「理想のマイホームを手に入れたけれど、○○だけは後悔している」「失敗したと思っている箇所がある」といった話を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。イメージ優先で間取りを決めたり、流行の設備を取り入れたりした結果、実際の使い方に合わない家になるということもままあるものです。せっかくマイホームを建てるのであれば後悔・失敗したくない、そのため「マイホームづくりで知っておきたいポイント」について、アキ設計の竹内さんと、住友林業の中野さんに伺いました。間取り編と設備編に分けてご紹介します。
リクルート住まいカンパニーが、注文住宅の建築者・検討者を対象に行った「2019年 注文住宅動向・トレンド調査」によると、建築者が取り入れた間取りのランキング1位はウォークインクローゼット、2位はカウンターキッチン、3位はシューズクローク、4位はパントリーでした。
●2019年 注文住宅動向・トレンド調査(リクルート住まいカンパニー)
順位 | 間取り | n=1,884 |
---|---|---|
1 | ウォークインクローゼット | 56.4% |
2 | カウンターキッチン | 55.0% |
3 | シューズクローク | 52.2% |
4 | パントリー | 44.5% |
5 | 室内干しスペース(洗濯など) | 41.0% |
6 | オープンなLDK | 40.1% |
7 | 階段下収納 | 38.1% |
8 | 畳コーナー | 37.0% |
9 | ゆっくり入浴できる広い浴室 | 29.8% |
10 | リビング階段 | 23.9% |
ランキングの上位の間取りについて、プロの意見を紹介します。
アキ設計の竹内さんによると、第4位のパントリーは、子育て世帯・Dinks(ディンクス)世帯・シニア世帯と、どの世帯にも人気がある間取りだそうです。
「パントリーは食品や日用品のストック置場として喜ばれますね。シニア世帯は買い物の回数が少なくて済みますし、子育て世帯は大量に消費しますから、備蓄用のスペースとして使われているようです」(竹内さん)
第3位のシューズクロークは靴を収納するだけではなく、趣味のグッズを収納したり、ベビーカーや三輪車のほか子どもが屋外で使う遊具を収納するスペースとしてどの世帯にも人気の高い間取りです。散らかりがちな玄関をスッキリできるメリットもあります。
そして子育て世帯に特に人気の間取りが、第2位のカウンターキッチン。
「お子さんが遊んだり、勉強したりする様子を見ながら料理ができますし、対面式なのでお子さんに食後の片付けを手伝ってもらったり、会話をしながら作業できるということで、どの家族構成の世帯にも喜ばれます。
工夫ポイントは、キッチン前のカウンターを少し高めにすること。水はねを防げますし、来客時に料理中の手元を見られることもなくなって、快適ですよ。
人気のあるカウンターキッチンですが、スペースに余裕がない家で採用するとLDスペースが狭くなってしまうことがあります。壁付けキッチンの方がスペースを有効活用できる場合も多いので、設計士に相談してみてください」(竹内さん)
1位に「ウォークインクローゼット」が入っているのを見てもわかる通り、クローゼットは今や必須の間取り。しかし、収納を広くとることによって、意外にも後悔につながることがあるようです。
「ウォークインクローゼットは人気ですが、ただ広いスペースを確保するだけでは後悔することになるかもしれません。適正量以上に物をしまいこんで、出し入れがしにくくなり、有効に活用できないといったことが起こりがちなのです。
せっかくのウォークスルークローゼットなのに、通り抜けできなくなってしまうことも……。失敗しないためにはどこに何をしまうかを想定して棚をつけたり、使い方をイメージした間取りにしたりといった工夫をすることが大切です」(竹内さん)
人気の間取りとは別に、オススメの間取りについても竹内さんに聞いてみました。
「リビングの一角を可動間仕切りで仕切れるようにしておくと、ゲストルームとして活用できて便利です。例えば子育て世帯の場合は、子育てを手伝いにきてくれたご両親が泊まれるスペースとして。シニア世帯の場合は、お子さんやお孫さんが遊びに来たときに泊まれるスペースになります。
普段は可動間仕切りを開けてリビングを広々と使えるようにしておけば、無駄なスペースもできません」(竹内さん)
住友林業の中野さんには、間取りについて考える際のポイントについて伺いました。
「家は何十年もの間、長く住むものです。10年後、20年後に家族がどの様な生活をしているかを考えながら、将来も快適に暮らせる間取りにすることが大切です」(中野さん)
パントリーは食べ盛りの子どもたちのために備蓄が必要な子育て世帯から、買い物の回数を減らしたいシニア世代まで使えますし、可動間仕切りも、子育て世帯は両親が泊まるスペースづくりに、シニア世代はお子さんやお孫さんが泊まるスペースづくりにとずっと活用できますから、まさにこの考え方に沿ったプラニングと言えます。
「他にも、ご夫婦で食事の用意をするお宅ではキッチンをぐるりと回れるような動線にしておくと、お互いへの干渉が少なくなるので便利だといったお声も多く聞かれますね」(中野さん)
「取り入れて良かった!」人気の設備はどのようなものがあるのでしょうか。こちらもプロの意見を紹介します。
竹内さんによると、キッチンで人気の設備のひとつは「IH調理器」。
「安全なので、お子さんにお手伝いをしてもらうときも安心です。掃除もしやすいですし、火力が強いので調理の時短にもなります」(竹内さん)
子どもが小さい世帯だけでなく、火の消し忘れが心配なシニア世代の方にも安心して使っていただけます。
キッチンで人気の設備、もうひとつは「食洗器」。
「共働き世帯や、家族の人数が多い家、人がたくさん来る家に好評」だそうで、時短効果が高いことが人気の理由と言えそうです。
ただし、食洗器には後悔しないように注意したいポイントが。
「家族の人数が少ないご家庭や、家族の食事時間が一人ひとり異なるご家庭など、洗い物が少しずつしか出ないケースもあります。洗い物が少ないのに食洗器を回すことや、洗い物が溜まるまで待つことに抵抗を覚える人は、食洗器導入をよく検討した方がいいですね」(竹内さん)
どちらも比較的新しく普及した設備のため、初めて使ってみて、便利さを実感している人が多いのかもしれません。また、キッチン全体のポイントとして「収納にこだわる人も多いのですが、『〇〇専用の引き出し』といった風に細かい収納をつくりすぎると、後から使い方を変えられず不便になることもあります。暮らし方は変化していくので、ある程度フレキシブルな収納にしておくのがオススメですよ」(竹内さん)とのことでした。
また、バスルーム&ランドリーで人気なのは「浴室暖房」。
「ヒートショック(居室とバスルームの温度差で起きやすいとされる急激な血圧変動)を避けるために、特にシニア世代にオススメの設備ですが、赤ちゃんやお子さんがいるご家庭にも好評です」(竹内さん)
浴室暖房は浴室乾燥を兼ねるタイプも多いため、洗濯物が多くなりがちな子育て世代には一石二鳥の設備といえます。
そして、注意するべきポイントは「広すぎる浴槽」。
「お子さんや高齢者の方がすべって溺れる危険性があるので、手すりをつけるなどの対策が必要です。『必要になったときに付ければいい』と考えるかもしれませんが、実はユニットバスの浴槽内には手すりを後付けできないのです」(竹内さん)
あらかじめ先を見越して考えておくことが大事です。
リビングの設備で人気なのは「壁掛けテレビ」。
「省スペースで、掛けたまま角度や向きを変えられるので便利です。地震がきても安心なところもポイントですね」
注意するべきポイントとしては、「模様替えなどで簡単にテレビの位置が変更できないので、導入する場合は、設置場所をよく検討して決めましょう」(竹内さん)
他に、リビングで人気の設備として中野さんが挙げてくれたのは「無垢材の床」。
「天然木は、木目や色合い、節などが住む人にぬくもりを感じさせてくれますし、肌触りもとてもよいです。無垢材は、住む人とともに時を重ね、豊かな風合いへと変化していき愛着も増していく素材です。後から床を張り替えるのは大変ですから、やるなら思い切って建てるときに!」
一方、竹内さんによると無垢材の床には知っておくべきポイントも。「材質によっては傷つきやすかったり、汚れやすいことも。自然素材にこだわりがある方、こまめに手入れができる方であれば問題ないのですが、そういった手間をかけたくない場合は、シート張りのフローリングの方がラクかもしれません」
無垢材の床のぬくもりを重視するなら多少の傷や汚れも家の持ち味になると考えるか、お手入れがラクでキレイなシート張りを選ぶか……家族とよく話し合って決めましょう。
また、内玄関に「人感センサー付き照明」をつけるのも人気だそう。
「帰宅や外出の際いちいち付けたり消したりしなくてもいいのはやはり便利。消し忘れの心配もありません」
省エネの観点からも魅力的です。内玄関だけでなく、トイレや階段、廊下などにもオススメの設備です。
プロから見てオススメの設備が、キッチンの「床暖房」。
「キッチンが冷えやすい場所にあったり、冷えやすい床材を使っていたりする場合、足元が冷えがちです。床暖房があると、寒い時期でも快適に過ごせますよ」(竹内さん)
キッチンにいる時間が長かったり、朝早くからお弁当をつくったりする人などは、検討してみるといいでしょう。
バスルーム&ランドリーのオススメは「室内物干し」。浴室乾燥機を使うほどの量ではないけれど、少しだけ干したいときに便利です。
「大量の洗濯物でなければ、室内干しでも意外と乾いてしまいます。夜間や花粉の時期にも、室内であれば気兼ねなく洗濯物を干せますよ」(竹内さん)
洗濯物をかけるときは低い位置で、干すときは高い位置へと移動できる昇降式だと、動線の邪魔にもなりません。
また「コードレス式インターホン」もオススメの設備だそう。
「在宅勤務で書斎にこもる」、「洗濯物干しのために2階のベランダにいる」など「インターホンの設置場所へサッと移動できないときにも、コードレスなら家の中で持ち歩けるので、来客にすぐ応答できて便利です」(竹内さん)
中野さんには、設備の選び方のポイントを伺いました。
「共働きのお客様が増えてきていますので、時間を少しでも短縮できる設備の導入や動線計画を提案しています。洗面所を複数人で使用できるような設備やスペースを大きめにして朝の混雑を緩和させるなどの工夫が喜ばれています。
そして宅配ボックスは今やマンションだけでなく、一戸建てでも必須の提案アイテムです。
こうした設備や動線の工夫で時短になり、それによって生まれた余裕時間を、家族とのコミュニケーションに使いたいという方も増えています。家族でゆったりくつろげるウッドデッキの人気も高いですよ」(中野さん)
そのほか、時短ができる設備としては食洗器や掃除が楽なレンジフードや浴槽・トイレなどがあります。
設備を選ぶポイントは、時短の機能も取り入れながら、設備機器の「使い勝手」もチェックするとよさそうです。
家族みんなが納得する、後悔・失敗しない家づくりのポイントは、
「外観、内装、インテリアなど、お好みのイメージを整理することが大事です。雑誌やカタログでお好みの写真を切り抜きしたり、付箋を貼ったりして、ご自分のイメージを整理していくのもオススメです。
曜日毎や時間毎に『家族の誰が、何処で、何をしているか』などをまとめるのも、間取りをつくるうえでは大切ですよ」(中野さん)
「希望の間取りや設備をすべて取り入れようとすると、予算をオーバーしてしまいがち。ですから、本当に必要なものを見極めるために、どういう暮らしをしたいかを家族でよく話し合うことが大切です。
また『今使いやすい家』であるだけでなく、『将来のライフスタイルの変化に対応できる家』にしておくことも大切です。設計者と相談して、フレキシブルに暮らしていける家を計画しましょう。
最近では在宅勤務(リモートワーク)や自宅で勉強することも増えています。今までとは違う自宅の活用方法も考えなければならない時代になってきましたから、そういったこともしっかり考慮しておきたいですね」(竹内さん)
夢のマイホーム、憧れや希望をかなえるためには、家族ひとりひとりの要望を洗い出し、将来の見通しなどもイメージすることが大切です。後悔・失敗しないマイホームづくりを目指しましょう。
パントリーや可動間仕切りなど、使い方は変わってもずっと活用できる間取りを考えておく
時短など「使い勝手」のための設備と、くつろげる「居心地」のための設備のバランスを
間取りも設備もフレキシブルに考え、今だけでなく将来も快適に暮らせる家を