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「生活に便利な街中や海の近く、見晴らしのいい高台に住みたい」など、立地は家を建てる際の重要なポイントです。しかし、そのエリアが「宅地造成等工事規制区域」である場合、家を建てる前にその区域を定めている法律や具体的な注意点などを確認しなければなりません。そもそもそういった区域を決めている「盛土規制法(旧宅地造成等規制法)」とは、どのような法律なのでしょうか?一級建築士の佐川旭さんに教えていただきました。
「宅地造成等規制法」が改正され、「盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)」が2023年に施行されました。まずは宅地造成工事に関する法律の内容に触れながら、法改正に至った経緯について解説します。
傾斜地に家を建てる際には、地面を削り取ったり土砂を盛ったりする土地の水平化が必要です。傾斜地や低地に土砂を盛り上げることによって、平らな新しい地盤をつくることを「盛土(もりど)」と言い、反対に地面を削り取って地盤を平らにすることを「切土(きりど)」と言います。では、なぜこの盛土・切土が法律で規制されているのでしょうか。
従来、国は土地開発を規制し、安全性を保つ目的で「宅地造成等規制法」を定めていました。規制が必要とされる災害の発生リスクが高いエリアは、各都道府県知事等(※)が「宅地造成工事規制区域」として特定し、その区域内にて宅地造成の工事を行う場合は、許可申請を義務付けていました。しかし、崩壊のリスクがある盛土等に関して、この規制が十分に整っていないエリアが所在していたのです。
こうした中、法改正の大きなきっかけとなったのが、2021年(令和3年)7月に発生した静岡県熱海市の甚大な土石流災害です。災害関連死1名を含む28名もの尊い命が失われたこの災害は、ずさんな造成工事による盛土が大雨で崩壊したことが要因でした。
※都道府県知事等とは、(1)都道府県知事(2)政令市・中核市・施工時特例市においては、それぞれの長(3)地方自治法に基づいて、都道府県知事から許可等の権限を移譲された市町村の長のこと
国は根本的に「宅地造成等規制法」の見直しと改正を行いました。改正後の正式名称は「宅地造成等規制法」から「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)」に変更され、施行されました。盛土等による災害から国民の命を守るため、土地の用途を問わず、総括的な規制を行うよう定められています。
このほか、以下の内容が盛り込まれました。詳しいガイドラインと施行令については、次の章でご紹介します。
前述したとおり、「宅地造成等規制法」とは、崖崩れや土砂災害などが特に懸念されるエリア内での宅地造成の工事に関して、災害防止のために必要な規制を行うことを目的に、1961年(昭和36年)に制定されました。
しかし、崩壊のリスクがある盛土などが十分に規制されておらず、実際に甚大な土石流災害が発生したことから見直しが進められ、2023年(令和5年)に根本的な改正が行われました。
「宅地造成」とは、森林や農地などを宅地(建物を建てられる土地)に生まれ変わらせるために、傾斜のある土地を水平化するなど、土地の形状などを変更することです。また、地盤改良や工場跡地を住宅地にする場合も宅地造成に含まれます。一定規模以上の土地を宅地造成する場合、都市計画法等によって、各都道府県知事等からの「開発許可」を受けなければなりません。
2023年(令和5年)5月より新たに施行された「宅地造成及び特定盛土等規制法」においては、改正の題材を「スキマのない規制」と示しており、規制区域の範囲ならびに規制する行為の両方で拡大しています。
規制区域は、「宅地造成等工事規制区域(宅造区域)」と「特定盛土等規制区域(特盛区域)」に分類されます。規制区域の指定基準については、のちほど詳しくご紹介します。
盛土等の安全性を保つため、盛土等を施すエリアの地形・地質等に応じて、災害防止に必要な許可基準が設定されました。事前に工事の計画を審査するとともに、施工状況の定期的な報告と、施工中の中間検査ならびに工事完了時の完了検査を実施し、基準に沿った安全対策の実行状況を確認します。
盛土等に対する災害防止の具体的な安全基準としてチェックすべきことは、「擁壁の設置」や「排水施設の設置」、「盛土の締め固め」です。また、一時的な堆積に対しては「地盤の勾配」や「堆積の高さ」、「境界柵までの空き地の確保」などが求められます。
宅地造成及び特定盛土等規制法では、盛土等が施された土地所有者が、安全な状態を維持する責務を有していることを明確化しています。こちらは、他人から譲渡された土地に関しても、その時点の土地所有者には、安全状態を維持する責務が発生する仕組みです。
災害防止に必要な場合は、土地所有者だけではなく、盛土等を施した造成主や工事施工者、以前の土地所有者など、原因行為をした者に対しても、是正措置命令を下せることが定められています。
無許可の開発工事や命令違反等に関しては、抑止力として十分機能するために、条例における罰則の上限をはるかに超える、厳格な罰則を制定しています。これまでは、無許可の宅地造成に関しては「6カ月以下の懲役、30万円以下の罰金」、知事等からの命令違反は「1年以下の懲役、50万円以下の罰金」、条例における罰則は「2年以下の懲役、100万円以下の罰金」が上限とされていました。
しかし、宅地造成及び特定盛土等規制法では、無許可や命令違反の盛土等は「3年以下の懲役、1,000万円以下の罰金」に厳格化され、法人が違反に関与していた場合は「最大3億円以下の罰金」が科されます。罰則が適用される対象者も造成主のみならず、造成設計者や土地所有者、工事施工者などと幅広くなりました。
先述したとおり、盛土規制法では大きく2つの規制区域が設けられています。それぞれの指定基準ならびに、規制対象行為を見ていきましょう。
すでに完成している市街地、または今後市街地に生まれ変わるであろうエリアに対する、宅地造成等工事規制区域の特定は旧法と同じですが、新法では盛土等の発生リスクがある農地や森林、平地部なども指定基準となっています。
市街地から離れた距離にあっても、盛土等が崩壊・流出した場合に、地形・地質等によって民家へ被害をもたらしかねないエリアが指定されています。
2種類の規制区域の特定により、規制されるエリアは拡大されました。
範囲は都道府県によって異なりますが、例えば、東京都では島しょ部を含むほぼ全域が宅地造成等工事規制区域、または特定盛土等規制区域に指定されています。
では、規制区域はどのように確認するのでしょうか。
宅地造成等工事規制区域に特定されている場所に関しては、各都道府県庁で調べることが可能です。さらに、都道府県から許可を移譲されている政令指定都市や中核市などの市役所で調べられる場合もあります。
公式サイトに詳細を公開しているケースも多いので、購入を検討している土地が規制区域内にあるかどうか、気になる場合は一度調べてみましょう。また、規制区域内の土地や住宅を購入する場合には、仲介の不動産会社が教えてくれます。
規制区域内で新たに土地を造成する場合だけではなく、造成済みの宅地においても、既存の擁壁や排水設備が危険だと判断された場合には、改善の勧告を受けることがあります。この際の工事にも許可が必要です。
また、宅地に建てた住宅に住み、増改築をするために新たに盛土を施すなど、後から宅地造成工事を加える場合にも、その都度申請して許可を受けなければなりません。
特定盛土等規制区域においては、地形等の特性を踏まえた技術的基準が設けられています。
宅地造成工事規制区域・特定盛土等規制区域における切土・盛土等については、危険な事故を避けるために以下の規制対象が定められています。
■規制対象行為と必要となる手続き

特定盛土等規制区域における以下の工事は届け出が必要となります。





また、高さ2mを超える排水施設や擁壁の除却(取り壊すこと)を行う場合にも、届け出が必要です。
盛土等の許可を得る場合は、事前に該当地域の開発許可・盛土等の申請・相談窓口に連絡したうえで、必要書類を期限までに提出しましょう。例えば、東京都中央区では工事着手の30日前までに以下の書類の提出が必要です。
<東京都における申請書類の例>
必要書類(PDF)のダウンロードや確認については、該当地域の相談窓口で確認しましょう。
許可申請から工事完了までは、「①許可申請前の作業(土地所有者などの全員の同意を得る、周辺住民への周知活動)→②許可申請・許可取り→③工事着手→④工事完了」の流れで進んでいきます。工事中には安全管理のために、次の検査や報告が求められます。
さらに工事完了後には、安全基準への適合を確かめる完了検査がなされます。
宅地造成等工事規制区域の土地や住宅の購入を検討する際には、どのようなデメリットが生じるのでしょうか。
規制区域内に土地を購入し、造成工事を自らの責任で行う場合は、盛土等の造成が不要な土地と比べると、費用がかさみます。具体的には、造成工事費用や残土の処理費用、運搬費などが含まれるためです。ただし、その分、土地の価格自体は安くなる傾向にあります。
規制区域内の土地を購入する際は、土地の価格と工事費用を合わせて、トータルでどのくらいかかるのか、事前に調べておきたいところです。とはいえ、造成工事の費用はその土地の状況によって異なるため、一概に盛土や切土は「○○円」と提示できないことが実情です。規制区域内の土地を購入したい場合は、販売している不動産会社などにまずは相談してみることからスタートすることです。
宅地を整えるために、擁壁をつくるなどの開発工事を行う場合は、各都道府県知事等から開発許可を取得しなければなりません。申請書を提出してから許可を得るまで、一般的に3カ月以上かかると言われており、手続きから着工までの期間も含め、結果的に工期が長くなる点がデメリットです。実際には土地の状況次第により、工期の長さも異なります。
宅地造成等工事規制区域の土地や住宅の購入を検討する際には、検査済証の確認などが必要です。どのような点に注意すべきか、購入する物件の特徴別に見ていきましょう。
規制区域内の分譲地を購入して家を建てる場合は、すでに必要な造成工事を終えてからの販売になるため、宅地造成費用は土地の価格に含まれており、土地の購入費以外に工事費用として払うことはありません。購入時には、工事が基準に適合していることを表す「検査済証」を必ず確認しましょう。
規制区域内で中古一戸建てを購入する場合も、同様に「検査済証」の有無を確認しましょう。石積みの古い擁壁など、法律が施行される以前に造成が行われた部分の中には、確認申請をしていないものもあります。万が一、検査済証を確認できない場合は地域の行政相談窓口に確認しましょう。
また、既存の擁壁や排水施設が老朽化により危険性が高いと判断されると、改善命令を受けることも考えられます。その場合は、許可を取得して造成工事をやり直さなければなりません。そのため、「検査済証」の確認に加えて、必ず現地へ行き、目視して状態を確認することが必要です。
もし不安を感じるようなら、建築士や専門家などに相談し、仮に将来的に造成工事が必要になるのであれば工事費用なども調べておくことをオススメします。
規制区域内において、新築・中古いずれのマンションを購入する場合も、同様に「検査済証」の有無を確認しましょう。中古マンションを購入した場合、万が一、居住後に造成工事が必要になった際は、管理組合によって工事が行われるので、その工事費用も積立修繕金に含まれているかを確認しておくと安心です。
以上のように、土地を購入した後に造成工事を行おうとすると、費用や工期が余分に発生します。目先の価格だけで判断せず、造成の必要性も含めて、トータルで検討することがとても重要です。
崖崩れや土砂災害などが懸念される区域内で行う宅地造成工事には許可が必要
2023年の法改正により、規制区域の拡大を進めるほか、無許可・命令違反が厳罰化された
工事中には現場での標識掲示や定期報告、中間検査などの義務が課せられる
宅地造成等工事規制区域内の土地や住宅を購入する際は、デメリットや注意点を要チェック