マンションで水漏れが発生すると、真下の部屋だけでなく、場合によっては斜め下や、階下のさらに下といった複数の部屋に被害が及びトラブルになることも。水漏れは何が原因で起きるのか、誰が補償をするのか、保険でカバーできるのかなどを解説します。マンションの管理組合や住人への取材経験が豊富な不動産・住生活ライターの高田七穂さんにも話を伺いました。
「部屋の天井からポタポタ水が落ちてきた」「ふと見上げたとき、天井や壁の上部に水の跡ができていた」ということがあります。原因は雨漏りのこともありますが、上の階からの水漏れ、というケースもあります。マンションでの水漏れにはどのような原因があるのでしょうか。高田さんによれば、原因で多いのは建物の老朽化によるものだとか。
「住んでいる人の不注意による水漏れは、実はそれほど多くはありません。例として挙げれば、洗濯機の使用後、洗濯機に給水する蛇口を閉めずにいて水圧でホースが外れ水びたしになるケース。最近は、アタッチメント式になっている洗濯機の蛇口が多いですが、ネジで止めるタイプのものですと、ネジ部分が弛み、そこから水が漏れていることもあります。あるいは昔ながらのホースを蛇口に直で接続するタイプだと、洗濯機使用中に外れてしまうこともあります。また、排水ホースが外れていることに気づかず洗濯をして、防水パンにたまった水が床にあふれ、そのまま下の階に漏水した例もあります」(高田さん、以下同じ)
水漏れの原因をまとめてみました。(頻繁ではないものも含む)
「マンションでの水漏れと聞くと、上階の人のうっかりミスが原因というイメージがあるかもしれませんが、原因で多開いのは給水管や給湯管の老朽化です。古いマンションでは、給水管や給湯管に穴が開き、そこから漏水するケースが聞かれます」
特に多いのは給湯管の劣化。築年数のたったマンションでは給湯管に銅管が使われていて、築20年を超えた頃から穴が開き、漏水する可能性が出てきます。場合によってはもっと早く穴があくケースもあります。
「最近のマンションでは給湯管には耐用年数が30~40年の耐熱性の樹脂管が使われていることが多いのですが、築20年超のマンションでは、銅管が使われている例もあるため、注意が必要です。ただし、大規模修繕の際などに専有部分も含めて、給水管や給湯管への工事を行っている場合、まずは安心といえます」
築年数の古いマンションや、一人暮らし用の賃貸マンションなどでは、お風呂の湯量を自動で調整してくれるオートバスではないことも。給湯していることをうっかり忘れると浴槽からお湯があふれ、排水口の流れが悪いと脱衣室まで水があふれてしまうことがあります。
ここで、単身世帯が多い賃貸マンションでは、仕事などで留守にしている時間が長い分、加害者も被害者も気がつくまでに時間がかかり、被害が大きくなることがあります。
さらに、築年数がたつと配管が老朽化して水漏れの原因となるのは賃貸マンションも同じ。
「給水管、給湯管の劣化による水漏れは、その賃貸マンションのメンテナンス状況に左右されます。大家さん次第といえそうです」
中古マンションを購入する際や賃貸マンションを探す際には、過去の修繕履歴を確認してもらうよう不動産会社に頼むことが大切です。築年数がたった中古マンションを購入したり、リフォームしたりする場合、床下の配管の取り換えが行われていないなら、この際、交換しておきましょう。
「自分の部屋の洗濯機やお風呂が原因で水漏れが起きていることに気がついたら、すぐに原因になっている蛇口を、パッキンのゆるみによる水漏れなら水道の元栓を閉めることです」
蛇口や元栓を閉めたら、そのままにせず、住まいに関する『緊急時の連絡先』(マンションの掲示板などに電話番号が明記されていることがあります)や管理員、管理員がいない場合は管理会社に連絡をし、階下に被害がないかを確認しましょう。
では、自分が被害者になっている場合はどうすればいいでしょう。
「水漏れが起きると、下の階の被害者が第一発見者となることが多いものです。ただし、水漏れの原因は真上の部屋とは限りません。原因と思われる部屋がわかっても住人が留守の場合もあります。ですから、まずは『緊急時の連絡先』に電話で連絡し、管理員さんにも知らせましょう。管理員さんがいない場合は管理会社に連絡を。緊急事態ですから、緊急連絡先の会社や管理会社、管理員さんが対処方法を教えてくれます。とにかく、すぐに行動することが大切です」
そのほか、被害者になった場合は、被害状況を写真や動画で記録しておくといいでしょう。
加害者になった場合も被害者になった場合も、大切なのは当事者だけで対応しないこと。管理員や管理会社、分譲マンションの場合は管理組合、賃貸マンションの場合は貸し主など第三者の立ち会いのもと、話をするほうがスムーズです。
上からの水漏れでは、家電やパソコンが使えなくなった、カーテンやカーペット、畳をすべて交換しなければならなくなった、壁にかけていた絵画などの美術品や家具にダメージがあったなど、場合によっては数百万円の被害が発生することがあります。この被害への補償は、誰が、どうやって行うのでしょう。
責任を負うのが誰なのかは、水漏れの原因によります。
「調査を行って、原因が共用部分だと判明すれば、分譲マンションの場合は管理組合が責任をとって、加入している保険で対応します」
専有部分を通っている給水管や給湯管からの水漏れが原因の場合や、洗濯機の排水ホースや蛇口からの水が原因の場合などは、その部屋の所有者(使用者)が自費、または所有者が個人賠償責任保険特約(後述)に加入していればその保険で修理や被害者への補償を行うことになります。
なお、マンションの管理組合も保険に加入しています。その保険に各世帯の個人賠償責任保険特約が付加されていれば、管理組合の保険で補償されることになります。ただ、最近は、管理組合全体で各世帯の個人賠償責任保険に加入する事例は減少しつつあります(後述)。
賃貸マンションの場合、貸し主が所有している建物や設備に原因があれば貸し主が補償を行います。住人のミスによる水漏れの場合は、住人の責任ではありますが、賃貸契約を結ぶ際に加入した火災保険に個人賠償責任保険が特約として付けられていることが多く、その場合は保険で補償されることになります。
個人賠償責任保険とは、誤って誰かにケガをさせてしまったり、お店のものをうっかり壊してしまったりなど、日常生活で法律上の賠償責任を負った場合に保険金が支払われるものです。マンションの専有部分や過失による水漏れ事故も補償の対象です。
火災保険や自動車保険、損害保険などの特約として加入し、1世帯で誰かが加入していれば、家族全員が保障されるので、実は知らないうちに保障の対象になっていた、ということも多くありますから、わが家で加入している火災保険や自動車保険に特約で付いていないかを確認しておくのがオススメです。
なお、補償の条件等は保険商品や契約内容によって異なります。詳細は各保険会社の個人賠償責任保険に関するパンフレットやホームページを参照してください。
分譲マンションの管理組合では、火災や風災、水害、盗難などマンション共用部にかかわるさまざまな事故を補償する「マンション総合保険」に加入しているのが一般的です。
「これまでは、マンション総合保険に、各世帯の個人賠償責任保険も特約で付加しているケースが多かったのですが、最近、管理組合が負担している保険料の値上げが続くことから、管理組合が個人賠償責任保険をはずす例が増えています」
実は、筆者が住むマンションも、過去1年間で、専有部分に原因がある水漏れ事故が2回起き、階下への補償額がそれぞれ200万円程度発生しています。どちらも、管理組合で加入している個人賠償責任保険の特約でカバーしたものの、今後も事故が頻発すれば補償の限度額を上げるために保険料を増額しなければならず、管理組合としての負担が大きくなるため、各世帯ごとに個人で保険に加入してもらえるよう所有者を集めての説明会など、加入への啓蒙活動が行われているところです。
「管理組合が個人賠償責任保険を外してしまうと、個人の責任で事故があったときの補償が難しくなるケースが出てきます。ですから、管理組合の保険では水漏れなどの事故を補償できなくなること、各世帯で個人賠償責任保険に加入するのがいかに重要か、などについて十分な広報が必要です」
個人で個人賠償責任保険に加入している場合やこれから加入する場合は、被害者への補償の上限はいくらなのか、原因を調査するために自宅の床や壁を壊した場合の修復費用は補償されるのかなど、補償の詳細は保険商品や契約内容によって異なりますから、確認しておきましょう。
マンションの水漏れは給水管や排水管の劣化に原因があることが多い
水漏れ発生に気がついたら、すぐに管理会社や管理員、指定されている緊急時の連絡先などに知らせること、水道の元栓を閉めることが大切
共用部分に原因があれば管理会社が、専有部分や住人のうっかりなど人為的なことに原因があれば部屋の所有者(住人)が損害を補償する
賃貸マンションの場合、貸し主が補償。住人に原因がある場合は、火災保険に個人賠償責任保険の特約が付加されていれば保険でカバーされる
分譲マンションの管理会社がマンション全体の保険から個人賠償責任保険を外すケースが増えている
各世帯で火災保険に個人賠償責任保険の特約を付けることが大切