シャープな外観に開放感と高級感を秘めた個性派タワー
いまや東京の湾岸エリアを代表する人気アドレスのひとつとなった、江東区豊洲。造船所の跡地を利用した計画的な街づくりが話題を呼び、一躍、注目の街となってから10数年。急速な発展は現在も続いていて、訪れるたびに景観の変化に驚かされる。
とくに街の美しさが印象的だ。晴海通り沿いには街路樹が茂る広い歩道が続き、ビルとビルの間にも緑豊かな歩行者空間が形成され、水辺の風景へとつながっていく。年月を経て成長した樹木が生み出す憩いと豊かさは、豊洲全体で緑化と景観整備を推進してきた成果だろう。
緑陰と木漏れ日を楽しみながら、街路サインにサンセットウォークとある通りを抜けると、目の前に目的のマンションが現れた。黒を基調とした全面ガラスウォールのシャープなシルエットに、しばし見とれてしまう。いくつものタワーマンションが立ち並ぶ豊洲にあって、強い個性と存在感を主張している。
シティタワーズ豊洲 ザ・シンボル。地上44階建て、住戸数850戸の大規模タワーマンションだ。
豊洲運河の水辺と、芝浦工業大学のキャンパスと隣り合う開放的なロケーション。周囲は広々とした公開空地となっており、タワーの足元には芝生広場や散策路、ベンチを配したガーデンなどが広がっている。
エントランスを入ると2層吹抜けのホール。全面がガラス張りで、降り注ぐ日差しと窓に映る木々の緑が気持ちいい。エスカレーターを上がってロビーに到着すると、そこは高い天井とワイドな窓、大理石で構成された大空間。思わずため息が漏れる。エントランスまわりのスケール感と開放感は、このマンションの注目ポイントと言えるだろう。
合理的な体質の管理組合が潤沢な資金をプール
と、ここまでは取材陣が注目したこのマンションの魅力である。ロビーで私たちを迎えてくれたマンション管理組合の木全理事長は、まった違う視点からその魅力を語ってくれた。
「このマンションの最大の特徴は、ムダがないこと。いろいろな意味で合理的な体質のマンションです」(マンション管理組合の木全理事長。以下コメント同)。
ムダがない? 合理的とは? 詳しくお話を伺った。
「そもそも共用施設が少ない。さまざまな共用施設を持つ大規模マンションが多いですが、このマンションの主な共用施設はロビーまわりのラウンジとデッキ、それに32階のスカイラウンジぐらい。ですからランニングコストがかかりません」
ちなみに共用施設については、同じ運河沿いに立つ「シティタワーズ豊洲 ザ・ツイン」と共同相互利用が可能だという。建物は離れるが、来客時にあるとうれしいゲストルームやシアタールームなど、各種施設を便利に使える環境が整っているというわけだ。
「加えて、管理費、修繕積立金の徴収率は99.9%。管理組合の理事に士業の方や、保険や修繕の専門家がいるため、徴収率が高いだけでなく、保険の請求率も高く、修繕計画もかなり綿密に練られています。毎年、数千万円単位で余る予算を繰り越して貯めてきていますから、修繕積立金は計画以上に潤沢な状態です」
潤沢な資金を有効に活用すべく、マンション管理組合は修繕工事、設備更新など、マンションの価値を維持・向上するための取り組みを次々に進めているという。
「昨年はロビーラウンジのソファ数十台をすべて新調し入れ替えました。今年は、不足がちになっていた宅配ボックスを、従来の倍に増設。また、マンション内には在宅勤務の方も多いので、ランチなどに活用してもらおうとキッチンカーを導入。バリエーションが楽しめるように20業者と契約し、日替わりで来てもらっています」
来年から初めての大規模修繕がスタートする。管理組合はこれまでに予定を上回る修繕積立金を蓄えているので、よく耳にするような「大規模修繕のための追加徴収」はもちろんないという。
「竣工して間もない2011年の東日本大震災のときに、壁にできたクラックなどを5000万円ほどかけて直しているおかげで、10年経っても建物はかなりいい状態です。しっかりお金をかけて修繕することを決断した当時の理事会は賢明だったと思います。
大規模修繕は建物に覆いをせず、ゴンドラを使って実施する予定。住民にできるだけ負担をかけないよう、これから詳細を詰めていくところです」
86本の樹木を失った公開空地の植栽復旧を目指す
今期の理事会の取り組みを伺うと、「植栽、防災、DX(デジタルトランスフォーメーション)が3大テーマです」と木全さん。まず、植栽について教えていただいた。
「植栽の復旧を目指しています。実は、ここ数年の猛烈な台風によって、公開空地の植栽が大きなダメージを受け、86本もの樹木が倒れてしまいました。エントランスのアプローチから運河へと続く遊歩道沿いのサルスベリは、軒並み倒れてほぼ全滅。シンボルツリー的な存在であるエントランス前のセコイアは、倒れこそしなかったものの強烈な風を受けて少し斜めに傾いた状態です。
原状回復を目指すけれども、完全復旧は同じ樹木が育たないため、サスティナブルな原状回復に近いプランを策定していく方針です」
聞いてみると、タワー周囲の公開空地を良好な状態に保つため、植栽のメンテナンスは週3日のペースで行っているそうだ。豊洲運河に面した芝生広場も台風でダメージを受けたが、今は青々とした芝生を取り戻しつつある。もともと潮風の影響で芝生が育ちにくい環境のため、種を蒔いたり、栄養剤を入れたり、手厚いメンテナンスが欠かせないのだという。
予算をかけて防災プラン作成、避難ルールの周知を推進
近年は自然災害が数多く発生し、被害も大きくなっている。そうした傾向を踏まえて、今期は防災の取り組み強化に力を入れている。
「防災については、理事会とは独立して防災委員会を設けています。江東区のマンションは区から自主防災組織である防災協力隊を設置するよう求められており、その隊長の職務を防災委員長が担う形です。役割は、防災プランをつくり、それを実際に運用できるように整えていくこと。区から交付される助成金だけではできることが限られていますから、管理組合から予算を出して取り組み強化を進めています」
湾岸エリアのマンションでは、やはり台風対策が重要だという。
「2019年の台風19号で、武蔵小杉のタワーマンションが地下への浸水で想定外の被害を受けましたが、他人ごとではありません。同様の被害が発生しないよう、十分な高さの止水板を用いて浸水対策を講じています。さらに、水が入ってくる経路は他にないか、このマンションを施工した竹中工務店に確認し、専門家にアドバイスをもらうなど、防災プランの作成には惜しまず予算を使っています」
防災委員会では、掲示板でアンケートを実施し防災の意識付け強化。いざ災害が起きて避難となったときに、住民が混乱しないようマニュアルも作成した。
「各住戸に避難経路を示したマグネットパネルを配布し、普段は玄関扉の内側に貼っておいてもらい、災害時に避難した住戸はパネルを扉の表に出すなど、ルールの認知、徹底を進めているところです」
アプリを活用してオンライン理事会を効率化
もうひとつのテーマは、木全さんがけん引するDX。コロナ禍を受けて、昨年4月から管理組合の定期理事会をオンライン化したという。
「月1回の理事会はZoomで開催し、事前に論点を絞って理事会が効率よく回すために、アプリを2つ使っています。一つは、資料のやり取りや意見収集ができる掲示板アプリ。もう一つ、案件に賛成、反対、保留の意思表示ができるリモ・アーボという専用アプリを導入しています」
AかBか選択可能な案件は事前に投票しておいてもらえば、理事会本番で議論しなくて済む。アプリを活用した事前投票制の導入は、理事会の時短も狙いだ。
「理事の皆さんの協力もあって、審議すべきものに集中できるようになってきました。とはいえ、昨年は災害が多く、来年から大規模修繕が始まることもあって議題は前より増えているというのが現状。理事会の運営責任者として、より効率的な理事会を目指しています」
コンシェルジュもマンションの魅力アップに貢献
ここまで、管理組合の理事長としてこのマンションの特徴や取り組みを語ってくれた木全さんは、プライベートでは3歳の子どものパパである。最後に、子育てファミリーにとってのリアルな住み心地を伺った。
「このマンションは、コンシェルジュも自慢です。住人は外出時と帰宅時にはロビーのコンシェルジュデスクの前を通る動線になっていて、住人が通るたびに『いってらっしゃい』『お帰りなさい』と声をかけてくれます。子どもたちも含めて、住人の顔と名前はほとんど覚えていて、もしロビーで騒いでいる子がいれば注意をしてくれる。住人とコミュニケーションがよくとれていて、くつろげる雰囲気づくりがされているなと感じています」
そもそも、このマンションを選んだ理由を聞いてみると、決め手は眺望だったという。湾岸エリアの別の街も検討したが、豊洲の街の雰囲気が気に入ったとも。
「もう少し職場に近い都心寄りに住みたくて、注目したのが湾岸エリアです。当時は職場が八重洲で、仕事で遅くなってもタクシーですぐに帰れる距離ですから。このマンションはすでに竣工していたので、東西南北、すべての向きを実際に見せてもらって、都心方面が見える西向き住戸を選びました。特に、夕暮れのマジックアワーの眺めが好きですね。
豊洲の街も印象が良く、自分たちに合っているなと感じました。アーバンドッグららぽーと豊洲をはじめ、商業の集積は十分。マンションにしても、オフィスビルにしても、公開空地がたっぷり取られ、歩道が整備されているので、小さい子どもを連れて歩くのも快適です。今はほとんどテレワークですから、保育園の送り迎えに子どもと街を歩くと良いリフレッシュになります。水と緑、レジャースポットにも恵まれ、ファミリーにはとても過ごしやすい街です」
管理組合が潤沢な資金を持ち、住環境の維持・向上のために惜しみなく資金を投入できる。住人の安心感と満足度は高いことだろう。さらに、水辺の開放感、眺望の良さ、買い物環境、足まわり、街の美しさなど魅力は尽きない。植栽の復旧が叶ったとき、“豊洲のシンボル”と名付けられたこのマンションはどんな表情を見せてくれるのだろう。