賃貸の部屋を探しているときに「分譲賃貸」という言葉を見かけることがある。設備や立地もよく、借りる人にとっては好条件がそろっているようだ。しかし、分譲賃貸マンションならではの、注意点があるのも事実。いいところだけを見て、後悔しないためにも、デメリットを含めた分譲賃貸マンションの基礎知識を身に付けておこう。今回は分譲賃貸を数多く取り扱っている三井不動産リアルティの麻布リアルプラン賃貸センター所長飯田氏に聞いてみた。
分譲賃貸マンションとは、本来分譲マンションとして購入されたものが、何らかの事情で賃貸物件として貸し出されたものをいう。「多いのはオーナーが転勤などの事情で住めなくなった場合に、その間賃貸に出すケース。またオーナーが元々投資目的で購入して賃貸に出しているものもあります」と飯田氏。
自分のマイホームとして「一生で一番大きな買い物」になることが多いので、 分譲マンションは賃貸専用に建てられたものより、居住性の高いものが多い。しかし、オーナーが「大家業」を専業にしていない場合が多いので、賃貸物件として借りる際はトラブルが起きることも。「分譲マンションのいいところを『賃貸』で体験できるので人気が高いですが、気をつけておくべき点もありますね」とのこと。
「賃貸用のマンション」と「分譲マンション」の特徴的な違いの1つは、建物の品質の違いだ。「賃貸物件の多くは、投資を目的に建築されています。つまり、投資した金額に対しての家賃収入を重視して建てられています。投資効率を考えれば、必要以上に建物の壁の厚さなどの躯体部分や設備のグレードを上げるわけにはいきません。
一方、分譲用のマンションは購入者が一生住む目的で購入する場合が多く、マンションそのものの構造もしっかりしている場合が多いです。室内の設備に食洗機やディスポーザーが付いていたり、エントランスや廊下など共用部分も比較的ぜいたくにできていて、パーティールームが付いているマンションもあるなど、グレード感があるものが多いですね」と飯田氏は話す。
またマンション内のマナーも比較的いいようだ。「分譲マンションの住人は、ほとんどがその家に一生住もうという人たちですので、マンションの美観もきれいに保たれていることが多いです。しかも一生近所づきあいをしなければならない人たちですから、ルールやマナーを守り、住人同士のトラブルも少ないように見受けられます」とのこと。
それではデメリットはどんな点があるだろうか。
「オーナーがほかに仕事をもっていて、『大家業』に専任していない場合が多いので、何かトラブルがあったときに対処が遅くなることがあります。また住める期間が短い物件も多いです」
下記にメリットとデメリットをまとめてみたので参考にしてみてほしい。
※ 物件によって条件は異なります。
それでは具体的に分譲賃貸マンションを借りる場合の注意点を見ていこう。
「まずオーナーが転勤などで一時的に賃貸に出したい場合は、あらかじめ期間が定められている定期借家というシステムを取ります。入居者は比較的短いスパンで次の賃貸を探す必要がありますから、頭に入れておく必要があります」
また、オーナーが素人であるときに注意したいポイントもある。
「エアコンなどの設備が古くなったので取り換えたいとか、水まわりが故障したという場合なども、どちらが費用を負担するのか、元の設備はどうしたらいいのかなど、通常の賃貸マンションなら簡単に対処できることが、スムーズにできなくなることも。オーナーにトラブル対処の知識がなかったり、オーナーからの回答が遅くなったりするケースもあります」
専業の大家であれば依頼する業者も決まっていたりするが、素人の場合はどこに頼むかを決めるところから始まることも多いようだ。
また通常の賃貸物件であれば、大家さんは1棟まるごと所有しているので、何か問題があれば、大家さん1人の権限でさまざまなことができる。しかし、分譲賃貸の場合は各戸を別々のオーナーが所有しているため、なんでもできるわけではない。その結果、権利関係が複雑になりやすい。
「例えば水漏れが起きた場合、その原因が自室内なのか、それとも上の階や隣の住戸なのか、あるいは建物の共用部分かで、問い合せ先も変わってきます。マンション全体の管理会社に聞けば対応してもらえますが、もめた場合は自力で権利関係を理解して解決する必要があり、大変な労力が掛かります」
さらにマンション内での約束事も複雑になりやすい。マンション全体の規約や使用細則ではペットを飼ってもOKな場合でも、その部屋のオーナーが賃貸契約でNGとしている場合は飼うことができない。「二重の取り決めがあるので、契約前にマンションの管理規約と賃貸契約の内容をしっかり確認しておく必要がありますね」とのことだ。
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それでは分譲賃貸マンションを選ぶときに、物件の良さはもちろんだが、気をつけておくべき点は何だろうか。
「オーナーがどういう背景で賃貸に出しているかをきちんと聞いたほうがいいですね。またマンション全体の管理会社はもちろんのこと、専業で大家をしているわけではない物件であれば、賃貸のための管理会社が入っているかどうかを確認するのがオススメです」
しっかりとした仲介業者に間に入ってもらえるのか、どこまで管理してもらえるのか、事前によく確認したほうがベストなようだ。
「弊社が管理を依頼された場合、一定の金額まではオーナーの了承を得る前に迅速に対処できるシステムも用意しています。水まわりやエアコンの不具合はスピードが必要とされますので、借りるほうにとってメリットが大きいと思います」。またオーナーが管理会社に賃貸して、管理会社が大家として貸している「サブリース」というシステムもある。この場合は管理の権限はプロである管理会社なので対応は一般的な賃貸物件と同等だ。
また、分譲マンションはマンション全体の管理規約や使用細則が定められている。共用施設の使用方法等も細かい取り決めがある場合が多く、入居後に後悔しないように契約前に確認しておこう。
「管理規約や使用細則があれば、契約前にお渡しして確認してもらうようにしています。ペットの足洗い場の使用方法、ピアノ等の楽器の騒音への対処方法、タバコを吸える範囲など、住環境のいいマンションほど、しっかり決められています」
外観や住宅設備などのハード面の充実は実際に目にして確認しやすいが、管理や規約などのソフト面は分かりにくい。しっかり確認して、快適な分譲賃貸マンション暮らしを満喫しよう。
分譲賃貸マンションとは本来分譲マンションとして購入されたものが賃貸物件として貸し出されたもの
分譲マンションの設備や共用施設を賃貸でも味わえるのがメリット
オーナーの転勤で賃貸に出ている場合、決まった期間しか住めない
分譲賃貸マンションを検討する際は賃貸のための管理会社が入っているか確認する
オーナーとの賃貸契約の内容とマンションの管理規約の両方を遵守する必要がある