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ホルムアルデヒドは新築住宅のどこに・どのように使われているものなのでしょうか。新居への引越し後や新たに家具を購入したら、嫌なニオイや頭痛に悩まされるようになった……もしかしたら原因は「ホルムアルデヒド」かもしれません。今回は、ホルムアルデヒドの基本情報や原因かどうかを調べる手段、除去する方法などについて、さくら事務所の田村さんに伺いました。
ホルムアルデヒドは水素、炭素、酸素などで構成された揮発性の化学物質です。常温では無色透明の気体として空気中に存在しており、ツンとする特徴的な臭いがあります。
「ホルムアルデヒドはガス状の気体なので、ぱっと見てわかるものではありません。化学物質に敏感な人は臭いを強く感じたり目に染みたりしますが、言われてみると多少臭うかなという人や、全然臭いが気にならないという人もいます」(さくら事務所 ホームインスペクター 田村啓さん。以下同)
ホルムアルデヒドがもつ特徴的な臭いは、人の粘膜を刺激します。目に染みて涙が出る、鼻を刺激して鼻水が止まらないなどが典型的な症状です。
「短期的には、粘膜を通じて与える影響のほか、ノドが痛い、咳が出る、呼吸がしにくいなどの呼吸器系に影響を及ぼすケースも多く見られます。長期的には、発がん性があるという指摘がされているため、特に症状がない人でも、なるべくホルムアルデヒドには接しないことが重要です」
※参考:環境省「化学物質の環境リスク評価」

ホルムアルデヒドは接着剤や防腐剤、塗料などの成分として用いられます。使われている主な製品には、合成樹脂、合板やパーティクルボードなどの木質建材、衣類やカーペットなどの繊維製品、殺虫剤や防蟻剤、医薬品があります。
家の中には、ホルムアルデヒドを使用した合板でつくられたフローリングや家具、壁紙を貼った接着剤など、さまざまな製品があることが一般的です。
「20年前ごろから、ホルムアルデヒドなどの化学物質が原因となる『シックハウス症候群』が問題になっています。シックハウス症候群とは、新築の家に引越す、リフォームをする、新しい家具を購入するなどをきっかけに、家の中にいると目がチカチカする、頭痛や息苦しさなど体の不調を感じる症状のことです。家に居ると症状がみられるものの、外出すると症状が軽減したり治まったりする人も多いようです」

シックハウス症候群についてもっと詳しく
ホルムアルデヒドが原因のひとつ、シックハウス症候群とは?アスベストについても解説
シックハウス症候群かもしれないと思ったとき、空気中のホルムアルデヒド濃度を測定することは、原因を知り対策を取るうえでの第一歩といえます。
「室内のホルムアルデヒド濃度の測定は、専門業者が5万~10万円程度で行っています。引越し後などに体調不良が続くときは、依頼するのもよいでしょう。ちなみに、自分で測れる簡易測定器も販売されていますが、測定結果のブレが大きいので目安程度にするのが無難です」
ホルムアルデヒドがどの程度空気中に含まれていると、身体に悪影響を及ぼすのでしょう。
「厚生労働省は、ホルムアルデヒドの室内濃度は0.08ppm相当以下が健康上望ましいという指針を発表しています。この数値と専門業者の測定結果の数値を照らし合わせ、必要に応じた対策を取りましょう」

シックハウス症候群かもしれないと感じたり、ホルムアルデヒドの室内濃度が指針を超えていることがわかったりしたとき、どのような対策を取るべきなのでしょうか。
「まずは室内の換気を行います。それと同時に、ホルムアルデヒドを発散している発生源を特定し、それを取り除く方法を検討しましょう」
ホルムアルデヒドの室内濃度を下げるには、換気が手っ取り早く、かつ最も重要な方法になります。窓を開けるのはもちろん、キッチンやトイレ、お風呂の換気扇を回し続ける、24時間換気システムがあれば正しく使うなどの方法で、室内の換気を徹底的に行います。
「家の離れた場所で空気の入口と出口をつくると効果的に換気が行えます。例えば、リビングの窓を少し開けて外の空気を取り入れて、トイレやお風呂の換気扇を回して汚染された空気を排出するとよいでしょう」

近ごろは、高性能・高機能の空気清浄機が販売されていますが、ホルムアルデヒド除去にも効果はあるのでしょうか。
「ホルムアルデヒドはガス状の化学物質なので、ハウスダストや花粉のようにフィルターで取り除くのは難しいです。低減効果をうたっている機種もありますが、空気清浄機だけで厚生労働省が発表している指針値を下回ることは難しいので、補助的に活用してください」
花粉症に悩む人は、花粉が飛散する時期にマスクやメガネで対処するケースがありますが、シックハウスの症状にも効果はあるのでしょうか。
「花粉やホコリは粒子なので、マスクやメガネによって人体への吸入を防ぐ一定の効果はあります。しかし、ホルムアルデヒドは気体で、マスクやメガネの隙間を通過してしまうため、症状を軽減させる効果は期待できないでしょう」
ホルムアルデヒドは揮発性のため、熱することで揮発し、空気中に拡散されます。この性質を活かした方法がベイクアウトで、暖房器具で室温を上げてホルムアルデヒドを揮発させたあと、換気で室外に放出します。
「室温を35度以上にするのは、家庭用エアコンでは難しいかもしれません。石油ストーブやガスファンヒーターなどを使い、サーキュレーターで空気を撹拌して室温をすみずみまで一定にした状態を半日以上続ける必要があるので、個人で行うのは大変な方法といえます」
ベイクアウトは、化学物質の中でもトルエンのように乾いてしまうと新たに揮発しない物質には有効的ですが、ホルムアルデヒドのように接着剤や塗料内に存在する限り揮発し続ける物質には効果が低い可能性もあります。
また、ベイクアウト後の換気が中途半端だと、部分的に化学物質の室内濃度が高くなってしまい、さらに体調を悪化させる可能性があるので注意が必要です。

換気を主とした除去を行っても、体調が改善しない場合には発生源を取り除く方法を検討しましょう。
「ある調査結果では、ホルムアルデヒドは3年経過しても発散量が変化しない厄介な物質であることがわかっています。発生源が室内にある限り、24時間365日ずっと発散し続けるので、体調次第では発生源を取り除くことをオススメします
発生源が家具なら廃棄をする、フローリングや壁紙なら思い切って引越すか、ホルムアルデヒドの発散量が少ない建材や接着剤を使ったリフォームで対策をとるとよいでしょう」
せっかく新しい家に引越したのに、ホルムアルデヒドによる臭いやさまざまな症状に悩まされるのは避けたいものです。
「2003年に建築基準法が改正され、ホルムアルデヒドを発散する建材の使用制限や、換気システムの設置が義務付けられました。したがって、新居を選ぶときに、2003年以降に建てられた住宅であることは一つの目安となります。もし直近にリフォームしていたとしても、換気システムが備えられているため、室内換気はスムーズに行えるでしょう。
ただ、換気システムは、きちんとメンテナンスされていないと十分な効果を発揮できません。換気フィルターやダクトが汚れで目詰まりをしていないか入居前にチェックし、入居後には自分で定期的にメンテナンスを行うことが大事です」

新築住宅の購入時や注文住宅を建てるときに住宅性能表示制度を活用し、希望をすれば、完成時にホルムアルデヒドなどの化学物質の室内濃度を測定してもらえます。
「住宅性能表示制度では、室内環境性能としてシックハウス対策の程度を表示しています。具体的には、建材の選定と換気対策の2つで、完成段階の濃度測定はオプションになります。
オプションの濃度測定は、施工会社が行うケースと、施工会社が専門業者に発注して測定するケースがあります。ホルムアルデヒドの濃度測定は誤差が出やすく、施工会社の測定では正確な数値が出ない可能性があるため、誰がどのように測定するのか確認してからのオプション依頼をオススメします」
家具を買う場合には、カタログや家具に貼られたラベルに表記されている「ホルムアルデヒド発散量による区分」を参考にしましょう。
「日本農林規格(JAS)と日本工業規格(JIS)は、合板などの材料から発散されるホルムアルデヒドの量をF☆☆☆☆などの数値で区分しています。☆の数が多いほどホルムアルデヒドの発散量が少ないため、家具を選ぶ際には☆の数を目安にするのもよいでしょう。ただし、材料からは多く発散されなくても、接着剤に含まれていて、そこから発散される可能性もあることは覚えておきましょう。
また、どの家具店から買うのかは重要です。すべての家具にラベル表記をしたり、ホルムアルデヒド吸着・分解シートなどを同梱して配送しているお店もあれば、このような表示や配送を行っていないお店もあります。気になる人は表記や配送をきちんと行っているお店から購入したいですね」

現在、住宅を建てるときにホルムアルデヒドを含まない建材や接着剤を使わないことは、ほぼ不可能といえます。また、発散量を抑えた建材を用いても、使用面積が広いとあまり意味がないかもしれません。
「注文住宅を建てる人やリフォームを行う人で、自分が化学物質に過敏だと思うなら、フローリングや壁紙などの内装材だけでなく、下地材や構造材もホルムアルデヒドの発散量が少ない建材を選びましょう。
新築住宅を購入した人や賃貸住宅を借りる人で、お部屋の内見時に臭いが気になったら、入居までに換気を行い、ホルムアルデヒドの室内濃度を下げておきたいですね。窓を開けっ放しにするのは難しいと思うので、換気扇や24時間換気システムを入居前から使えないか確認してみましょう」
引越し後や家具購入後に体調が悪くなったとき、ホルムアルデヒドを疑って自分でいろいろと調べて対応する人もいるかもしれません。しかし、中途半端な情報と知識で場当たり的に対処したことで、余計に体調を悪化させるケースもあります。
「根本的な解決のためには、ホルムアルデヒドの発散状況を把握し、発生源を特定する必要がありますが、素人では難しいものです。まずは換気を徹底的に行い、それでも体調が改善しなかったら、自分で判断せずに専門業者に相談することをオススメします」

ホルムアルデヒドは短期的な症状だけでなく、長期的にも発がん性があると指摘されているなど、危険な物質と言えます。新しい家に入居したり、家具を購入してシックハウス症候群が疑われる症状が出た場合には、換気や専門業者への相談を速やかに行い、原因を特定して除去するようにしましょう。
・国交省「建築基準法に基づくシックハウス対策について」
・環境省「化学物質の環境リスク評価」
・厚労省他「ホルムアルデヒド、1,3-ブタジエン及び硫酸ジエチルに係る健康障害防止対策について」
ホルムアルデヒドは揮発性の化学物質で、常温では無色透明の気体。ツンとする特徴的な臭いがする
ホルムアルデヒドの対処は「換気」と「発生源の除去」が重要。場当たり的な対処はせずに、体調を崩したら早めに専門業者へ相談したい
ホルムアルデヒドの影響を受けにくい住宅は、2003年以降に建てられていることがひとつの目安。家具は発散量の少ない材料でつくられた物を選択しよう