リビングから玄関ギャラリー越しにガレージを覗く
ポリカーボネートとFRPのブリッジを主役にした室内。内部には柱が存在せず、開放的な空間が構築される
理想とする家作りのために2年間もかけた建築家探し
今回訪れた地は、埼玉県下の新興住宅街。洒落たカフェなどの店舗も散見でき、近隣の住民が散歩がてらお茶を飲みに立ち寄るという優雅なライフスタイルが見てとれる。
こだわった作りの住宅が並ぶなか、目的の住宅は周囲のどの家よりも個性的で独特の雰囲気を放っていた。遠目には黒で統一されクールなイメージ。しかし近づいてみると杉板を用いた壁面は、和風のテイストとともに、見る者に暖かみを与えている。
正面左手にあるガレージの扉は横開き式。スルスルと開けると、その扉自体が壁面と同化し、まったく違和感がない。ガレージを閉じたときと開放したときとで、異なる顔をもつことも特徴といえる。
今回の取材は、ジャガーXJを持ち込んだ。それは、施主であるOさんの「ジャガーに憧れていて、いつかは…と考えています」という声に応えたもの。ガレージに収めてみると、濃いグリーンのボディが住宅の色合いや素材にうまく溶け込んでいる。ガレージ内部は、外観同様黒い杉板を使用。また、前後の扉は透明のポリカーボネート複層板を組み合わせることで障子のような味わいをもち、これらが融合し土間のような「和」を感じさせる空間を作り上げている。
ガレージの裏側には、建物に囲まれた中庭が広がる。左側のデッキ上に位置する浴室からは、壁越しにガレージ内部の様子がうっすらと見てとれる
2階の寝室にはシンク付きカウンターがあり、その奥の足元から1階のガレージを覗くことができる
設計を担当したのは建築家の芳賀敏夫さん。じつはOさんは、芳賀さんと出会うまでに30名近い建築家や設計士と面談をし、
「個別にお会いして、自分のイメージと合うか否かを判断しました」
その後、12名に絞ったうえで具体的なプランを出してもらい検討した結果、芳賀さんにお願いすることを決断したという。その間、じつに2年という時間を費やしたのだが、その甲斐あって波長の合う建築家と出会うことができた。
住宅の内外には天然木が多用されていて、外装やガレージだけではなく、リビングや寝室をはじめ至るところに用いられている。それは、暖かみとともに落ち着いた空間を作り出すことに貢献しており、初めて訪れたにもかかわらずどの部屋も居心地がよく、いつまでも身を置いていたいと思わせる。
室内で特徴的な部分は、ブリッジと呼ばれる文字どおり「橋」が、リビングルームの頭上に渡されていること。これについて芳賀さんは、
「ブリッジを設けることが前提だったため、どのようにしたら自然に見えるかという点に注力しました」
という。設計にあたりOさんのリクエストはブリッジのほかに、ガレージ内のクルマがいつでも見られるように、というもの。邸内にブリッジ…と聞くと違和感を覚える方が多いと思うが、実際にリビングルームに立つと、2階天井まで吹き抜けた高さと、ブリッジ本体が半透明のFRP樹脂と透明のポリカーボネートを使用しているため、不自然さは皆無。それどころか、家電製品を露出させない工夫が施された生活感のないインテリアと相まって、まるでデザイン事務所のようなクリエイティブな雰囲気を醸し出している。
肝心のガレージは玄関、リビングルーム、そして2階の寝室からも眺めることができる。ガレージのシャッターを閉めた状態だと、前述の障子のような造形をもつ前後の扉により、そこから差し込む光がジャガーのボディに美しい陰影を描き出す。
近い将来、Oさんがジャガーを入手した暁には、つねにこの美しい光景を目にし、自宅への愛着がいっそう増すことになるのだろう。
Okさんの家 + 芳賀敏夫 アトリエラビリンス建築環境設計
- 所在地:埼玉県北足立郡
- 主要用途:専用住宅
- 家族構成:兄弟
- 構造・規模:木造、2階建
- 設計:アトリエラビリンス建築環境設計 芳賀敏夫
- 敷地面積・延床面積:239.89㎡・150.66㎡
文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi
取材協力・アトリエラビリンス建築環境設計(http://www13.big.or.jp/~a-lab/)
