロアにトイレがあるといい。
狭小の土地を効率よく使うために3階建てにしている場合は、各フロアの床面積に限りがあります。後で述べますが、容積率や建ぺい率をいっぱいに建てている場合は増築することもできません。また、3カ所にトイレを設けることはコストもかかります。
「3階は子ども部屋や収納に使っているお家なら、トイレは寝室やリビングがある1階と2階にあるのがいいでしょう」
広さは何坪あればいい?
多いのは広さ0.4坪〜0.5坪のトイレです。
「トイレの面積で多いのは0.4坪〜0.5坪。0.5坪は畳1枚分です。少しぜいたくなプランですと、横幅が20㎝〜45㎝くらい広くなる1.25畳~1.5畳のトイレもあります。1.5畳は0.75坪となり、便器の横に大きめのカウンターを設けることができ、かなりゆったりとした空間になります。
ただしトイレには最低限必要な広さ、身動きがとりやすい適切な広さがあります。それには便器のサイズも関係してきます」
最低限必要な広さは、便器の先端から正面の壁までが40㎝、便器の幅から両側の壁までそれぞれ15㎝ずつ。ただし、この広さでは、大人がドアを開けて中に入り体を回転させて座るときに窮屈です。
「身動きがとりやすい広さにするには、便器の先端から正面の壁まで55㎝以上あるといいですね。これは便器の前に大人が横向きで立てる寸法です」
最近は、タンクレスなどコンパクトなサイズのトイレもありますから、リフォームで床面積を広げなくても、トイレを交換するだけで広さにゆとりを出すことも可能です。
広くしたくなるのはどんなトイレ?
圧迫感のあるトイレや、狭くて身動きがとりにくいトイレです。
「デッドスペースになりがちな階段下にトイレが設けられているプランがあります。階段部分の天井が下がっているため圧迫感があり、リフォームの際に広くしたいというご要望が多くあります。
また、トイレの中に手洗い器を設けたいけれど、狭くなってしまう場合。そんなときは無理にトイレの中にスペースを確保しなくても、トイレの外に手洗い器を付ける方法もあります。玄関近くにあるトイレなら、帰宅時の手洗いスペースと兼用するのもいいと思います。最近はコンパクトでデザイン性の高い手洗いボウルやカウンターがあるので、おしゃれなスペースにできます」
そのほか、車椅子での使用や介助のためにトイレを広くする必要が出てくることもあります。車椅子で動ける、大人が二人入れる広さも必要ですが、大切なのはドアの位置。
「車いすや介助者と入る場合、便器の正面にドアがあると、身体をぐるっと回転させる必要があり大変です。便器の横から入れるようにしておけば、そのまま体をスライドさせて座りやすくなります」
今の住まいのトイレに圧迫感がある、狭いなどの不満点があるなら、リフォームでの解決を検討してみるのもいいですね。
トイレの増築、増設の費用相場
トイレを増築する、トイレを増やす、それぞれいくら?
1階にトイレのみの増築をするなら120万円〜。
トイレを増やすための費用は、増築をしてトイレを増やすのか、今あるスペース内でトイレを増やすのか、また、増やす場所はどこなのか、便器の値段はどれくらいかなど、さまざまな条件によって異なります。以下に挙げる費用はあくまでも目安としてください。
1階にトイレのみの増築で増やす場合は120万円〜
1階に他の部分の増築と併せてトイレをひとつ増やす場合は増築費用+40万円〜
2階にトイレをひとつ増やす場合は50万円〜
トイレ部分だけを増築するのはなぜ割高になる?
給排水管や壁や屋根の工事などで単価がアップします。
「広い平屋でトイレから遠い部屋があって不便、高齢者と同居することになった、一世帯住宅から二世帯住宅にしたいなど、トイレを増やすリフォームの要望はよくあります。しかし、トイレを増やすために、その部分だけを増築するとなると、工事単価は大きくなってしまいます」
たしかに、1階にトイレを増やす場合、増築で増やすと坪単価が240万円~となり、すごく割高に感じます。なぜでしょうか?
「トイレは面積が狭い割に、高額な設備機器が取り付けられていたり、給水や排水、桝の設置などの工事が必要だったり、もともとほかの部屋に比べて坪単価が高い場所です。
更に増築で作るとなると、壁や屋根を新たに作る必要があります。建築工事の特性上、0.5坪の増築だからといって、1坪の増築にかかる費用の半分ではできません。最低限かかる金額があるので、面積が小さい増築は坪単価が割高になります。そういった費用が積み重なって、坪単価がとても高くなってしまうのです」
小さい面積を増築すると割高になるのです。
トイレの増設では何が費用に影響する?
排水の距離や選ぶ設備の値段で費用に差が出ます。
「トイレは狭い空間ですが、さまざまな要素が詰まっています。費用に違いが出る要因のひとつが、排水の距離。必要な排水管が長くなればなるほど費用が上がります。2階にトイレを増設する場合は、排水管を通す場所によっても費用に差が生まれます。建物の外に配管を設ける露出配管という方法もありますが、壁面に排水管が付くことを嫌がる方もいらっしゃるので、その場合は収納スペースの奥など屋内にパイプスペースを設けることになり、その費用がかさみます」
そのほか、便器は機能やお手入れのしやすさ、別売り品を採用するかどうかなどで値段に差がでます。本体のデザインに併せて洗面器やペーパーホルダーなどをセットにすると便器と併せて100万円を超える場合も。壁紙や床材の選び方でも費用に差が出ます。
トイレの増設やリフォームで知っておきたいポイント
増築をしないでトイレを増やすポイントは?
今の間取りを見直して押入れなどを活用しましょう。
リフォームでトイレをもうひとつ増やしたいとき、家の床面積を広げる増築をしなくても可能かを、検討してみるといいでしょう。まず行うのは今の間取りの見直し。新しいトイレの排水管を既存の排水管につなぎやすい位置に、押入れひとつ分のスペースが確保できないかを考えてみます。
「和室を同居する高齢者の部屋にする際、その押入れをトイレに変更するケースがよくあります」
増築でのトイレの増設をおトクにするには?
ほかの部分の増築と同時に行いましょう。
トイレを増築して増やしたい場合、トイレの増築だけを行うと割高になってしまいます。もしも、家族構成の変化や、二世帯同居などで部屋を増やす、リビングを広くするなどの増築を行う可能性があるなら、まとめて工事をすることで効率が上がり、費用面でもお得にできます。
増築でトイレを増やせないのはどんなケース?
建ぺい率や容積率がギリギリだと増築できません。
特にコンパクトな土地に家を建てる場合など、できるだけ住空間を確保するために、新築時から建ぺい率、容積率ギリギリになっていることが多くあります。
建ぺい率とは敷地面積に占める建築面積(建物を真上から見たときの面積)のこと。容積率とは敷地面積に占める建物の延床面積のこと。どちらも敷地のある用途地域や敷地の条件、地域の条例などによって制限されています。
現在の家が建ぺい率いっぱいに建てられていれば、1階の床面積を広げることができません。その場合、容積率に余裕があれば、2階を増築してトイレを新設できる場合があるのでリフォーム会社に相談してみましょう。容積率がいっぱいになっている場合は、家の延床面積を増やすことができないため、増築そのものができないので注意しましょう。
2階にトイレを増やすときの注意点は?
リビングや寝室の上は避けましょう。
2階にトイレを新設する場合、理想的な位置は1階のトイレの上。
「2階のトイレは排水管の経路をどこに取るかで工事費が大きく違ってきます。また桝の位置も重要です。1階のトイレの上に新設すれば、排水管のルートが取りやすくなります」
もうひとつ気をつけたいのは音の問題です。
「1階のリビングや寝室の上に配置すると、水を流す音が響き気になるもの。2階のトイレは1階のトイレ、クローゼットや押入れ、納戸の上などに配置するといいですね」
トイレの増築、増設で建築確認申請は必要か
増築すると建築確認申請は必要?
増築面積や地域によっては建築確認申請が必要です。
既存の住宅内で床面積は増やさずにトイレを広くしたり増やしたりするリフォームの場合は、基本的には建築確認申請は不要です。しかし、床面積が増える増築の場合は申請が必要になることもあるので注意。
防火・準防火地域にある家は、増築面積にかかわらず建築確認申請が必要です。トイレを増築して増やしたり広げたりした場合は申請を行います。
家が立っているのが防火・準防火地域外の地域で10m2を超える増築を行う場合は建築確認申請が必要です。10m2は約6畳の広さですから、トイレ部分だけを増築で増やす場合は防火・準防火地域外なら申請は不要かもしれません。しかし、家全体を見直すリフォームや平屋を2階建てにする増築と併せてトイレも増築すると、床面積が10m2超増えた場合は申請の必要があります。
家のある場所が防火地域・準防火地域にあるのかは、自治体(市区町村)のホームページの都市計画情報を確認することができます。WEB上で公開されていない場合は、役場の建築指導課などに問い合わせるといいでしょう。
増築をする住宅の立地 | 建築確認申請 |
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防火・準防火地域外 | 増築面積が10m2超なら申請が必要 |
防火・準防火地域 | 増築面積にかかわらず申請が必要 |
既存不適格建築物になっていないかを確認
トイレを増やす際に増築を検討するなら、今の家が既存不適格建築物になっていないかが重要。既存不適格建築物とは、新築当時は法令に適合していたけれど、その後、法令などが改正されたことで現在の法令に適合しなくなった建物のことをいいます。法令に適合していないからといって今の家が違法建築(違反建築物)というわけではないのですが、増築をする場合に建築確認申請を行うと、原則として既存部分を含めた建物全体を現行法規に適合させる必要があります。
例えば、建てた当時は防火地域ではなかったのに、後から防火地域に指定された場合。そのまま使用するのであれば問題ありませんが、増築をする場合には、併せて現在の防火の規制に適合させる工事が必要になります。なお、一定の条件下では緩和措置が受けられる場合もあります。リフォーム会社や建築士に相談するといいでしょう。
トイレを増設したリフォームの実例を紹介!
トイレを増やす場合、増築して床面積を広げる方法、既存のスペースにトイレを新設する方法があります。ここでは、二世帯住宅への全面リフォームの際に、2階にトイレを新設した実例をご紹介。1階、2階、各フロアにトイレがあることで、二世帯での同居でもトイレが混み合うことがなく、トイレを使うたびに階段の上り下りをする必要がない、安心・快適な成功例です。
二世帯住宅へのリフォームで2階にトイレを新設
実家での二世帯同居をスタートすることになり、親世帯と子世帯それぞれが心地よく暮らせる二世帯住宅を計画。建て替えも検討しましたが、住み慣れた家を生かしたいという想いから、全面リフォームを選択しました。完成したのは1階の広々としたリビングダイニングやキッチンのほか、2階にもリビングが設けられ、どのフロアにいても家族で憩える同居型の二世帯住宅です。キッチンと浴室、トイレは共用し、2階にはトイレを新設し、階段を上り下りしなくてもトイレを使える安心な住まいになりました。
築33年を経た建物は雨漏りや傷みも目立っていたため、スケルトン工事を実施。柱や梁を補強して耐震性を高めたほか、断熱で快適性能もアップ。屋根や外壁も替えて新築のような外観に生まれ変わっています。
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【DATA】
リフォーム費用:2550万円(住宅全体のリフォーム費用)
工期:4カ月
[ Before ] 3DK → [ After ] 3L・DK
リフォーム面積:100m2
リフォーム箇所:リビング・ダイニング、キッチン、洗面所、浴室、トイレ、洋室、寝室、収納、玄関
築年数:33年
住宅の種別:一戸建て
設計・施工:stylekoubou(スタイル工房)
※リフォーム内容は契約時のもの。費用は概算。建物の状態や契約時期によって費用は変動します。掲載した費用、工事内容などはあくまでも参考としてください。
家族が増えたり、家が広い場合、トイレが2カ所にあると便利です。また、トイレが狭い場合はスペースを広げることで手洗いカウンターのあるおしゃれな空間にできたり、将来、バリアフリー対応にもしやすくなったりします。トイレの増設や広げるためには増築という選択肢もありますが、家全体の間取りを見直して、ほかの場所のリフォームと併せて行う方法がコスト的にもメリットがあります。リフォームの予算と希望を整理して、リフォーム会社に相談するといいでしょう。
●取材協力
Yuuさん(本名:尾間紫)
一級建築士事務所Office Yuu代表
長年リフォーム業界の第一線で数多くの相談、設計、工事に携わってきた。その経験を活かし、住宅リフォームコンサルタントとして幸せなリフォームを実現するためのノウハウを自身のWEBサイトで発信するほか、セミナー講演や執筆、人材育成研修などで活躍中
取材・文/田方みき イラスト/つぼいひろき