既製品の約1/4の値段でつくれちゃう 賃貸マンションで妻のために「防音ブース」をつくった話

はじめまして。リノベーションデザイナーをしているフジイです。

妻の「狭くてもいいので防音室が欲しい」という一言がきっかけで、約1週間かけて自宅の賃貸マンションに防音室をDIYしました。仕組みさえ分かれば、DIY初心者の方でも比較的簡単に、既製品の約5分の1の予算で製作できるので、時間と根性さえあればとてもコスパのいいDIYです。 

「防音室」と言ってしまえばニッチですが、「お隣との防音壁」や「お篭もり用の小さなブース」としても汎用的に使えるアイデアです。

自宅に録音ブースが欲しい人はもちろん、自宅で仕事や作業をする人やビデオミーティングが多い人、お篭もりスペースが欲しい人の一助になればうれしいです。

防音ブースをDIYするキッカケ

2017年に結婚した妻と都内のマンションで生活をしていました。僕はフリーのリノベーション・住宅デザイナー、妻はソロのシンガーでナレーションなどの声を使った仕事を生業としています。

妻は録音スタジオまで出向いて仕事をすることが多かったのですが、コロナ禍でスタジオ収録が難しい状況に。

元々「宅録」で仕事をすることはあったものの、マンションだと近隣への音漏れや音を出せる時間の制限、音質などが懸念点としてありました。

当時暮らしていたマンションの一室

宅録の際は、リンビングの一角にあるPCの横に、機材を毎回設置する必要がありました。録音の瞬間に僕と愛犬は絶対に音を発さないように息を殺したり、生活音に気をつけたり、今となってはいい思い出にもなっていますが、なかなか厳しい録音環境でした。

僕も「妻にはもっと気軽に、集中して仕事に取り組んでほしいな」という気持ちだったことと、「家に簡易的な防音ブースがあればなぁ」という本人の一言が決め手となり、防音室DIYの計画をスタートさせました。

当初は既製品を購入しようと考えいろいろと調べてみると、メーカー品は40〜50万円近くするものばかり(防音性能によって金額はピンキリです)。そこまでの金額を出すのは難しく、賃貸マンションのスペースにピッタリとはまる物がありませんでした。

それであればいっそのことDIYで作ればよいのでは? と考え、防音ブース制作に必要な材料をざっと洗い出したところ10万円ほどで揃えられるとのこと。予算もスペースの問題もクリアできるため、今回DIYでつくることを決心しました。

防音ブースの設計とデザイン

設置場所

当時、都内1LDKのマンションに夫婦+愛犬(ミニチュアシュナウザー)で暮らしており、生活を考えると音楽スタジオのように一部屋丸ごと防音室にするのは不可能でした。

・デッドスペースになっている空間を活かすこと
・最低限のスペースでつくること

この2点を念頭に置いて試行錯誤した結果、設置場所は余っていた寝室のベッドと出窓の隙間の0.5畳のスペースに決定。

寝室にある極狭スペースを活用

形状のイメージは、1人だけが立って入れる“電話ボックス”です。

イメージはこのような感じ

どのように設計したのか?

デッドスペースに合わせて、まずはラフスケッチで設計しました。ポイントは「出窓のくぼみを利用」したこと。

窓の先は廊下で窓格子もついていたため、本来は特に使い道のない空間です。ちょうどハイカウンターのような高さだったため、立ったまま使う作業カウンターとしてそのまま利用しました。

防音ブースに求められる機能

クライアントである妻からの依頼は以下の3つ。

⒈ ブース自体は小さくてもいいから外から雑音が入らず、中の音もある程度遮られる防音レベル
⒉ 声を録音しデータを納品する「宅録」ができる録音環境
⒊ 音質や近隣への音漏れ、音を出せる時間に制限がなくなること

さらに、夫婦共々フリーランスでいつも家にいる状態のため、それぞれ「適度に篭れるワークスペース」として使いたいという要望も。

そのため、

・スタンディングカウンター
・ビデオミーティングブース
・お籠もり部屋
・オーディオルーム

として「多目的に使えるスペースにしよう」ということで方向性が決定。これらの条件をクリアできる設計を進めることにしました。

音の仕組みについて知る

さて、防音室のクオリティを担保するにあたり、そもそも音の仕組みを理解する必要がありました。そもそも音というのは「波長」であり、「空気の振動」です。空気が震えて見えない波が伝わることで、音が届きます。

つまり防音室の性能を上げるには、

・外と内の空気を遮断する→「遮音」
・音の反響を減らす→「吸音」

この2点が大切です。

図面を起こす/やり方、メリット、必要性

必要とする機能や性能をいろいろと考慮して、具体的に以下の4点に注意して設計に当てはめました。

1. 部屋をもう一つつくり、音を外に出さない
2. 出入口の密閉率を高める
3. 防音用の換気設備を設置(消音チャンバー)
4. 音の反響を吸音材で低減させる

展開図(内側・側面)(1)
展開図(内側・側面)(2)

まず事前準備として「図面」を書きます。図面といっても簡単なラフ図のようなものです。

ラフに書いたドアと枠の詳細・断面図。開閉部分に半円型ゴムをパッキン代わりに取り付けることを確認

目的は「材料のロスを少なくすること」と「効率的な作業のために段取りを事前に付けること」

図面を書かなくてもDIYはできますが、一度脳の外に出してみると意外と「あれ?ここってどう収まるんだっけ?」など矛盾や詳細などが見えてきます。

手書きでも、図面ソフトでも、イラストアプリでも一度書いてアウトプットしてみることが大事です。ちなみに僕はAdobeのIllustratorで書きました。

防音ブースのDIY工程

マンションでのDIY作業で気になる場所や音の問題をどうするか

さて、ここから実際のDIYの工程に入っていきます。

まず前提として「マンション」や賃貸住宅でDIYをするのは簡単なことではないですよね。マンションやアパートだと専有部分は室内に限られることが多く、共用部分に荷物を置くことや、そこで作業することは基本的に許されていません。

加工や組み立てをするスペースを確保しつつ、作業時の騒音に配慮するなどさまざまなハードルがあります。

このような問題への対策としてはズバリ、ホームセンターの「木材加工サービス」を利用するのがおすすめです。

大型のホームセンターであれば、その店舗で購入した木材に限り、店の方が簡単な直線カットなどをしてくれるサービスがあります。音や木屑が出て、近隣に配慮しなくてはならない作業をお店で済ませられます。

また組み立てスペースや、レンタル工具を使用できるサービスもあり、店舗によっては無料で使用できます。ここであれば場所や音を気にせず作業が可能です。

▼カットサービスやDIYスペースのある代表的なホームセンター
・コーナン(DIYスペースは一部店舗のみ)
店舗サービス | サービス|コーナン商事
D.I.Y LABO | 店舗サービス|サービス|コーナン商事

・カインズ(DIYスペースは一部店舗のみ)
CAINZ PickUp 事前加工サービス | 株式会社カインズ
カインズ工房 | CAINZ DIY Style カインズDIY総合サイト

・島忠・HOME’S(DIYスペースは一部店舗のみ)
木材カット | 家具・ホームセンターの島忠・HOME'S(ホームズ) シマホ

DIYの工程

工程(1) 木材で骨を組む

ホームセンターで木材を加工した後に、まずは壁の下地を木材(芯材)で組んでいきます。

■作業内容
(1)角材をカットする
(2)壁、床を一面ずつ板状にビスでつなげる
(3)組み上げて空間にする

■材料
・芯材、角木材(垂木 W30×H40×L300mm) 22本
・ビス(コースレッド 65mm)

工程(2) 遮音シートを貼る

続いて遮音シートを貼ります。遮音シートは薄いゴム製のシートで、音の振動を遮り“遮音”するものです。先述したとおり、音は“振動”なので内側から発生する音を、ゴムの壁で吸収して音を遮ります。

■作業内容
(1)カッターで壁のサイズに合わせてカットする
(2)壁の外側からタッカーで打ち付ける
(3)境目はテープで塞ぐ(遮音テープが望ましい)

■材料
・遮音シート 10m

工程(3) 断熱材を入れる

次は壁の中に断熱材を仕込みます。「断熱材(ロックウール)」はその名のとおり石の綿で、住宅の外壁の中に入れられている断熱材と同じものです。

なぜ断熱材を入れるのかというと“消音”の効果があるから。壁の中の震える空気を少なくすることで、外に音を出さないようにします。

■作業内容
(1)壁のサイズに合わせてカットする
(2)ロックウールがはみ出さないように壁にはめ込む

■材料
・断熱材(ロックウール)

工程(4) 石膏ボードを貼る

■作業内容
(1)壁のサイズに合わせて石膏ボードをカッターで切る
(2)専用のビスで壁の下地の木材に打ち付ける

■材料
・石膏ボード
・ビス(石膏ボード用ビス 22mm)

DIY工程(5) 枠・扉を取り付ける

出入口の扉を製作。木材と構造用合板でベースを組み、隙間には壁と同じように断熱材を詰めました。

■材料
・断熱材
・木材(垂木 W30×H40×L300mm)
・ゴム製パッキン
・ドア用蝶番
・遮音シート
・構造用合板 厚9mm

DIY工程(6) グレモンハンドルをつくる

防音室はドアハンドルが特殊で、「グレモンハンドル」という密閉機能があるハンドルを使用します。

これは一般向けにはほぼほぼ販売しておらず、あるとしてもかなり高価です。そのため自作しました。

■作業内容
(1)既製品のドアハンドルにボルトが通る穴をあける
(2)ボルトにローラーベアリングを固定する
(3)ドアへ設置する
(4)枠へ固定用のプレートを設置

■材料
・ドアハンドル
・ローラーベアリング
・100mm程度のボルト

工程(7) 照明・コンセントを取り付ける

ブース内の照明やコンセントは、外の室内から延長コードを伸ばし設置します。なるべく電気工事が必要ない方法で行いました。
※直接配線の照明などは電気設備は専門技術になるため、有資格者に依頼してください

◼︎材料
・LEDダウンライト
・コンセント、スイッチ部材一式
・配線

工程(8) 換気口を取り付ける

防音室でネックなのが換気機能です。音が漏れないように密閉してしまえば、防音性能は高まるのですが中で窒息してしまいます。

窒息しないために換気口と換気扇を取り付けるのですが、そのまま壁に穴を開けて取り付けてしまうと音がそのまま漏れてしまいます。

そこで「換気チャンバー」というバイクのマフラーのような“消音設備“を「防音室⇔室外の空間」の間に取り付けることが必要となります。

内壁に音が反響しないフェルト生地(パンチカーペット)を貼り、蛇行した空間を音が通ることで、音の波が徐々に小さくなり、換気扇から通る音を極端に減らす効果があります。

■作業内容
(1)合板をサイズ通りにカットする
(2)ボンドでパンチカーペットを貼り付ける
(3)組み上げて防音ブースの天井裏に設置
(4)吸気側にガラリ、排気側に換気扇を設置

◼︎材料
・換気扇(パイプ用ファン)
・ガラリ(直径100mm)/屋外と室内を隔てる壁やドア、窓などに取り付ける通気口
・構造用合板
・パンチカーペット

工程(9) 吸音材を張り付ける

最後に吸音材を張り付けます。音楽スタジオなどの壁に使われているピラミッド型のスポンジの板です。

これは前述した“遮音”、“消音”に次ぐ“吸音”の効果があります。普通の部屋では四方八方を硬い壁・床に覆われているので、声を発すると、音が反響して音質が悪くなります。吸音材であれば壁・床に向かった音を、ピラミッド状の形で方向を散らしたり、柔らかいスポンジ素材で吸収できます。

■作業内容
(1)吸音材を壁のサイズに合わせてカット
(2)強力両面テープで貼り付ける

■材料
・吸音材(ウレタン製、ピラミッド型)/SONEX ( ソネックス ) PYR2 CHARCOAL
・両面テープ

完成!DIYで製作した防音ブース

以上の工程で、5日ほど掛けて完成しました。

【道具】
・インパクトドライバー
・丸鋸(ノコギリでも可)
・メジャー
・タッカー(ホッチキスのような大きな針を打つ道具)

【あると便利なオススメの道具】
・差金(直角を出す定規)


【参考記事】
今回防音室をつくるにあたって、機材やつくり方の参考にした記事も紹介しておきます。

【緊急特集】ミュージシャン・ボーカリストが遠隔で"本番録音"できる環境を構築するために最低限必要な機材と心得まとめ|OFFICE HIGUCHI

妻が仕事でもお世話になっている音楽制作会社・OFFICE HIGUCHIの樋口太陽代表が書かれた宅録のためのノウハウ記事。この中でも紹介されている機材や吸音材をこの防音室にも導入しています。

【吸音材】
SONEX /PYR2 CHARCOAL 吸音材

【ヘッドフォン】
SONY / MDR-CD900ST

【マイク】
RODE / NT1-A

防音ブースを使用した妻からは、

「 賃貸物件だから難しいと思っていたけど、実現できてうれしい!」
「ここで録音したボーカルデータが採用されたCM作品があったり、歌の練習が自宅で出来るのでスタジオやカラオケに行く機会も減りました」

という声をもらいました。

防音ブースはレコーディング以外にも、スタンディングでのPC作業やビデオミーティング、音楽を聴くオーディオルームとして利用するなど実際につくった僕自身も、妻以上にこの空間を使い倒しています。

長々と「防音室のつくり方」について書きましたが、防音室を必要としている人は少数でニッチな存在かもしれません。

ただマンションで暮らしていれば、近隣に迷惑をかけないようにするため音に敏感になってしまうことも少なくないはずです。

今回の記事を通して、知識として「防音の仕組み」や「ブースのつくり方」を知っていれば、いろいろと応用してもらえると思います。

近隣への音に配慮したい方には、「布のカーテンで生活音を緩和する」や「音の波を遮断するために隣との壁に家具を置く」など簡単な音対策ができます。

部屋壁の前にボードを入れて防音壁として利用。そこに可動棚をDIYで設置

「防音壁」をお隣さんと接する壁面に設置し、防音効果を高めることもできます。実際に僕も写真のような防音壁をつくり、賃貸物件ではなかなか難しい可動棚を設置してオープンクローゼットとして使っていました。

同じように防音ブースをつくってみてもいいですが、自宅に小さなお篭もりスペースが欲しい人は、防音機能のないブースをDIYでつくってもよいかもしれません。

今回紹介した一部分の技術をうまく流用して、皆さんのおうちに合った防音DIYを検討してみてもらえたらうれしいです。コロナ禍を経てフリーランス増加やリモートワークが一般的になった今だからこそ、自宅での作業スペースを充実させてみてください。

著者:藤井友貴(365 WORKS)

藤井友貴

空間リノベーションのデザイン・制作を行う「365 WORKS」代表。 1990年岡山生まれ。大阪モード学園インテリア学科卒業後、設計事務所、東京で工務店、無印良品でのインテリアコーディネーターを経て独立。現在は広島を拠点に住宅リノベーションのデザイン・設計・セルフビルドをしています。福岡県田川市にて空き家をリノベし戸建賃貸物件を運営中。proshirout(プロシロウト)というグループで「立ち飲みイベント」や「ラジオ」をDIYで企画制作もしています。
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編集:はてな編集部