家族に介護が必要になったとき、あるいは将来に備えて、バリアフリーな家にリフォームしようと思う人は多いでしょう。介護される人はもちろん、介助する側も安心して暮らせる「バリアフリーリフォーム」ですが、具体的にどんなリフォーム工事を行えばいいのでしょうか? 費用はどれくらい? バリアフリーリフォームで使える補助金制度には何がある? バリアフリーリフォームについて詳しい、一級建築士の柏崎文昭さんに費用やリフォームのポイント等を解説してもらいました。

記事の目次
バリアフリーリフォーム・リノベーションとは
「バリアフリー」とは、高齢者や障がい者等が生活していく上で、障壁(バリア)になるものを取り除く・開放する(フリー)こと。例えば歳を取ると、若い頃には何でもなかった、ちょっとした段差につまずき、転んでしまうこともあります。また転んだ際に、骨が弱っているので骨折してしまうかもしれません。
特に足や腰を骨折すると寝たきりの状態になり、そのため筋肉が衰え、さらに足が上がりにくくなり……と負のスパイラルに陥ります。骨折しなくても、一度転ぶと怖くて出歩くことが減り、その結果やはり筋肉が衰える負のスパイラルに。
そんな家の中の物理的な障壁(例えば段差)や、心理的な障壁(つまずくかもしれないという不安)を取り除くのが、バリアフリーリフォームというわけです。
最低限のバリアフリーは「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に変える」

高齢者にとっての家の中の「障壁」とは、まず、つまずきやすい床の段差です。そこで床の段差をなくす必要があります。
また、足腰が弱くなっているので階段の上り下りや、廊下の歩行がキツくなります。そのため、手で体を支えられるよう、手すりを備えるようにしましょう。
さらに、若い人は簡単に開けられる開き戸も、高齢になるとドアを開いて入る・出るという動作が意外と負担になるのです。特に杖をつくようになると、片手で開閉するので大変です。そこで開き戸よりも開閉がもっと楽な引き戸に変えるといいでしょう。また引き戸のほうが、車イスで出入りすることになった場合、介護する側も楽になります。
つまり「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に変える」が、最低限バリアフリーリフォームでやるべきことになります。中には「まだまだ自分は元気だ」という高齢者もいるでしょうが、「転ばぬ先の杖」ならぬ、転ばぬ先のバリアフリーリフォーム。元気なうちに備えておいたほうが安心です。
将来の「介護」を見据えたバリアフリーリフォームが必要か?を検討したい
上記の「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に変える」は、高齢者が暮らす家には最低限必要なバリアフリーリフォームですが、高齢者は年々「できないこと」が増えていきます。
例えば自分で歩くことが難しくなって、車イスで生活することになった場合、車イスで家の中が自由に動き回れるように、廊下やドアを「広げる(拡幅)」必要があります。また、車イスで生活する状態であれば、浴室やトイレを1人で使うのは難しいでしょうから、介助者と一緒に入れるよう、必要に応じて浴室やトイレも拡幅しなければなりません。
こんなふうに、ひと言でバリアフリーリフォームするといっても、症状に応じてリフォーム内容が変わってきます。
子育てを終えたら夫婦2人で最後まで暮らすのか(つまり老老介護を見据えるのか)、一緒に暮らす子や孫が介護してくれるのか、あるいは一定の症状になったら高齢者向け施設の利用を検討するのかなど、バリアフリーリフォームを検討する段階で、先々のことも考えておくようにしたほうがいいでしょう。
マンションのバリアフリーリフォームでの注意点
特に古いマンションの場合、浴室やトイレなどの水まわり部分がほかより床が高いことがあります。これは排水管に傾斜をつけて流しやすくするためで、床をフラットにするには、低いほかの部分を「上げる」のが一般的です。その場合は住戸内全体のリフォームが必要になります。また、床を上げるため住戸全体の天井高が低くなります。
そのため古いマンションでバリアフリーリフォームをする場合、費用や天井高に注意が必要です。また床材の指定があるなど、マンションごとに管理規約が異なるので、事前に調べておくようにしましょう。
それでは、各部位ごとに具体的なバリアフリーの方法と費用の目安を見ていきましょう。
お風呂(浴室)のバリアフリーリフォームの費用
高齢者にとって浴室は床で滑って転倒したり、ヒートショック(※)の危険があるので注意したい場所。具体的にどんなバリアフリー工事が必要になるのか確認しましょう。
※ヒートショック/気温(室温)の急激な変化に対して、心臓や血管の疾患が起こること。浴室では、寒い浴室で裸になると血管が縮んで血圧が上昇しますが、続いて入浴することで今度は一気に血圧が低下します。このように血圧が急激に上下すると、心臓や血管の疾患が起きやすくなります。
バリアフリー工事の内容別工事費用
浴室のバリアフリー化で必要になる工事は、主に下記の5つあります。
- またぎやすい浴槽に変える
- 出入口の段差をなくす
- 手すりの設置
- 引き戸へ交換
- 浴室換気暖房乾燥機
それぞれの工事内容や費用の目安について見ていきましょう。
1. またぎやすい浴槽に変える
片足を上げるのが苦手な高齢者にとって、縁の高い浴槽はまたぎにくく、つまずいて転倒する危険があります。これを解消する最も簡単な方法は、最新のユニットバスに交換することです。
かつては浴槽の縁が高く、膝を抱えるようにして入浴するのが当たり前でした。しかし給湯器が浴室外に出せるようになり、またユニバーサルデザインという考え方が広まった2000年前後から、縁が低くてまたぎやすく、足を伸ばせる浴槽が主流になっています。
リフォーム費用の相場は、浴室の広さやユニットバスのグレードによって異なりますが、1坪タイプ(内法が1600mm×1600mmの「1616」など)で、約80万〜160万円といったところです。
しかし、中には最新のユニットバスでもまたぐのが不安な高齢者もいるでしょう。そんな時は下記のような、一度洗い場のカウンターにお尻を預けてから体をスライドさせるようにして入浴できるタイプを選ぶといいでしょう。

また、片側を浴槽の縁にかけて使う、市販の移乗台を利用する方法もあります。
2. 出入り口の段差をなくす
浴室と脱衣場に段差がある場合、たいていは浴室のほうが低くなっています。上記1でユニットバスへの交換を行うなら、あわせて床の高さの調整も施工会社に相談しましょう。
それでも段差が少し残ってしまう場合や、ユニットバスにせず、既存の浴室をそのまま使う場合は、数千円程度から選べる市販の段差解消グッズがいくつもありますので、それを使う方法もあります。

3. 手すりの設置
上記1で最新のユニットバスに交換するならオプション(約1万〜2万円/1本)で壁に手すりを備えることができます。
既存の浴室に手すりを備える場合、壁に下地があればリフォーム費用の目安は下記の通りです。
| 手すりの形状・サイズ | リフォーム費用の目安 |
|---|---|
| 縦I型 600mm | 約3万円 |
| 横I型 600mm | 約3万円 |
| L型 600mm×600mm | 約4万円 |
4. 引き戸へ交換
既存の浴室のドアが折り戸や開きドアの場合、同じメーカーの同じシリーズの場合は引き戸に交換しましょう。引き戸のグレードや現場の条件等によりますが、リフォーム費用の目安は約9万円といったところです。
5.浴室換気暖房乾燥機
ヒートショックを防ぐためには、浴室内をあらかじめ暖かくすることが肝心です。たいていのユニットバスにはオプションで浴室換気暖房乾燥機が用意されていますから、上記1でユニットバスへ交換するなら、あわせて選ぶようにしましょう。
浴室換気暖房乾燥機があれば、入浴前に浴室を暖めておくことができるだけでなく、浴室の換気や乾燥が行えるので、雨の日に洗濯物を浴室で乾かしやすくなるというメリットもあります。
オプション費用の目安は、浴室換気暖房乾燥機の種類にもよりますが、約15万円といったところです。
また、浴室換気暖房乾燥機を備える浴室に窓があるなら、あわせて高断熱窓や内窓を設置すれば省エネになるので、これを機に検討してみましょう。
そのほか、浴室だけでなく、裸になる脱衣所(洗面所)を暖めるための暖房器具なども用意したほうがいいでしょう。ちなみに浴室換気暖房乾燥機の中には、脱衣所(洗面所)も同時に暖めてくれるタイプもありますので、それを選ぶ方法もあります。

車イス利用者の介護をするなら浴室の拡幅なども検討を
1人での入浴が難しい人の介護を自宅で行うなら、浴室の拡幅も検討しましょう。入浴を介護する場合、浴室の広さは、できれば1.25坪以上(内法が1600mm×2000mmの「1620」など)あると安心です。
0.75坪(1316)の浴室を1.25坪(1620)に拡幅する場合のリフォーム費用の目安は、間取り条件やユニットバスのグレードによりますが、約200万円といったところです。
また、1人で介護される人を抱えて入浴させるのは骨の折れる作業です。そんな場合、福祉施設のような大がかりな電動リフトではなくても、工事が不要で浴槽にかけるだけで利用できるタイプもありますので検討してみましょう。
あるいは浴槽に入れるのではなく、全身を包み込むようなシャワーを使う方法もありますので、検討してみてはいかがでしょうか。

トイレのバリアフリーリフォームの費用
思うように用を足せないのは、精神的にも苦痛です。トイレを我慢せずに済む、気持ちもバリアフリーになる工事にはどんなものがあるのでしょうか。
バリアフリー工事の内容別工事費用
トイレのバリアフリー化で必要になる工事は、主に下記の3つあります。
- 手すりの設置
- 引き戸へ交換
- 空間の拡張
それぞれの工事内容や費用の目安について見ていきましょう。

1. 手すりの設置
足や腰が弱ると、座る/立ち上がるという動作がキツくなります。そこで壁に手すりを備えると、動作が楽になります。
リフォーム費用の目安は手すりを1本備えるのに約2万円です。
2. 引き戸への交換
浴室同様、トイレが開き戸だった場合、出入りがしやすくなる引き戸にするといいでしょう。
間取りやスペースの関係で引き戸にできない場合は、位置を移動させるなどの必要がありますが、既存のトイレで引き戸への交換が可能だとすればリフォーム費用の目安は約11万円です。
3. 空間の拡張
もし1人で用を足せないようなら、介助者が一緒に入る必要がありますが、その場合は介助者が立つスペースがなくてはなりません。できればトイレの幅は1100m以上欲しいところです。
幅750mmのトイレを1100mmへ拡幅するリフォーム費用の目安は約18万円です。ただし、拡幅するために隣の洗面室等を縮小したり、位置を変える場合はさらにその費用が必要になります。
将来に備えて車イスも入れるような広いトイレにした施工事例
定年を機にリフォームすることにした施主の、一番の要望は大人数でくつろげる広い空間づくりでした。将来、子どもが結婚して家族が増えたら「大きなテーブルをみんなで囲んで食事をしたい」と、1階の間取りを見直し、和室とリビング、廊下の仕切りを取り払い一体化し、リビングには床暖房を設置しました。
また将来への備えも行おうと、トイレのバリアフリーリフォームも実施。車イスでも楽に入れるようにトイレ空間を拡大し、扉も開き戸から引き戸へと変更しました。広くなったリビングからもスムーズにいける、将来も安心して利用できるトイレになりました。

【DATA】
リフォーム費用:988万円(総額)
リフォーム部位:リビング、ダイニング、キッチン、浴室・バス、洗面室、トイレ、洋室、玄関、収納、その他
住宅種別:一戸建て
築年数:19年
設計・施工:朝日住宅リフォーム
廊下のバリアフリーリフォームの費用
安心して家の中を移動するためには、廊下のバリアフリーリフォームは欠かせません。具体的にどんな工事が必要になるのでしょうか。
バリアフリー工事の内容別工事費用
廊下のバリアフリー化で必要になる工事は、主に下記の4つあります。
- 部屋との段差をなくす
- 手すりを備える
- 廊下幅を変える
- 腰壁等で壁を補強する

それぞれの工事内容や費用の目安について見ていきましょう。
1. 部屋との段差をなくす
廊下に出る際、あるいは廊下から各部屋等へ入る際に段差があるなら、それを解消することでつまずく危険が減ります。
例えばリビングと廊下の境に段差があるのなら、そこにクサビ型の木を取り付けるといいでしょう。リフォーム費用の目安は約4万円です。
2. 手すりを備える
廊下を歩く際に、体を支えられる手すりがあると、足腰が弱っていても移動しやすくなります。リフォーム費用の目安は約2万円です。
3. 廊下幅を変える
車イスで家の中を移動するのであれば、車イスの車輪を操作する手が壁に挟まれないようにする必要があります。
間取り等の諸条件により異なりますが、リフォーム費用の目安は、長さ2.7mの廊下を拡幅する場合、約22万円です。
4. 腰壁等で壁を補強する
廊下を拡幅しても、腕の力が弱かったり、車イスの操作に慣れないと、車イスを壁にぶつけてしまいがちです。もちろん、キズや汚れを気にせずに暮らして、車イスでの移動が不要になったら壁のクロスを張り替える方法もありますが、車イス利用者の中には、汚したりキズをつけてしまうことを気にする人もいます。
そんな時は車イスが当たってもキズがつかないように腰壁を設ける方法があります。リフォーム費用の目安は、長さ2.7mの廊下に腰壁を設置する場合、約8万円です。
階段のバリアフリーリフォームの費用
足や腰が弱っている人が階段を上り下りするのは、本来は危険です。基本的には1階部分ですべて行えるような間取りがオススメです。またリビングから浴室やトイレへすぐ行ける間取りにしたり、廊下に手すりを備えると良いでしょう。
しかし、間取り上どうしても2階を使わざるを得ないこともあるかもしれません。また、高齢者の中には「自分は大丈夫」と過信している場合があり、階段で足を滑らせてはじめて危険を感じるケースも少なくありません。
備えあれば憂いなしですが、ではどんなバリアフリー工事が必要になるでしょうか。
バリアフリー工事の内容別工事費用
階段のバリアフリー化で必要になる工事は、主に下記の3つあります。
- 手すりを備える
- 階段の傾斜を緩やかにする
- 昇降機を備える

それぞれの工事内容や費用の目安について見ていきましょう。
1. 手すりを備える
階段の上り下りの際に体を支えられ、つまずいたり足を滑らせた際に掴んで転ばないよう、手すりを備えると安心です。
リフォーム費用の目安は、約2万円です。
2. 階段の傾斜を緩やかにする
階段の傾斜を緩やかにする、つまり階段の段数を増やして踏み板の高さを低くすることで、足があまり上がらない人でも階段を昇降しやすくなります。
ただし、柱や梁の位置、間取りの関係で階段を別の場所に付け替えなければならない場合もあります。
もし諸条件がすべてクリアでき、既存の場所で傾斜をゆるやかにすることができたら、リフォーム費用の目安は約34万円です。
3. 昇降機を備える
上記の通り、階段を緩やかにするには、諸条件がそろう必要がありますが、そろわなければ階段を付け替える必要があります。付け替えるとなると当然間取りも変えなければなりませんから、リフォーム費用が膨らみます。
そこで、既存の階段をそのまま利用できる昇降機の設置を検討してはいかがでしょうか。設置費用の目安は約25万円〜35万円です。
玄関のバリアフリーリフォームの費用
各部屋と廊下の小さな段差と違い、玄関まわりははっきりとした段差があります。階段ほど段数は多くないとはいえ、足腰の弱った人にとって片足を上げる=片足で立つという姿勢は負担になります。
では玄関には、どんなバリアフリー工事が必要なのでしょうか。
バリアフリー工事の内容別工事費用
玄関のバリアフリー化で必要になる工事は、主に下記の3つあります。
- 引き戸に変える
- 手すりを備える
- スロープを設ける

それぞれの工事内容や費用の目安について見ていきましょう。
1. 引き戸に変える
浴室やトイレ等のバリアフリーリフォーム同様、玄関も開き戸だった場合は引き戸に変えることをオススメします。
既存の玄関ドアが開き戸だった場所に、2枚の戸を使う一般的な引き違いの引き戸を備える場合、外壁と内装の解体も伴います。1枚の戸を開閉するタイプの引込み戸もありますが、それでも引き込む(引き戸を開ける)ためのレールを備える必要があります。
いずれも既存の開き戸の玄関ドアよりも広いスペースが必要になるため、もしスペースが足りないようなら、玄関部分の増築や玄関位置の変更等ほかの工事が発生します。
また玄関ドアは家の顔のような存在のため、商品ごとの意匠性に差があり、さらに断熱性や気密性、遮音性といった機能によって価格が大きく変わります。一般的に室内の引き戸よりも価格は高くなります。
開き戸から引き違いの引き戸にリフォームする費用の目安は、玄関スペースが十分にあると仮定して、内外装の補修工事も含んで約58万円といったところです。もちろん玄関の施工上の条件や、引き戸のグレードによって価格が変わるため、必ず見積もりで確認するようにしましょう。
2. 手すりを備える
廊下と玄関の段差はたいてい1つですが、足腰が弱ると片足を上げて靴を履くという体勢がつらくなります。そこで体を支えられるように手すりがあると便利です。手すりを設置する費用の目安は約2万円です。
あるいは、靴を履く際に腰掛けられる市販の椅子などを用意する方法もあります。
車イス利用者の介護をするならスロープの設置も検討を
たとえ段差が1つしかないといっても、高低差が大きければ車イスで乗り越えるのは難しいでしょう。そのため車イス利用者の介護を自宅で行うなら、玄関のスロープ設置を検討しましょう。
ここで重要なのは、スロープを備えても車イスの人が1人で移動するのは困難だということです。昔から車イスを利用している人ならスロープを上ることも可能かもしれませんが、たいていの高齢者は1人でのぼるための腕力が足りないはずです。
つまり、車イスを利用する高齢者のためにスロープを設置するなら、あわせて介助者が一緒に暮らす、あるいは日々介護に訪れることができる場合と考えましょう。
同様に、老老介護の二人暮らしの場合でも、介助する側に腕力がなければスロープを設置するだけでは難しいでしょう。
母親のために玄関のスロープなどバリアフリーリフォームを実施した施工事例
高齢の母親の1人暮らしが不安で、同居することにした施主夫妻。まずは、すきま風や底冷えがひどかった築103年になる木造一戸建てに、大がかりなバリアフリーリフォームを施すことにしました。
いたるところにある段差を解消し、床・壁・天井にはしっかりと断熱材を入れ、床暖房や複層ガラスも採用。動線も整理して、細々と部屋の分かれていた6Kの間取りを、吹抜けがあって明るく、家の中の移動が便利な3L・DKという間取りに変更しました。
また、玄関の外と内側にそれぞれ緩やかなスロープを設置。高齢者の歩行の補助になるシルバーカートが利用しやすく、将来車イスが必要になっても外出が楽にできるようになりました。

【DATA】
リフォーム費用:4895万円(総額) リフォーム部位:リビング・ダイニング、キッチン、寝室、和室、玄関、洗面所、浴室・バス、トイレ、外壁・屋根、その他
住宅種別:一戸建て
築年数:103年
設計・施工:サンヨーリフォーム
バリアフリーリフォームは助成制度・補助金を活用しよう
一定の要件を満たすバリアフリーリフォームには、介護保険制度に基づく補助金制度を利用することができます。
要支援・要介護の認定を受けている人が、自宅に手すりを設置したり、床の段差を解消するといった特定の改修を行うときに、改修費を助成してくれる制度です。
介護保険によるバリアフリーリフォームの助成額
介護保険の住宅改修費の助成制度を活用すると、改修費の9割(最大18万円)まで支給されます。
この制度を利用できる対象者は、要支援1~2または要介護1~5認定を受けている人です。
申請はケアマネジャーを通して行いますので、利用したい場合はまず担当のケアマネジャーに相談しましょう。
| 対象工事 | 助成額 |
|---|---|
| 上限:20万円 | 上限:18万円 ※対象者の収入によって16万または14万円 |
介護保険によるバリアフリーリフォームの対象工事
介護保険の住宅改修費の助成制度の対象となる工事は、下記の通りです。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消(スロープ設置など)
- 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
- 引き戸等への扉の取り替え
- 洋式便器等への便器の取り替え
- その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
市区町村による補助金制度
介護保険の制度以外でも、自治体によってはバリアフリーリフォームに助成金・補助金を出している場合があります。
例えば上記の介護保険制度に基づく補助金制度では介護認定を受けている人が対象ですが、自治体によっては予防介護の観点から、介護認定を受けていない人を対象にした補助金制度を用意しているところもあります。
こうした補助金制度は各自治体によって内容が異なりますから、バリアフリーリフォームを検討した際には、一度お住まいの地域の役所のホームページで調べてみましょう。
バリアフリーリフォームの優遇税制と条件
助成金・補助金制度のほかに、一定の要件を満たすバリアフリーリフォームを行うと、所得税の控除と固定資産税の減額措置が受けられます。ぜひ積極的に活用しましょう。
バリアフリーリフォームによる所得税の控除
「所得税の控除」については「バリアフリー改修に関する特例措置」があります。これは高齢者や要介護・要支援認定者等の本人の自宅、あるいはそれらの人と同居する人の自宅をバリアフリー化するリフォームを行った時に使える制度です。
控除額は、控除対象限度額を上限として10%です。対象となる工事費の額などによって控除額は変わりますが、バリアフリーリフォーム以外のリフォームも合わせて最大1000万円までの工事費用が減税対象となり、最大60万円が控除されます。
| 控除対象額 | 最大控除額 | 期限 |
|---|---|---|
| 1000万円 | 60万円 | 2023年12月31日 |
バリアフリーリフォームによる所得税の優遇制度の主な要件
バリアフリーリフォームの所得税の控除を受けられる対象者や、工事要件などは下記の通りです。
| 対象者 | 以下のいずれかに該当する者が自ら所有し、居住する住宅であること(賃貸住宅は除く)
|
|---|---|
| 改修工事の要件 | 以下のバリアフリー改修工事のいずれかに該当すること
|
| 減額の概要 | 以下の1と2の合計額を所得税から控除。合計額(控除額)の上限は1000万円で控除率は下記の通り。
|
バリアフリーリフォームによる固定資産税の減額
固定資産税の減額制度の対象となるのは、65歳以上の人や、要介護または要支援の認定を受けている人、障がい者が暮らす家のバリアフリーリフォームです。上記の所得税控除と同様の工事が対象で、翌年分の固定資産税額の3分の1を減額してもらえます。
バリアフリーリフォームによる固定資産税の減額の主な要件
バリアフリーリフォームの固定資産税の減額を受けられる対象者や、工事要件などは下記の通りです。
| 対象者 | 以下のいずれかに該当する者が自ら所有し、居住する住宅であること(賃貸住宅は除く)
|
|---|---|
| 改修工事の要件 | 以下のバリアフリー改修工事のいずれかに該当すること
|
| 工事費の要件 | 対象となる工事費用が50万円を超えること |
| 減額の概要 | 翌年度分の固定資産税から3分の1を減額 |
いずれも詳細な要件がありますから、詳しくは減税制度に詳しいリフォーム会社に相談しましょう。
バリアフリーリフォームは「高齢者向け返済特例」を利用できる
バリアフリーリフォームは、住宅金融支援機構が行っているリフォーム融資「高齢者向け返済特例」が受けられます。
「高齢者向け返済特例」とは、満60歳以上の人が自宅のバリアフリー工事・ヒートショック対策工事または耐震改修工事を含むリフォームを行う場合に利用できる融資です。毎月の支払いは利息のみで、元金は申込人(連帯債務者※を含む)全員が亡くなったときに、相続人から融資住宅および敷地の売却、自己資金などによって、一括して返済するというものです。
※借入申し込み時に満60歳以上の同居親族
「保証ありコース」と「保証なしコース」があり、融資限度額は、次の1または2のいずれか低い額(10万円以上、1万円単位)です。
■「保証ありコース」の場合
1. 1500万円
2. 保証機関が保証する限度額
■「保証なしコース」の場合
1. 1500万円
2. 同機構による担保評価額
申込みをできる人は、60歳以上で、自分が居住する住宅をリフォームする人。また総返済負担率が次の基準以下である人です。
・年収が400万円未満の場合、30%以下
・年収が400万円以上の場合、35%以下
申込み本人の収入だけでは上の基準を満たさない場合は、同居予定者(60歳以上)の収入を合算できる場合があります。
対象となるバリアフリー工事は以下の通りです(次の1から3までのいずれかに該当する工事)。
1. 床の段差解消
2. 廊下の幅および居室の出入口の幅を基準に沿って確保
3. 浴室および階段の手すり設置
なお、バリアフリー以外に耐震リフォームとヒートショック対策工事も「高齢者向け返済特例」の対象になっています。
相続の問題もありますので、まずは家族と相談してみましょう。
まとめ
生活していく上での障壁(バリア)を除去する(フリー)のがバリアフリーリフォーム。そのポイントになるのが「介助者の有無」です。
「段差の解消」「手すりの設置」「引き戸に変える」という、最低限のバリアフリーリフォームは、介助者がいなくても転倒などをしないための工事といえます。
一方で、浴室やトイレの拡幅や玄関のスロープ設置は、介助者がいることを前提としたバリアフリーリフォームです。子どもが手離れした後は、夫婦で老後を楽しめるようバリアフリーにして……という方も多いでしょうが、冒頭で述べたように、介助者の有無を踏まえたリフォームを検討するようにしましょう。
また、将来の介助者として子どもが同居する場合、生活のリズムが異なる二世帯それぞれが快適に暮らせるような間取りにするなど、二世帯住宅へのリフォームについても二世帯で話し合ったほうがいいでしょう。特に浴室や廊下等の拡幅などは、「いつまで家族で介護するのか?」という課題もはらんできます。
あるいは今は同居していなくても「この先、親が高齢になったら同居(介護)するのか?」という課題は、子どもである以上、いつか答えを出さなければなりません。
つまり、バリアフリーリフォームは、高齢者だけでなく家族みんなで考えるべきリフォームなのです。働き盛りの子世代にとって、バリアフリーリフォームは一見遠い先の話に聞こえがちですが、実は意外と考える時間が限られているかもしれません。
監修/柏崎文昭(甚五郎設計企画)
構成・取材・文/籠島康弘
イラスト/杉崎アチャ
雑誌「カーセンサー」編集部を経てフリーライターに。中古車からカーシェアリング、電気自動車までクルマにまつわる諸々の記事執筆を手がける。最近は住宅雑誌の記事も執筆していて、自分が何屋なのかますます分からなくなってきた。