マンションと一戸建てで大きく異なるのは共用部の有無。特にマンションのエントランスは、一戸建ての玄関や門とは、スケールも機能も大きく異なります。マンションのエントランスとはどんなものか、設備やチェックするべきポイントについて、新築マンションの販売企画・ブランディングに豊富な経験を持つ澄川誠治さんに教えてもらいました。
マンションのエントランスは、その物件の印象を決める、顔とも言える場所です。特にグレードの高いマンションなどは、その場所に住むことがステータスと感じられるような演出やデザインがなされているものです。吹抜けやロビーラウンジを設けたり、高級感のあるオブジェが飾られていたり、どのマンションもさまざまな工夫が施されています。
また、デザイン面だけでなく、エントランスはマンションの住民の安全な暮らしを守るという大事な機能を持っています。住民以外の侵入を防ぐため、防犯カメラのほか、2重3重のオートロック、管理員室などが設けられ、建物の安全性を担保しています。
マンションのエントランスにはセキュリティをはじめ、さまざまな設備があります。どのようなものがあるのか、よく見かける設備やその機能をそれぞれ見ていきましょう。
建物内に住民以外の人が侵入しないよう、分譲マンションのエントランスには必ずと言っていいほど、オートロックが設けられています。専有部のドアに鍵があるのはもちろんですが、住民が開錠する必要のあるオートロックを共用エントランスに設けることで、マンションの安全性を高めています。
「最近ではオートロックも非接触やハンズフリータイプのものが増えています。ハンズフリータイプであれば、鍵を鞄やポケットから出す必要がないので、荷物が多いときや目の離せない小さな子どもがいる場合などに重宝します」(澄川さん、以下同)
ちなみに、通常オートロックは1枚目の扉を通って、2枚目の扉の前に設置されているものですが、この空間は風よけの役割を果たす風除室となっています。2枚目の扉の前までは誰でも入れる場合が多いため、この空間には防犯カメラが設置されていることも少なくありません。
不在でも荷物を受け取れる宅配ボックスは、忙しい人にとってはなくてはならない設備のひとつ。再配達の手配が不要になり、宅配員と直接接触する必要がありません。
「宅配ボックスは荷物の受け取りはもちろんですが、マンションによっては荷物の発送ができたり、クリーニングの宅配サービスの受け渡しができる機能がついていたり、ネットスーパーなどの食品の受け渡しも安心して行えるよう、冷蔵機能が付いているものもあります」
また、宅配ボックスには出前容器を返却するための専用の場所が設けられていることも少なくありません。マンションで出前を注文した場合、管理規約などで共用廊下にものを置くことはNGとされていることが多く、また、業者の人が容器を引き取るためには、オートロックを解除する必要もあるため、住戸のドアの前の共用廊下に返却する出前容器を置くことはできないのが一般的です。マンションによっては、容器返却の場所が共用エントランスの前など指定されていることもありますが、宅配ボックスに容器の返却ボックスがあれば、見た目もスマートで返却場所に悩む必要がありません。
エントランスホールにはソファや椅子などが置かれたロビーラウンジが設けられていることもあります。
「ちょっとした待ち合わせができるようなスペースがエントランスにあると、ゲストを招いたときに少しそこで待っていてもらうことができたり、手配したタクシーをくつろいで待つことができたりと重宝します。ロビーラウンジがないマンションもありますが、ラウンジがあるとないとでは生活スタイルが少し変わってくると思います」
ホテルなどでよく見かける車寄せ。敷地にゆとりがある大規模マンションや、グレードの高いマンションに限られるかもしれませんが、マンションの場合も、エントランスの目の前まで車が通れる道を設け、ひさしの下まで車を寄せて乗り降りできるようにしていることがあります。
「駐車場が離れたところにあると、旅行や買い物のときなど、荷物を運ぶのが大変なこともありますが、車寄せがあれば、先に家族や荷物をエントランスで下ろすことができて便利です。また、エントランスから住戸へ荷物を運ぶ際は、管理員室などで共用台車を借りられることもあります。車寄せに加えて共用台車の貸し出しがあると、大きな買い物をしても困りません」
また、車寄せがあれば、小さな子どもがいる家族などは、動き回る子どもを駐車場に連れていかなくて済むので安心感があります。
一部の高級なマンションにはエントランスホールにフロントを設け、コンシェルジュが常駐していることもあります。
コンシェルジュの提供するサービスは各マンションの管理規約で定められた内容により異なりますが、クリーニングやタクシーの手配、共用施設の予約や来客時の案内などさまざまなものがあります。
コンシェルジュのほかに、マンションには管理員がいるため、コンシェルジュサービスは付加価値的なものですが、エントランスのフロントにコンシェルジュが常駐しているだけでも、気分は違うものです。コンシェルジュはホテルライクな生活を演出してくれるサービスといえます。
エントランスはマンションの顔と前述しましたが、エントランスはそのマンションの住民の住まい方や管理状態が透けて見える場所でもあります。中古マンションの購入を検討して、物件を見に行く際はエントランスの状態を是非確認するとよいでしょう。
「清掃や植栽の手入れはきちんとされているか、掲示板や集合ポストなどが整理整頓されているかなど、エントランスを見ることで、そのマンションの管理に対する姿勢や住民のマナーについて推察することができます」
また、築年数の経ったマンションなどの場合は管理状態だけでなく、デザインも気にしておきたいポイントです。例を挙げると、道路よりも低い半地下のエントランスなどは、エントランスが暗いと感じる人もいるかもしれません。
「ある程度規模の大きいマンションや高級マンションでは、エントランスホールは2層吹抜けなどホテルライクなものが増えています。築年数が古いマンションなどは吹抜けになっていないことも多く、ゲストを招くことが多い人などは、住んでからエントランスの印象が気になってしまうということもあります」
専有部はある程度自分好みにリノベーションをすることができますが、エントランスなどの共用部は変更することができないため、デザインは自分の好みに合っているか、忘れずにチェックしましょう。
さらに、設備についてもデザイン同様、住んでから後悔しないよう、購入前に確認しておくことが大事です。
「例えば、築年数が古いマンションでなければオートロックは当たり前のように設置されているものですが、オートロックがついていないマンションも中にはあります。ついている場合も、鍵を挿すのか、かざすのか、またはポケットに入れておくだけで開錠できるのか、オートロックの種類によって、日々の暮らしの快適さが随分変わってくると思うので、どのようなタイプのものか確認しておきましょう」
竣工前に契約することが多い新築マンションの場合、購入前にエントランスの実物を確認することはできません。新築でも完成済みの場合は実物を確認できますが、それ以外の場合は、通常モデルルームでCG画像や模型などで確認をします。もちろん、実物を確認できなくても、デザインや設備などについての情報を得ることはできるので、中古マンションの場合と同様、自分の生活や好みに合ったエントランスかは、購入前に見極めておくといいでしょう。
マンションを選ぶ際は、やはり自分の住むことになる住戸にばかり意識がいくものですが、日常的に使用するエントランスがどのようなものかで、生活は変わります。マンション購入を検討する場合は、是非エントランスをじっくりチェックしてみてください。
マンションのエントランスは建物の印象を左右する場所であり、その建物の安全性を担保する場所
宅配ボックスのほか、さまざまな利便施設が備わっていることが多い
中古マンションを検討している場合は特に、管理状況や住み心地を見極めるためきちんと確認したい