ZEH-M Orientedはどんなマンション？定義や条件、メリット・デメリットなどを解説

ZEH-M Orientedはどんなマンション？

ZEH-M Orientedは、以下の基準を満たしたマンションを指します。

全住戸で強化外皮基準（ZEH水準=断熱等性能等級5相当）を満たしている
共用部を含む住棟全体で、再エネを除き20%以上の削減率を達成している
再エネ設備の導入は不要

ZEH-M Orientedの目標を達成するために、具体的にどのような工夫が行われているのかを伺いました。

住棟全体が断熱されている

ZEH-M Orientedに限らずZEH-Ｍシリーズでは、全住戸で強化外皮基準＝ZEH水準を満たすために、断熱性能を向上させる必要があります。このZEH水準とは、断熱等性能等級5相当を指し、地域ごとにクリアすべき指標が決まっています。

「マンションの断熱性能を高めるための工法や使用する素材は、ZEHデベロッパーによって異なります。それは、どの程度のグレードの素材を使用しどこまで断熱性能を高めるのかが、販売価格に大きく影響を及ぼすためです。

一般的には、建物の室内側にウレタンフォームの断熱材を吹き付ける内断熱を施し、さらに開口部には複層ガラス（複数のガラス板を重ねた構造のガラス）の窓や断熱仕様のドアを採用して断熱性能を強化します」

窓の断熱性能が高いと、窓際にいても寒さを感じず快適に過ごせる（画像／PIXTA）

「なお、窓については、アルミと樹脂の複合サッシや樹脂サッシを採用すると断熱性が高まります。しかし、高層マンションでは、耐風性能や防火性能の基準を満たしつつ、さらに軽量であることも求められます。その結果、タワーマンションなどではアルミサッシが採用されるケースが多いです」

省エネ性能が高い設備が導入されている

「省エネ性能の評価は、照明・給湯器・暖冷房・換気の4つの設備を対象としています。

照明については、共用部や住戸で廊下など、あらかじめ設置されているものはLEDが採用されます。給湯器にはエコジョーズ（ガス潜熱回収型給湯器）などの高効率給湯設備があらかじめ導入され、暖冷房設備や換気設備についても、創エネを除く削減率20%以上を達成するために、省エネ効率が高い機器が選ばれます」

なお、ZEH-M Orientedでは、一般的に断熱・省エネ性能を高める浴室設備が採用される傾向があり、高断熱浴槽を採用しているか否かも評価対象となっています。

ただし、どの程度の性能やグレードのものを導入するかはZEHデベロッパーによって異なるため、事前に確認することが重要です。

ZEH-Mでは、浴室設備も断熱性能が高いものが導入されているのが一般的（画像／PIXTA）

ZEH-M Orientedを選ぶメリットは？

冬暖かく夏涼しい快適な暮らしができる

ZEH-M Orientedは、すべての住戸がZEH水準の断熱等性能等級5を満たします。建物全体に高い断熱性が備わっており、まるで魔法瓶のように熱の出入りを抑えるため、冬は暖かく夏は涼しい快適な環境を維持できます。

「室温の変化が少なくなれば、ヒートショックのリスクが軽減されるなど、健康的に暮らせることも大きなメリットです」

光熱費を抑制できる

ZEH-M Orientedには太陽光発電設備は採用されていないケースが多いものの、建物自体の断熱性能が高く、省エネ効率の優れた設備が導入されているため、光熱費を抑えられる点がメリットです。

「2024年4月から、省エネ性能表示制度がスタートしました。これにより、住戸ごとの省エネ性能ラベルがある場合、『目安光熱費』が記載されている可能性があります。評価書がない場合でも、パンフレットなどに平均的な住戸の想定光熱費が掲載されていることが多いため、事前に確認するとよいでしょう」

断熱性能が高いZEH-M Orientedだと、光熱費を抑制できる（画像／PIXTA）

ZEH-Mと光熱費についてもっと詳しく→
エコ賃貸とは？　ZEH-Mで省エネや光熱費の節減を実現

【フラット３５】Ｓの要件を満たせる

ZEH-M Orientedは、【フラット３５】の金利が引き下げられる【フラット３５】Ｓの対象となっているのもメリットです。適用された場合、当初5年間は、通常よりも0.25％〜0.75％金利が引き下げられます。

【フラット３５】Ｓについてもっと詳しく→
【フラット３５】Ｓ｜住宅金融支援機構

補助金を受けられる可能性がある

ZEH-M Orientedの認定を受けたマンションは、「子育てグリーン住宅支援事業」で補助金を受けられる可能性があります。

この制度では、申請時に18歳未満の子どもがいる世帯や、夫婦のいずれかが39歳以下の世帯を対象に、新築分譲マンションの購入時に1戸あたり40万円が補助されます。適用条件の詳細については、公式サイトでご確認ください。

子育てグリーン住宅支援事業についてもっと詳しく→
子育てグリーン住宅支援事業｜国土交通省

中古市場での評価が高くなる

「今後、新築マンションはすべてZEH水準に移行していくと考えられますが、現時点ではまだ限られた物件のみとなっています。そのため、将来的に売却を検討する際、ZEH対応であることは、中古市場での評価が高くなる可能性があります」

現在国では、2030年以降、マンションを含むすべての新築住宅に対し、ZEH水準の確保を目指しています。そのためZEH-Mでない物件は、今後「省エネ基準を満たさないマンション」として敬遠される可能性があります。リセールバリューの面からも、ZEH-Mは良い選択となりそうです。

ZEH-M Orientedを選ぶデメリットはある？

ZEH-M Orientedにするには断熱性能と省エネ性能を高めるために、仕様や設備の工夫が必要になります。そのため、ZEHではない一般的なマンションと比較すると、販売価格が高くなる可能性があります。

「ただし、マンションの価格はその他の設備のグレードや内装の仕様などにも影響されます。そのためZEH-M Orientedだからといって、必ずしもZEH仕様ではないマンションよりも高いとは限りません」

ZEH-M Orientedでも住宅ローン控除は受けられる？

住宅ローン控除は、一定の省エネ性能が備わった住宅を対象に、年末の住宅ローン残高の0.7％を13年間所得から控除される制度です。ZEH-M Orientedもその対象となっており、さらにZEH水準省エネ住宅として借入限度額が拡充されています。

【新築住宅・買取再販】住宅ローン控除の上限額表（画像作成／SUUMO編集部）

【既存住宅】住宅ローン控除の上限額表（画像作成／SUUMO編集部）

「住宅ローン控除を受けるには、住棟ではなく住戸に対する『建設住宅性能評価書』もしくは『住宅省エネルギー性能証明書』が必要になります。これらはZEHデベロッパーが取得し購入者に提供するケースがほとんどですが、あらかじめ確認しておくとよいでしょう」

住宅ローン控除についてもっと詳しく→
住宅ローン控除や贈与税、税制改正でなにがどう変わる？【得する住宅税制ガイド】

ZEH-Ｍの今後の展望は？

「現在国では、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、すべての建築物の省エネ性能を向上させる方針を掲げています。具体的には、2050年にはストック平均でのZEH・ZEB（ネット・ゼロ・エネルギー・ビル）水準の省エネ性能確保を目指し、2030年にはすべての新築建築物にZEH・ZEB水準を目指すとしています。

今後ZEHが標準化される流れにおいては、あらかじめZEH-Mを採用することで資産価値の向上が期待できるほか、購入者が住宅ローン控除の優遇を受けられるといったメリットもあります。こうした背景から、今後もZEH-Mの採用は加速していくと思います」

※ZEHデベロッパー：ZEH-M（ゼッチ・マンション）の普及に取り組む建築主となる事業者や建築請負会社

2030年にはすべての新築住宅でZEH水準の確保を目指している（イラスト／杉崎アチャ）

ZEH-M Oriented購入時の注意点は？

「同じZEH-M Orientedのマンション内であっても、住戸ごとに省エネ性能は異なります。例えば角部屋は、上下左右に隣接する住戸がある部屋よりも省エネ性能が低くなるのが一般的です。そのため購入を考えている住戸が、必ずしもエネルギー消費削減率20%以上を達成しているとは限りません。

性能が大きく劣るケースは少ないと思われますが、気になるときには購入を検討している住戸の実際の省エネ性能を、設計者に確認してみることをおすすめします」

希望している住戸の具体的な省エネ性能が気になるときには確認しておくと安心（画像／PIXTA）