マンション1階って、実際に住んでみないと分からないことばかり。そのせいか、「後悔した」「デメリットが多い」といった声もよく耳にします。しかし、2階以上では手に入らないいいところも、マンション1階にはたくさんあるのです。そこで今回は、マンション事情に詳しい不動産コンサルティングマスターの岡本郁雄さんに、マンション1階のありがちな後悔ポイントやメリット・デメリットをひとつずつチェックしてもらうことにしました。
「マンション1階といっても、道路に面している場合、隣の敷地に面している場合、駐車場や公園に面している場合など、立地条件によって住み心地は全く変わってきます。また、グラウンドレベル(地盤面の高さ)とフラットなのか、それとも50cm~70cm程度上げているのかによっても大きく変わります。まずはその土地の用途地域を調べて、今後環境がどれだけ変わる可能性があるかをしっかりチェック。現在の周辺環境やグラウンドレベルも把握した上で、マンション1階の部屋をチェックしていきましょう」(岡本さん 以下同)
マンションの1階が道路からすぐに覗ける状況だったり、すぐに入り込めそうな場所に窓やドアがある場合は防犯性が気になる人も多いようです。実際に、警察庁の調べでも、3階以下の住戸の方が4階以上に比べて約2倍も多く侵入窃盗事件が発生しています。ただし、その過半数が「無施錠」の入り口からの侵入。鍵をきちんとかけるだけで侵入リスクの半分以上は低減できるようです。
「1階に『防犯センサー』がついていない新築マンションはほぼ無いと思います。それ以外にも、高いフェンスや監視カメラなど、防犯リスクを下げる工夫はいろいろとされているはず。中古マンションの場合は、どんな防犯対策が取られているか、監視カメラが共用部分のどこについているかを確認しておきましょう」
マンション1階は道路に面している場合が多く、「道路から室内が丸見えでは?」「プライバシーが守れるのか」と心配になる人もいるかもしれません。
「1階を駐車場にしたり、店舗にしたり、グラウンドレベルを上げたり、植栽やフェンスで視線が入らないようにしたり、ほとんどのマンションでプライバシー面に配慮されています。一番有効なのが、グラウンドレベルを上げること。50cm~70cmほど高くしているマンションが多いのですが、70cm~1m高くなっているとそれだけでプライバシーはかなり守りやすくなります。反対に、高さ制限の影響で1階を少し掘り下げている場合もあります。物件ごとにグラウンドレベルは異なるので、視線が気になる人はしっかり確認しておきましょう」
マンションの1階だと「高層階のような眺望が望めない」「日当たりが悪い」イメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、マンションでも眺望を得ようとするとある程度の階数が必要で、3階~4階の場合は窓の前に電柱・電線がごちゃごちゃ見えてしまう可能性もあります。また、高層階でも、すぐ近くにタワーマンションが並んでしまうと眺望は損なわれます。
「一般的には1階で眺望が抜けることはなかなかありません。しかし、南側が公園や並木道、比較的新しいマンションの駐車場等や、第1種低層住居専用地域であれば、それなりに眺望や日当たりは担保されます。採光や見晴らしがいいかどうかは立地次第。商業地域や準商業地域の場合は、今は眺望が抜けていても今後どう変わっていくか分かりません。ビルやマンションが建ったりすれば、1階はすぐに影響を受けてしまいます。周辺の用途地域と環境を確認し、今後どう変わる可能性があるかを調べておきましょう」
空気の性質として、暖かい空気は室内の上部に行き、冷たい空気は下に溜まりがち。高層階よりも1階の方が寒いのはある程度当然だと言えるでしょう。また地面に近いので、冬は冷気が床を通して伝わってきたり、地面の湿気を取り込みやすく、結露やカビが発生しやすいイメージがあります。
「新築マンションで『1階だから寒い』ということはほぼありません。1階だからこそ断熱はしっかりやっているはずです。ただし、古いマンションの場合は断熱性が低いものもあるので、どの程度寒いか、カビの原因になる結露があるかなど、ぜひ現地で確認しておきましょう」
マンション1階には、アリのような飛べない虫はもちろん、羽があっても高くは飛べない虫、たとえば蚊やハエ、ハチ、クモ、ゴキブリといった虫が侵入しやすい、ということはありそうです。
「1階に限らず、2階でも3階でも虫は飛んできます。周辺に公園や雑木林があるなど自然環境にも影響されます。自然が身近にあれば、昆虫が多く生息しているはず。高層階でも飛んでくる可能性はあります」
飛べない虫でもエレベーターや荷物を介して高層階に侵入する可能性は十分にあります。山や野原、飲食店等との距離によっても、虫と出合う確率は変わります。どうしても虫が苦手ならやはり1階や、自然豊かな立地環境は避けた方が無難かもしれませんね。
道路との距離が近い分、「通行人の話し声や車の排気音がうるさいのでは」と心配になる人も多いようです。
「もちろん、道路に近いほど音はよく聞こえます。しかし、1階ではなくても、すぐ前の道路の話し声や車の音は聞こえるものです。そもそも、交通量が多い道路に面しているなど、騒音が気になるような立地であれば、二重サッシが使われているはず。気になる人はサッシの防音性能などを確認しておくといいでしょうね」
近年は大きな台風や大雨の被害が増え、マンションでも浸水被害を受けるケースが増えてきました。一般的には地面から50cm以上浸水すると「床上浸水」となり、家具や電気製品、内装材に被害が出てしまいます。また、1階の場合はトイレの排水が逆流する可能性もあります。水をくみ上げているポンプの電気設備が1階に設置されていれば、電気設備がショートし、被害はマンション全体に及びます。
「最近のマンションでは、1階だけが地震に弱いということはありません。ただし、水害リスクは階が下になるほど上がります。1階に住みたいのであればある程度の災害は想定をして、保険でカバーするなどの対策をしておくべきでしょう。グラウンドレベルが高い方が安心と言っても、70cm程度であればゲリラ豪雨等での一時的な浸水に効果がある程度。洪水となると、場所によっては5mとか10mも浸水する可能性があり、そうなると1階どころか2階以上でも被害に遭ってしまいます。まずはハザードマップで浸水リスクの確認を」
自分がどんなに気に入って住んでいても、なにかの事情で貸したり売ったりすることになった時に借り手や買い手が見つからなければ「1階を買うんじゃなかった」と後悔してしまうかも?実際にはどうなのでしょうか。
「どんな1階か、によります。広い専用庭があったり、テラスやシェードでアウトドアリビングとして使える提案がされているような1階マンションなどは新築でもすごく人気があって、2階の同室より200~300万円も価格が高く設定されていたりします。1階の魅力をしっかり訴求しているようなマンションであれば、ほかの階よりも需要があるはず。
そうでなくても、子育て世帯や高齢者世帯、フラットな生活を送りたい人たちから1階マンションは一定のニーズがあります。売れるまでに時間がかかることはあるかもしれませんが、マーケットは確実に存在しますよ」
不安な点ばかり見てきましたが、マンション1階には1階でしか得られないメリットがたくさんあります。デメリットだけではなくメリットも確認しておきましょう。
マンション住まいで気になるのが「音のトラブル」。しかし、1階なら小さな子どもが毎日元気よくパタパタ走り回っても、階下に迷惑をかける心配をせず暮らせます。子どもがバルコニーから転落する、といったリスクもないので、子育て中の安心感は高いはず。ただし、あまりにドタバタすると音や振動が隣や上階、時には斜め隣の部屋にも伝わるので、その点は注意が必要です。
1階マンションの最大の魅力のひとつに「庭があること」が挙げられます。マンションで暮らしながら本格的なガーデニングや家庭菜園を楽しんだり、お日様の下でプール遊びをしたり。もちろんすべての1階マンションに広い庭が付いているわけではありませんが、テラスがあったり、中には専用駐車場が付いていて一戸建て感覚で暮らせる物件もあります。
「駐車場が付いている部屋なら、道路まで少なくとも奥行きが5m以上あり、それだけあれば開放感もたっぷり。自宅からすぐに使える駐車場があれば荷物の出し入れが便利なだけでなく、車好きの人にとっては何よりの設備ということになります。庭のある暮らしを満喫するために、スロップシンクや水栓がついているか、なども確認しておきましょう」
ほとんどのマンションでは、ポストやゴミ置き場、集合エントランスといった共有設備が1階に用意されています。1階住戸ならエレベーターを使わずにそれらをすぐに利用でき、敷地外へのアクセスもスムーズ。ベビーカーや車椅子が使いやすく、エレベーター停止時にも困ることなく、万一の地震の際も避難しやすいのは、1階ならではの大きなメリットです。
「高齢化社会が進んでいくこともあって、バリアフリーで暮らせる1階マンションには一定のニーズがあるんです。高齢者でなくても、エレベーターを使わずに暮らせるメリットはとても大きい。点検等の停止時に困らないし、エレベーター待ちをしなくてもいい。せっかちな人にとっては特に魅力的だと思いますよ」
「1階っていいな」と思っていても、マイナス点ばかり聞いていると「実際に住んだら後悔しないだろうか」と心配になるかもしれません。物件選びの際に注意すべきポイントはあるでしょうか。
たとえば「のびのび子育てしたいから、階下に気がねなく暮らせる1階がいい」「これから20年先のことを考えると1階が安心」といったように、自分たちのライフスタイルにとって1階の暮らしがどれだけ魅力的かを今一度チェックしてみましょう。
「『戸建て感覚が欲しいけど、鍵一本で出かけられるマンションの気軽さも欲しい』という人にとっては、1階マンションって本当に魅力的だと思います。また、最近は広い専用庭があったり、離れがあったり、シェードが付けられるようになっていたり、1階の良さを積極的に活かした魅力的なマンションもたくさん登場しています。また、戸建とマンションを一体開発している大きな分譲地の1階マンションなんておすすめです。分譲地の南側には一戸建て、北側にはマンションが並んでいて、街づくりも一緒に行うので景観やプライバシーにも配慮されています。そういった1階マンションなら、一戸建てとマンションの両方の良さが手に入ると思いますよ」
浸水の心配があるかどうかは、立地によって大きく変わります。国土交通省の「重ねるハザードマップ」を見れば、洪水だけでなく土砂災害や高潮、津波などのリスクや、土地の成り立ちも簡単に確認できます。
防犯性は、警視庁や各都道府県警の犯罪発生マップで確認を。地域別の犯罪発生状況が紹介されているので、どのような事件がどの程度起こっている地域なのかを知ることができます。1階からの侵入が気になる人は特に詳しくチェックしておきたいですね。
マンション1階には、他の階にはない特性がいっぱい。それだけに分からないことが多く不安になりがちですが、防犯性や寒さや浸水しやすさなどはそもそもの立地によって変わるもの。もしも1階に魅力を感じるのなら「1階は後悔しそうだから」と除外するのではなく、それぞれの物件そのものをしっかり吟味してみてはいかがでしょうか。
マンション1階の防犯性は、防犯センサーや防犯カメラで格段に高まる
1階の眺望・日当たり・騒音・売却のしやすさなどは立地次第
子育て世帯や高齢者世帯にとって1階はバリアフリーで暮らせる魅力大