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一つの建物に大勢で暮らすマンションでは、居住者間でトラブルが起こることもままあります。実際にどんなトラブルが起こりやすいのか、トラブルになった場合はどう対処すればいいのか、どうすれば防げるのかを、マンション管理士の川原一守さんにお聞きしました。
国土交通省の調査によると、何かしらのトラブルを抱えているマンションは最近、増加傾向にあるそうです。
「トラブルが増加傾向にあるのは、昔より意見を主張する人が増えていることが原因のひとつとして考えられます。またコロナ以降、在宅時間の変化の影響も大きいでしょう。家にいる時間が長くなるほど、不満や不具合に気付く機会が増えるからです」(マンション管理士 川原一守さん)
マンションに今何事もなく住んでいる人も、これから住む人も、今後どんなトラブルに関わる可能性があるか知っておくと、万一巻き込まれたときにも素早く的確な対処ができるのではないでしょうか。

国土交通省の調べでは、トラブルの原因の約61%が「居住者間のマナー」になっています。同じ調査の中で、具体的な原因として、1位が「生活音」、2位が「駐輪・駐車」、3位が「ペット」が挙げられています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

生活をしているとどうしても、歩くときのパタパタ音や扉の開閉音、人の話声や子どもやあかちゃんの泣き声、テレビやピアノなどの楽器の音、椅子を引きずる音など、様々な音が発生します。壁や床、天井1枚を隔てるだけで他の居住者と隣り合うマンションでは、どれほど防音性能が高くしても、音の伝わりをゼロにすることは難しいでしょう。また、音に対する感じ方は人それぞれ。小さな音が聞こえても気になる人、大きな音をたてても気にしない人もいるため、その感覚の違いもあってトラブルの原因になりやすいようです。
※マンションの騒音問題について、詳しくはこちらで紹介しています。
マンションの騒音トラブルはどう対処する? よくある実例と対策
駐車・駐輪場が足りない、駐車・駐輪場の不公平感、停め方のマナー違反など、共有スペースで発生するトラブルの大半が、自転車やバイク、車の駐車・駐輪場問題です。
「違法駐車は公道であれば警察に連絡すれば済みますが、敷地内ではそうはいきません。エントランスや敷地内通路に『ちょっと停めただけ』という車を取り締まったり、排除することは、自力救済といって法的に認められていないため、管理組合にとって非常に難しいことです。これもまさに『居住者間のマナー』の問題です」(川原さん)
ペット飼育可のマンションは増え続けていますが、「ペット飼育」が原因のトラブルは平成15年の46.6%から平成20年には34.8%、平成25年には22.7%、平成30年には18.1%、と確実に減ってきています。
「ペット専用エレベーターなど、ペット飼育に配慮した設備ができたり、飼育ルールがきちんと決められるようになってきていることが、トラブル減少の一因だと考えられます。ペット飼育でトラブルになるかどうかはルール次第。『ペット可』だからと、度を過ぎた飼い方をする人もなかにはいるので、飼育条件をあらかじめきちんと決めておくことがトラブル予防にとって最も大切です」(川原さん)
※「(マンション犬)」問題について、詳しくはこちらで紹介しています。
【マンションで犬を飼うなら】獣医師が教える!飼いやすい犬種・騒音対策・マナーなど知っておくべきポイント
エントランスやロビーに堂々と私物を放置する人はさすがにいないと思いますが、たとえば廊下に面した窓の格子に傘を掛けることも「共用部分への私物放置」に当たります。マンション内で私物を置いてもいいのは、基本的には玄関扉の内側からの屋内部分のみ。玄関扉の外側はすぐに共有部分であり、「自分の部屋の前だから」「みんな置いているから」と思っても、廊下に傘立てや自転車を置くことは禁止です。安全性だけでなく、傘や子どもの遊具などを置いていると生活感が出てしまうため、「美観を損ねる」といった点からクレームが出ることも多いようです。
「マンションの廊下はもちろん、エントランスやロビーは万一の際の大切な避難通路になります。地震で自転車や傘立てが倒れて避難経路をふさぎ、居住者が逃げ遅れたりケガをしたりする可能性も出てきます。共用部分の私物放置は、管理規約で禁止されているだけでなく、もちろん消防法上でも不適切な場合があります」(川原さん)
ただし、ゴミのように見えるものでも私物を勝手に撤去したり、その部屋の住民に直接「私物を置かないように」と伝えるとトラブルに発展する可能性が出てきます。共用部分の私物放置に気づいたらまずは管理人に相談を。
バルコニーやベランダは、居住者の専用使用が認められているものの、本来は共用部分です。水撒き、BBQ、喫煙、物置の設置を禁ずるなど、使い方はマンションの管理規約などによって定められています。
「バルコニーは非常時には避難通路になることもあり、物置や重い鉢植えを置くことはやめた方がいいでしょう。最近は強風の被害が増え、ベランダに置いているものが風で飛ばされて落下する事故も増えています。手すりに掛けてのふとん干しがマンション規約で認められているケースもあるようですが、落下の可能性だけでなく、火事の際には延焼を促しかねないので、本来『やってはいけないこと』です」(川原さん)
バルコニーでの鳥の餌付けや喫煙がトラブルになることもあります。共用部分だけに、使い方については管理規約をしっかり確認しておきましょう。

マンション内で起こるトラブルの発生原因は、居住者間マナー以外にもいろいろあります。上で紹介した国土交通省の区分に従って、多い順に見ていきましょう。
| 区分 | トラブルの具体的な原因 |
|---|---|
| 居住者間のマナー | 音、ペット、駐輪駐車、ゴミ出し、バルコニーの使用方法など |
| 建物の不具合 | 雨漏りや水漏れなど |
| 費用負担 | 不具合の修繕費用を誰が負担するか、管理費の滞納など |
| 管理組合の運営 | 管理組合や理事会の中に対立があり、意思統一が図れないなど |
| 近隣関係 | マンションの近隣住戸からのクレーム(電波障害、騒音など) |
| 管理規約 | 理事会役員に関すること、専有部分のリフォームについてなど |
「壁や天井から水漏れがあった場合、たとえば上階で洗濯機のホースが抜けていて水漏れした、といったシンプルな原因でなければ、原因を突き止めるのはなかなか難しいこと。外壁からの雨漏れしている場合、外壁は共用部分になるので、調査をすることも修繕をすることも、管理組合が負うべき責任になります。
例外はありますが、たいていは管理組合が加入している火災保険の特約で調査費用がほぼまかなわれるはず。ただ、明らかに上階の人の不注意で下の階に迷惑をかけた場合や、専有スペースの配管からの水漏れであれば、個人で弁償するのが原則ですが、第三者に与えた損害は個人賠償責任保険の特約で賄うことができるケースも多いです。シミや水漏れを見つけたら、まずは管理会社に連絡を」(川原さん)
トラブルの相手や発生源がすぐに分かる場合と、分からない場合があります。騒音トラブルでも、音の発生源の特定は意外に難しいもの。「真上の部屋から音がする」と思っていると、実際は斜め上の部屋が原因、といったこともあります。マンションで何らかの問題が起こったときは、まず誰にどのように申告すればいいか、を川原さんに教えてもらいました。
「誤解されがちなことなのですが、当事者間のトラブルについては、原則的には管理会社が間に入って解決することは本来ありません。分譲の段階からあらかじめ『管理組合及び管理会社は、当事者間のトラブルには関与しません』と使用細則に明記しているデベロッパーもあるほどです。
しかし、ほとんどの管理会社では、たとえば『上の階の足音がうるさい』という苦情を受ければ、管理組合と相談して、『上階の足音が響くといった苦情が届いています。お互い気を付けましょう』など、一般的な注意事項を書いた紙を掲示板に貼る、といったことは行ってくれるはず。まずは管理員や管理会社に相談してみましょう。
知らない相手の家に行ってピンポンを押し、当事者間で話し合うのはハードルが高いことです。しかし、実際に顔を合わせて話せば解決するケースも多いのです。それ以前に、お互い顔見知りになっていれば、トラブルになりにくいもの。日頃のコミュニケーションを大切にしておきましょう」(川原さん)
管理会社の電話番号はエントランスや管理人室のどこかに掲示されています。管理会社は、居住者についての情報も、建物のトラブルについても適切な対処の方法を知っているので、トラブル時には何よりの強い味方になってくれるはずです。

管理会社に相談して、張り紙を何度か貼ったり、該当者と思われる居住者のポストに手紙を入れたり、といった対処をしてもトラブルが収束しなかった場合はどうすればいいでしょうか。
「法的措置を、と考える前に、まずは市役所や区役所で行っている無料の相談サービスに行くことをお勧めします。弁護士に依頼すると、内容証明を送る場合でも数万円、訴訟を起こすと数十万円の費用がかかります。さらに、たとえば騒音トラブルなら、『何月何日の何時から何時まで何デシベルの騒音が発生した』といったデータや、『その結果健康が害された』ことを証明する医師の診断書などの客観的でなるべく定量的な証拠が必要です。内容証明を送ることで相手へのプレッシャーを与えることはできますが、その後、同じ建物に住みながら良好な関係を結ぶことは難しくなることは覚悟しておきましょう。法的措置を取るのは、よほど本腰を入れなければできないことです」(川原さん)
平成30年度(2018年度)のマンション総合調査によると、トラブルの処理方法として最も多いのは「管理組合で話し合った」が58.9%、「管理会社に相談した」が46.5%、「当事者間で話し合った」が19.4%で、訴訟や民事調停まで行ったケースは5.7%に過ぎません。その前の段階でトラブルを解決できるよう、また、そもそも起こさないように気を付けたいものです。


建物のトラブルも、住民間のトラブルも、できれば遭わずに済ませたいもの。運・不運はもちろんありますが、物件の選び方や日頃の心がけでも出合う確率は変わってきます。トラブルを防ぐコツを川原さんに教えてもらいました。
「住民間のトラブルを防ぐコツは『できるだけルール化しておく』ことと、『顔が見えるお付き合いをしておく』こと。
たとえばペット飼育の問題でも、『大型の動物は禁止』といった漠然としたものではなく、『この種類の動物に限って可能』『体長何センチまで』『何頭以下』とできるだけ具体的な規約をつくっておくのです。トラブル回避のために、『象の飼育を禁止する』といったことまで明記している管理規約もあるほどです。規約が無ければ、トラブルが起こる前に管理組合で話し合って決めておきましょう。また、『ペットを飼う際は申請が必要』にしておくこと。ペット飼育に限らず、『ルールに違反している』と明確にできれば、問題は解決しやすくなります。
また、住民間での親密な付き合いを望まない方も多いと思いますが、顔を見知っているだけで、トラブルまで発展することは少なくなります。『この人はこのマンションの住民』ということを認識し、廊下で会釈する程度でいいのです。たとえば、マンションの管理組合で避難訓練を開催するのはどうでしょうか。管理組合の総会に出席しない人でも参加の確率が高くなります。
貼り紙や手紙や、直接の話し合いでも解決せず、裁判にも持ち込めない場合は、『あきらめて我慢する』か『引っ越す』のどちらかしか無くなってしまいます」(川原さん)
まずは、マンションの規約や使用細則を見直して、ルールに不足がないか確認を。そして、日頃から『住民の顔を覚える、自分の顔を覚えてもらう』ように心がけることで、トラブルを起こしたり巻き込まれたりしないようにしたいですね。

新築マンション購入時には、左右上下にどんな人が住むかまでは分かりませんし、中古マンションでも完全に把握することは不可能です。物件によってトラブルに遭う確率が変わるとすれば、それを事前に見極める方法はあるでしょうか。
「中古マンションであれば、総会の議事録を見せてもらってください。たとえば、配管トラブルがすでに何件か起こっているようなマンションであれば、今後も起こる可能性大です。議事録を見れば、これまでにどんな問題が起こって、どう解決されてきたか、を知ることができます。すべてに目を通すのは大変なので、直近の1年間分だけでも見ておきたいですね。
中古マンションはもちろん、新築マンションでも、規約や使用細則で『どこまでルール化されているか』を確認しておきましょう。自分が特に気になる部分、たとえばペット飼育や駐車場問題、バルコニーの使用法などにどのようなルールがつくられているか、しっかりチェックしておくことが大切です。ただし、新築の場合はマンションが建つ前に契約するケースが大半なので、近隣住戸にどんな人が住んでいるかわからないというのが、一番難しいところです。建物や仕組みよりもトラブルのもとになるのは人間が一番大きい要素なのです」(川原さん)

どんなトラブルもある日突然起こるもの。しかし、マンションで起こるトラブルは、ある程度は予防することも、すばやく対処して大事にせずに済ませることもできそうです。適切な情報と知識と知恵を味方にして、ストレスのない気持ちのいい毎日を送りたいですね。
トラブルの半分は居住者間マナーが原因で、その約4割が「騒音問題」
裁判まで発展することはまれ。まずは管理人か管理会社に相談を
トラブル回避のためには日頃のコミュニケーションが大切