SUUMO(スーモ)は、住宅・不動産購入をサポートする情報サイトです。
賃貸の部屋を借りる際に支払う敷金や保証金。本来はキレイに住んでいれば退去時に戻ってくるのですが、部屋の状態によってはそっくり戻ってこないこともあり、トラブルになることも。そもそも「原状回復」って何? どこまで入居者が負担しなければならないの? 敷金や保証金のトラブルに詳しい不動産コンサルティングの長谷川高さんに教えてもらいました。原状回復ガイドラインに沿った入居時や退去時に注意すべき点についても併せて解説します。
原状回復とは、アパートなど賃貸住宅の賃貸借契約が終了して借主(賃借人)が退去する際に、借りた部屋を「本来あるべき状態」、つまり入居時の状態に戻して貸主(賃貸人)に返す義務のことです。
また入居時に支払う敷金や保証金がありますが、これらは入居者が汚したり損傷させた部屋を原状回復するための費用として充てるために、大家さんが事前に預かるお金です。大家さんとしては敷金や保証金を預かっておくことで家賃の滞納リスクを担保できます。
保証金について詳しく知りたい方はこちら
賃貸の保証金とは?返ってくるもの? 敷金・礼金との違いは?
住んでいれば自然とできる汚れや傷、色あせもあります。こうした線引きがあいまいなため、かつては退去時に敷金の返還をめぐるトラブルが多かったのです。そこで1998年に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しました。
ここには「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。簡単にいえば「普通に住んで自然にできる汚れや損傷は、入居者の責任ではありません」ということです。
2020年4月1日に原状回復にまつわる民法が改正されました。
これまでの「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)及び経年変化はその対象に含まれていないと記載がされていますが、これらのルールは改正前の民法の文言上においては明文化されていませんでした。
民法の改正後は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に「入居者側の落ち度がない部分の修復については、原状回復義務を負う必要はない」ことが新たに明文化されました。
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
ただし、自身の契約状況や修復内容により、上記に該当しないケースがあります。修復内容箇所は不動産会社や大家さんと認識が異ならないようにお互いにコミュニケーションをとって確認しましょう。
「原状回復というと、入居した当時の状態に戻すことだと思う人もいるようですが、そうではありません。何十年も前に最高裁の判決で『原状回復は入居時の状態に戻すのではない。自然に生活をしてできた損傷や汚れなどは貸借人(入居者)が負担する必要はなく、賃貸人(大家)が賃料の中で支払うべきだ』という判決がでています。国土交通省のガイドラインはそれに沿うものです」
また東京都も「賃貸住宅紛争防止条例」を2004年に施行しました。この条例は「東京ルール」と呼ばれることもありますが「国土交通省がガイドラインを示してもなかなかトラブルが減らなかったので、さらに周知しようという意味合いで条例が定められました。その内容は国土交通省のガイドラインとほぼ同じです」
最近は敷金がない物件も増えていますが、その場合もクリーニング代は発生します。一般的には、借主負担でクリーニング代が発生するといった契約になっていることが多く、クリーニング代だけで補修できない内容の場合は、別に原状回復費用が請求されます。
また敷金ありの物件の場合、預けていた敷金からクリーニング代を引いた差額を返金されるケースが多いです。
契約内容によって異なるため、必ず契約時に不動産会社に確認しましょう。
敷金の返金について詳しく知りたい方はこちら
敷金が返ってこない!返金はいつ・どのくらいが相場? 返金されないケースやトラブルを回避するコツ
では具体的に、どんなことが「普通に住んでいればできて当然の汚れや損傷」であり、入居者負担になる汚れや傷とはどんなものなのでしょうか。東京都が作成した「賃貸住宅紛争防止条例&賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」の冊子(2018年5月発行版)から、その一部を表やイラストで見てみましょう。

入居者の負担の場合は、修繕にかかる費用を敷金から引かれることになります。
ほかにも床なら、日差しで色あせたフローリングの張り替えは大家の負担になりますが、不注意で窓を開けたまま外出してしまい、その間に降った雨で床が変色した場合は入居者の負担になります。また壁では、ポスターやカレンダーなどを張った際に、画鋲やピンの跡ができた場合や、日照によってポスターの張ってあった部分とほかとのクロスの色が変わったため、クロスを張り替える場合は大家の負担になります。一方、クギやネジを使って壁に棚を設置したためクギ穴などができた場合は、入居者の負担になります。


なお、例えば床のフローリングに雨によるシミをつけてしまった場合、上記のとおり入居者負担で床を交換しますが、シミのない部分まで負担することはありません。といっても一部だけ新しいフローリングでは原状回復とはいえないため、すべてのフローリングの交換が必要になります。その場合はシミのできた部分のみ(床の場合、単位はm2)、さらに通常の使用でできた摩耗や経年変化分も差し引いた金額を負担する、という考え方で計算します。
退去費用を詳しく知りたい方はこちら
賃貸の退去費用の相場は? 入居者負担で妥当? 高額にならないためには?
前述でもあったように、入居者が原状回復費用を負担しなければならないケースもありますが、その際には必ず「経過年数」が考慮されます。
経過年数も考慮されることで、オーナーと入居者との負担割合が変わってきます。
ガイドライン記載の負担割合表を見てみると、内容によっては経過年数を考慮しない部分もありますが、畳床・カーペット・クッションフロアは「6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する」と記載されています。
管理会社やオーナーと原状回復費用について話す際は、必ず経過年数が考慮されているかどうかを確認するようにしましょう。
| 賃借人の負担単位 | 経過年数等の考慮 | |
|---|---|---|
| 畳 | 原則一枚単位 毀損部分が複数枚の場合はその枚数分(裏返しか表替えかは、毀損の程度による) |
【畳表】 経過年数は考慮しない |
| カーペット クッションフロア |
毀損等が複数箇所の場合は、居室全体 | 【畳床・カーペット・クッションフロア】 6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する |
| フローリング | 原則m2単位 毀損等が複数箇所の場合は、居室全体 |
【フローリング】 補修は経過年数を考慮しない (フローリング全体にわたる毀損等があり、張り替える場合は、当該建物の耐用年数で残存価 値1円となるような負担割合を算定する) |
| 賃借人の負担単位 | 経過年数等の考慮 | |
|---|---|---|
| 壁(クロス) | m2単位が望ましいが、 賃借人が毀損した 箇所を含む一面分までは張替え費用を 賃借人負担としてもやむをえないとする | 【壁(クロス)】 6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する |
| タバコ等のヤニ、臭い | 喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる |
| 賃借人の負担単位 | 経過年数等の考慮 | |
|---|---|---|
| 襖 | 1枚単位 | 【襖紙、障子紙】 経過年数は考慮しない |
| 柱 | 1本単位 | 【襖、障子等の建具部分、柱】 経過年数は考慮しない |
| 賃借人の負担単位 | 経過年数等の考慮 | |
|---|---|---|
| 設備機器 | 補修部分、交換相当費用 | 【設備機器】 耐用年数経過時点で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、負担割合を算定する |
| 鍵 | 紛失の場合は、シリンダーの交換も含む | 鍵の紛失の場合は、経過年数は考慮しない。交換費用相当分を借主負担とする |
| クリーニング ※通常の清掃や退去時の清掃を怠った場合のみ |
部位ごと、または住戸全体 | 経過年数は考慮しない。借主負担となるのは、通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは、住戸全体の清掃費用相当分を借主負担とする |
国土交通省や東京都のガイドラインが示されたことで、トラブルは減ってはいますが、それでもなくなったわけでもありませんし、表に出なくても入居者側が「これくらいなら仕方ないか」と泣き寝入りしている場合もありえます。では、原状回復にまつわるトラブルを防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
「まずは慎重に部屋を選ぶべきです。借りるとはいえ、月に8万円の家賃を払うとしたら年間96万円、5年間住めば更新料を除いても480万円も支払うことになります。約500万円の買い物をする際は、誰だって慎重に選びますよね。それと同じように注意深く部屋を探しましょう」
そのためには契約時に契約書と、一緒に渡される重要事項説明書に書かれている内容を確認しましょう。「例えば『専門業者による清掃を施すための費用○万円を敷金から差し引く』というような特約が書かれていることがあります。そのまま契約して、あとになってから『全部払う必要がないんじゃないか?』と思ってももう遅いのです」。例えば東京の場合ほとんどの賃貸住宅でついているクリーニング特約については裁判所の判例でも有効/無効の判断が分かれています。特約がある場合は内容をきちんと把握し、それで納得できるかどうか判断することが必要です。
「ガイドラインには、例えば壁のクギの穴は何センチまでならOKか、なんてことまでは書かれていません。ですから分からないところは契約前に一つひとつ確認することが大切です。できれば契約書と重要事項説明書を事前にもらって読んでおけるとベストです」
まだ契約するかどうか分からない段階で契約書と重要事項説明書をもらえるのかと思う人もいると思いますが「たいてい、ある程度のひな形があるはずなので、言えば見せてもらえる可能性はあります」
内見時や引越し前にやっておきたいのが、傷やシミなどの有無の確認です。もしあるようなら写真を撮っておき、不動産会社と情報を共有しておくようにしましょう。「レンタカーを借りる場合、乗る前に傷や凹みがないか確認しますよね。それと同じです」
写真を撮っておけば、入居中に不動産会社が代わっても(昨今の景気事情では、不動産会社や大家さんが代わることは往々にしてあります)証拠になります。
入居中は当たり前ですが、掃除はきちんと行いましょう。東京都のガイドラインでは「手入れを怠ったことによるガスコンロ置き場や換気扇の油汚れの修繕は、借主(入居者)の負担」と示されています。浴室やトイレの水あかやカビについても「清掃・手入れを怠った結果損傷が生じた場合は借主(入居者)の負担」と記載されています。普通に生活するということと、掃除も何もしないこととは違うのです。
退去時に原状回復をめぐってトラブルになってしまうと、お互いに嫌な思いをします。それを防ぐためにも契約は慎重に行い、日ごろの掃除を怠らずに暮らすようにしましょう。