大使館と大使公邸がひとつ屋根の下に! 特別な住まいならではの住み心地とは?

ルクセンブルグハウスの外観

物件名:
ルクセンブルグハウス
所在地:
東京都 千代田区
竣工年:
2003年
総戸数:
87戸

大使館・大使公邸と一体化した稀有なマンション

唐突だがクイズをひとつ。「東京に多いものは何?」。正解は数多くあり、漠然とした問いで恐縮だが、本稿での答えは「外国公館」。外務省の統計によれば、わが国には251の外国公館(大使館155、名誉(総)領事館96。2019年3月29日現在)があり、そのうち計200以上が東京に集まっているという。

外国公館の多くは独立した建物だが、一部にはオフィスビル、マンションなどにテナントとして入居する場合も見られる。土地にさほどゆとりがなく、地価の高い東京ならではの話だろう。

ベルギー、フランス、ドイツに囲まれた、神奈川県とほぼ同じ面積の国、ルクセンブルク大公国も東京のマンションの中に大使館を構えている。ただし、マンション開発の段階から大使館が事業協力者として参画しており、国の名称がマンション名にまで使われているケースは非常に珍しい。そう、ここで紹介する「ルクセンブルグハウス」がそれである。

ルクセンブルグハウスが建つのは、千代田区二番町にあった旧大使館から北に500mほど離れた場所。JR、都営新宿線、南北線市ヶ谷駅と半蔵門線半蔵門駅など複数の沿線・駅が使える足まわりの良い立地だ。千代田区の番町エリアにはヨーロッパの大使館が集まり、皇居、霞ヶ関にも近いことなどから、ルクセンブルク大使館側が、マンション事業主である三菱地所(現:三菱地所レジデンス)、神戸製鋼所と合意して建てられたマンションである。

ルクセンブルグハウス1階にあるルクセンブルク大公国の大使館入口

マンション1階にあるルクセンブルク大公国の大使館入口。「ヨーロッパの金融センター」の別名もあり、国民1人当たりのGDPは世界第1位だ(2018年 IMF)

大使公邸でのパーティーに住人が招かれることも

建物は12階建てで1階にルクセンブルク大使館とマンションエントランス、管理室などがあり、2~11階までは一般住居。12階はルクセンブルク大使公邸となっている。1階の大使館と住居の入口は完全分離の動線だ。ということは、大使は大使館経由の専用エレベーターなどで自邸へ向かうのだろうか?

写真左が大使館入口、右奥がルクセンブルグハウスのエントランス

写真左が大使館入口、右奥がマンションのエントランス

「いえ、大使もマンション住人が使うエレベーターで12階に移動するんです。ですからまれに一緒になることもありますよ。もちろん、マンション住人は12階まで昇れないセキュリティが導入されています」と教えてくれたのは、竣工時からここで暮らしている管理組合理事長の平出さん。購入の決め手は立地や建物のクオリティもさることながら、やはり、大使館、大使公邸が同居し、物件名に国名を冠している希少性だったという。

「他にこんなマンションはないでしょう? また、大使館側も住人に好意的で、以前には駐日大使交替時に催されたパーティーや美術展などに理事会や住人が招かれたこともありました。エレベーターひとつで行ける場所にあり、各国の駐日大使やそのご家族などが招かれている特殊な環境の大使館や大使公邸で、顔見知りの住人と会うのは何か不思議な感覚でした。改めて自分たちが住んでいるのは特別なマンションなのだと再認識したものです」(平出さん)

また、大使館もマンションの一区分所有者であることから、輪番制で大使館スタッフが理事に任命され、理事会活動に従事するのもここならではだ。現在、管理組合副理事長を務める手塚さんは「以前、私が理事を務めていたときは大使館の方が理事を務めていた時期でした。いきなり英語で電話が来てとまどったのを覚えています。通訳の方に入っていただいて理事会を開いたりしていましたね」

また、ルクセンブルクの王室と日本の皇室の親交が深いことから、こんな経験も。

「以前、ルクセンブルクの王室にご不幸があった際、当時の天皇陛下ご夫妻、現在の上皇ご夫妻が大使館に弔問に訪れたのです。その模様がTVニュースで放映されたときは必然的にうちのマンションも映っていましたね。特別な住環境であることを実感しました」(手塚さん)

天然石が敷き詰められた、風格のあるルクセンブルグハウスの車寄せ

天然石が敷き詰められた、風格のあるマンションの車寄せ。車2台がすれ違えるゆとりがある

まさに、このマンションにしか起こり得ない光景であり、多くの住人が誇らしく感じたことだろう。

ルクセンブルグハウスの管理組合の平出理事長と手塚副理事長

右が管理組合の平出理事長、左が手塚副理事長(撮影:保倉勝巳)

ルクセンブルグハウス1階エレベーターホールには写真家のハービー・山口が撮影したモノクロームのルクセンブルクの街並みがディスプレイされている

1階エレベーターホールには写真家のハービー・山口が撮影したモノクロームのルクセンブルクの街並みがディスプレイされている

中央部に内包された“キューブ”の緑を再生

住人の多くが、こうした独自の希少性や高級感、竣工前に手にした物件パンフレットに描かれた内外観の完成予想イメージに惹かれて購入を決めたという。そのため管理組合の重要なテーマは「共用部分はできるだけ新築時の雰囲気を変えない、質も極力落とさない」。象徴的なのが植栽の維持管理へのこだわりだ。

「マンションの中央部には“キューブ”と名付けられた3種類の吹抜けがあり、それぞれ特徴ある内装が施されています。最上層、10~12階には屋根のないキューブがあり、白い壁がツタの葉で覆われています。ただ、当初はツタがうまく伸びてくれず、マンションの完成予想イメージには程遠かった。そこで樹木医のアドバイスも検討し、思い切って品種を変更したところ、その後は順調に伸びてくれました。また、外構の植栽も一部枯れてしまったのでこちらも品種を交換しています」(手塚さん)

ルクセンブルグハウスの「エアキューブ」は屋根がなく開放的

壁がツタの葉に覆われた10~12階の「ラックスキューブ」。上部は吹抜け。雪が降ったときは子どもたちが雪だるまをつくって遊んだそうだ

ツタが生い茂るルクセンブルグハウスの「ラックスキューブ」

ツタの葉に寄って撮影。12階にまで到達しているため大使公邸からも緑の借景が楽しめているはずだ

いずれも想定外でそれなりの出費を要したが、マンションの内外観やクオリティの維持は住人の総意とあって、住民総会ではスムーズに承認されたそうだ。努力が実り、現在、最上層のキューブの白壁には豊かなツタの葉が這い、マンションのオアシスのような存在になった。以来、植栽管理会社を通じて維持管理に努めているという。

ルクセンブルグハウスの「ホワイトキューブ」には室内に大きな木がある

6~9階の「ホワイトキューブ」は樹木、ソファなどが置かれ、ホテルのラウンジのような雰囲気

ルクセンブルグハウスの「ラックスキューブ」の床にはアート写真が飾られている

1~5階の「ラックスキューブ」。1~12階までエレベーターはシースルータイプで各吹抜けを眺められる仕掛け

ルクセンブルグハウスの「ラックスキューブ」に飾られた赤い花の写真

1階のラックスキューブフロアでは花のアート写真を展示している。季節に応じて年6回交換し、住人の目を楽しませている

最新の設備機器を導入、使い勝手の向上にも取り組む

このようにマンションの品質を「変えない」ことに力を注ぐ一方、防犯性、快適性などの向上を目的に、共用設備を「変える」ことにも積極的に取り組んでいる。

「各住戸のインターホンが古くなったために交換し、そのタイミングに合わせてオートロックも非接触型に変えました。また、共用部分の照明は、節電のために順次LEDに変えていくことにしました。ただし、照明の色合いや雰囲気が少しでも変わってしまうと本末転倒なので、まずはトライアルとして単独フロアのエレベーターホールの照明をLEDに交換しました。住人に周知して、雰囲気が変わらないかを他の階と比較してもらい、広く意見を集めて住人の皆さんに納得していただくつもりです」(手塚さん)

毎年春に国が発表する公示地価のトップクラス常連エリアである、千代田区番町。そこには当然いくつもの高級マンションが集積しているわけだが、外国公館が同居するという特殊なマンションはルクセンブルグハウスのみ。その価値は管理組合によって守られ、今後も変わることはなさそうだ。

ルクセンブルグハウスの1階ホール

1階ホールの大理石張りの床は、ルクセンブルクの街並み写真が反射するほど磨き抜かれていた

構成・取材・文/保倉勝巳 撮影/古末拓也

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