今、住宅ローンは超低金利。最も低いところで、変動金利は0.5%未満、全期間固定金利も1%台前半が続いている。この状況はいつまで続くのだろう。2021年の金利の推移や、低金利の活かし方などをファイナンシャル・プランナーの菱田雅生さんに聞いた。
今、住宅ローンを借りる場合、どれくらいの金利で借りられるのだろう。
過去3年間の全期間固定金利、変動金利を見てみよう。全期間固定金利型の代表といえる【フラット35】の金利推移はほぼ1%台が続いており、2017年10月から団体信用生命保険に加入する場合は金利が上乗せになるものの、1.5%を切る金利で借りられるケースが多い。変動金利の金利推移も店頭表示金利は2.475%だが、新規で借りる場合は全期間固定金利よりも低い金利(優遇金利、引き下げ金利)が適用されるのが一般的だ。
現在の金利がいかに低いかは、1984年からの金利推移のグラフで一目瞭然。下のグラフの変動金利型で一番高いのは1991年の8.5%。バブル崩壊後、徐々に下がり1995年からは2%台となっている。もしも今、金利8.5%で1000万円を借りるとすると、35年返済なら毎月返済額は7万4686円。店頭表示金利の2.475%なら3万5615円、引き下げ金利で0.5%で借りられたとすると2万5958円。低金利の今のほうが、返済額はぐんと少なくなる。
金利 | 毎月の返済額 |
---|---|
金利:8.5% | 7万4686円 |
店頭表示金利:2.475% | 3万5615円 |
引き下げ金利:0.5% | 2万5958円 |
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アメリカでは中央銀行(FRB)が景気過熱を抑えるために政策金利を段階的に引き上げていたが、2019年以降、利上げは見送られ、2020年12月16日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)でも、政策金利の誘導目標は0.00~0.25%に据え置かれた。20年以上低金利が続いている日本の住宅ローンにも、影響するのだろうか。
「金利は景気や物価、為替レート、海外金利などさまざまな要因で変動しますが、大きく影響するのは日本銀行の金融政策です。日本では年2%の物価上昇が見えてこない限り金利アップはなさそう。少なくとも半年~1年、2年くらいは低金利が続くのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症拡大が収束し、景気回復が明らかになって株価がさらに上昇するような状況になれば、住宅ローンの金利アップも考えられます」(菱田さん、以下同)
まだしばらくは低金利が続きそうな今、住宅ローンを借りるのはどんなメリットがあるのだろう。
「まず、金利負担が軽いのが大きなメリットです。今は【フラット35】も1%台。住宅ローン控除(住宅ローン減税)でローン残高の1%が控除され、実質ゼロ金利で住宅ローンが組めます。金利が今よりも高かったころに比べて有利といえます」
では、金利によって総返済額がどれくらい違うのかを見てみよう。下の表は「5.5%(※1)」「2.92%(※2)」「1.29%(※3)」で借りた場合。どれも完済まで金利が変わらないものとして毎月返済額、総返済額、総返済額のうちの利息を試算している。
例えば、3500万円を借り入れた場合、2020年1月の【フラット35】(住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する住宅ローン)の金利1.29%なら毎月返済額は10万3600円。しかし、過去の住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)の最も高かったときの5.5%なら毎月返済額は18万7955円。1.29%で借りる場合に比べて8万4355円多い。利息の支払いは約3543万円も多くなる。
金利5.5%(※1) | 金利2.92%(※2) | 金利1.29%(※3) | |
---|---|---|---|
毎月返済額 | 8万552円 | 5万7059円 | 4万4400円 |
総返済額 | 約3384万円 | 約2397万円 | 約1865万円 |
総利息 | 約1884万円 | 約897万円 | 約365万円 |
当たり前だが借入額は少なければ少ないほど返済額は減る。では、返済額を減らそうと頭金が増えるまで待って住宅ローンを借りるときに、今よりも金利が上がっていたら毎月返済額や総支払額はどうなるのだろう。
そこで、5000万円の家を「頭金1割、借入額4500万円」で買うcase1と、1年間、積み立てをして頭金を増やし「頭金1.5割、借入額4250万円」で買うcase2を比べてみた。
頭金500万円を用意し、5000万円の家を借入額4500万円で購入する場合。
【資金計画】
頭金500万円 借入額4500万円
金利1.29%(全期間固定金利) 返済期間35年
▼
毎月返済額 13万3200円 総返済額 約5595万円
頭金500万円も含めた総支払額 約6095万円
1年かけて頭金を増やし、借入額を4250万円に減らす。借入時に金利が1.8%にアップした場合を想定。
【資金計画】
頭金750万円 借入額4250万円
金利1.8%(全期間固定金利) 返済期間34年
※頭金を貯める1年を含め、35年の資金計画とした
▼
毎月返済額 13万9348円 総返済額 約5686万円
頭金750万円も含めた総支払額 約6436万円
※借入額を減らしたのに支払額は多い(さらに、1年間の家賃負担もプラスされる)
case2は頭金を増やした分、借入額は少なくなる。しかし、金利が上がったことで、借入額が少ないcase2のほうが毎月返済額が多い結果に。頭金も含めた総支払額は、1年間がんばって頭金を増やしたcase2のほうが約341万円(+1年間の家賃分)多くなっていた。
つまり、返済額を減らそうと頭金を増やすために時間をかけている間に金利が上がってしまった場合、金利の上昇幅や頭金額によっては、たとえ借入額が多くても低金利のうちに借りたほうが総支払額は少なくできるということだ。
今は超低金利だからと安心しすぎてはいけない。菱田さんに注意ポイントを聞いてみた。
「変動金利を借りる場合は将来の金利が確定していないことに注意が必要です。これから住宅ローンを借りようとしている人に、私がよくする質問は『これからの住宅ローンの金利は、上がる余地と下がる余地、どちらが大きいと思いますか?』。ほとんどの人が、上がる余地のほうが大きいと答えます。今の変動金利は年0.5%程度。下がる余地はほとんどなくなってきていると言えるでしょう。でも、過去の金利推移を見ると8.5%という時期もある。上がる余地のほうが大きいのです。おトクかどうかより安全策をとったほうがいいし、それであれば全期間固定金利の住宅ローンを選ぶほうがいいはずです」
とはいえ、今、1%を切る金利で借りられる変動金利に魅力を感じる人は多い。借りたあとに金利が上昇しはじめたら、もっと低い金利の住宅ローンを探して借り換えればいいと考える人もいるだろう。
「変動金利の多くは短期プライムレート(金融機関が優良企業に対して1年未満の短期で融資をする際に適用する金利)に連動し、固定金利は長期金利(10年満期の国債の利回り)に連動する傾向にあります。そして、金利が上昇するときには長期金利から上昇し始めるので、固定金利のほうが金利上昇のタイミングが早い。変動金利が上昇する局面では、固定金利はすでに上がっているでしょう。その時点でより低い金利に借り換えようとしたら、他の金融機関のキャンペーン金利を探すなどの必要があり、借り換えはなかなか難しくなります」
安全を第一に考えるのか、低金利の返済額の少なさを享受したいのか、変動金利を使うなら、将来の金利が上がっても大丈夫なのか、冷静に資金計画を立てることが必要だ。
住宅ローンの金利が低い今は、買い時といえるのだろうか。
「いつ買うか、そのタイミングは人それぞれです。結婚と同時、第一子誕生、入園や入学など、ライフプラン上にはさまざまな買い時があります。すでに子どもが成長していて進学や独立で家を出るまであと数年であれば、それほど大きな家は必要ないなど、どんな家を買うかもタイミングによって違ってきます。家を買うのであれば、自分にとって最適な買い時をそれぞれに考える必要があります。低金利だからといって、無理な購入をすることは避けましょう」
金利が高かったころに比べて、今は毎月返済額や総返済額を抑えることが可能な時期。しかし、低金利だからといって無計画な借り入れをすると、せっかくのマイホームが大きな負債となる可能性もある。まわりに流されず、無理のない資金計画で低金利のメリットを活かしたい。
住宅ローンの実質金利は、変動金利で0.5%未満、全期間固定金利も1%台前半の超低金利
金利負担が少なくてすむことが、今、住宅ローンを借りるメリット
将来、金利が上昇した場合、今よりも低金利のローンに借り換えるのは困難な点に注意
自分にとって買い時か、金利が上昇しても返済していけるかが住宅購入に必要な視点