家を狭くする減築リフォーム。検討する中で、費用や手続きなどについて不安に思っている人も多いのではないでしょうか。今回は減築の費用の目安やメリット・デメリット、減築の際の注意点などについて住友不動産 新築そっくりさんの中村さんに伺いました。減築の実例も合わせてご紹介します。
減築とは建物の床面積を減らすリフォームを指します。階数を減らしたり、部屋ごと撤去したりと大掛かりな工事になりますが、建物を解体し、一から新しい建物を建てる建て替えとは異なります。
「減築といってもいろいろなケースがあります。ライフステージの変化で家族構成が変わり、夫妻二人には広すぎるという理由で減築する場合に加え、駐車スペースが必要になるなど、スペースの用途を変更するために減築を検討する方もいます。
また、過去に増築を重ねて耐震上問題がある場合は、大規模なリフォームを行う際に、建物を整形するために減築を行うこともありますし、4mの幅に満たない道路に面する立地の場合は、大きなリフォームのタイミングで、セットバック(※)にかかる部分の建物については減築をご提案することがあります」(住友不動産 新築そっくりさん・中村さん、以下同)
※幅4m未満の道路に面する土地は、将来的に4mの幅員を確保することが前提になっており、新たにその敷地に建築する場合は敷地のセットバック(後退)が必要
なお、建物の床面積を減らすことが減築にあたるため、床面積はそのまま、間仕切り壁を撤去して部屋数を減らすようなリフォームは減築とは異なります。
具体的な施工のパターンについては後ほど紹介します。
■減築を行う主なケース
・家族構成の変化にともない、家が広すぎると感じている場合
・駐車場の確保など、スペースの用途変更が生じた場合
・増築を重ねて耐震上問題があり、建物を整形する場合
・4mの幅に満たない道路に面する立地の場合
減築の一番のメリットは、床面積を減らすことによって、新しく活用できるスペースが生まれることだといいます。
「減築によって新たに活用できるスペースを生み出すことができるので、駐車スペースを設けることができたり、広いバルコニーをつくることができたりします。暮らしたいイメージの中に、そのような要望がある場合、減築リフォームという選択肢につながるケースが多いです」
2階を減らす減築では、上下移動がなくなることで生活する上での移動負担が減りますが、それ以外のパターンの減築の場合でも、家がコンパクトになる分、掃除などの家事負担の軽減が期待できます。
「減築によって生活動線が短くなるということもありますが、残った建物についても、使いやすい動線を考えてプランニングをするので、日々の負担が減るということもあるでしょう」
減築は建物が小さくなる分、冷暖房費などの光熱費やメンテナンス費用などの出費が抑えられます。また、リフォーム工事にかかる費用についても、屋根や外壁部分が減る分、費用面でコストメリットがあります。
「減築をすると、外壁や屋根が減り建物が小さくなるので、工事費用は抑えられるということがあります。また、減築は建て替えではなくリフォームなので、建物全体に工事が及んでも、多くのケースでは建物を新築するよりは費用を抑えられます」
減築の場合、耐震性の向上を期待できる場合もあります。
「2階を減らす減築の場合は耐震性のアップを期待できます。また、増築を繰り返して、建物の耐震性に問題が生じているケースなどでは、減築をして建物の形を整えることによって、耐震性の強化を図ることもあります」
減築の場合、減築に付帯する工事が必要になるため、リフォーム費用は高額になりがちという側面があります。
「減築リフォームだからといって、他の大規模リフォームよりも費用が高額になったり、工期が極端に長くなったりするわけではありませんが、残った建物をどのように保全していくかもセットで考える必要があるため、工事の内容によっては費用が高額になることもあります」
減築の場合は削った建物の補修や補強をしっかりとしておく必要があります。減築をして建物が弱くなってしまうというリスクを回避するためにも、防水対策や耐震補強などを含め、きちんと施工してもらうことが必要です。
減築と一口にいっても、1階・2階の一部を同時に減らす、1階または2階の一部を減らす、階数を減らす(平屋、3階建てを2階建て)など、減築の方法についてはいくつかのパターンがあります。
「減築のパターンで多いのは、1階・2階の一部を同時に減らす減築です。セットバックにかかる建物部分を減築する場合や、駐車場スペースを確保したいというケースはこのパターンが多いです」
減築したことによって生まれた敷地のスペースは、屋根のない駐車場などで活用することが多いようですが、減築リフォーム後、DIYでウッドデッキやガーデニングスペースなどをつくる人も少なくないようです。
1・2階を同じように減築するだけでなく、どちらかの階の一部分のみを減らすというパターンもあります。
「2階の一部を減らして、その部分にアウトドアリビングのように使える広いバルコニーをつくったり、吹抜けをつくるケースがあります。また、1階部分のみ出っ張っている場合はその部分を減らして建物の形を整えたり、柱だけを残して1階の一部分を解体し、インナーガレージにするというケースもあります」
階数を減らし、2階建てを平屋にするような減築の場合、建築確認申請が必要になることがあります。
「建築確認申請が必要になると、建物全体を現行の建築基準法に適合させなければなりません。一般的に2階建てよりも平屋の方が耐震性は高くなりますが、古い耐震基準に合わせて建てられている場合、平屋に減築するケースでも耐震補強や防火対策なども必要になることが多くなります。それに加え階数を減らすということは、2階を解体し、屋根を架け替える必要もあるため、新築する場合と同程度の費用がかかるケースもあります。階数を減らす減築はほかのパターンに比べ費用が高くなる傾向です」
減築の費用は工事の内容や施工する面積などによっても左右されます。
「減築の場合、ただ建物を削るだけでなく、残った建物の処理も必要になります。残った部分の間取り変更や屋根の修繕、構造補強など、建物全体を工事する必要があるため、どのような工事をするか、また、どのくらいの面積を施工するかで減築リフォームの費用は異なります」
例えば、減築した部分に隣接する部屋のみ工事を行う程度の減築リフォームであれば、1000万円以下というケースもあるそうですが、建て替えとほぼ変わらない費用がかかるケースもあるそうです。また、減築の場合は残った建物の処理だけでなく、解体費や廃棄コストなどもかかります。
建築物を建築する際は、その計画が現行の建築基準法に適合したものであることの確認を受けるために、建築確認申請を行う必要があります。建物を新築する場合だけでなく、大規模の修繕や大規模の模様替え、10m2以上の増築(※)などの場合は確認申請が必要ですが、床面積を減らす減築の場合は、建築確認申請は原則不要です。
※準防火地域や防火地域の場合は、10m2以下の増築も建築確認申請が必要
しかし、減築の場合でも確認申請が必要になるケースもあります。
「減築は原則確認申請が不要ですが、減築と同時に増築を行うリフォームの場合は確認申請が必要です。また、2階建ての家を平屋に減築する場合は屋根全体の工事が必要になりますが、主要構造部の50%以上の修繕は大規模修繕にあたる可能性があり、床面積を減らす場合でも、確認申請が必要になることもあります」
注意しておきたいのは、減築をした上での増築です。減築をした分、増築しても既存の建物よりも床面積が減っているというケースでも、その場合は増築になるため、建築確認申請が必要になります。
また、減築のような大規模なリフォームを検討する建物の場合、現行の建築基準法に適合していない、既存不適格建築物※である場合は少なくありません。確認申請不要の減築リフォームであれば問題ありませんが、確認申請が必要な場合には、建物全体を現行の建築基準法に合わせる必要があります。
※既存不適格建築物とは、建築時は合法の建物でありながら、法令の改正などによって現行法に適さなくなった建物のこと
減築リフォームをすると床面積が変わるため登記申請が必要になります。変更後、1カ月以内の申請が義務付けられており、登記には登記費用もかかります。また、リフォームの際に金融機関からローンの借り入れなどをする場合は抵当権設定登記も必要になります。
減築をすると床面積が減るので、建物の固定資産税評価額が変わり、固定資産税が安くなると思われている人もいるかもしれません。しかし、減築によって固定資産税が減額になるとは限りません。
床面積が減っても、設備等が良くなれば固定資産税評価額が上がる可能性もあるため、安易な期待は禁物です。
敷地に建てられる建物の規模は、建蔽率(建ぺい率)や容積率で制限されています。用途地域の見直しなどで、建物の立地する地域の建蔽率(建ぺい率)や容積率が、建物を建てた当時よりも厳しくなっていることは少なくありません。
既存の家を建てた当時よりも建蔽率(建ぺい率)や容積率の制限が厳しくなっている場合、一度減築をしてしまうと、同じ広さの敷地に元の広さの建物を建てることはできなくなります。
減築リフォームを行う際に、耐震改修や省エネ、バリアフリー、長期優良住宅化リフォームなどを行うのであれば、補助金や減税制度を活用できる場合もあります。
「減築を対象にした補助金制度などはありませんが、耐震改修や省エネ、バリアフリーなどのリフォームを合わせて行うのであれば利用できるケースもあります。それぞれ制度ごとに条件が異なるので、まずは自分が条件に当てはまるかどうか確認をしましょう。また、補助金の申請は基本的に着工前に行う必要があります」
減築リフォームの場合も住宅ローンやリフォームローンを借り入れて資金調達をすることができます。ただし、不動産会社の提携リフォームローンなどではなく、金融機関で住宅ローンを組む場合は、通常、建築確認申請によって交付される建築確認済証が必要になります。
住宅ローンよりもリフォームローンの方が金利が高かったり、借入限度額が少ないなどの面はありますが、確認申請をしない減築リフォームの場合は、リフォームローンを選択するケースが多いそうです。
金利や借入限度額、借入期間なども異なるため、自分に合ったローンを賢く選択しましょう。
減築といってもパターンや費用はさまざまです。実際に減築リフォームの実例を見てみましょう。
※紹介している費用は概算。また、施工当時の価格のため、現在の価格とは異なる場合があります
※事例の画像はすべて住友不動産 新築そっくりさん提供
2年間空家だった老朽化の激しい住まいを減築リフォームしたEさん。以前増築した部分を減築し2台分の駐車スペースを確保。南側の開口部が多い部分の補強や、軽量で耐震性の高い屋根への葺き替えも行いました。また、北側にあった暗いキッチンは東南に移動し、リビングダイニングには小あがりの畳コーナーを設置。明るく、開放的なLDKに生まれ変わりました。
費用概算 | |
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外装・内装・設備工事 | 1585万円 |
オプション工事 | 570万円 |
減築工事 | 53万円 |
諸経費 | 221万円 |
消費税 | 194万円 |
すきま風や耐震性が気になる古い両親の家。住み継ぐことを決めたAさんは「ゲストをたくさん招ける家」をテーマにリフォームを行いました。建物を減築したことで、ゲスト用の駐車場を2台分確保。仲間が集える開放的なLDKも実現しました。
費用概算 | |
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標準工事 | 1510万円 |
オプション工事 | 1289万2100円 |
減築工事 | 17万5000円 |
諸経費 | 281万6710円 |
消費税 | 154万9190円 |
家をコンパクトにするために費用をかけることに、ネガティブな印象をもつこともあるかもしれませんが、減築して床面積を少なくすることで得られるメリットもあります。ライフステージの変化などにより、今の住まいが広すぎると感じることがあるのなら、住まいの減築を検討してみるのもいいかもしれません。
減築とは床面積を減らすリフォームのこと。建て替えとは異なる
減築にもさまざまなパターンがあり、費用や工事内容や面積によって異なる
減築の場合登記申請が必要で、建築確認申請については、不要な場合も多い