家の中にいると、目がチカチカしたり、頭痛がしたりなどさまざまな症状があらわれる場合、もしかするとシックハウス症候によるものかもしれません。シックハウス症候群とはどんなものなのか、家を買ったりリフォームしたりするときにはどんなことに気をつければいいのかを知っておきましょう。ホルムアルデヒドやアスベストについても一級建築士事務所北工房代表取締役の栃木渡さんに話を聞きました。
シックハウス症候群とは、新築の家に入居したり、リフォームをしたりをきっかけに、家の中にいると頭痛やめまい、咳、息苦しい、目がチカチカするなどの症状が出ることがあります。建材などから発散される化学物質が原因といわれています。症状は化学物質過敏症と似ていますが、家や室内から離れると症状が出なかったり軽減したりするため、化学物質過敏症とは違うと考えられています。
住宅建材の工業化が進み化学物質が多く使われるようになったこと、住宅の気密化が進んだことなどがシックハウスの背景といえます。
建材などに使われている化学物質のほか、家具やカーペット、衣類用防虫剤や殺虫剤、シロアリ駆除の薬剤なども原因と考えられています。また、石油ストーブやガスストーブからの一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物なども汚染物質のひとつ。ダニやカビ、たばこの煙が原因になることも。住宅の高気密化が進んだことで室内の空気汚染が起こりやすくなったのも、シックハウス症候群を引き起こす背景と考えられます。なお、同じ部屋にいても症状がまったく出ない人もいますし、症状が出てもその程度はさまざま。個人差が大きなことも特徴です。
現在、シックハウスへの対策はどうなっているのでしょうか。まず、2003年7月にシックハウスの原因物質を規制する建築基準法の改正案が施行。2003年7月1日以降に着工する建物には、内装の仕上げ材などにシックハウス対策が義務づけられました。対象となったのは、合板や壁紙、建材、接着材などから発生するホルムアルデヒドと、シロアリ駆除剤のクロルピリホスです。ホルムアルデヒドが含まれた建材は一定面積以上の使用を制限され、気密性の高い住宅では24時間換気システムなどの機械換気設備の設置が義務づけられました。クロルピリホスは使用が禁止されています。
そのほか、JIS(日本工業規格)、JAS(日本農林規格)ではホルムアルデヒドの等級制度が設けられ、その放散量によってF☆☆☆☆からF☆が表示されています。Fは「Formaldehyde(ホルムアルデヒド)」の頭文字。☆の数は1~4で、F☆☆☆☆が最上位(ホルムアルデヒドの放散量が少ないということ)。F☆☆☆☆の建材や内装材は使用する面積の制限がありません。☆がひとつのものは内装材としての使用は禁止されています(ホルムアルデヒドに関する規制の対象外とされている安全な木材などの建材には表示がないものもあります)。
住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住宅相談統計年報2018」によると、同センターに寄せられたシックハウス相談の件数は、2003年の546件をピークに減少傾向にあります。建築基準法による規制が功を奏したと考えられますが、しかし、相談が無くなっているわけではありません。
「今、国内で建てられる新築マンションや新築戸建ては、F☆☆☆☆の建材で建てられるものがほとんどでしょう。そのため建材のホルムアルデヒドによるシックハウスの心配はないといえそうです。それでも、新築の住宅で症状が出る場合、家具に使われている接着材や塗料に含まれる化学物質に対する過敏症なども考えられます。24時間換気システムを切ってしまって、室内の空気が汚れていることが原因の場合もあります」(栃木さん、以下同)
室内に放散される可能性のある有害物質には、ホルムアルデヒドのほか、接着材や塗料に含まれるトルエン、キシレン、エチルベンゼンなどがあります。また、化学物質のほか、花粉やダニ、カビなどさまざまな物質がシックハウス症候群や、それに似たアレルギーの症状を引き起こすことがあります。
シックハウス症候群を防ぐには、化学物質をできるだけ含まない建材を選ぶ、24時間の換気をきちんと行う、掃除をこまめにするなど、建材選びと暮らし方への注意が重要です。
「室内の空気が何で汚染されているのか、化学物質の濃度はどれくらいなのかなど、心配な場合は民間の検査機関で測定してもらうといいでしょう」
「中古マンションをリフォームする際、シックハウスの原因になる物質が室内に出てくることがあります。例えば、コンクリートの躯体に接着材を塗ってビニルクロスを直張りしてあった場合。化学物質の入った接着材がラップで閉じ込められた状態になっているため、築後数十年たっていても、壁紙を剥がすと室内に化学物質が漂う可能性があるのです」
化学物質が残っているかは、壁紙を剥がしたときのニオイでだいたい分かるそうですが、心配な場合はリフォーム工事完了後に住戸を密閉して、ストーブなどで室温を上昇させることで建材や建具、内装材などに含まれるVOC(揮発性有機化合物)を揮発させるベークアウトという処置を行う方法があります。
シックハウスとは少し違いますが、かつて耐火や断熱、防音などの性能を上げるためのアスベストを含む建築材料が使用されていました。人体に有害だと分かったことで、現在は使用が禁止されています。しかし、古い建物の解体やリフォームの際に大気中に飛散することで作業を行う人の健康に影響したり、周辺環境を汚染する恐れがあります。
アスベストの使用は昭和50年(1975年)に吹き付け作業が原則として禁止に。以降、段階的に規制され、平成16年(2004年)10月1日に製造・使用が禁止されました。吹き付けアスベストは鉄骨造の建物の鉄骨の梁や、集合住宅など規模の大きな住宅の天井、壁などに使われている可能性があります。木造一戸建ての場合は使用されている心配はほとんどないでしょう。吹き付けが禁止されたあとにはアスベストを含んだセメントを板状に固めた建材が使われていましたが、板状のため通常の使用ではアスベストが飛散する恐れはありません。ただし、リフォーム時や解体時には切断や穴あけで飛散しないよう注意する必要があります。
中古住宅を購入してリフォームする際、木造住宅の場合、アスベストの心配はほとんどありません。
「マンションはほとんどが鉄筋コンクリート造で、鉄骨造のマンションは少ないため、あまり心配はありませんが、建築時の設計図書に記載されている建材にアスベストが含まれていないか、国道交通省と経済産業省が共同で公開しているデータベースで検索できますから、リフォーム会社に調べてもらうといいでしょう」
建築基準法でホルムアルデヒドが規制されている
原因となる化学物質はさまざまなので、建材選びや換気、掃除などに気を配ること
中古住宅の場合も、シックハウス症候群の原因になる化学物質に注意