SUUMO(スーモ)は、住宅・不動産購入をサポートする情報サイトです。

マンション選びでは華やかなタワーマンションに目が向きがちですが、実は落ち着いた暮らしを求める方からは「低層マンション」が根強い人気です。「実際の住み心地は?」「高層マンションと何が違うの?」と気になる方も多いでしょう。
この記事では、不動産の専門家である長谷川不動産経済社の長谷川高さんのお話も交え、低層マンションのメリットやデメリットを解説します。
どのようなマンションを「低層マンション」と呼ぶのでしょうか。低層マンションと高層マンションに明確な定義はありませんが、ここでは、高層マンションとの違いも含めて詳しく解説します。
・低層マンション
3~5階建て、戸数は数10戸程度が多いが、稀に100戸を超える物件もある。
・タワーマンション
20階建て以上。総戸数が1000戸を超える大規模マンションも。
・低層マンション
主に第一種低層住居専用地域など住居系の用途地域に立地する。周辺は一戸建てが中心。ほかには小規模な店舗、小中学校、診療所など。駅から少し離れ、10分~15分歩く物件が多い。
・タワーマンション
商業地域や準工業地域などの用途地域が多い。市街地の中心となるエリアで、オフィスビルや商業施設などがそろう。建物内にスーパーや保育所など各種利便施設が入っている物件もある。駅近で徒歩数分圏が一般的。最近は駅前や駅上の物件も。
・低層マンション
エレベーターが停止しても影響は比較的少なく、階段を使って自力で避難できる。敷地内の空地を利用して、仮設トイレなどの設置も可能。
・タワーマンション
建築基準法で一般より厳しい耐震基準を設けている。自家発電装置や防災倉庫を備える物件も多い。ただしエレベーターが停止すると、高層階からの避難や物資の運搬が困難に。
・低層マンション
戸数が少ないため、住人同士が顔を合わせる機会が多く、数年住むうちに自然とどこに誰が住んでいるか分かってくるマンションが多いよう。
・タワーマンション
コミュニティ形成を促すために、住人の親睦を深める交流イベントや避難訓練を行ったり、マンションの完成前から“顔合わせ会”などの名目で実施する物件も。
・低層マンション
価格は立地やグレードによる。管理費や修繕積立金が特に高いということはない。「管理会社が複数の物件をセットで管理するようになり、小規模だから高いというケースは少なくなりました」(長谷川さん)。ただしコンシェルジュサービスなどを行っているところの管理費等は高め。大規模修繕のやり方は一般的なマンションと基本的に同じ。管理体制は、昼間のみ有人管理が多い。
・タワーマンション
価格は立地やグレード、階数などによる。共用施設が充実していることや管理体制などを考慮すると、管理費や修繕積立金等に割安感がある。24時間有人管理が一般的。
・低層マンション
共用施設は少なめ。広く、豪華な仕様のエントランスロビー、ラウンジなどがある物件も。
・タワーマンション
カフェやジム、キッズルーム、ゲストルームなど充実している。階数を活かし、居住フロアに関係なく住人が等しく眺望を楽しめるビューラウンジなどを設ける物件もある。

低層マンションには、タワーマンションとはひと味違った、穏やかで心地よい暮らしをかなえてくれる魅力がたくさん詰まっています。
ここでは、そんな低層マンションならではの魅力を1つずつ詳しく紹介していきます。
低層マンションの魅力は、一戸建て感覚の暮らしができること。加えて「環境が将来にわたって維持される可能性が高いですね」と長谷川さんは話します。
「例えば高層マンションで、レインボーブリッジが見えていたのに新しいビルができて見えなくなったとなると資産価値が毀損します。環境が悪いほうに変わるとしたら、日当たりと眺望ですが、低層マンションが建つエリアでは、そうした心配は少ないでしょう」
ずっと変わらず良好な住環境を保つことができれば、資産価値も安定しやすいといえそうです。また、“低層”ならではのメリットもあります。
低層マンションでの暮らしは、日々の移動がとてもスムーズです。朝の忙しい時間帯にエレベーターがなかなか来なくて焦るといったストレスも少なく、2階や3階なら階段でさっと上り下りができます。
また、地震で停電になりエレベーターが止まってしまっても、高層階のように大変な思いをすることなく、落ち着いて階段で避難することが可能です。
この点について、長谷川さんも次のように話します。
「3階程度であれば、階段でラクラク上り下りができ、エレベーター待ちのストレスとは無縁。地震の際も、高層階に比べると揺れが少なく、万が一のときは、エレベーターに頼らず、自力で階段を使って避難することができます。地面に近い安心感は大きいですね」

地面に近い低層マンションは、高層階に比べて地震の揺れが小さいだけではなく、建物そのものも頑丈につくられていることが少なくありません。その理由の1つに、建物の「構造」があります。
多くの低層マンションでは、柱や梁(はり)ではなく、鉄筋コンクリートの壁全体で建物を支える「壁式構造」というつくり方が採用されています。これは、まるで箱を組み合わせたような一体感のある構造で、地震の力にも強いのが特徴です。
この点について、長谷川さんは次のように説明しています。
低層マンションでは壁式構造を採用しているケースが多数。頑丈な壁で建物を支える壁式構造は地震に強い構造と言われています。柱や梁がないため室内がすっきりとして、家具を配置しやすいのもメリットです。
低層マンションは、住んでいる人の数が比較的少ないため、近所付き合いが生まれやすい温かい雰囲気があります。
マンション内で顔を合わせる機会が多く、あいさつを交わすうちに、誰がどこに住んでいるのかが自然と分かるようになるでしょう。大規模なマンションだとあまり顔を合わせないこともありますが、顔が見える関係は日々の暮らしの安心感につながります。
また、同じような家族構成や価値観を持つ方々が集まりやすいため、良好なお付き合いをしやすいのもうれしい点です。例えば、マンションをより良くするための管理組合での話し合いや、将来の大規模な修繕計画なども、お互いの気持ちが伝わりやすく、スムーズに進みやすいという点があります。
後悔のない住まい選びをするために、低層マンションならではの特徴をよく知った上で、自身の暮らしに本当に合っているか確かめることが大切です。
ここでは、低層マンションのデメリットを詳しく紹介します。
低層マンションの物件数は少なく、「仮に、デベロッパーが年間60棟のマンションをつくるとして、そのなかで低層マンションは1棟か2棟、あるかないかです」と長谷川さん。「収支が合う規模の物件をつくろうとしたら、相当広い土地が必要になります。そのため、なかなか供給がありません」
特に都心の閑静な邸宅街に立地する低層マンションは希少な存在と言えそう。建物も素材にこだわった重厚感のある造りである場合が多く、ヴィンテージ・マンションとして成熟するケースも見られます。
低層マンションの魅力である「静かで落ち着いた住環境」は、駅から少し離れた場所にあるからこそかなえられることがあります。
低層マンションが多い「第一種低層住居専用地域」といったエリアは、良好な暮らしの環境を守るために、駅前などの店舗が集まる地域から離れた場所に決められているからです。最寄駅から歩いて10分から15分ほどかかる物件も珍しくありません。
毎日の通勤や通学を考えると、少し不便に感じる方もいるでしょう。物件を考える際は、ただ地図で距離を見るだけではなく、実際に駅から歩いてみて、坂道の有無や道のりの雰囲気を確かめてみることが大切です。
マンションの魅力として「眺望の良さ」を思い浮かべる方も多いかもしれません。確かに、タワーマンションの高層階から見下ろす街の夜景や、遠くまで広がる景色は格別です。低層マンションでは階数が低いため、残念ながら見渡せるような眺めはあまり期待できないでしょう。
一方で、緑道が目の前にあったり、公園に隣接していたりする物件なら、低層マンションでも明るく開放的な住まいを楽しめます。また、第一種低層住居専用地域にある低層マンションは、周囲に高い建物が建つ心配が少ないため、将来にわたって日当たりや景色が守られやすいのもうれしい点です。
マンションでの暮らしには、物件の購入費用とは別に、管理費や修繕積立金が毎月かかります。
低層マンションの場合、この月々の費用が、戸数の多いマンションに比べて少し高くなることがあります。その理由は、エレベーターの点検や共用部分の清掃といった管理にかかる費用を少ない世帯数で分け合って支払うため、一世帯当たりの負担が大きくなりやすいからです。
物件の価格だけではなく、毎月どのくらいの費用がかかるのかを、前もってきちんと確かめておくことがとても大切です。
タワーマンションといえば、ジムやキッズルーム、景色を楽しめるラウンジなど、豪華な共用施設が魅力の1つです。一方で低層マンションには、そこまでたくさんの共用施設は期待できません。
ただし、低層マンションでも総戸数が多い場合は、エントランスに高級感があったり、住人用ラウンジを設けている場合もあります。共用スペースのサービスが充実していることを重視するなら、事前にチェックしてから選びましょう。
中古の低層マンションを購入して、自分好みの間取りにリフォームしたい、と考えている方は少し注意が必要です。先述のとおり、低層マンションでは「壁式構造」というしっかりとしたつくり方が多く用いられています。この構造では、部屋の中にある一部の壁が、建物全体を支えるとても重要な働きをしています。
壁式工法では、建物全体を支える「耐力壁」は取り壊しができないため、「2つの部屋をつなげて広いリビングにしたい」といった、間取りを大きく変えるリフォームが難しい場合があります。
ただし、間仕切り壁は撤去可能な場合が多く、間取りの変更ができないわけではありません。リフォームを検討する際はリフォーム会社などに相談して、耐力壁の場所を確かめることが大切です。
これまでの特徴を踏まえると、低層マンションは暮らし方にこだわりたい方にぴったりの住まいといえるでしょう。まず、都市部から離れ、静かで落ち着いた環境でゆったりと暮らしたい方にはとてもオススメです。
まるで一戸建てのような穏やかな住環境と、マンションならではの管理のしやすさ、両方の良さを感じたい高齢の方や戸建てからの住み替えを考えている方にも向いています。また、敷地内に緑が多く、住人同士の顔が見える安心感があるため、お子さんを伸び伸びと育てたい子育て中の家庭にもぴったりです。
急な環境の変化が少なく、資産としての価値が変わりにくい点を大切にしたい方にとっても、ぴったりの選択肢になるでしょう。一方で、何よりも駅からの近さや店がたくさんある便利さを一番に考える方には、少し物足りなく感じるかもしれません。
低層マンションでのすてきな暮らしをかなえるには、実際に物件を見学する際に、確かめておきたい大切なことがあります。デザインや価格だけではなく、自身の暮らしに本当に合っているかを見極めることが大切です。
これから解説するポイントを参考に、自身の目で丁寧に確かめてみてください。
低層マンションの魅力である静かな環境ですが、それが毎日の暮らしで不便に感じないか、きちんと確かめましょう。地図で見るだけではなく、ぜひ自分の足でマンションの周りを歩いてみてください。
毎日使うことになるスーパーやコンビニエンスストア、いざというときに頼れる病院や郵便局などが、無理なく歩ける距離にあるでしょうか。また、道のりは平坦か、坂道が多いかなども大切な点です。
平日の朝や週末、そして夜間など、時間帯を変えて何度か訪れてみると、人通りや街灯の明るさ、周りの音などもよく分かります。子育て中の方は、学校までの通学路が安全か、お子さんが遊べる公園が近くにあるかも忘れずに確かめておきましょう。
低層マンションは、ファミリー向けの比較的ゆったりとした間取りが多い一方で、タワーマンションほどいろいろな種類があるわけではありません。そのため、自身の家族構成やライフプランに合った間取りかしっかりと見極めることが大切です。注目したいのは、先述した「壁式構造」による良い点です。
室内に柱や梁の出っ張りがないため、スッキリとした空間が広がり、家具を置きやすいのがうれしい点です。内覧の際には、所有している家具がきれいに収まるか、生活するときの動きをイメージしながら歩いてみるとよいでしょう。
また、収納スペースが十分にあるかも大切な確認ポイントです。将来的にリフォームで間取りを大きく変えるのが難しい場合もあるので、今のままでも快適に暮らせるか、という視点でじっくりと確かめてみることをオススメします。
低層マンションは駅から少し離れていることが多いため、交通の便は確かめておきたい点です。物件情報に書かれている「徒歩◯分」という時間をうのみにせず、必ず自身の足で最寄駅まで歩いてみましょう。実際に歩くことで、信号待ちの時間や坂道の勾配など、実際にどれくらい時間がかかるかを感じられます。
また、駅までの道のりが夜でも明るく安全かどうかも大切です。もしバスを利用するなら、バス停の場所はもちろん、バスがどのくらいの間隔で来るかや始発・最終バスの時間も調べておくと安心です。車を主に使う方は、駐車場が敷地内にあるか、もし機械式駐車場なら出し入れに時間はかからないか、周りの道路の混み具合なども確かめておくとよいでしょう。
地面に近い低層マンションでは、安心して暮らすために防犯対策がしっかりしているか確かめることが大切です。まず、エントランスにオートロックや防犯カメラがついているか、そしてカメラがどこを映しているのかを確かめてください。管理員がいつもいるか、いる場合は何時までかも確かめておくとより安心です。
また、建物だけではなく、部屋自体のセキュリティも大切です。窓には二重ロックや防犯センサーがついているか、バルコニーへ簡単によじ登れるような配管や足場がないかなど、外から入られやすそうな場所がないかも見ておくのをオススメします。夜間に敷地内や周りの道が暗くないか、死角になる場所が少ないかもポイントです。
低層マンションが多いエリアは、周りの建物への日当たりをきちんと保つためのルールがあるので、比較的、明るさが保たれている物件が多い傾向にあります。しかし、建物の向きや周りの状況によっても左右されるため、内覧時には必ず自身の目で確かめましょう。できれば晴れた日の午前と午後など、時間帯を変えて訪れると、部屋の明るさの変化がよく分かります。
また、心地よい暮らしのためには風通しも欠かせません。内覧の際には、窓を開けてみて、気持ちのよい風が部屋を通り抜けるかどうかを感じてみてください。日当たりと風通しの良さは、ただ快適なだけではなく、湿気やカビを防ぎ、住まいを長持ちさせる上でも大切なことです。
最後に編集部がピックアップした、低層の名作マンションをご紹介しましょう。

神奈川県横浜市/1969年竣工
5階建て・124戸
東急田園都市線青葉台駅徒歩15分
桜とともに時を重ねるヴィンテージ・マンション
日本建築史を代表する建築家の一人である内井昭蔵が設計。南西向き傾斜地に4つの住棟が並び、中庭には横浜市青葉区桜台の住所にちなんだ30本の桜やシャガ、ツツジ、サツキなどが植えられています。

竣工時から暮らす住人は「桜の高木化が問題になったため数年前に剪定(せんてい)し、また植栽が健やかに成長するようになりました」とのこと。さらに2017年末には国の補助金制度を活用して全戸の窓を複層ガラスに変更し、居住性が格段に向上。リノベーションを行って暮らし始める若いファミリーも増えており、多様な世代のコミュニティがつくられています。

東京都杉並区/1977年竣工
3階建て・86戸
京王井の頭線浜田山駅徒歩2分
個性的な英国調タウンハウス 住み継がれるコミュニティ

駅からにぎやかな商店街を抜けてわずか2分の場所。敷地に足を踏み入れた途端に時間の流れ方が穏やかになります。焦げ茶のブリックタイルと白い屋根、深い緑に覆われた英国調のタウンハウスが広がり、その間を石畳の小道がつなぎます。各ハウスはフラット(平屋)とメゾネットで構成されており、1棟当たり5~8住戸。すべて3階建てのせいか、空が広く開放的な気分に。ある住人は「歳月をかけて育まれた穏やかなコミュニティを皆さんが好み、できるだけ長く存続させようと緩やかに連帯しています」と話しています。

東京都品川区/2000年竣工
5階建て・29戸
山手線大崎駅徒歩14分
現代美術が拠点の寄り添う 深緑のベールに包まれた館

「城南五山」と総称されるハイクラスな住宅地のひとつ「御殿山」の一角。江戸時代から桜の名所として知られ、隣り合うのは原美術館と御殿山庭園。いずれも深緑に覆われ、まさに都心の隠れ家といった趣です。エントランスを入ると吹抜けのギャラリーコート。著名彫刻家の鉄製オブジェが鎮座する空間を、わが家の庭感覚で通り抜けることができます。住戸にも創作空間としてバルコニーに面した「サニー&ホビールーム」や、美術品の展示に適した「ギャラリーウォール」を設けたプラン。日常的にアートを感じ、心穏やかに暮らせそうです。

東京都八王子市/1991年竣工
9階建て・42戸
京王線平山城址公園駅徒歩14分
多摩丘陵の“ひな壇御殿” 春秋には雲海の絶景も
多摩丘陵の斜面に立つ全42戸。9階建てだが、戸数は小規模で、各戸の専有面積は驚きの190m2超。ルーフテラス、トランクルームなど居室以外も含めると各戸約400m2に。しかもワンフロアでこの広さというから驚きです。
「1列に7住戸がひな壇上に並び、列の間はパティオや通路で隔てられてプライバシーが確保されています。管理規約でBBQも認められており、一戸建てのような感覚です」(管理組合理事長の鈴政氏)
圧巻はリビングに続く芝生敷きのルーフテラス。街並みや自然がきれいに見え、秋から春先の間、雨上がりに気温が上昇した午前中には雲海が広がることもあるそう。

ここ数年の新築マンションは、タワー~中高層が一般的。だからこそ低層マンションや小規模マンションは、希少で価値の高い住まいといえます。興味のある方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
静かな住環境と災害時の安心感が低層マンションの大きな魅力
駅からの距離や共用施設の充実度は事前にしっかり確認する
自分のライフスタイルに合うか現地を訪れて見極めることが大切