
藤原真名美(ふじわら・まなみ)さん、酒谷粋将(さかたに・すいしょう)さんはともに建築家。2人がフルリノベーションした自邸は、あちこちにグリーンが飾られ、室内にいながら屋外にいるような洒落た空間だ。
そして「開放感を感じたくてワンルームのようにした」結果がコストカットになるという、プロならではの技を教えてもらった。
記事の目次
回遊性のあるワンルームにフルリノベーション
彼らの自邸にはドアがない。間取りをあえていうとしたら“ワンルーム”だ。
玄関を入り左側へ。目をひくのは、左手の壁一面にずらりと置かれたグリーン。廊下と言うのは少し広すぎる空間を抜ければ、リビングへ。玄関から右に行くと、ベッドスペースを通って、これまたリビングへ。ぐるりと回れる「回遊性」は、通常の分譲マンションではありえない造り。フルリノベーションだからこそ実現できたもの。


2000年に竣工した中古マンションの、元々の間取りは玄関を入って左右に居室。中央の廊下を通るとバルコニー側にLDKと居室と、典型的な3LDKだった。
「本当は80m2ぐらいの間取りを探していたのですが、予算内で見つけたのが68m2。細かく部屋を分けるより、ひとつの空間にしたほうがずっと開放的だと考えました。子どもは小さいうちは個室は必要ないですし、私達は書斎にこもって仕事をするスタイルでもないですから。その代わりに、一つの空間にさまざまな機能を持たせたほうがいいと思ったんです」


省スペースのために、通常の典型的な3LDKにある、いわゆる〝廊下〟だけの空間をなくした。
代わりに、廊下にあたる部分をあえて広く取り、“植物ストリート”を名付けたスペースに。玄関の土間でもあり、収納であり、植物を愛でるテラスであり、デスクを置いた仕事場でもある。住まいのなかの機能を複数持つ場所だ。 一方、リビンクからベッドスペースに向かう経路途中には、洗面台と洗濯乾燥機を設置。服を脱ぎ、洗濯機に入れ、収納する動作がここだけで済む。
キッチンを壁一面に設置し、キッチンの作業場を分けずLDKを一体化したことも省スペースだ。



以前住んでいた賃貸住戸はメゾネット。「メゾネットは空間が2つに分かれているので、狭く感じるんです。階段の上り下りも面倒でした。この住まいに引っ越してきて、ワンフロアで完結するのは快適だなと改めて実感しました」
コストカットのポイントは“扉をなくすこと”
そして、このワンルームにした結果が、一番のコストカットだという。
「結局、一番お金がかかるのは、ドアや引き戸といった、“扉”などの建具なんです。この家は部屋が分かれていないので、ドアがありません。クローゼットも扉を付けず、カーテンで隠しているだけ。結果的に、極力扉を無くすことで、費用を抑えられたと思います」


また、玄関からキッチンまでの壁一面の収納もポイント。用途は決めない。自転車のヘルメット、本、海外で購入した雑貨、家族写真、調理器具や食器etc. 飾り棚でもありつつ、実用的な収納は、扉がなく、すべてオープン。収納扉がないのもコストカットになる。壁一面の横のラインが流れをつくり、空間をより広く見せる役割も担う。実用性もデザイン性も兼ね備えた棚なのだ。

オーダー家具より大工仕事でコストダウン
もうひとつのコスト削減のポイントは、オーダー家具ではなく大工仕事にすること。
「例えば玄関からキッチンへの壁面収納も、窓際のデイベッドも、大工さんに依頼したものです。これを家具会社にオーダーするとそれだけで費用が何十万とかかってしまう。大工さんにお願いするので、凝ったデザインや意匠にするのは難しいですが、他の工事と併せて作業してもらえるので費用が抑えられ、工期も他の造作工事と並行して行えるメリットがあります」

素材はモダン×温かみのコントラスト。床タイルが一番のこだわり
天井も壁もクロスをはがし、コンクリート剥き出しの質感をそのまま生かしている。壁を壊して現れた縦の配管もそのままにし、コンクリートとメタルの質感を生かしている。
「通常、配管は上の階から下の階に水を流すので音がしてしまうので剥き出しにするのはおすすめできません。ただ、うちは最上階で空気抜きのためだけにある配管なので問題ありませんでした」


床材はタイル。植物をたくさん置きたかったため、水に強い磁器質タイルを選択した。「頻繁に水をあげるので、水をこぼすと通常のフローリングだと腐食しやすい。磁器質のタイルは吸水率がとても低く、水濡れに強く、カビが発生しにくいんです。床はタイルにしようは最初から決めていたことでした」
さらに高温で焼かれるため、非常に硬く、傷がつきにくい。紫外線や風雨による変色や劣化がほとんどないというメリットがあり、植物を置く床として最適なのだ。汚れが染み込みにくく、水拭きしやすい、表面が滑らかで掃除がしやすいなどメンテナンスの楽さも利点だ。

とはいえ、通常のフローリングよりは高額。「金額だけみれば、このリノベーションで最も費用がかかったのは、この床材だとは思います。ただ、面積が広い分当然ですし、部屋ごとに床材を変えるのに比べて工費は抑えられています」
管理組合の規約上、規定の遮音性を持った床材しか認められないため、もともとあったフローリングの上に下地ボード+磁器質タイルを敷き詰めた。「その分、床は5cmほど上がりましたが、天井は仕上げ材をはがして10cmほど高くしているので、全体的には天井高は5cm高くなっている計算です」
味気ないマンションの内装を美しい細部で洒落た空間に
“美しさは細部に宿る”―――建築家ならではの知識と美的感覚からくるディテールへのこだわりも、このリノベーションの肝。
例えば、玄関からリビングに至る白い壁には、縦のラインが規則的に入っている。これはぐるりとリビングと寝室の間の壁まで続き、まるでこの家のなかに、ライン模様の箱が入っているように見せている。
実はココ、トイレや収納が隠れている。
「当然、トイレや収納を開ける扉が必要なのですが、目立たなくさせたくて、最小限の取っ手を付けています。さらに、何もない壁部分にも規則的に縦のラインを付けることで、どこに扉があるか分からなくなり、すっきりミニマムな印象になるんです」

確かに、収納扉やトイレの入り口があるだけでは味気ない。この縦のラインは“リブ”と呼ばれる補強材なのだが、取っ手の役割を持つので、サイズ感が難しかったとか。「小さすぎると取っ手として掴みにくいし、大きすぎると目立ちすぎて美しくない。幅7mm奥行12mmがベストでした」

「梁の出っ張り、窓枠のサッシなど、どうしてもその年代のマンションの仕様が現れてしまう部分も隠したかったんです。壁紙をはがしたことで剥き出しになった配線もあります。バルコニーに面した窓は、もともとリビング用と個室用の窓のため大きさが微妙に違うこともアンバランスで気になりました」
そこで、梁の出っ張りを隠すように壁を設け、そこには間接照明を設置。梁と配線隠しには、棚の上に木材のカバーを設けた。左右の大きさの違うリビングの窓の片方は、造作家具を設けて、あえて窓の下を半分隠すことに。もともとある壁の手前にもう一枚壁を設けることで、サッシが見えず、まるで茶室の小窓のような雰囲気になった。サッシの中央の框部分も木の柱を置き、見えないようにさせる徹底ぶりだ。




購入したのはリフォーム済みの中古物件で、設備をそのまま流用
実はこのマンション、中古物件を買い取りリフォームして再販売中だった物件。「下見したときはちょうど工事中で、途中で中断することもできなかったんです。フルリノベーションするつもりだったので、本当にもったいなかったです」
そこでユニットバス、便器、グリル、レンジフード、食器洗浄乾燥機、ダウンライトなど、再利用できるものはすべて使った。

キッチンは「キッチンキット」という、基本セットに扉材やハンドルを自由に組み合わせる商品を使用。オーダーの造作キッチンと、システムキッチンの中間のようなもの。イチからキッチンをオーダーするより、他の建具のテイストに合わせたり、流用品を使ったり、自由度が高い。



お金をかけるところは惜しみなくかけつつ、「不要」「むしろないほうが機能的かつ美しい」と建築家ならではの知識とセンスで判断された技は、ぜひ参考にしたい。

リノベーション費用
仮設工事 34万円
木工事 254万円
給排水衛生設備工事 48万円
電気・空調設備工事 8万円
弱電設備工事 17万円
照明器具 9万円
ガス工事 7万円
住宅設備機 79万円
木製建具工事 22万円
タイル・レンガ工事 155万円
左官工事 42万円
塗装工事 47万円
諸経費 112万円
合計 834万円
税金 84万円
合計 917万円