土地の価格を表す言葉に「公示地価・基準地価・路線価」と3つもあるが、いったい何が違うの? 購入時や相続時に参考になる価格はどれ? 明海大学不動産学部の中村教授に教えてもらいました。
公示地価・基準地価・路線価はいずれも公的機関が公表している、日本各地の「土地の値段」です。
公示地価は適正な地価の形成に役立てるために国が公表しているもので、一般的な土地売買の際の指標や、公共事業の取得価格の基準となっています。基準地価の目的は公示地価とほぼ同じで、調査の主体が都道府県となります。路線価は国税庁が相続税や贈与税の算出のために決めている土地の価格です。
いずれも、実際に取引された土地の価格(実勢価格)とは異なります。まずはそれぞれの違いを下記でみてみましょう。
公示地価 | 基準地価 | 路線価 | |
---|---|---|---|
調査主体 | 国(国土交通省土地鑑定委員会) | 都道府県 | 国税庁 |
価格の決め方 | 1地点につき不動産鑑定士2名以上による鑑定評価をもとに決める | 1地点につき不動産鑑定士1名以上による鑑定評価をもとに決める | 公示地価や売買実例価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額などをもとに決める |
評価時期 | 毎年1月1日時点 | 毎年7月1日時点 | 毎年1月1日時点 |
発表時期 | 毎年3月下旬 | 毎年9月下旬 | 毎年7月1日 |
調査地点 | 「標準地」1m2当たりの価格 | 「基準地」1m2当たりの価格 | 路線(道路)に面する土地の1m2当たりの価格 |
このような違いがあります。よく「銀座の鳩居堂前が日本一高い」と毎年のようにニュースになるのは、路線価で最も高かったからです。また同じく銀座の「山野楽器が日本一」というニュースもよく聞きますが、これは公示地価です。ちなみに2018年の鳩居堂前の路線価は4432万円/m2で、山野楽器の公示地価は5550万円/m2。同じ日本一でも調査主体や価格の決め方(後述します)が異なるため、その際発表される価格が異なります。一つひとつ、詳しくみていきましょう
土地の価格は本来、位置だけでなくカタチや、その土地の売主や買主の事情など、さまざまな要素によって決まります。しかし、単にそのまま市場原理に任せるだけにしておくと「かつてのバブル時のように土地の価格が乱高下することもありますし、それが経済に悪影響を与えたり、公共事業を進める際の妨げにもなりかねません。特に公共事業は税金を投入するため、取得価格が高いと税金の無駄遣いに、逆に低ければ所有者の財産権を侵害することになります」と中村さん。
そこで1969年に施行されたのが地価公示法です。そこには都市やその周辺地域において「一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業に供する土地に対する適正な補償金の額の算出等」のために「標準地を選定し、その正常な価格を公示する」と記載されています。
「標準地とは、その名のとおり標準的な土地のことです。その地域の中でとても良い土地や逆に悪い土地の価格を調べても参考にはならないからです。また公示される価格は更地の価格です。もちろん、今どき上に建物のない土地なんて都市部にほとんどありませんが、上物が建っていても『ここが更地だとしたら』と仮定して価格が算出されています」
標準地を決めるのは国土交通省の審議会のひとつ、土地鑑定委員会です。そこで標準地をどこにするか決まりますが「ほぼ毎年同じ標準地を鑑定し、土地鑑定委員会で価格を決めます。同じポイントの価格を毎年公示するので、地価変動がわかりやすいというメリットがあります」
実際に土地を鑑定するのは、土地鑑定委員会から任命された2名以上の土地鑑定士が行い、それをもとに土地鑑定委員会が価格を決めて毎年公示しています。公示地価は国土交通省の検索システムで調べることができます(後述します)。
「ちょうど地価公示法50周年ということもあり、2019年から検索システムで公示地価を調べると各鑑定士による鑑定評価書も閲覧できるようになりました。そこには年間の変動率や、より詳細な標準地の情報、『土地需要が旺盛であることから地価は上昇傾向で推移している』といった市場の特性や、『地域要因に特段の変動はなく、当分は静態的に推移する』といった地域要因の将来予測も記載されています」。市場特性や将来予測は土地の購入時の参考になりそうです。
基準地価とは各都道府県が選んだ「基準地(公示地価は「標準地」。言葉は違うが意味は同じ)」の価格のことです。1974年に定められた国土利用計画法に基づき、都道府県知事が毎年基準地の価格を判定しています。その目的は適正な土地価格の形成など、公示地価と同じ。ただし公示地価と違い、都市やその周辺地域という縛りがありませんので、公示地価の補完的な指標といえます。また価格を算定する土地鑑定士も1名以上となります。
「鑑定する土地も、公示地価と基準地価で重複することもあります。公示地価とポイントが同じなら、同じ土地が毎年1月1日と、7月1日の年2回鑑定されるため地価の変化がより早くわかります。地価変動に注意が必要なところはあえて同じポイントになっていることもあるでしょう」
路線価とは、相続税や贈与税等の税金を計算する際の算定基準になる土地の価格のことです。税務申告する側とそれを受ける税務署が、いちいち土地価格の鑑定をしなくてもお互いがスムーズに行えるように公表されています。土地の価格が、その土地が面している道路ごとに設定されているので「路線価」といいます。
ちなみに国税庁が公表している路線価を「相続税路線価」と呼び、市町村(東京都の場合は都)が固定資産税を算出する際に使用する路線価は「固定資産税路線価」と呼ばれます。単に「路線価」と言う場合、国税庁の「相続税路線価」を指します。「どちらも公示地価と連動していて、相続税路線価は公示地価の8割程度、固定資産税路線価は公示地価の7割程度となっています」
「公示地価や基準地価は、確かに実際の売買価格(実勢価格)とは異なります。公示地価や基準地価は土地の上に建物が建っていても『更地として』鑑定されますが、売り主や買い主からしてみれば上の建物次第で希望金額は異なることもあるでしょうし、どうしてもここで商売をしたいなど意思や状況次第で取引価格が上下するのは当たり前ですから。もちろん公示地価や基準地価通りに売買しなければならない義務もありません」。そのため実勢価格と価格が異なるのです。
ではどんなときに使える“価格”なのでしょうか。例えば公示地価や基準地価を参考にしながら土地の売却価格を考えたり、購入時に価格を比較する際の参考として利用できるでしょう。
またマンションを買う際にも「購入時に、例えば同じ港区でもこのエリアなら公示地価が○○万円で、このエリアは▲▲万円。それに対してマンションの価格は……という具合に、地域の価格水準の比較検討にも使えます」。さらに不動産鑑定書なども合わせてみれば、将来的な資産価値などの判断の参考にもなるでしょう。
公示地価と基準地価は下記のURLから調べることができます。それぞれ別にも、あるいは一緒に表示することもできます。
国税庁の公示する「路線価」は、その目的どおり相続税や贈与税を調べる際に使います。路線価は下記から調べることができます。
なお、路線価が定められていない地域もあります。その場合、地域ごとに決められた「評価倍率」を固定資産税評価額に掛けて計算します。「評価倍率」は上記URLから閲覧することができます。また固定資産税評価額は各自治体から毎年送られてくる固定資産税の「課税明細書」に記載されています。
固定資産税路線価をホームページで公開しているかどうかは各自治体により異なります。各自治体で確認してみましょう。ちなみに東京都は下記で公開しています。
このように似たような言葉で、いずれも公的機関が公表する土地の値段ですが、その目的はさまざまです。自分の目的にあった「土地の値段」を選んで活用しましょう。
公示地価、基準地価、路線価はどれも公的機関が発表しているが、それぞれ調査主体や活用目的が異なる
土地の売買の目安は「公示地価」か「基準地価」でみる
路線価には、「相続税路線価」と「固定資産税路線価」があり、公示地価の7~8割となっている
公示地価、基準地価、路線価はどれも実勢価格とは異なる