マンションなどの建築物は、新築から年を経るにつれて経年劣化や経年変化を起こしていきます。これからマンションを購入したり、借りたりする際には間取りや立地だけでなく、建物や設備の状況が気になるところ。壁紙や設備機器、水道管などはどのような経年変化があるのか、家探しの際に知っておきたいポイントについて解説。さくら事務所の土屋輝之さんに監修をいただきました。
経年劣化も経年変化も、「時間とともに物質に起こる変化」というよく似た意味で使われる言葉です。その境界線は曖昧で明確な定義はありませんが、変化の印象によって使い分けされると考えられます。
大まかに言うと「経年劣化」は「年月の経過とともに物質の状態が変化し、品質や性能が悪くなること」。一方、「経年変化」は「年月の経過とともに物質の状態などが変化」すること。品質や性能が良くなる場合も悪くなる場合も含まれます。
私たちのまわりにあるさまざまな物は経年変化していきます。例えば、革製のバッグは、長年手入れをしながら使い込むことで色や艶が変化し、味わいが出てきたりします。冷蔵庫やエアコンなどの家電製品は、部品の摩耗や劣化によって次第に性能が落ちてきます。どちらも経年変化です。
マンションなどの建築物も同じです。紫外線が当たり、雨や風にさらされることで屋根や屋上、外壁などが劣化して破損するなど変化していきます。また、住戸内でも日に当たる畳や床、壁紙、建具などは色が変わっていきます。月日とともにフローリングの色が変化した状態を味わいが出てきた、ととらえる人は多いですが、畳や壁紙などの日焼けは劣化と考えれば修繕の対象になります。
分譲マンションは、区分所有者で所有権をもつ共用部分と、区分所有者が所有権をもつ専有部分があります。共用部分はマンションの躯体や共用廊下、エントランス、エレベーター、駐車場など。専有部分は購入した住戸の内側部分です。共用部分も専有部分もどちらも経年変化していきます。経年変化はさまざまな場所にあらわれます。下に主なものをまとめました。なお、共用部分のメンテナンスや修繕は管理費や大規模修繕工事費で、専有部分は区分所有者が費用を負担します。
共用部分の経年変化の例
外壁:表面のタイルやモルタルの浮きや剥がれ、ひび割れなど
屋上:防水層の剥離や損傷などからの雨水の侵入など
バルコニーや階段などの鉄部:塗膜の劣化やサビなどによる腐食など
建物内:廊下や階段の床のひび割れや浮き、壁のひび割れなど
設備:エレベーターや自動ドアの部品の劣化、給排水管の劣化など
専有部分の経年変化の例
壁や床:日焼けによる変色や汚れなど
設備:水回り設備の部品の劣化、給排水管の劣化など
マンションも戸建ても、経年変化による不具合が出やすい設備は給排水管です。築30~40年たった中古マンションの場合、劣化による水漏れがあります。過去にキッチンや浴室を交換するリフォームをしていても、位置を変えずに設備の交換だけをしている場合、給排水管を交換しているのは設備に接続される部分だけのことが大半です。室内から住戸外への配管がそのままだと水漏れが起こることが多くあります。
万が一、水漏れが起き、下の階の家電や家具、畳、カーペットなどの家財に多額の被害が発生することがあります。それを補償するのは、水漏れの原因が共用部分の場合は、分譲マンションでは管理組合、賃貸マンションの場合は持ち主(賃貸オーナー)です。専有部分からの水漏れの場合は、その部屋の所有者が責任を負います。管理組合や賃貸オーナーの場合は加入しているマンション総合保険で対応します。分譲マンションの専有部分や、賃貸マンションで住人のうっかりミスでの水漏れの場合は、火災保険に特約としてつけられる個人賠償責任保険で補償が可能です。
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中古マンションは、購入時にすでに経年変化をしています。住戸内(専有部分)がどう経年変化しているかは、過去のメンテナンスやリフォームの内容によって異なります。物件見学の際に、室内の状態や設備機器が稼働するかを確認するだけでなく、不動産仲介会社を通して過去のリフォーム履歴を確認してもらいましょう。
ただし、リフォーム済みで売り出されている中古マンションの場合、物件見学をしただけでは経年変化の状態は分かりません。その場合は、住宅の知識を持つ専門家によるホームインスペクションを利用するのも一つの方法です。ホームインスペクションとは、住宅の劣化状況や欠陥の有無、改修すべき箇所などを見極めてアドバイスを行うもの。例えば、さくら事務所が行っているホームインスペクションの場合、点検口から排水管の水漏れをチェックしたり、オートレーザーで壁や床の水平・垂直をチェックして修繕の必要性の有無を調べたりします。知識がなければ気づけない不具合などを専門家に見つけてもらえれば安心です。
ホームインスペクションについて知る
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築30年以上の築古物件では給排水管やエレベーターの交換、立体駐車場の部品や本体の交換をすでに実施、または計画している時期です。築浅の中古マンションでも、今後の修繕計画を作成しているはずです。
共用部分の経年劣化に対して、どのような対応をしているかは、管理組合が計画的に適正なメンテナンス、大規模修繕を行っているかによって状況が異なりますから、購入前に管理組合の活動状況を事前に知ることも重要です。不動産仲介会社を通して、管理組合総会の議案書や議事録、長期修繕計画書を取り寄せましょう。
売買契約の前にこれらの書類を自分でチェックするか、『マンション管理インスペクション』(さくら事務所)を利用してマンションの管理状況を専門家にチェックしてもらうのもおすすめです。
マンション管理インスペクションについて知る
さくら事務所マンション管理インスペクション
賃貸マンションも分譲マンションと同様に、新築から年月がたつにつれて経年変化を起こしていきます。古くなった住宅設備を新しくしたり、日が当たって変色してきた壁紙や障子などを張り替えたり、共用設備のメンテナンスや交換をしたりなど、経年変化に対応して快適な住環境をいかに保っているかは物件によって異なります。メンテナンスや修理を行うのは賃貸マンションの建物を所有するオーナーです。オーナーや建物の所有者がどれだけこまめにメンテナンスをし、大規模修繕を計画的に行うかで変化や劣化の進み方が違ってきます。
なお、分譲マンションの区分所有者が住戸を貸し出す分譲賃貸の場合は、室内の経年変化には区分所有者が、共用部分はその区分所有者によって構成されている管理組合が対応します。
賃貸マンションに居住・使用したことで発生した、賃借人の過失や、悪意はなくても不注意で発生した損耗や損傷(善管注意義務違反)に対しては、賃借人が原状回復の義務を負うことになります。ただし、普通に生活していく上でついた汚れや傷、住宅設備の劣化などは、経年劣化による通常損耗の範囲となるため、原状回復義務はありません。修繕や修理、設備交換を行うための費用は賃貸マンションのオーナーの負担になります。オーナーが負担をする主な項目、賃借人の負担になる主な項目の例は下の通りです。
オーナーが原状回復費用を負担する経年劣化(通常損耗)の例
耐用年数を過ぎたエアコンや給湯器などの設備交換
通常の使用で不具合が起きた設備の修理や交換
日焼けによる内装材の変色や、普通に生活することでつく傷や汚れ
家具を置くことで床にできた設置跡
賃借人が原状回復費用を負担する損耗(特別損耗)の例
禁煙を条件に借りた部屋での喫煙による内装の汚れやニオイ
家具を引きずったりしたことで生じた床の傷
ペットがつけた壁や床の傷
クギやネジで家具を固定したり棚を設置したりした場合の穴
原状回復義務について詳しく読む
原状回復義務とは?どこまで自己負担?免除? 不動産賃貸で注意すべきこと、民法改正についてわかりやすく解説
記事の冒頭でも述べましたが、マンションの経年変化は建物が劣化して住み心地が悪くなることだけではありません。日々の管理や定期的な修繕がされているマンションは、年月がたつにつれて植栽が育つことでマンションの敷地と周辺の環境を豊かにします。また、あまり使われなくなったキッズルームをコワーキングスペースに変更するなど、居住者の年齢層やニーズの変化に合わせて共用施設や設備を、より使いやすいものに更新しているケースも見られます。
新築マンションを購入した場合も、入居後、経年変化がスタートします。住みよい環境で長く暮らしていくには、管理組合の活動が重要です。マンションが良い方向に変化していくよう、管理組合活動に積極的に参加するのもおすすめです。
マンションの経年劣化・経年変化とは、時間ともに建物や住戸内、設備などに起こる変化。紫外線や雨風などによる外壁や屋上の劣化、設備の劣化などがある
築古マンションでは給排水管の不具合による水漏れが起こるケースが多い
中古マンションを購入する場合はリフォーム履歴や管理組合の活動状況をチェック
賃貸マンションの場合、経年劣化には原状回復義務はない
新築マンションが良い方向に経年変化するには管理組合の活動が重要