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balena
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3層の空間が複雑に絡み合うアルフィスタの住み家

真新しいにもかかわらず、周辺の建物に違和感なく溶け込むアルフィスタの住み家“balena”
複数の素材が重なり合った外観は、個性的であると同時に周囲の景色に馴染む懐の深さも感じる

愛車のアルフェッタが鎮座するホビールーム

赤いタイルに導かれて進んだ奥には、浮遊感のある階段があり、居住空間へと繋ぐ

「この人に任せれば大丈夫」そう確信した最初の一言

新宿区というと、東京のど真ん中で、一戸建て住宅が存在するというイメージは薄い。しかし、今回の住宅は、趣のある坂道や路地、そして緑豊かな情緒ある環境にあった。
設計担当は、気鋭の人気建築家である筒井紀博さん。施主のAさんとの出会いは、「一緒にレースにも出場したアルファロメオつながり」だという。

Aさんの愛車は1975年式のアルフェッタ。18歳のときに購入以来乗り続けているというから、筋金入りのアルフィスタだ。Aさんが、設計を依頼するにあたっての希望は、
「仲間が集まれる空間であること。大量の自動車雑誌や本が収納できること。デザインが美しいこと」
という意外にも大雑把な依頼だが、Aさんにその理由を尋ねると、
「最初の打ち合わせで筒井さんが、アルフェッタはどの角度から見るのがいちばん好き? と質問してくれたんです。その瞬間、この人に任せておけば大丈夫だと確信しました」
もともと共通の感性をもっているだけに、お互いのベクトルさえ確認できればOKというわけなのだろう。

この住宅は、balenaと名付けられている。イタリア語でクジラという意味だが、なぜクジラ?
「周辺には古い建物が多いのです。学校のような大きな建物から一般住宅の小さなものまでさまざまです。そんな環境にマッチするような造形と、角地という立地を考えたときにクジラをイメージしました」
と筒井さん。少し離れて住宅を観察してみると、まさしく斜面を背にしたクジラの姿が浮かび上がった。

アルフェッタが収まるホビールーム内部は、コンクリート打ち放しの壁面にアルファロゴの照明があしらわれるなど、趣味人らしい演出が施されている。雑誌類を収納するためのステンレス製の棚やシンクとのマッチングが美しい。足元には入り口から階段に向かい、赤いタイルが飛び石のように埋め込まれている。
「グラニティ・フィアンドレというブランドで、フェラーリのショールームにも使われているものです」
と筒井さん。華美ではないが、こだわりのアイテムをさり気なくアクセントとしているあたりは、高いセンスがうかがわれる。

壁面はカウンターとシンク、そしてアルファロメオのロゴで飾る
カウンター内には大量の自動車雑誌が収まる

壁面から生えるコンクリート製の階段を上ると、寝室やトイレのあるセカンドフロアへ。さらに上ると、ダイニングとバスルームのあるサードフロアへと至る。加えてその上にもリビングフロアが存在する機能的なスキップフロアは、傾斜地という環境が功を奏した結果だ。ホビールームをカウントすると、事実上地下1階(ホビールームは地下扱い)地上4階建てというイメージだ。巧みなフロア構成について筒井さんは、
「上るにつれて浮遊感を出したかったのです。重い素材がまるで海に浮いているような……。バスルームなどの水まわりも、重力に逆らって浮いているようなデザインです」

バレーナという名は、決して外観だけを意味しているわけではない。ホビールームやリビングなど、居心地のよい空間はすべて、クジラの体内というワケだ。まるでゼペット爺さんを捜しにクジラの体内に入ったピノキオのような気持ちで、筒井さんの話を興味深く聞き入った。

ホビールームから続く階段は、寝室のあるフロアへ。仕切りのないスキップフロアは、階段スペースを通して一体感をつくる
階段脇にあるバスルームは、まるで宙に浮いているかのよう

balena + 筒井紀博 筒井紀博空間工房

balena
  • 所在地:東京都新宿区
  • 主要用途:専用住宅
  • 家族構成:夫婦、子ども1人
  • 構造・規模:木造、一部RC造・地上2階、地下1階
  • 設計:筒井紀博空間工房 筒井紀博
  • 敷地面積・延床面積:256.69㎡・154.51㎡

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・田村 弥 photos / TAMURA Wataru
取材協力・筒井紀博空間工房(http://www.ktts.jp/

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