土地の売買や相続のとき、普段はあまり使わない「登記」や「登記簿謄本」「土地権利書」などの言葉を耳にする。それぞれどんなものなのだろう。権利書は紛失したらどうなるのだろう。土地や建物の登記などに詳しい、札幌土地家屋調査士会広報部理事の荒木崇行さんに話を聞きました。
土地の地積や建物の種類、構造、床面積などの状態や土地、建物の所有者、権利関係を明確にするのが「不動産登記」です。
「どんな不動産なのか、権利関係はどうなっているのかが登録されているのが登記簿。現在は記録が電子化されたため、登記情報は紙の登記簿と併せて登記記録というデータになっています。土地の場合、所在、地番、地目、地積など物理的現況が登記記録の『表題部』に、所有権や抵当権など権利に関する内容が同じく登記記録の『権利部』に記録されています。よく耳にする『登記簿謄本』『登記簿抄本』と併せて、現在はインターネットで『登記事項証明情報』『一部事項証明情報』というのが取得できるようになっております」(荒木さん、以下同)
土地の売買や相続、贈与、交換などが行われたときには、その土地に対する所有権が変わるので、「所有権移転登記」を行います。また、土地を担保にして住宅ローンなどの借り入れを行う場合は、金融機関がその土地に対して抵当権を設定するため「抵当権設定登記」が行われます。登記は司法書士が代行するのが一般的です。
また、土地の概要を明確にする表示登記というのもあります。土地を売買や相続で分割する場合は「土地分筆登記」、複数の土地をひとつにまとめる場合は「土地合筆登記」、農地を宅地するなど土地の地目変更を行う場合には「土地地目変更登記」を行います。これらの表示登記は土地家屋調査士が代行して行います。
では、土地登記費用はいくらくらいかかるものなのでしょう。登記には「登録免許税」などの実費のほかに、手続きを代行してもらった場合の司法書士や土地家屋調査士への報酬がかかります。報酬は司法書士や土地家屋調査士によって、また、地域によっても違います。
※司法書士報酬、土地家屋調査士報酬は、対象になる土地、建物の有無、地域、依頼先などによって異なります。また、登記の事前調査費、必要書類取得費、立会の日当がかかる場合があります。依頼を決める前に費用の目安を尋ねておきましょう。
所有権移転登記 | 相続や売買、贈与、離婚などによる財産分与などで土地の所有者が移転する場合に行われる登記 費用の目安: 登録免許税:売買の場合は不動産価額の2%(2026年3月31日までの間に登記を受ける場合は1.5%に軽減) 司法書士報酬:5万~10万円 |
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抵当権設定登記 | 債権者(借り手)が債権者(金融機関等)と抵当権設定契約を締結する場合に行われる登記 費用の目安: 登録免許税:住宅取得資金の貸し付け等の場合は債権金額の0.1%(2027年3月31日まで) 司法書士報酬:5万~10万円 |
土地分筆登記 | ひとつの土地を分割して売買や相続、贈与などを行う場合、土地家屋調査士が調査・測量を行い登記する。※土地登記簿ではひとつの土地を指す単位を「筆」という 費用の目安: 登録免許税:土地分筆後の筆数×登録免許税1000円 土地家屋調査士報酬:土地の広さ、状況などによって異なる。また土地分筆登記をするために土地の測量が必要になります。 |
土地合筆登記 | 複数の土地をひとつにまとめる場合に行う登記 費用の目安: 登録免許税:土地合筆後の筆数×1000円 土地家屋調査士報酬:4万~5万円(2筆を1筆に合筆した例)、必要書類がない場合は別途費用が掛かる場合があります。 |
土地地目変更登記 | 農地などを宅地に変更して家を建てた場合など、土地の用途変更を行った場合に行う登記 費用の目安: 登録免許税:かからない 土地家屋調査士報酬:4万~4.5万円(1筆あたり) 農地転用の証明や届け出が必要な場合は別途行政書士に依頼する費用が掛かります。 |
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不動産を取得した場合、一般的に所有権に関する登記が行われます。これは、住宅ローンを借りて抵当権の設定をする場合、所有権の登記がされていることが前提になりますし、未登記のままだと将来売却をしたくてもスムーズに取り引きできないためです。
注意したいのは、相続で不動産を取得した場合です。これまでは所有権の移転登記をする・しないは自由でしたが、所有者不明の不動産が増えて社会問題になったことから、相続で不動産を取得した相続人は、知った日から3年以内に相続登記をすることが義務化(※2024年4月1日以降)されました。正当な理由がないにもかかわらず登記の申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。
なお、どんな不動産なのかを明確にした「表題部」については登記が義務づけられています。不動産取得から原則1カ月以内に登記をしなかった場合は、10万円以下の過料が設定されています。
「土地権利書や権利証という呼び方は通称で、正確には『登記済証』といわれるものです。そして、不動産登記法が改正されて平成17年3月7日以降は『登記識別情報』が発行されています。どれも、その所持者が登記名義人であることを証明するものです」
登記済証は、登記申請書の写しに、「登記済」と押印されたもので、登記手続きが完了したあと登記名義人返還されていました。登記済証という紙そのものが権利証となります。登記識別情報はそこに記されているアラビア数字などによる符号です。符号は目隠しのシールが貼られている様式でした。その後、2015年2月23日から様式が変更になり、目隠しシールではなく登記識別情報が見えないように用紙が折り込まれ、のり付けされる様式に(ただし、印刷用の装置がこの様式に対応できるものに交換された登記所から順次変更)。
「登記識別情報が必要になる場面の多くは、土地を売るときや相続が発生したときです。譲渡や、あまり多くありませんが寄付をするときにも、その土地の持ち主を明確にする証拠として登記識別情報が使われます」
そのほか、土地の合筆登記が行われる際にも、土地の所有者を証明するために使用されます。
登記識別情報が必要になる場面は、そう何度もやって来ません。また、実は保管の義務もありません。とはいえ、所有者本人であることを証明するための便利なものなのです。
結論からいうと登記済証、登記識別情報を再発行してもらうことはできません。
「紛失してしまっても、登記申請などの際に所有者本人であることを証明する方法はあります。ひとつは事前通知による方法。例えば、法務局の登記官が、登記申請があった旨と、その申請内容が真実である場合は一定の期間内にその申し出をするべき旨を、本人限定受取郵便を使って通知することで本人確認を行います。この通知に返信がなければ、本人確認ができないということになり、登記官は登記を行いません。そのほか、司法書士や土地家屋調査士、弁護士といった登記官以外の資格者が本人確認を行う制度もあります」
これらの制度は、登記の予定がない段階で行うことはできません。事前通知による本人確認には2週間~1カ月程度など、時間もかかります。土地を売却しようというときに、売主の都合で登記までに時間がかかることが分かると、買主はほかに良い土地を見つけて購入をキャンセルする可能性もあります。登記識別情報があれば手続きはスムーズでスピーディーですから、必要なときにすぐに出せるよう大切に保管しておきましょう。
土地の概要や権利関係を公的に明確にするのが不動産登記
土地権利書は、正式には登記済証、登記識別情報と呼ばれるもので、所持者=登記名義人と証明するもの
登記済証、登記識別情報の再発行はしてもらえない